セカンド・アース |
これから、私の子どもの頃に起こった出来事についてお話しします。 私が物心ついた頃は、既に地球に宇宙人が来ることが普通になっていました。ただ、地球人と宇宙人がファースト・コンタクトを取ったのは、そこまで昔のことではありません。私が生まれるより、ほんの二十年ほど前のことです。 それまでの地球は、各国の威信をかけた宇宙開発競争の進展もあり、月から火星へ、火星から更に遠い星へと有人宇宙探査の網を広げていきました。このように徐々に広がっていった探査網が生命体の存在する惑星を捉えたのが数十年前。アメリカの航空宇宙局が、太陽系の外れにある地球型惑星に生命体が存在するという情報をキャッチしたことをきっかけに、宇宙船が派遣されることになり、宇宙船は無事生命体を発見することができました。そこから間もなくして、惑星間で交流も始まりました。そして、その星で生命体が発見されたことを皮切りに、それまで発見されなかったことが嘘のように、様々な星で様々な形態の生命体が見つかるようになったのです。 その結果、明らかになったのは、地球人の突出した科学技術です。 特に、ほとんどの星の宇宙人は原始的な科学しかもたない種族ばかりで、映画やテレビで見るような、地球人をはるかを超越したようなテクノロジーを持つ宇宙人はどこにも存在しませんでした。 しかし、そんな中でも、地球には及ばないにせよ、それにかなり近いテクノロジーをもった惑星が発見されました。その名前は、発見者の手によってセカンド・アース(第二の地球)と名付けられ、そこで生まれた人は第二地球人と呼ばれるようになりました。 第二地球人についての特筆すべき点は、ただテクノロジーが地球に近いだけではなく、そこにすむ人類が遺伝子レベルで地球人と似た構造を持った人々だということです。 そのことを地球人が知った時、初めはみんな驚きましたが、概ね好意的な見方をされました。しかし、それはあくまで最初の話でした。 それまでの宇宙人は、テクノロジーが地球とは比較対象にならないぐらいレベルの低いものであったうえに、見た目も地球人とは大幅に違いましたが、この第二地球人に関しては、見た目もテクノロジーも地球にかなり近い人類ということで、地球に馴染むのにそれほど時間はかかりませんでした。そして、そのことがかえって地球人の一部から反発を呼ぶようになりました。 第二地球人が地球人の雇用を奪っているとの考えが出てきたのです。 惑星間の交流が進むと、第二地球人は地球の色々な場所で暮らすようになり、特に「日本」と呼ばれる地区はとても有名な第二地球人街となりました。そのこともあって、主として日本地区でデモが繰り広げられるようになりました。そして、それに対するカウンターデモも始まり、どんどん対立が深まっていきました。 それに対する転機が訪れたのは、ある日。 第二地球人街として有名な日本地区で、男の子の赤ちゃんが捨てられていることが発見されました。この時点では赤ちゃんの出自は不明でしたが、場所が場所なだけに、第二地球人が親ではないかという観測も生まれました。しかし、証拠はありません。 仕方ないので、政府はこの捨て子を地球人扱いにして、児童養護施設で保護するよう動きましたが、第二地球人に対して不満を感じていた一部の地球人たちが、この動きに反発しました。 そして、保守系の地球人で構成される市民団体からの提訴によって、捨て子を第二地球人扱いとするよう裁判が起こりました。審理は長期間にわたりましたが、最終的に、 『この子どもは地球人扱いとする』 という判決が下されました。 この判決には賛否両論がありました。 特に保守系の雑誌等から、身元の分からない捨て子を全て「地球人」とするのであれば、自分の子供の国籍を「地球」にすることを目的とした第二地球人が、子供を捨てることもありうるという主張がなされるようにもなりました。 しかし、両親が誰なのかよく分からない以上、裁判所が地球で発見されたこの子を地球人扱いとする結論を下したことは不可避でした。ただし、一部の地球人はその決定に納得はしませんでした。そして裁判所の決定後、さらに対立が深まっていき、事態が深刻化していきました。 政府は警察機関を使ってその動きを実力で抑え込もうとしましたが、人々の不満は解消されず、デモがどんどん過激化していきました。 しかし、ある出来事をきっかけに、事態は急展開を迎えます。ある保守系の市民団体からの内部告発によって、捨て子の両親が明らかになったのです。 この団体は、第二地球人に対する排外的な主張を掲げていることで有名だったのですが、内部告発によると、なんと捨て子の父親は、その団体の会長ということでした。 この告発を受けて警察が動き、鑑定の結果、親子関係が明らかにされ、会長は保護責任者遺棄罪の容疑で逮捕されることになりました。 その後、取り調べが進むにつれて、さらに驚きの事実が明らかになるようになります。じつはこの団体の会長は、第二地球人だったのです。 この不可解な事実によって、地球人及び第二地球人の間に様々な憶測を呼ぶ中、警察の取り調べによって更なる事実が明らかになっていきました。 彼が子供の頃、ひどい差別を受けて、第二地球人であることを「恥ずかしい」と思うようになってしまっていたこと。そしてその感情を消すために、自分の経歴を隠して、第二地球人を排除するための活動に身を投じるようになっていったこと。昨年地球の法律が変わり、出生届を出す際には、親の出自まで記載しなければならなくなったこと。そのことにより、自分が第二地球人であることが発覚する可能性がでてきたこと。そして、そのことを恐れて、子どもを捨てる決断をしたこと。 彼のやったことは勿論許されることではありませんが、一部の地球人から同情の声があがりました。そしてこの事態の遠因を作ってしまったことで多くの人が我に返り、過激なデモは徐々に起きなくなり、人々の記憶からその事件が忘れ去られていきました。 その後、時が経ち、その捨て子はある里親の元で育てられました。その子の名前は、里親が宇宙に関係のある名字だったこと、そして地球とセカンドアースの架け橋になってもらいたいという思いが込められて、『星人(せいと)』と名付けられました。 その子が成長して、自分の生い立ちに関する話を聞いた時、やはり最初はショックを受けました。しかし、里親が本当にいい人で、誠心誠意説明してくれたので、心に深く傷を負うような事態は避けられました。 地球人と第二地球人の双方は、あの一件でとても貴重な体験をしたと思います。無意味な衝突は、決して双方に良い結果をもたらさないことも学びました。本当は、こんな事件が起こる前に気づくべきことだったのかもしれませんが、相互の理解を深める過程では衝突が不可避なのかもしれません。 ここまでが、私が子どもの頃に起こった出来事です。決して楽しい出来事ではありませんが、地球とセカンドアースが更に交流を深める為には、たぶん必要な経験で、お互いの理解を少しずつ進めていく為にはそういう経験を積み重ねていくしかないと思います。 宙地星人(そらちせいと)。 |
山中 ルイ
2014年11月18日(火) 05時40分14秒 公開 ■この作品の著作権は山中 ルイさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.2 山中 ルイ 評価:--点 ■2014-12-26 03:05 ID:sHY1licSKyw | |||||
返信遅くなりすみません。ありがとうございます。次はもう少し書き込んだものを投稿したいと思います。 | |||||
No.1 蒼月シャルノス 評価:20点 ■2014-12-02 16:57 ID:Te/NrfAmNPw | |||||
読みました。 『結論を下したことは不可避でした』という言葉遣いはおかしい気がします。本文では『不○○』という表現がいくつか見られるので意図的だと思いますが、『結論を下さぜるをえなかったのです』とする方が良いのではと。 本文ですが、主人公の主張が弱いなと感じました。題材にした内容は人種差別ですが、エピソードとして色強いのは主人公の父親の件だけです。その経緯があった上で、主人公の身に起きた幸・不幸を描いてほしかった。強い経験があるからこそ主人公は力強く歩いていけるでしょう。その姿が見たかったです。 長編向きな書き方をしていると思います。掌・短編で書くのであれば、裁判長かメディアか、もしくは父親にした方が印象強いです。主人公のままだと、物語がこれからも続くように感じて、オチが着かなくなってしまいます。 しっかり述べたいことは書かれてると思うので、次もじっくり書き込んでください。 |
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