怨霊師ハマラン |
大都会・東京の片隅にある魂群《たまむら》町は昭和の薫りを残す景観と小劇場やライブハウスが点在するサブカルチャーの発信地として近年、感度の高い若者達に注目されていた。 町の繁華街の大通りを1人の不思議な少女がキョロキョロと周囲を見回しながら歩いていた。 歳は19歳ぐらいだろうか男の子のようなショートカットに小麦色の肌に天真爛漫を絵に描いたような顔立ち、いかにも活発で健康的な女の子だった。 ただ奇妙なのは少女は初夏だというのに真っ黒なスーツを着て背中に大きなバックパックを背負っていた。 「うーん、確かお姉ちゃんのアパートはこの辺りなんだけどなぁ?」 そう言うと少女は手に持った地図を見ながら怪訝そうな顔をした。 「どうかしましたか?あら、あなたここら辺の人じゃないわね」 紫色に染めた髪のおばあちゃんが少女に話しかけた。 「あの、ここら辺にハイツ魂群ってアパートないですか?」 「それでしたら、あそこの路地裏から・・・案内しましょかね?どうせアタシも暇なもんだから・・・」 「おばあちゃん、ありがとう!!」 「いえいえ」 少女はおばあちゃんに案内され目的のアパートにたどり着いた。 「はいはい、ここですよ。ところでアンタ、よくアタシのこと見えたわね。もしかしてイタコか何かかしら?」 「うん、そして、おばあちゃんが悪い霊じゃないって事も・・・・私の名前は破魔 嵐(らん)って言うんだ。一応、父が霊能者で私もその血を引いてるんだ」 「そうなの!私、生きてる人と会話するなんて凄く久しぶりだったからとっても嬉しかったの。良かったらまたお話してね」 おばあちゃんは優しい笑みをうかべると再び賑やかな繁華街の方に歩いていった。 嵐はアパートの階段を上ると女優になるために家を飛び出した姉の部屋のドアを叩いた。 ドアがゆっくりと開き中から金髪の髪の毛の派手そうな女性が顔を出した。 小さな劇団で女優をやっている嵐の姉の破魔 恵だ。 「ちょっと嵐じゃない?まさかアンタ、お父さんに言われてアタシを連れ戻しに来たの?イヤよ!私は絶対に女優になるんだから、霊能者なんかにならないわよ!!」 「違うよ。実は私も父ちゃんと喧嘩して家を出ちゃったんだ。だって権力者の専属の霊能者なんて私はやりたくない。しかも金のためなら罪のない人に呪いをかけたり欲深い奴のために占いをしたりなんてさ・・・」 「それでアタシのとこに転がり込んできたってわけね。その代わり家賃半分払いなさいよー」 嵐は部屋の中に上がりこむと急に何かを見て悲鳴を上げた。 「ギャーーーーーッ!!!ちょっと・・・お姉ちゃんこの人誰よ??」 「えっ?誰って・・・・」 「ホラッ!ソファーの所に血まみれの女の人が座ってる・・・」 「アタシには何も見えないけど・・・それに霊なんて非科学的なもの信じてないから・・・」 嵐は恵を指差しキリッとした顔で見つめた。 「この部屋には霊がいるわ。それも強い恨みの念を持った霊が・・・除霊するから家賃はタダにして・・・いいよね?」 「そんな事言って家賃をごまかすつもりね!その手にはのらないわよ」 嵐は恵の顔の前で左手をパッと広げた。 手首には淡い青色の輝きを放つ数珠が付いている。 「この数珠には破魔大明神の力が宿っている。その力と私の霊力を合わせれば、お姉ちゃんにも霊の姿を見せてあげられる。私の指の間を通してソファーの場所を見てみて!!」 恵が半信半疑ながらも嵐の指の間からのぞいて見るとソファーにはベッタリと血のついたワンピースを着た女性が座っていた。 「キャアアアアア!!何?何なの??」 「あれが霊だよ」 「早く・・・あの幽霊を追っ払って!!家賃タダでいいからーーーー」 「うん。契約成立だね。じゃあ、まず霊の気持ちを聞いてみるね」 嵐はおそるおそるワンピース姿の幽霊に近づいて心の声で語りかけた。 嵐(あなたはどうしてここにいるの?) 幽霊(あなたのお姉さんが普通の人よりも霊的な力を持っていたからあるお願いをするために付いてきたの・・・・) 嵐(確かにお姉ちゃんも破魔家の人間だから普通の人よりは霊力が高いかも・・・でも霊を見たり触れたりはできないよ) 幽霊(じゃあ、あなたにお願いするわ・・・私を殺した犯人を捜して・・) 嵐(ああ・・・なんか大変そう。でも困ってる霊を見過ごしにはできない。分かった。私に出来る事なら協力する) 恵「ちょっと・・・幽霊さん、出て行くって?」 嵐「明日になったら私と一緒に行くから1日だけ泊めてあげて!!」 恵「ええーっ!だったらアンタ一緒の部屋で寝てよね」 嵐「ちょっとお姉ちゃん、そんなに毛嫌いしたら幽霊さんに失礼だよ」 そして翌日、嵐と幽霊は犯人を探すために町を散策していた。 嵐「うーんと犯人の特徴とか・・・あと殺された場所とかは・・・言いたくな かったら無理には聞かないけど」 幽霊(私が殺されたのは10年前、場所は魂群公園よ。仕事の帰りで近道をす るために公園の中を歩いてたら急に黒い服を着た男にナイフで脅されて 公園のトイレに連れ込まれたの・・・男は身長170cm前後で頭がち ょっと薄くて顔にニキビがあって陰気な目で鷲鼻の馬面の男だった わ」 嵐「ちょっと待ってて犯人の似顔絵描くね」 バックパックからボールペンとメモ用紙を取り出すと幽霊が語るままに犯人の似顔絵を描いた。 幽霊(それ!!その男よ!そっくりだわ) 嵐の描いた似顔絵を手がかりに二人は犯人の捜索を続けた。 嵐「ごめん!ちょっとお腹すいちゃった。ご飯にしていい?」 二人は昼食を取るために老舗の中華料理店に入っていった。 もっとも幽霊は店の人にも姿は見えないしご飯を食べる事もできない・・・ 幽霊(あーっ!!くやしい!!生きてたら私も食べれたのに) ラーメンと餃子とチャーハンを美味しそうに食べる嵐を幽霊は恨めしそうに見つめていた。 ガラガラガラ 古びた店の戸が軋みお客が入ってきた。 幽霊はそのお客を見て顔色が変わり、その客の男を指指した。 嵐「うん?どうったの?」 幽霊(シーッ!シーッ!声出しちゃダメ!あの男・・・あの男が犯人!!) 嵐がこっそりとポケットから似顔絵の描いてあるメモ用紙を見て確認するとそのお客の顔のそっくりではないか。 嵐はゆっくりと食事を済ませ男が店を出るタイミングと合わせる。 そして距離を置きながらこっそりと尾行する。 男は途中で本屋で立ち読みをしたりしながら1人暮らしの一軒屋へと帰っていった。 幽霊(おのれ・・・あの憎き犯人めぇ〜。呪い殺してやりたいけど私にそんな 力はない・・・お願い代わりに恨みを晴らして) 嵐「私はおばあちゃんに世の苦しみを癒し、邪悪を清めよ、それが我が一族の本来の使命だと教えられた。分かった!私があいつを懲らしめてあげる」 男の名前は木村義明という43歳の無職の男だった。 彼の部屋の中には女性の写真の切抜きが壁から天井までたくさん貼ってある。 木村はもう夕方で暗くなったというのに電気もつけずに薄暗い部屋の中でナイフを手にして不気味な笑みを浮かべていた。 木村「ああっ!!またヤリたい!また誰か殺してぇよーーー!!衝動が抑えら れないんだ!そうだ・・・10年前だって見つからなかったんだ。 きっと俺は神に味方されてるんだ。選ばれた人間なんだ!だからこそ愚 民どもを弄ぶ権利があるんだ!!!」 そう叫びながら木村は女性の写真をナイフでズタズタに切り裂いた。 とりあえず嵐と幽霊は木村が反省しているのかどうか?どんな人物なのかを調べるためにこっそりと監視していた。 しかし木村の1日といえばブラブラとそこら辺を散歩したり、通行人の女性をいやらしい目で眺めたりといった事の繰り返しばかりであった。 そんなある日、夜道で木村は前を歩く女性を意識しながら歩き方を早めたりおそめたりしていた。 そして地下道に入った時、木村は鞄からナイフを取り出して女性に切りかかろうとした。 幽霊(ああっ!!やっぱりあいつは根っからの悪党よ。あの人も私のように・・・) 嵐「そうはさせないっ!!」 そう言うと嵐は履いていた革靴を脱いだ。 木村「ウヘヘヘヘ!アンタはどんな悲鳴を出すんだろうなぁ?切り刻んでやる!!切り刻んでやるよ!!」 女性「キャアアアアアアアアアッ!」 木村が女性の胸にめがけてナイフを振り上げた瞬間、嵐は思い切り木村の頭に革靴をぶつけた。 木村「イッテエエエ!!何すんだよ」 木村は今度は嵐の方に向かってきた。 嵐「お姉さん、私の体の中に入って!!!」 破魔家の霊能者は死者の霊と合体することで超人的な力を発揮する事ができるのだ。 幽霊(分かったわ!!) 10年前に木村に殺された女性の霊は嵐の体の中に入り込んだ。 嵐「久しぶりね。私の事を覚えてるかしら?」 嵐が死んだ女性の声で木村に語りかけた。 木村「誰だぁ?」 嵐「10年前に公園で私を殺しておいて忘れたの?」 木村「馬鹿言え、あの時の女は死んだ。お前何で俺が犯人だって知ってる? お前も同じように殺されたいか?」 嵐「なぜ、あなたは人を殺すの?」 木村「世の中がクソ面白くねぇからだよ!俺は選ばれた天才のはずなのに・・なのに世間ではクズみたいな奴が俺よりも美味しい思いをしてやがる!そんな時に女を殺すとスカァーっと気が晴れるんだよ。ガキの頃にも犬や猫や小鳥を殺したけそんなの比べ物にならない快感があんだぜぇーーー」 女性の霊が嵐の魂の中に溶け込んだ。 嵐「もういい・・・お前に人として生きる権利はない。地獄でお姉さんに懺悔しろ!!!」 木村「うるせぇー!お前を殺してからさっきの女も殺してやる」 木村がナイフで嵐を刺そうとした時、嵐は刃を左手で握って受け止めた。 ナイフの刃を手の平でつかんだのに血も出なければ痛みもない。 そう嵐の左手には破魔大明神の数珠によって不思議な力が宿っているのだ。 嵐「秘法!!奪心拳!!」 木村の胸に目掛けて嵐が手を突き出すと何とまるで幽霊のようにすり抜けて木村の胸を貫通したのだった。 そして引き抜いた手には何かが握られていた。 木村「オイッ!一体、今のは何だ?何をしやがった??」 嵐が左手を広げるとそこにはまだ脈打つ心臓があった。 木村「えっ?それ?マジで俺の心臓とか?ウソだろ?手品とかっしょ?」 嵐「さようなら・・・地獄で閻魔様によろしく」 そう言うと嵐は手の平の心臓を思い切り握りつぶした。 木村「ウゲッ!!ゲフ!!ンババババババ!!!!」 木村は口から大量の血を吹き出しながら倒れそのまま息絶えた。 人の痛みを知らぬ悪が滅びたのだ。 嵐の体から被害者の女性の幽霊が出てきた。 その姿は光り輝きさっきまでの恨みに満ちた顔ではなくまるで天使のような笑顔を浮かべていた。 幽霊「ありがとう・・・これで私も成仏できます。あなたにあえて本当に良かった。お礼にもしあなたがどうしても窮地に追い込まれた時、私は霊界から舞い戻り助けに来ます。それでは・・・」 そう言うと幽霊はまばゆい光を放ちながら星空へと消えていった。 嵐はそっと手を合わせ幽霊の冥福を祈った。 世の苦しみを癒し、邪悪を清める、怨霊師ハマランの戦いはまだ始まったばかりである・・・・ |
テルザ・オーケストラ
2015年06月06日(土) 02時04分22秒 公開 ■この作品の著作権はテルザ・オーケストラさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.2 テルザ・オーケストラ 評価:--点 ■2015-06-20 02:56 ID:M8xXETvcEEo | |||||
ゆうすけさん、はじめまして^^ すみません、名前を発言の前に書くのはやめます。 脚本風にしてしまいました^^; ご指摘ありがとうございます。 霊能者というと悪霊払いのお話が多いので無念の霊の代弁者のような主人公を作ってみました。 霊体にダメージを与えるというアイディアいいですね。 あとオカルトでは霊体と肉体の中間にあるアストラル体なんてのもあってそういった要素も取り入れてみたいです。 |
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No.1 ゆうすけ 評価:10点 ■2015-06-06 09:45 ID:7Ifq/xqLE0U | |||||
拝読させていただきました。 これから始まるストーリーの序章のような印象を受けました。この作品だけでは、主人公が活躍しきれていない気がします。 木村に対する攻撃、孟古流妖禽掌かミキストリかスーパーフェニックスか、既存の作品と同じ技だとどうしても比べてしまうんですよね。霊能力者が心臓を握りつぶすのは斬新ですけど、ありがちっちゃありがちなんですよね。心臓の霊体だけを目の前で潰すことで心臓発作で殺す方が霊能力者らしいやり方だと思います。 全体的に文章作法が守られておらず、雑な印象です。セリフの前に発言者の名前を書くのは小説ではないですよ。 すっかり寂れてしまい、ルールも形骸化しておりますが、一応このサイトには投稿ルールがありますので是非御一読していただきたく思います。 |
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総レス数 2 合計 10点 |
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