ハロウィンの怪異
「なあ、知ってるか?裏山の大きい木。あそこ、出るらしいぜ」
「あの木の近くでね、神隠しにあった人がいるんだって」
「あの木があるとこ、もとは洋館が建ってたんだって」

「……アホらし」
「ん、何が?」
 唐突に聞こえた声に、俺は視線を窓の外から前に向けた。目の前で振り返っていたのは小学校から腐れ縁のタクだ。まだ授業中だというのに、口をもごもごさせている。授業中にボーっと外を眺めていた俺が言えた話じゃないが。
「お前、早弁にしたって早すぎるだろ。まだ一限だぞ」
「今朝、3杯しか食べてねーんだよ」
「そんだけ食べれば充分だろ」
 それだけ食べてて太ってないから謎だ。
「それよりさ、あの話、知ってるだろ?」
「何の話だよ」
「またまた、あの木の話だよ」
 俺はギクリとした。今まさに考えていたこともあるが、何よりも、タクの目がいつになく輝いていたせいだ。昔からなんだかんだとつるむことは多かったが、こいつがそういう目をしているときは、決まってロクなことにならない。
「ところでさ、今度の31日だけど」
「悪い無理もう予定ある」
「そう言うなって。用事がないのは梓ちゃんに確認済みだぜ?」
「お前なあ……」
「つーわけで、一緒に行こうぜ。梓ちゃんも呼んで。俺も優香連れてくからさ」
「なんでわざわざ」
「なんだよ。怪奇現象が決まってハロウィンの日に起こってるって話、知らないとは言わせねーよ?」
「生憎だが知らねーな」
「んじゃあ今言った」
「そこ、ちゃんと聞きなさい!」
 あ、やべ。まだ英語だった。
 現在進行形で弁当を食べ続けていたタクは、首を竦めて前に向き直り、紙に何かを書き付ける。今時探すのも難しいんじゃないかというような三角眼鏡の女教師が前を向いた瞬間、投げ込まれる紙切れ。
「山のふもと。午後3時な」
――こいつはまず、人の話を聞くことを覚えたほうがいいんじゃなかろうか。



 当日。俺は気乗りしないまま集合場所へ向かっていた。
 付き合って3か月になる梓は特にオカルトに弱いというわけでもないし、正直、すぐに乗ってくると思っていた。しかし、軽い気持ちでかけた電話で、返ってきたのははっきりとした拒絶だった。それからは何となく気まずくなり、最低限のメールのやり取りしかしていない。一応、集合場所は伝えてあるが、来てくれるかどうかは怪しいところだ。
 緊張しながら行くと、俺以外はみんな揃っていた。梓もいる。
「悪い、遅くなった」
「ほんとだよ。何時間待たせる気だ」
「たっくんも5分前に来たばっかりじゃん」
「ま、しょうがないわ。今日は早く来たほうよ。30分経っても来なかったときはさすがに帰ろうかと思ったけど」
 やばい。完全にお怒りモードだ。
 すると、張り詰めた空気を察してか、タクが俺の肩に腕を回してきた。
「な、見て見て。俺ら、今日で3か月なの」
 目の前に翳される手のひら。昨日までなかった指輪には、「takuto」「yuuka」と書かれている。
……うん。空気読もうとしてくれてるのはありがたいんだが、話の方向性が火に油だぜ相棒。
 女二人からの痛い視線を避けるように、俺は先に歩き出した。



「はあ、けっこう距離あるな」
 歩き始めた時にはすぐに着くと思っていたのだが、肝心の木が見える気配はない。
 紅葉は綺麗だし、近くに川があるのか、せせらぎも聞こえてきてとてもいい所ではある。
 道も、そんなに歩きにくいという訳でもない。
 それでも一時間以上歩き続けるにはまだ暑い季節だ。
 一番後ろを歩いていたタクが斜め前の優香の顔を覗き込んだ。
「優香、少し休むか?」
「ううん、平気。あずちゃんは大丈夫?」
「大丈夫だけど……せっかくだから、お弁当食べてく?」
 弁当なんて用意してたのか。
「マジ!?よかった、腹減ってたんだよね」
「あ、たっくん待ってよ」
 先に弁当を開け始めるタク。慌てて取り返そうとする優香のわきで、梓が黙々とシートを広げる。
 そのまま岩に座ってもと思うのだが、相変わらず準備がいいことだ。
 結局弁当の半分以上をタクが食べつくし、気を利かせたつもりなのか、優香を連れて近くの川まで行ってしまった。普段はまず間違っても空の弁当を洗うなんてことしないくせに。
 何て話しかけようか迷っていると、驚いたことに梓のほうからよってきた。
「その……この前はごめんね」
「いや、無理に誘ったの俺だし。むしろごめんな」
「ううん、いいの。――はい、これ。指輪じゃないけど」
 そう言って渡されたのは、渦巻き模様の小さいキーホルダーだった。振ると、風鈴のような音がする。
「これは?」
「幸運のお守り。この前、家族で旅行に行った時の」
「ああ、バリだっけ」
「うん。バリで有名なんだって」
 へえ。知らなかった。
「もしかしてそれも?」
 ふと目についたネックレス。模様は多少違うが、似ている気がする。
「あ、わかった?お揃いなの。職人さんがひとつひとつ作るから、模様はちょっと違うんだけど」
「そうなんだ。その……」
「なんでそこで似合ってるとか綺麗だとか言えねーんだこのヘタレ」
 突然の衝撃。いつの間にか帰ってきていたタク達だ。この野郎、俺が肩ケガしてんの知っててやりやがったな。
「あずちゃん、それ可愛い!お揃い?」
「そう。私は鎖に通してネックレスにしちゃったんだけど」
「な、それより、見つけたぜ」
「は?何が?」
「例の洋館。ほんとに建ってたんだ」
 マジか。ただ、気になることがひとつ。
「それ、不法侵入になんねーのか」
「大丈夫だって。誰も住んでねーから」
「は?なんでそう言い切れ……」
「たっくんが一足先に見てきたの。もうほとんど廃墟だって」
 丁寧な解説をありがとう。でもその前に彼氏の暴走を止めようか。
「じゃあ、本当だったのね。あの噂」
「ね、さすがに洋館はないと思ってたんだけど」
「な、それより早く行こうぜ」
 相変わらずテンションの高い幼馴染についていく。
 川のせせらぎが近づく。
 森の中、一本道が出来てるような気がするのは気のせいか。
「梓、大丈夫か?」
「どうしたの、急に」
「あ、いや、えと……そうだ、来週の日曜日、ちょっと出かけようぜ」
「……熱でもあるの?」
「なんでそうなる」
「ごめん、冗談よ。――私、指輪は苦手だからネックレスとしても使えるやつがいいわ」
「おう」
「なになに、デートの約束かこの色男。さっきまで死にそうな目してたくせに」
「悪いか、この裏切り者」
「あ、そんなこと、せっせとフォローしてた恩人に言っていいのかよ?」
「たっくん、あれはフォローになってないから」
 いいぞもっと言ってやれ。
 ちらりと見ると、梓と目が合う。苦笑しているが、怖いというわけではないらしい。
 俺はほっとして息をついた。
 いつもの癖でポケットの中に手を突っ込むと、梓にもらった幸運のお守りが指先に触れた。
「お、着いたぞ。あれだろ、噂の洋館て」
 突如、姿を現したそれは、真っ白な洋館だった。
 明治ごろに建てられたものだろうか。どこか日本的な雰囲気と、オランダのような造り。
 庭には、大きくはないが噴水もある。人が住んでいたころは、さぞ綺麗な庭だっただろう。
「すごい、こんな豪邸あったんだ」
「私もびっくりしちゃった。――ね、本当に出ると思う?」
「ハロウィンの洋館――妖精とか出たりして」
「それなら会いたいかも」
そんなもん出てたまるか。それよりも気になってるのは。
「なあ、さっきから時々だけど光見えねえ?」
「え、うそ、マジで?ジャック・オ・ランタン?」
「どうせ近所のガキだろ」
「えー、妖精じゃないの?」
「なあ、とりあえず入ってみようぜ」
 こいつに危機感はないのか。あんなに嫌がっていた梓も、目を輝かせている。
 まあ、喜んでるならいいか。
 俺はそう思い、首筋にチクリと刺さるような冷たい視線に気づかないふりをした。



「あー、やっぱり出る訳ねーか」
「いる訳ねえって」
「さっき光見たとか言ったのはどこのどいつだ」
「そういえば子供もいないね。結局なんだったんだろ」
「妖精さん……」
 洋館の中を探し始めて一時間。俺たちは見事に何もないまま、2階まで探索し終わっていた。しいて言うなら、一つだけ鍵のかかった部屋があったことくらいか。俺はどちらかというと信じない方だが、もう少しくらい何かあってもいいんじゃなかろうか。
 その時、どこからか、ピアノの音が聞こえた。
「え、なに、今の」
「やだ、たっくん怖い」
「き、きっと、聞き間違いだって。な!」
「俺も聞こえたんだが」
「いやいや、ぜってーそんなわけ」
 タクの言葉を遮るように、再び鳴り響くピアノの音。
 誰も、何も言わない。
 静まり返った廊下を、冷たい風が通り抜ける。
「な、相棒よ。君はたしか幽霊とか信じてなかったな」
「なんだよ急に」
「という訳で、見てきてくれたまえ」
「誰だお前。つーかお前は行かねーのかよ」
「俺はここで優香と梓ちゃん守ってるからさ」
「怖いだけだろーが」
 その時、手に温かいものが触れた。梓だ。
「その、私も、行く」
「大丈夫なのか?」
「うん。――和也が、いるし」
 マジでか。ここでまさかのツンデレか。こっちの方が心臓に悪いぞ。
「ヒュー、やるねえ」
 うるせえよ馬鹿。
「じゃ、俺らはここで待ってるから」
「ごめん、たっくん、私も行くわ」
「えっ」
「だってたっくん、怖いのダメじゃん。それに、もしかしたら妖精かもしれないし」
 へっ、ざまあ。
「ね、そうと決まったら早く行こ!」
 実は一番喜んでるのは優香なんじゃないだろうか。さっきはタクの腕に抱きついてたくせに、この女狐め。
 一瞬感じた違和感は、指に絡んだ熱と存外近くにあった笑顔にかき消された。



「ここか」
「みたいだな。ピアノあるし」
「だれもいないみたいね」
「あ、でも見て、これ」
 優香が指差したのはピアノの鍵盤の方だった。一見、何も変わったところはない。
「これがどうかしたのか?」
「他は全部埃被ってるのに、ここだけ擦ったような跡があるでしょ?たぶんネズミかなにかじゃない?」
「なんだ、ネズミかよ。ビビらせやがって」
「でも、ずいぶん綺麗になってるのね。これだけ放置されてたら、音が鳴らなくたっておかしくないのに」
「ネズミがよく落ちてくんだろ。上に穴開いてるし」
 ちょうどピアノの上だけ、綺麗に穴が開いている。ピアノの倍くらいの大きさだが、端の所が鍵盤の真上になっているので、ネズミが落ちてくるならちょうどだろう。
「なあ、これなんだ?」
 近くの棚を漁っていたタクが持っていたのは、鍵のようなものだった。形はずいぶん古いが、錆びた様子はまったくない。
「どこかの鍵じゃない?」
「鍵かかってる部屋なんてあったっけ?」
「まあ、まだ2階だし。金庫かなにかって可能性もあんだろ」
「じゃあ、そういうわけで、行ってみますか!」
 こいつは懲りるという言葉を知らないのだろうか。
「お前、まだ行くわけ?」
「たっくん、帰ろうよ」
「そうだよ。さっきはビビッてたくせに」
「な、いいだろ別に!つーかせっかくここまで来たんだからさ、もう少しだけ、行ってみようぜ」
「もう少しだぞ。そしたら帰るからな」
 なんだかんだで断れない俺も人のことは言えないが。



 5分後。俺は、タクの話に乗ったことを心底後悔していた。こんなに後悔したのは小学校のとき、こいつの悪戯に付き合って反省文10枚という拷問に合って以来だ。
 4階には、それまでとは異なり2つしか部屋がなかった。問題は、その西側の部屋だ。
 ついさっきまで人がいたかのような雰囲気と、床に落ちた人形。
 古びた洋館のなかで、落としたばかりのようにも思える人形だけが妙に浮いている。
 しかし、そこでまっとうな思考に至らないのがタクという男だ。
「なあ、これさ。なんだと思う?」
「お前には人形以外に見えるのか?」
「いや人形だけどさ。昔からここにあったものじゃないだろ」
「まあ、そうだけど」
「この洋館は、ハロウィンの日にしか現れない」
「まさか信じてたの?」
「ここに来てから、俺たちは誰にも会ってない」
「だから何だよ」
「これ、短くても去年だろ。な、せっかくだし、宝探ししようぜ!」
「……たっくん、疲れてるなら無理しない方がいいよ?」
「今日は帰って休んだ方がいいんじゃない?」
「梓たちの言う通りだぞ。お前、冗談は存在だけにしとけよ」
「なんだよ皆ノリ悪いな!」
「そういう問題じゃねーよ馬鹿」
「というか、それはさすがに犯罪じゃない?」
「いや何も持って帰るわけじゃねえって。探すだけだよ。古びた洋館で宝探し!なんか面白くね?」
 面白いのはお前の頭だよ。彼女だって嫌がってんだろ。
「じゃあ、ちょっとだけね?」
 マジでか。
「二人はどうする?」
 正直なところ、帰りたいのは山々だが。
 なんとなく予想はしつつも、梓に問いかける。
 返ってきたのは、予想通りの苦笑だった。
「――少しだけだぞ」
「大丈夫だって。夜には帰るよ」
 山の中だから、夜までいたら逆に危ないということまで考え……てる訳ないな。
 俺は密かにここに一泊する覚悟を決めた。



「なあ、これ」
「あそこ、だよね」
「なんでこんな所に」
 最後の、東側の部屋。一番奥のドアを開けると、ウォークインクローゼットというには大きいくらいの小部屋があった。
 特に何も置かれていない殺風景な部屋だが、奥のブレーカーのような小さな蓋を開けると、出てきたのはブレーカーではなく錆びた鍵だった。
 この洋館のなかで、鍵がついた部屋は一つしか思いつかない。
 一階の、入ってすぐ左手の部屋だ。
 俺は、今日中に帰ることを完全に諦めた。
 無駄に元気のいいタクを筆頭に、再び一階に下りていく。
 鍵は、待ちくたびれたと言わんばかりに鍵穴に吸い込まれていった。
「やっぱりここだったんだ。――は?」
ドアを開けるなり立ち止まるタク。
 脇から覗き込むと、そこにあったのは部屋ではなく申し訳程度の小さな踊り場だった。運動神経が唯一の取り柄のタクでなければそのまま転げ落ちていただろう。離れて歩いていてよかった。
「すげえ、俺、地下室って初めてだ」
「私も、こんな感じのって見たことない!」
「ねえ、見えないんだけど。早く下りない?」
「あ、わりぃ!ところでさ」
 何故そこで俺を見る。
「なあ、頼むよホント。俺、暗いのダメなんだって」
「じゃあ行くなよ」
「そう言うなって。今度、昼飯奢るからさ」
「そこまでして行きたくねーのかよ」
 呆れながらも、手探りで階段を下りていく。
 やたらと長い階段を下りながら、俺は唐突に、さっき感じた違和感の正体に気が付いた。
(そうか。風だ。窓どころか、ドアのひとつも開いてないとこで、なんで風が吹いたんだ?)
 一度気付くと、ほかにも色々と浮かんでくる。
 たとえば、屋敷の中。外はあれだけ荒れているのに、中は埃もそんなに積もっていない。
 蜘蛛の糸くらいあっても良さそうなものだが、それすらもない所に果たしてネズミがいるのか。
 そして、入る前に間違いなく見たはずの光と、首筋に感じた鋭い視線の正体は。
 思い浮かんだ一つの可能性に口を開こうとしたとき、ようやく下に着いた気配がした。
 手探りでスイッチを探す。
 ようやくそれらしきものに手が触れた瞬間、俺は体中に激しい痛みを感じた。



「――い、おい、起きろ!」
「んあ……?」
「よかった、気が付いた」
 目を開けて、最初に見えたのは泣きそうに歪む梓の顔。そして、珍しく焦った顔のタクだった。
「あれ、俺なんで……」
「階段から転げ落ちたんだよ」
「たっくんのせいでね」
「うわ、馬鹿、言うな!」
 どういうことかよくわからないまま、回らない頭で眺めていると、梓がそっと耳打ちした。
「タクミ君が足滑らせて、全員巻き込んで落ちちゃって」
 なるほど、それで一番先に歩いていた俺が下敷きか。うれしくない。
「大丈夫?まだ目が回る?」
「いや、大丈夫。それより梓は?」
「私は平気。気も失わなかったし」
「俺どんくらい寝てた?」
「5分もだぜ。いい夢見れたか?」
 たった今悪夢に変わったけどな。
 せっかく近くにあった梓の顔が離れ、間に割り込んできたのはタクの顔。幼馴染の野郎の顔を見ても、正直うれしくもなんともない。
「そうだ、お前が寝てる間にちょっと見てきたんだけどさ、この先、何になってると思う?」
「何って……部屋だろ、普通に」
というかここからも少し見える。
「じゃなくてだな、その先だよ、その先!聞いて驚くなよ、洞窟があったんだぜ!」
「はあ……」
 家の中、しかも地下に洞窟。こいつこそ、さっき落ちた時に頭を打ったんじゃないだろうか。
「あ、お前、信じてねーだろ。いいよ、今に見てろよ」
「わかったって。早く行こうぜ。その何だっけ、洞窟?にさ」
 何か騒いでいるタクを後目に、体中に走る痛みを抑えて立ち上がる。ふらつくと、とっさに梓が支えてくれた。長い髪から、ふわりと甘い香りが漂う。帰ったらまたデートにでも誘うか。
そんなことを考えながら、歩くこと数分。存外長かった廊下を抜けて部屋に入る。
 そこにあったのはもう一つの鉄製の扉。
 そして、その向こうに見える洞窟だった。
「な、ホントにあったろ?」
「ドヤ顔うぜえ。つか、なんでまた洞窟?」
「――元、基地とか?あの、たっくんが好きな軍事ものの漫画によく出てくる」
「要人が住んでたとことか?」
それか基地の入り口のカモフラージュか。
「ねえ、基地だったらさすがに危なくない?」
「大丈夫だって。この先、一本道だから」
 また見てきたのか、こいつは。なんでその度胸を他で発揮しないんだ。
「本当に一本道なのね?」
「ま、俺が見逃してなければ。多分、貴族かなにかの屋敷で、戦争のときに備えたんだろ」
「たっくん、ホントどうでもいいことだけは詳しいよね」
「ま、伊達にミリオタ10年もやってねえぜ。なに、惚れ直しちゃった?」
「なにか言った?」
「すんません何でもないです」
 地味にくるんだよな、などと半泣きでぼやくタクを引きずり、洞窟を少しずつ進んでいく。
 ようやく暗闇に目が慣れてきたころ、不意に視界が明るくなった。
「よっしゃ、着いたぜ。すげーだろ。ここから出られんの」
 光は、頭上から差し込んでいた。行き止まりになっているところには梯子がかけられ、上は丸くくり抜かれている。井戸か何かだろうか。
「へえ、たっくん、たまには冴えてるじゃん」
「ホントたまにな。ごく稀に」
「な、いいだろ別に。いい男ってのはここぞって時に活躍すんだよ」
 ここぞって時はすべて俺に押し付けていた奴がなにを言う。
「なあ、せっかくだし、ここから帰ろうぜ」
「あ、賛成!じゃあたっくん、落ちたときはよろしくね」
「落ちるの前提かよ」
「いいでしょ。じゃ、先にいくわね」
「んじゃ、俺2番目な」
「おう。――梓、お前次に……って、梓?」
 振り返ると、梓は不思議な表情で何かを眺めていた。
「なんだ、なんかあったのか?」
「あ、ううん、さっき、落ちてたの見つけただけ。珍しかったから、見てたの」
 そういって出したのは、不思議な模様のキーホルダーだった。鈴になっているのか、降ると風鈴のような音がする。
「これ、梓のネックレスと同じじゃね?ほら、バリ土産にってくれた」
「うん、これがひとつだけ、指輪と一緒に落ちてたの」
「ふうん、ほかにも俺たち見たいのいたんだな。ほら、早く行こうぜ。あいつらに置いてかれる」
「おーい、和馬、まだかよ!置いてっちまうぞ!優子が待ちくたびれんだろ。いちゃつくのは山降りてからにしろよ!」
「バ、いちゃついてねえよ!」
 上から落ちてくる怒鳴り声を聞きながら、俺は梓と顔を見合わせた。
 ちょうど、上から差し込んだオレンジの光が梓を照らす。
 胸元で、渦巻き模様の鈴のネックレスが妖しい光を帯びて見えた。



 梓がポケットに滑り込ませた二つの指輪。ペアリングと思われるそれは光に照らすと、血のような赤黒い錆びの下に、うっすらと「takuto」「yuuka」と書かれているのが見えた。
鈴木理彩
2013年10月31日(木) 17時54分57秒 公開
■この作品の著作権は鈴木理彩さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最後までホラーかファンタジーか迷いました。
ホラーといいつつ、お化けは出てきません。
人が死ぬ描写も、まあないでしょう。
投稿場所が違っていたらすみません。
ですが、一応ホラーということで、ここに投稿させていただきました。
宜しくお願いします。

この作品の感想をお寄せください。
No.2  鈴木理彩  評価:--点  ■2013-11-04 12:55  ID:/YXHBesa/G.
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感想ありがとうございます。
入れ替わり系の話はよくありますが、その中で一つだけ「イレギュラー」な存在を混ぜたらどうなるのかな、と思ったのがきっかけで、重い話でもないのに妙に後味が悪い、というのを目指したのですが……確かにわかりにくいですね……
こういう雰囲気の話を書くのは初めてでしたが、精進します。
No.1  お  評価:20点  ■2013-11-02 23:43  ID:MA1er3vmK2M
PASS 編集 削除
こんちわ。
ふむ。入れ替わり?
意図するところが良く分からない。
で、どうなん?
僕の読みが浅いのかな。
総レス数 2  合計 20

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