明日死ぬとしたら
「明日死ぬとしたら、あなたは何をしますか?」
この質問は好きだ。
 みな各々好きなことをいう。
 
 たとえば、全財産をすべて使う。初恋の人に思いを打ち明ける。最後だし、犯罪を犯す・・・
 
 僕は、その答えをよく考える。
 自分だったら何をするだろう。いろいろ考えが浮かぶ。人にはいえないような恥ずかしいことも出てくる。
 たまにこれ以上の正解なんてないんじゃないかって思うぐらいすばらしい考えが浮かぶこともある。
 
 しかし、ふと我に返り明日死ぬのか。となるといままで考えたことがすべてバカらしく思えてくる。
 結局何もしないで過ごすという回答がでて、納得する自分がいる。

 実に夢がない。実に面白みがない。僕はそういう人間なのだ。
 ごく平凡な22歳の大学生。そして今流行の草食系男子。

 夢にまでみたキラキラなキャンパスライフは、実際は色のない学校生活であり、大学生活は淡々を過ぎていった。そう、まるで流れ作業をこなすような4年間であった。
 ほぼ毎日大学に通い、あいた時間にアルバイトをし、バイト代は何に使うでもなく、何に消えていくかもわからずなくなっていった。
 周りの人はサークルに部活に合コンに忙しそうだ。そんな人を見てはうらやましく思うと同時に自分にはできないなとあきらめる。

 そんな僕にも好きな人がいる。絶賛片思い中である。しかも、4年。我ながら気持ちが悪い。
 早い話、その人は元彼女だ。別れてずっと引きずっているのである。

 4年前、3ヶ月だけ付き合った彼女は、僕のほうからふった。
ふったというよりもお互い納得した上で別れた。当時、僕は彼女のことが好きではなかった。彼女がいるという肩書きが欲しかったのかもしれない。
また、きらきらのキャンパスライフがかわいい彼女を連れてきてくれると勝手に思いこんでいた。
 
 しかし、今は違う。別れて他の女の子と何人か遊んだが、なぜかしっくりこない。裏表間違えつけてしまったコンタクトレンズのように。何かがずれている。
 この答えが元彼女であるとわかると、彼女のことが頭から離れなくなった。付き合っていた当時を思いだしひとり一喜一憂する。
 夜景が好きというから行った、東京タワー。無駄話を永遠と話した駅前のカフェ。何度も送った川沿いの土手。
 すべてが懐かしい。

 最寄り駅が隣であるため何かの拍子で出くわさないかとついつい駅や電車で探してしまう。姿が似ている人を見ると目で追っかけてしまう。
 遠くに旅行にきているときでさえも無意識に探してしまう自分がいる。
 重傷だ。こんなに人を好きになるなんて思いもしなかった。
 なぜこの気持ちが付き合ってるときにでなかったのか、4年前の自分を恨むと同時に当時付き合っていた自分をうらやましく思う。

 中学が隣の学校だったため成人式で再会したときは、同級生をそっちのけで話に行った。写真も撮った。正直浮かれていた。
 後日共通の友達から彼氏がいることを聞くと自分でもびっくりするぐらい落ち込んだ。成人式の行動ひとつひとつがバカらしく思えてきた。
 でも、少しも彼女への気持ちは変わらなかった。むしろ、時間がたつにつれあっちは幸せなのかと安心したものだ。

 奪い取ってやるぐらい男気に溢れ、自分にもっと自信がもてていたらいいのだが、恋愛のことになると体が動かない。いままでさぼっていたせいかどうアタックすればいいのか、連絡したら迷惑ではないか、彼氏にたいして失礼ではないかという気持ちさえ生まれていた。
 男らしくない。そう友人に言われたこともある。間違いない。その通りである。
 
 そして、就職活動も終わり向こうの誕生日も近かったこともあり、久しぶりに連絡をとってみた。
 久しぶり。誕生日おめでとう!元気?
 何回も考えた文章は、結局味気ないものになった。いろいろ考えすぎて何がいいのか逆にわからなくなったためだ。朝、服装を選ぶときも迷ったらシンプルなかっこうでいくようにしている。シンプルイズベスト。間違いない。

 連絡はすぐに返ってきた。
 久しぶり!メールありがとう。元気だよー就活終わった?
 その後何通かやりとりした結果、あう約束までこじつけた。我ながら上出来である。

 その日から着ていく服装に悩んだ。かっこつけすぎず、でもお洒落に見えるかっこう・・・
 悩みに悩んだあげく一番のお気に入りの服でいくことにした。鏡で何回も確認して親にまで意見を求めた。
 デートなの?と冷やかされたが否定できない自分がいやらしい。

 待ち合わせ時間のだいぶ前に到着し、そわそわしながら本屋で待つ。不意にフッション誌を手に取りぱらぱらとめくっていると、ある特集が目にとまった。秋のデート服特集・・・
 読者モデルの女の子がスナップに載っている男性のファッションに意見をするコーナー。
 そこにはこうかかれていた。
 「男性は清潔感のある服装が無難。」
 清潔感・・・今日の僕は清潔感あるのだろうか。動揺して判断できなかった。変な汗まででてきた。行き交う人たちに聞きたい勢いだったが、やめた。
 そこにはこうも書いてあった。
 「ジャケットは男性らしい服装」
 心の中で大きくガッツポーズを決めると同時に安心した。
 ジャケットをチョイスした自分を誉めた。昨日の自分ありがとう。

 少し自信がついたところで約束の場所に向かう。それでも早いぐらいだったが、かまわなかった。
 一刻もはやく会いたかったし、これ以上雑誌を読む気にもなれずいてもたってもいられなかったのだ。

 彼女は5分前にきた。
 「久しぶり!なんか大人っぽくなったね。」
 この言葉がどれだけ僕の気持ちを楽にしたことか。
 久しぶりに会う彼女は、4年前よりだいぶ大人っぽく、成人式の振り袖ともまた違うイメージで、もう「女の子」ではなく「女性」になっていた。
 その姿を見て、待ってました。と言わんばかりに心臓が元気に飛び跳ねる。それを合図に顔から熱が放出される。背中、脇から汗が噴き出す。
 自然に振る舞おうとすればするほど、行動や言葉は力み。それを隠そうとまた不自然になる。負のスパイラルに陥っている僕を横目に自然体な彼女。自分がひどく情けない男であるように思えた。

 なんとかお店に入り、お酒を頼む。アルコール分解機能の劣ったことをこれほどまでに感謝したことはない。
 落ち着きを取り戻し、お酒の力も借りて、だんだんと会話は盛り上がっていった。4年間の大学生活、就活の報告、友人の話など。ほんとに止まることなくしゃべり続けた。
 一見、難解そうな数式も公式をあてはめれば、あとは身を任せてすらすら解けるようにスムーズで、心地よかった。
 不思議なことに、いま恋人がいるかどうかは二人ともふれなかった。河が低い土地に流れるように、ごく自然に。
 会話のキャッチボールはお互い取りやすい位置にボールを投げ続けていたため疲れることなく、何時間でも続けられそうだった。
 
 楽しい時間は過ぎるのがはやく、気づけば終電間近になっていた。正直帰りたくはなかった。朝までずっと話していたかったが、そんな勇気もなく居酒屋をでて、駅をめざす。
 駅までの道はお互い決められたことのように会話はなく、帰宅の途につくひとたちに紛れながら、進む。
 僕の中の何かが、勇気を出せ!と叫んでいたが、無視しつづけた。次がある。そう考えていた。勝手に決め込んでいた。
 次がなかったら?・・・
 それはまずい。非常にまずい。

 そう思ったときには、声がでていた。
 「もう少し一緒にいない?」
 自分でもびっくりするぐらいなめらかに。

 しかし、ちょっと間が空いた後
 「今日は帰るね、明日バイトなんだ」

 がーん。そのあとテンションを下げないようにしていたが、ダメだった。よりいっそう会話は減り、ひとり気まずくなった。
 そのとき
 「また遊ぼうよ」
 という言葉。
 
 気遣いなのか、本心なのかわからなかったが、そう言われただけでうれしかった。
 帰りの電車は疲れ切ったサラリーマンと遊び終わりの学生で溢れていた。
 彼女の降りる駅まで20分。まわりのことを気にしてか、当たり障りのない会話が続く。
 そんな時、電車の揺れで彼女がバランスを崩す。無意識にでた手で支えると彼女の腕は細く、いまにも折れてしまいそうだった。
 それがよりいっそう彼女を愛おしくさせ、抱きしめたかった。
 身長の小さな彼女は僕の胸あたりに顔があり、すっぽりと収まる大きさだった。
 わりと込んでいたため、途中からあまり口数も減り呆然と通り過ぎる見慣れた景色を眺めた。

 そして、彼女が降りる駅につく。
 「じゃあね」
 まるで彼女も名残惜しいかのようにいう。
 「うん」
 といい、手を振る。
 後ろ姿をみてすぐ目をそらす。

 その時ドアが閉まる音楽が鳴った。今日の僕はなにかおかしい。聞き慣れたあの音楽はまるでドアが閉まるカウントダウンをしてくれるかのように聞こえ、まだ間に合う。と強引に降りる。

 それに気づき振り向く彼女。
 「どうしたの?」
 怒るかと思ったら驚きの表情でいう。
 「うん・・・降りちゃった」
 少し待って誰もいない改札を抜ける。
 タクシーで帰ろうとしたが、またまた心臓が元気を取り戻す。
 ここまできたのだ。
 ふられてもいってしまおう。
 覚悟を決め、語りかける。

 「ねぇ、今日は楽しかった。ありがとう」
 「私も楽しかった。また遊ぼうね」
 「あ、それほんとうだったんだ」とちょっとおどけてみる。
 「ほんとだよ」彼女が笑う。

 「あのさ、ずっと前からいおうとおもってたんだけど
 ・・・
 あなたのことが好きです」
 終電がすぎて迎えの車もなくなり閑散としたロータリー。シチュエーションのせいかさらっといえた。
 
 驚く彼女。
 顔を赤らめ
 「私も」
 という。


 「明日死ぬとしたら、あなたは何をしますか?」
 「死にたくありません。ずっと彼女といたいです。」
 答えになってるかわからないが、これが今の僕の正解。

 完。
2013年11月01日(金) 00時49分43秒 公開
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No.4    評価:--点  ■2013-11-03 15:59  ID:L/lGFAnz2lg
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おさん。

コメントありがとうございます!
これは勢いでかいたというのが正直なところで、全体的に盛り上がりが少なかったと思っています。

これからも投稿させていただくので、意見・感想よかったらまたよろしくお願いします。
ありがとうございました。
No.3    評価:--点  ■2013-11-03 15:53  ID:L/lGFAnz2lg
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ゆうすけさん。

コメントありがとうございます!正直ドキドキで投稿ボタンを押すことを何回も躊躇しました。笑
的確な指摘ありがとうございます。
投稿したあと、読み返すと私自身も?がつくことがあり、まだまだだと実感しています。

これからも投稿させていただくので、またコメントしていただけるとほんとにうれしいです。
ありがとうございました。
No.2  お  評価:30点  ■2013-11-02 22:58  ID:MA1er3vmK2M
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どもども。
文章のリズムが良いですね。うん、僕となんとなく通じるところがあるのかも知れない、一文の長短のとか、体言止めの割合とか。
確かにケアレスな箇所はあるようですけど、そこらへんは、見直しをどれだけするかで減らすことは出来ると思います。
話の雰囲気も、ちょっと調子に乗っちゃったけど地はナイーブな少年の等身大の素直な姿が描かれていて僕は好きです。いくらか、都合良すぎるんじゃね? てところもありますが。「物語り」に仕立てていくなら、一波乱くらいはあっても良いかも知れません。
でわでわ。
No.1  ゆうすけ  評価:10点  ■2013-11-02 17:16  ID:ka2JhsoTEZ6
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拝読させていただきました。
初投稿ですか。きっと緊張していることと思います。当サイトに数年(忘れた)いる私でも、投稿するときは緊張でドキドキしますからね。

冒頭部分、二十二歳の大学生が彼女がいた過去を懐かしんでいますね。
「中学が隣の学校だったため成人式で再会したときは、同級生をそっちのけで話に行った。」
これ以降とのつながりがよく理解できずに混乱しました。これは当時を思い返しているのか? 新しい恋の話か? いずれも時間軸が合わないし。
女性へ抱く感情、ここはライブ感もあり、うまく描いていると思います。作者さんは若者かな? いい歳した私だとこうは書けませんし。
「明日死ぬとしたら」この重いテーマを用いるのなら、もっと掘り下げた方がインパクトのある作品になると思います。
全体的に文章が荒いです。規約を読んで、文章作法と投稿作法を学んでくださいね。
総レス数 4  合計 40

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