怨霊師ハマラン・『少年地獄(前編)』 |
姉の恵のアパートに居候する事になった破魔嵐。 ある日の朝、恵が出勤の準備をしていると嵐がパソコンの前で難しい顔をして悩んでいた。 「アンタがこの時間に起きてるって珍しいわね。いつもならグーグーに寝てるのに。ゲームでもしてんの?」 恵が茶化すような口調で言った。 「違うよ。お姉ちゃん、前に家賃半分払えって言ってたじゃない?だからそのためにバイトでもしよーかなって」 「なーるほどね。それで求人サイトでも見てるってわけね。えらいえらい」 「求人サイト?違うよ。私の霊能力を生かして心霊現象に悩んでる人の相談に乗るサービスでも始めようかなって!」 ポカンと口を空け恵は呆れたような顔で嵐を見つめている。 「何よそれ・・・あんま変な事しないでちょうだいよ」 「変な事って何だよ!霊能者をバカにしないでよ!それに変って言ったらお姉ちゃんのその格好のが変だよー!!」 蘭は全身ピンクでフリフリの服を着た恵を指差した。 「んまー!!なんて事言うのよ。私の大好きなケセランセランを馬鹿にしたわねー!!よくもコノヤロー!」 恵は顔を真っ赤にして怒って嵐のほっぺたを思い切りつまんで引っ張った。 「痛い!いたっ!お姉ちゃん、冗談だってば!可愛いです!すごく素敵です。お姫様みたいだよ!ホントに」 嵐は手を合わせて謝った。 恵の仕事は原宿で大人気ブランド、ケセランセランのショップ店員だったのだ。ファンタジー&ファンシーがテーマのブランドで若い女の子達の夢を形にしたような服やアクセサリーが売り物だ。 「ってか、そろそろ仕事行かないとヤバいんじゃない?」 「あーーーーっ!もう、こんな時間・・・んもう!アンタのせいだからねっ!!」 恵は慌てて部屋を飛び出して職場に向かって猛ダッシュした。 嵐はHP作成のマニュアル本を見ながら心霊相談のサイトを作成に打ち込んだ。そして昼過ぎぐらいにはサイトが完成していた。 「よしっ!相談だけなら無料で霊現象の調査が5千円で除霊が3万円。うん、これぐらいが相場だよね」 嵐は満足げに自作のサイトを見ている。 「後はチラシとかも近所に配ってこよう!破魔家の使命は世の邪悪や煩悩を清め救われぬ魂を救う事。それで仕事にもなって、その理念を実現できるなら一石二鳥だよね」 嵐はゲンコツを握りながらその場で思い切り飛び跳ねた。 ガコーン!! テンション高すぎて天井に激突してしまった。 「いたーっ!はははは・・・」 嵐が心霊相談のアルバイトを始めてから1週間後の日曜日。 「じぇんじぇん相談が来ない・・・ハァー」 嵐がパソコンの前でため息をついた。 実はネット上の相談も電話も一件もまだ来ていなかった。 「そりゃそうよ。そんな胡散臭い霊能者になんか相談する人そういないわよ」 恵が意地悪そうな顔をして言った。 ピンポーン 誰かが部屋の呼び鈴を鳴らした。 「きっとお客さんだよ!!」 嵐が飛び起きて玄関に向かった。 そしてドアを開けてみると暗い表情をした中年の女性が立っていた。 「あのぉ・・・嵐さんの心霊相談室ですか?」 ボソボソとした口調で女性が言った。 「そうです!わたくしが霊能者・破魔嵐です。ささっ、中に入ってください」 嵐が女性を部屋の中に案内した。 「アシススタントさん、お客様にお茶をお出しして」 嵐が恵に命令した。 「ちょっとアンタ!誰がアシスタントよ!!」 「お客様の前ですよ。言葉を慎みなさい」 恵は仕方なくお茶を入れて嵐と女性に出した。 「今回はどのようなご相談で?」 嵐がいつになく丁寧な口調で女性に尋ねた。 「実は家に幽霊が出るんです。その姿は見えないのですが誰もいないのに変な声がしたり家具や食器が中に浮いたり・・・それでもう夜も怖くて眠れないんです!!」 女性は青ざめた顔で訴えるように語った。 「騒霊(そうれい)あるいはポルターガイストですね」 「ポルターガイスト?」 女性が聞きなれない言葉を聴いて首をかしげた。 蘭が説明をはじめた。 「ポルターガイストというのは霊が霊力によって家具や食器といった物体を動かす事です。日本では戦前に心霊研究家の浅野和三郎が騒霊と和訳した事によって研究家や霊能力者の間で知られるようになりました。ただポルターガイスト現象の原因は霊だけではなく生きている人間のサイコキネシスによるものだったというケースもあります」 女性は困惑した顔をしながら聞いている。 「それでは、ちょっとココにお答えいただける範囲で心霊現象の状況やお客様自身の事について用紙にお書きください」 嵐は1枚の用紙を女性に手渡した。 用紙には相談者の個人情報と霊現象の状況について書く項目がある。 女性が書き終えると嵐は用紙に目を通す。 「戸松理恵さんですね。ご家族は旦那さんと息子さんとの三人家族で?3ヶ月ほど前からラップ音やポルターガイスト現象が始まった。そうですね?」 「はい、でもなぜか息子や主人がいる時は起きないんです。私が一人でいる時にだけガタガタガターッ!!とかってなるんですよ。だから二人とも私がおかしくなったんじゃないかって思ってるんです・・・」 女性は陰気な顔で深くため息をついた。 嵐は頼もしげな表情で理恵婦人を見つめながら優しく言った。 「大丈夫です!この霊能者・破魔嵐が必ず解決してみせます!!」 「ありがとうございます!」 「よろしければご自宅の方を一度、調査してもよろしいでしょうか?」 「えぇ、平日の夕方前なら私一人なので・・・」 「では3日後にお伺いしてもよろしいでしょうか?」 嵐は3日後に戸松家を訪問し婦人を悩ませるものの正体を探ると決意した。 そして3日後、嵐は黒いスーツを着て戸松家のチャイムを鳴らした。 ピンポーン!! 「はぁーい!」 理恵婦人がドアを開けて嵐を家の中に案内した。 居間のソファーにこしかける嵐と婦人。 「今日も何かありましたか?」 嵐が尋ねた。 理恵婦人は表情を曇らせながら答えた。 「実はさっき台所のテーブルに今朝までなかったはずの写真が置いてあったんです。これがその写真です」 理恵婦人は嵐に1枚の写真を手渡した。 写真には学生服を着た中学生たちが写っている。 「この写真は?何か学校の集合写真みたいだけど?」 「息子の学校の写真です。今は3年生で去年の2年生の時のものです」 「ふうん。息子さんの写真ね・・・」 嵐は写真に何か意味があるのではないかと思った。 ドバーン!!ガターン!!ボガーンッ!!! 突然、何かを打ち付けるような大きな物音が鳴り響いた。 音は部屋中から鳴り響いているようだ。 「あああっ!!何なの?ねぇ嵐先生、何とかしてください!!」 婦人は恐怖のあまり目に涙を浮かべる。 ガターン!!ガターン!!ガタガタッ!! そして突然、居間の窓の雨戸が勢いよく閉まり部屋の中が真っ暗になった。 「この家に住み着きし霊よ。静まれ!!静まれ!!」 嵐が左手の数珠をかざしながら霊に語りかけた。 「あっ!!あれは・・・もうイヤアアアアアアッ!!」 婦人は天井を指差したかと思うと悲鳴を上げて地べたにうずくまった。 天井では3つの青白い炎がグルグルと円を描きながらまわっていた。 所謂、人魂というやつである。 そして人魂の円の中心に恨めしそうな顔をした霊が姿を現した。 学生服を着てメガネをかけて七三分けの髪の見たところ中学生の少年のようだ。 「どうしたの?君は何を訴えようとしてるの?」 嵐がまるで友達に話しかけるように優しく霊に問いかけた。 「うぅ・・・許さない。僕は殺された。あいつ、絶対に呪ってやる」 霊は地獄の亡者の怨歌のような暗く低く響く声で答えた。 そして憤怒と苦痛に満ちた少年の顔がまるで溶けるように崩れていったかと思うと、そのまま闇に消えていった。 「ねぇ、早く何とかしてちょうだい!!今の化け物を何とかしてーーーー!!」 婦人が立ち上がり嵐の肩を思い切り掴みながら金切り声をあげた。 「まずは霊に語りかけて、この世にどうして未練があるのかをたずねてみます。そしてそれから対策を・・・」 「あんな化け物の言い分なんて聞く必要ないわ!それより早く退治しなさいよ!!」 嵐は上品ぶった理恵婦人の豹変ぶりに困惑を隠せなかった。 「ただいまぁー!!」 玄関の方から野太い声がした。 「あら・・・亮太が帰ってきたわ」 亮太というのは今年中学3年生の理恵婦人の息子である。 亮太が居間のドアを空けて入ってくる。 大人顔負けのガッチリした体格で鋭い目つきにツンツン短髪の強面の少年だ。 「あれ?母さんどうしたの?部屋を真っ暗にしちゃって」 亮太が不思議そうに母にたずねた。 「実は、以前から不気味な現象が起きてて霊能者の方に相談にのってもらってたの」 理恵がそう言うと亮太は嵐を物凄い目つきでにらみつけた。 「何だテメエ!!霊能者だあ?母さんを騙して金でも巻き上げようってか?こんな部屋の中真っ暗にして何考えてんだよ!!葬式みてえに真っ黒なスーツなんて着やがって!!ああん?」 亮太は嵐の胸倉を掴んですごんだ。 「亮太君だっけ?私はインチキじゃないよ。霊は本当にるんだよ」 「だったら呼んでみろよ!!霊とかバッカじゃねーの?いい歳してよぉ・・バーカ!!バーカ!!ハハハハハハッ!!」 「さっき幽霊が現れたんだ。君と同じぐらいの歳で七三分けの髪でメガネをかけた男の子・・・」 嵐がそうつぶやくと亮太の顔色が青ざめた。 「何だよ?ワケわかんえーし」 「もしかして君の知り合いでそんな人いないかな?」 「ハハーン。さてはお前、杉野の事聞いてきたな?」 嵐は亮太が出した杉野という名前が気になった。 「杉野って?」 「とぼけやがってよ!自殺した杉野義春だよ!!俺が2年の時にいた根暗のキモい奴だよ!!あいつの親が俺が殺したとか抜かしやがってよ。俺はいじめてなんかいねえよ!だいたい口聞いた事もねえんだよ」 嵐が黙り込んで亮太を見つめる。 「まったく逆恨みもいい所だぜ。来年は高校受験だってのにあんな馬鹿に足引っ張られてたまるかってんだ!死んでからも人に迷惑かけやがって!あいつが死んだのは進路に悩んでの自殺なんだよ。それをあいつの親は被害妄想で俺と友達がいじめたとか言ってやがるんだよ」 「君はいじめてないんだね」 「ああ、まあアイツがキモいから避けてはいたけど殴ったり蹴ったり金取ったりなんかしてないぜ。あいつの親の妄想なんだよ。結局、誰でもいいんだ。自分の息子の死を受け入れられないから他人のせいにしたいんだ」 亮太は狂ったように吼え叫んだ。 そして理恵婦人が息子に優しく寄り添いながら言った。 「大丈夫よぉ〜私が守ってあげるから。あの子の家族は全員おかしいのよ。私の夫、そしてこの子の父親の戸松孝治は市議会議員なのよ。私たちは選ばれた人間なの。庶民とは住む世界が違うの。だからいちいち貧乏人のガキなんていじめたりしないわ。いい嵐さん、あなたもさっきから私に対して頭が高いわよ」 嵐は歪んだ表情で自分を見下ろす理恵婦人と亮太を睨み付ける。 「では、私はもう帰ります。霊の対処はそちらでどうぞ」 そう言うと嵐は戸松家を後にした。 「母さん、あんな奴の言うこと間に受けちゃダメだって、アイツは杉野の親に雇われて俺たちをゆすりにきたんだよ。そのポルターガイストだの何だのだって奴らの仕組んだトリックなんだって」 「そうね。きっとそうだわ。薄汚い野良犬を家に上げてしまって・・・消毒しないとね」 だが理恵婦人は自分の目で見た現象に対しての不安を拭い去る事はできない。 |
テルザ・オーケストラ
2015年06月28日(日) 03時10分52秒 公開 ■この作品の著作権はテルザ・オーケストラさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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