夕暮れ |
帰り道、一日中太陽からの日差しを受けたコンクリートが夕暮れ時になると太陽よりも蒸し暑い熱をはっし、私達を自宅まで足早にさせる。 会社から帰宅していた私はその下からの熱気に足がふらついてしまいそうになる程、衰弱していた。 最近は、一日四時間程しか寝ていないのだ、それはふらつくな、と自分自身で実感していた。 太陽からの熱がそれほど感じられなくなり、コンクリートからの熱気が足元を包みだした頃、何か後ろに違和感を感じた。 このあたりは痴漢やらストーカーやらが多発していることもあり、実際男の私でさえ、されたことがあるのだ。 気分は悪かったが、走って逃げるわけにもいかないので、一応睨みつけてはおこうと思い後ろを見たが、長いコンクリート道路が延々延々と続き、電信柱が夕暮れの、あの夏独特の毒々しい赤…、深い赤に染まっているだけだった。 ようよう夏が来たなと小さく溜め息をつき、また自宅への長い道のりを歩き出した。 十分ほど歩いたあと、また違和感を感じた。 まだついてきてるのか、と呆れた。 こちとら社畜のように毎日毎日働かされているのに、お前は好きなことができて良いよな、とストーカーに羨ましさのようなものを抱いた自分にも、そろそろ末期だなと感じた。 だが、家まで付いてこられる訳にはいかない。自分には家族もあるのだ。 もうこの際直接文句でも言ってやろうと思い、今きた道を重い足取りでUターンした。 しかし、10メートルほど歩いたあと、違和感を感じた。隠れる場所もなければ、道は一本道なのだ。 …おかしいよな。 ふと、足元に目をおとした。 影がないのだ。 一瞬自分の目を疑った。 疲れるすぎると幻覚を見ると何かで見たことがあるからだ。まさしく今の自分ではないか。 しかし、じっくり見たところで自分の影がないことに変わりはなかった。 何分そこに立ち尽くしただろう。 すると、道の奥から黒い何かがこちらに近づいているのがわかった。 一目で、自分の影だということがわかった。 走った。疲れなんて文字通り吹っ飛んだ。 太陽が沈めば自分の影が消えてしまう。影が消えると自分も消えてしまう。 …何故かそんな確信があった。 小さい頃やった影踏みを思い出した。 違うのは自分の命がかかかっているかどうかだった。 自分の影を踏むと、ぐにゃりという感触があった。 好きな感触ではなかったが妙に安心した。 …すると、一瞬意識が飛んだ。 意識が戻るともうすっかり太陽は沈んでしまっていた。 残っていたのはコンクリートからの蒸し暑い熱気だけだった。 私は足早に自宅への帰路へついた。 |
木ツ女
2016年07月07日(木) 14時02分52秒 公開 ■この作品の著作権は木ツ女さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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