必殺技
「ええ、明日までに自分の必殺技を考えてきて習得すること。これが先生からの宿題です。」
 なに言ってんだ、必殺技?おれ達もう中学生だぞ。小学生かよ、必殺技なんて。誰がやるんだよそんな宿題。森口真はその手の子供じみた話が大嫌いだった。
「はい、ということで今日のホームルームは終わりです。みんな気をつけて帰るように。」
 先生が教室から出て行ったあと、おれは隣の宮下に声をかけた。
「なあ、必殺技だってよ。おれたちもう中学生だぜ。バカらしくてやってらんないよなあ。」
 しかし宮下は、真剣な顔で、
「はあ、何言ってんだよ、森口。中学生からは一人一必殺技は当たり前だよ!僕なんて中学生の入学式のときには、どんな必殺技がいいかある程度決めていたんだから。」
「え?いや、必殺技だぞ。必ず殺す技だぞ。ひとを殺すんだぞ。」
「マジ?森口も決めてると思ってたのに。」
 宮下は表情も変えずに言ったので、おれは驚いた。宮下はこういう冗談は言わない。
「本当なのか?」
「だから……」


 真は焦っていた。学校からの帰宅後、すぐに自分の部屋に閉じこもった。真は相当ショックだった。宮下から聞いたあの話、自分の知らないことばかりだ。
 森口真は頭が良かった。中学三年生の今現在までのテストの成績はすべて一位だった。そして、テストの結果をいつも同級生たちに自慢していた。
「またおれが一位だな。誰かおれを抜かしてみろよ。ま、無理か、バカだから。」
 真は冗談で言ったつもりなのに、みんなの目は冷たかった。真はクラスから孤立してた。でも、学級委員長の宮下は誰に対してもやさしく、真も例外じゃなかった。
 おれは徐々に落ち着きを取り戻してきた。宮下からの話を整理するとこうだ。
 まず、中学生は卒業までに必殺技を持つということ。そして、必殺技は中学生の時に決めたものを一生使い続けなければならないということ。しかし、宮下は必殺技の習得方法は教えてくれなかった。でも、もし必殺技を使うなら一番かっこいいやつがいいなあ。そんなことを考えているうちに おれは寝てしまった。
 
朝、母の呼ぶ声で目を覚まし、部屋を出た。
「真、昨日学校から帰って部屋に行ったきり出てこなかったでしょ。ご飯のとき呼びに行ったけど、しんどそうに寝てたから起こさなかったのよ。なにかあっの?」
 おれは、朝食を食べながら恐る恐る聞いてみた。
「母さんって必殺技持ってるの?」
「急に何言ってんの。あたりまえじゃない。」
 おれは焦った。まさか母さんまで必殺技を持っていたなんて。
「ど、どんな必殺技だよ。」
「まあ、あたしのは古いからねえ。『泡大砲(バブルガン)』ってやつ。手から泡を出して相手を窒息死させるやつね。これ、洗い物に便利なのよ。」母は嬉しそうに言っている。
「え!必殺技で洗い物してたの?」おれがこれまで築き上げてきたものが音を立てて崩れ落ちた気がした。これは、夢だと思い自分の頬をつねったが、痛いだけで何も変わらない。
 おれはひどく混乱していた。
「どうやって必殺技を習得したの?父さんも必殺技を持ってたの?大人はみんな必殺技を持ってるの?」聞きたいことが山ほどあった。
「真もそのうちわかるわよ。それよりもう学校へ行く時間じゃないの?」
 時計を見た。午前八時ちょうど。やばい、もうこんな時間だ。おれは学校の用意をちゃっちゃと済ませた。
「いってきまーす。」おれはすぐ家を出た。
 さっきのは夢だ、悪い夢なんだ!そう思うことで気を紛らわそうとした。無我夢中で走った。ふと気が付くと学校についていた。教室に入ると、やはりみんな必殺技の話をしていた。
「必殺技決まった?」
「私は決まったよ。」
「僕も決まった。」
「俺もだな。アイアムナンバーワン!」
 何言ってんだこいつら。そう思いながらも真は、ある一つのことが気になった。もしかしておれだけ宿題やってないんじゃ……。今まで宿題をやらなかった事はなかった。完璧主義の真はなんでもやらないと気が済まない性格だった。まさかおれ一人だけ……。どうでもいいように思えるが、真にとってはこれも重大なことだった。
「森口、必殺技決まったか?」後ろから宮下の声がした。
 真は言葉に詰まった。
「ま、まだ……。」
「うそー、僕もう決めたよ。『握手(ハンドプレス)』。やってみようか?」宮下のはにかんだ声が不快だった。
「冗談だろ。それより、どうやって必殺技を習得したんだよ。」
「それは自分で見つけなきゃね。」
 この時の宮下はとてもうれしそうだった。おれが宿題やってなかったからか?おれが出来なかったことをやったからか?真は疑心暗鬼になっていた。
 ガラガラ、
「よーし、おい席につけえ。授業始めるぞ。」
 一時間目の先生が来たので、おれと宮下の会話はそこで終わった。
 この日の授業、真は全く手に付かなかった。ただ、必殺技のことばかり考えていた。小学生か、とツッコミたくなったがここは辛抱しよう。学校で、初めて真はずっと上の空だった。
しかし、時間は無常である。六時間目が終わりすぐにその時はやってきた。
「ええ、みなさん。ホームルームを始めますよ。昨日の宿題を発表してもらいます。では、青木くんからどうぞ。」先生はいつものように淡々とした口調で言った。
 青木といったらこのクラスで一番バカなやつしゃなかったっけ?さすがに青木はやってねえだろ。真は期待した。
 しかし、
「はい。僕の必殺技は『脳音波(ブレインウェーブ)』です。これは相手の脳に直接、超音波をおくって死に至らしめる技です。」
 強えーじゃねえか。最強じゃねーか。ありかこんな技、反則だろ。みんなこんななのか。
 真は急に恐ろしくなった。今まで下に見ていた同級生が今では必殺技を持っている、必ず殺せる技えを持っている。危険だ。今まで自慢ばかりしていて、たくさんの人を不快にさせてきた。もしかしたら殺されるかもしれない。
「……くん。森口くんの番ですよ。」
「あ、はい。」
いつの間にか自分の番になっていた。やばい、どうしよう。必殺技なんてないよ。ここは嘘でもいいから言ってやれ。その時、不意にある言葉が浮かんだ。
「ええっと、おれの必殺技は『百裂拳(ハンドレッド)』です。こ、これは一秒で百回パンチをして相手を死に至らしめます。」ああ、適当に言ったしまった。しかし、この必殺技は妙に懐かしい感じがした。
「では、次宮下くん。」
「はい、僕の必殺技は『握手(ハンドプレス)』です。……。」
 あれからのことはあまり覚えていない。みんな必殺技を持っていた。自分がおかしいのか?みんなが正しいのか?そう思い始めた。ふと宮下の声がした。気がつくと、ホームルームが終わっていて、先生はいなかった。
「おー、森口。森口って必殺技決まってなかったんじゃないの?」
「あー、あれ。ちょっと驚かしてやろうと思って嘘ついたんだよ。」やってしまった。もう後戻りができない。
「やっぱり、おれはなんでも出来るからよ。天才だから。お前らバカのとは質が違うんだよ、必殺技も。」まただ。何だおれのこの癖は。
 宮下はあからさまに不機嫌な顔をした。
「それは聞き捨てならないな。僕のほうが強いよ、必殺技に関しては。」
 おれはむきになってしまった。
「うそつけ!おれのほうが強いよ。」
「じゃあ、勝負しようよ。」
 この展開は意外だった。だって、負けたら死ぬのだから。
「いや、無理だよ。お前死ぬぜ。」
「やろう!望むところだ。勝負の場所は、ここ3bの教室だ。行くぞおりゃー!」
「ちょっと待って!」おれ必殺技ないんだけど。そう思っている間に宮下は真の目の前まできていた。やばい、やられる。真は怖さのあまり目をつぶってしゃがみこんだ。しかし、
「へへ、冗談だよ。ちょっと森口を驚かせたかったんだ。ほら、立てるか?」
 宮下はいつものように笑って手を差し伸べた。
真は安心した。そうだよ、友達なんだからそんなことするはずないじゃん。
「そ、そうだよな。まあ、許してやるよ。」真は差し出された手を握った。しかし、立とうとした時に、
 ゴキ!
 教室中に響きわたる大きな音がした。ん?何だ。そう思って真は自分の手を見た。あれ?手ってこんな形だったっけ。次の瞬間真は宙を舞っていた。あれ?飛んでる。すべてがスローになった。ふと宮下の顔を見ると、冷たい目で真を見ていた。
「僕、君みたいなやつ大嫌いなんんだよ。ちょっと優しくされたからって友達づらしてんじゃねえ!必殺技習得の日をどれだけ待ちわびたか。必殺技はお前みたいなやつに使うんだよ。」周りでクスクスと笑い声が聞こえる。ああ、本当におれ嫌われてたんだな。そう思った瞬間、真は窓ガラスに突っ込みそのまま校庭に落ちていった。
「ざまあ見ろ、あいつ頭いいからって調子乗りすぎなんだよ。どれだけ僕が我慢してきたか。こうなって当たり前だ。」
 宮下はいつものように笑って言った。
「さーて、明日から楽しくなるぞ。」


【こんばんは。夕方のニュースです。昨日、**中学校で一人の男子生徒が校庭で死んでいるのが発見されました。死因は転落死と考えられますが、依然具体的には判明してません。また、男子生徒の右手は見るも無残な形に変形していたと警察が発表しています。今後の捜査で。あ!はい。たった今緊急ニュースが入ってきました。今言いました**中学校で、ある教室の生徒たちが、全員倒れているのが今朝発見されたそうです!はい、そして何やらその教室のいたるところに、泡のようなものがあるようです。繰り返します……】


……
「ねーママ。えい!百裂拳!かっこいいでしょ。」
「こら、真。もう寝る時間よ。」
「僕も、あのヒーローみたいになるんだ。そして必殺技で敵をやっつけるんだ。」この子供は笑っていった。
「何言ってるの、もう寝なさい!」
「はーい。あ、ママはもし必殺技を持ってたら何のために使うの?」
「うーん、そうね。愛する真のためかな。」そう言って母親はにっこり笑った。
イケ
2012年08月28日(火) 15時12分16秒 公開
■この作品の著作権はイケさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めて書きました。
しょうもないですが、感想よろしくお願いします。

この作品の感想をお寄せください。
No.7  イケ  評価:0点  ■2012-09-15 00:13  ID:NC9Vki8k22g
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>おさん
もっともな感想ありがとうございます。是非意見を参考ににます。
No.6  お  評価:30点  ■2012-09-05 00:51  ID:L6TukelU0BA
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どもども。お初です。
けっこう、たのしかったす。
突拍子のないのをとにかくうっちゃっといて、ノリで読めればね。
背景が詰まってないから突拍子なく思えるけど、深めて広げれば、かなり強い話しが出来そうな予感も無くはなく。
テレビ報道を使うやり方はよくあるだけに、新鮮味がないかな。
回想の感じは好き。
勢いの有る話しでしたが、そこに、強さが加わると良いなと思いました。
No.5  イケ  評価:0点  ■2012-09-03 11:32  ID:KC6/MBx9BFU
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>星野田さん
感想ありがとうございます。お褒めの言葉をいただいて大変うれしいです!
No.4  星野田  評価:50点  ■2012-09-01 17:04  ID:p72w4NYLy3k
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こんにちは。面白い作品でした!
この発想はすばらしいなあ。テンポもよく、最初から最後まで気持ちよく読めました。
個人的にはいまの、物語の締め方も良いと思います。
個性的で、素敵な作品でした。
No.3  イケ  評価:0点  ■2012-09-01 15:08  ID:FVNkHzi1xs2
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>FKさん
感想ありがとうございます。初めてなので書き方が変なところも多々あると思います。的確な意見、助かります。是非取りいれます!

>陣家さん
感想ありがとうございます。こちらも的確な意見、助かります。物語の構成に難があったと思いますが、読んでいただいてうれしいです!
No.2  FK  評価:20点  ■2012-09-01 11:58  ID:9k6nD5IEsbI
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 読ませていただきました。
 快調なテンポの文章で、落ちも決まっています。でもカギ括弧トジの前の句点(。)は、小説の場合はつけないのが普通だとおもいます。
No.1  陣家  評価:30点  ■2012-08-31 02:14  ID:98YScwpXzig
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拝読しました。

いや面白かったです。
冒頭がもうバトルロワイヤルですね。
いっそクラスメイトが次々に必殺技を応酬しあうところも見たかったです。

ま、それにしても落ちが今ひとつですね。
すっきりしないです。

もう少し続けて、
「あ、お帰りなさい、パパ、あれ今日はなんだか疲れてますね?」
「ああ、今日はパパの必殺技、『エターナル・リターン(永劫回帰)』を使っちゃったんでね……」

くらい欲しいかなあ……。
失礼しました。
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