4つの生命体
 果てしなく広がる荒野の真ん中で、4つの生命体がひたすら口論をしていた。
「なんども言っているだろう。」
 一番大きくたくましい赤色の生命体が低い声で言った。
「俺がリーダーになる」
「ふざけるな!」
 小柄な4本足の緑の生命体が、耳障りな金切り声をあげた。
「お前みたいな馬鹿がリーダーなんかになれるか!」
 馬鹿、という言葉に、赤色の生命体が反応してギョロリと目を回転させ、小柄な生命体を睨んだ。小柄な生命体はすくみあがって、緑の皮膚を赤色や青色に変色させた。
「まあまあ、落ち着いてくださいよ」
アメーバ状の単細胞生物がやんわりと言う。
「ここはやっぱり知能指数の高いものがリーダーを務めるべきでは?そうだとするとやはり私が適任でしょう」
 それを聞いて黒い毛で球体の生命体がせせら笑った。
「戦争に一度も勝った事無い最弱種族がか?えらそうに言いやがって。ここは最強の生命体である俺がリーダーになるべきだろう」
「戦争に強いのとリーダーは関係ないでしょう!逆に武力で主張を通すあなた方はもっともリーダーにむいていないのではないんじゃないですか」
「違う!戦争に強いということは種族として最も優れているということだ」
 アメーバと黒い毛の生命体の中で口論が始まった。一番大きくたくましい生命体はその様子をじっと眺めていたがぼそりと口を開いた。
「戦争が強くても、賢くても、現時点で一番強いのは俺だ」
「じゃあ何だ。力づくでもリーダーになろうとでも言うのか?」
 一番小さな生命体が肩をいからして言った。
すると大きな生命体がふんっと鼻を鳴らして嘲笑した。
「何も無いお前に言われたくは無いな。もっとも気の短い種族よ」
 一番小さな生命体は顔を真っ赤にして押し黙った。
「じゃあ、ここはくじで決めませんか?」
 アメーバがこのままでは力で押し切られるとあせって提案した。
「ふざけるな、そんな馬鹿馬鹿しいことでリーダーなんか決めてみろ。大変なことになる」
「そうだ、話し合いで決めるべきだ」
そうしてその提案は一瞬で取り下げられ、再び種族の優性を語る状態へと逆戻りした。
「戦争に強いとは、指揮力、知力、体力が備わっているということだ。つまり最もリーダーに向いているということだ」
「いや違いますね。戦争に強いのはただ単に暴力衝動が強く、権力のロボットになりやすいからです。もっともリーダーには向いていないでしょう」
「じゃあ俺がリーダーになるべきだ。我が種族は強固な意志で長い間自治を守ってきた」
「頑固、のいい間違いじゃないですか?硬い頭の者にリーダーは務まらないでしょう」
「じゃあ貴様はどうなんだ」
「わたしたちは柔らかい頭脳があるからここまで科学技術が発展しました。あなたがたより20年は進んでいるでしょう」
「お前の身体みたいに芯がないってことか。なにか1つの意思が無いとリーダーは務まらないね」
「身体のことは言うんじゃない!」
「うるさいんだよこの単細胞生物が!生命としてはもっとも遅れているからそんな科学技術が要るんだろ!」
「おい、少し落ち着かないか。見苦しいぞ」
「はっ。アンタのむさい図体のほうが余計見苦しいね!この筋肉だけのでくのぼうめ」
でくのぼう、という言葉に赤い大きな生命体の眉がぴくっと動く。
「まあ誰がリーダーになろうとまだそこのチビよりはずっとましだね」
興奮した黒い毛の生命体が唾を飛ばしてそう言った次の瞬間、キーと甲高い声で小柄な生命体が叫んだ。
「チビっていうな。次に言ったらこうだ!」
 緑の生命体は耳をつんざくような高い声で叫びながら懐から銀色の何かを取り出した。
「!」
 言い合いをしていた生命体達はその銀色の物を見て一瞬で青ざめた。それは小型のレーザー銃だった。
「俺はチビじゃない!俺がリーダーだ!」
 小さな生命体は血走った目で彼らを見て、なれない手つきで銃を向けた。
「少し落ち着くんだ、銃を下げろ」
大きな生命体が一歩歩み寄った。
「近づくな!」
 小さな生命体が銃を大きな生命体に向けた。その瞬間、ジュッと音がして光線が発射され、大きな生命体の胸を貫いた。大きな生命体は砂埃をあげて地面に倒れ、信じられないといっているような表情で息絶えた。しかし信じられないといった表情をしているのは大きな生命体だけではなかった。小さな生命体もまだ熱を持った銃と、自分がつくった死体を何度も見比べた。
 そんな中、一番に状況を理解した黒毛の生命体が銃を奪おうと小さな生命体に飛びかかり、アメーバ状の生命体もそれに続いた。小さな生命体は慌てて慣れない手つきで銃を操作した。だが次の瞬間、銃は暴発。周囲を光が包み込んだ・・・

 何も動かない。誰も答えない。果てしなく広がる荒野。ときおり風が思い出したかのように砂を運ぶ。
やがて小さな地震が起こり炭化したなにかの死骸がカタカタと動く。だがその後には、動くものも、答えるものもなく。ただ風が、灰をはるか上空へと運んでいくだけであった。

 広い宇宙の中を星が進む。そして争いで荒野と化した街の中で二回の閃光がひらめくと、ついに無人となったその惑星は悲しそうに身体を震わせて、暗い闇の中をしんしんと、孤独に歩むのであった。

                  完
宇宙鶏
2014年06月09日(月) 20時55分55秒 公開
■この作品の著作権は宇宙鶏さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 5,6年前、小学3,4年ごろに書いた小説を書き直しました。思い入れの強い作品なので、意見をぜひお願いします。

この作品の感想をお寄せください。
No.4  宇宙鶏  評価:--点  ■2014-07-02 18:26  ID:FBj0yD538hg
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そうですね。もっとひねった展開にしてもよかったと自分でも思います。

感想ありがとうございました。
No.3  ゆうすけ  評価:10点  ■2014-07-01 20:17  ID:1SHiiT1PETY
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拝読させていただきました。

物悲しい終わり方ですね。争いの空しさを感じさせてくれます。
しかし小説として見ますと、正直言いまして「これで終わり?」という感想です。争いの空しさをブラックユーモアにまで昇華して初めてSSとしての面白さがでると思います。
蝸牛角上の争いのような展開とか、ゲームのように毎日繰り返しているとかもありかな。
なんと! 5,6年前が小学生ですと! むう、私の半分以下の年齢か、こういう時に馬齢を重ねた感があるな〜。
No.2  宇宙鶏  評価:--点  ■2014-06-18 22:02  ID:FBj0yD538hg
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コメントありがとうございます。
感想欄に書くのにはもったいないほどの作品ですね。参考にさせていただきます。
ですが少し趣旨が違うような気がします。僕はあくまでそのお話のような政治的な話を等身大の宇宙人という尺図に置き換えた上で話を作り上げたので、ブラックユーモアでありながら 游月 昭さんのその作品とは方向性が違うような気がしました。

折角の感想にたてつくようですみませんでした。
No.1  游月 昭  評価:10点  ■2014-06-17 01:32  ID:OjM7eTTbU0g
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こんばんは。

 世界各国の首脳が集まり、地球統治のためのリーダーを決める会議が行われた。
 どの国の首脳も一歩も譲らず決議は難航を極めた。
 三日目の会議中に、小国首相が強行手段に出た。既に核ミサイルが全ての国に照準が合わせられ、彼が持っているボタンを押せば発射されると言うのだ。リーダーを小国にするようにと要求してきたのだ。各国の首脳達の誰もが、テロ行為での要求は飲めないと主張したが、小国の首相は頑として譲らない。その時、一番の大国の大統領が立ち上がった。近づく大統領に小国首相は持っていた拳銃の引き金を引いた。唖然とした首脳達であったが、このままでは地球全体がは独裁下におかれてしまうと、全員で小国首相に飛びかかった。

 皆の動きが止まった。−−座り込んで泣く者もいる。ゆっくりと首脳達は後退りをしながら頭を抱えこんでいる。揉み合いの最中にボタンが押されてしまったのだ。しばらくして、小国首脳が口を開いた。
「すまない。いずれにせよ、こうなる運命だったのだ。」
 その時、後ろに立っていた共産国書記長が小国の拳銃を奪った後、彼を撃った。
「どの国も結局は人殺しの国なのだよ。」
小国首相はこう言い残して息を引き取ったが、手からこぼれ落ちたボタンの箱には、キッチンタイマー、と表記されていた。


くらいのドラマが欲しいです。
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