十万億土の彼方にて
 操縦席は狭かった。外から見ると球形をしたその中に入っていると、窮屈さと同時に、安心感も覚えた。一種の胎内回帰願望によるものだろうか。だが、この場所は母の子宮とは真逆の性質を持つ場所だった。僕はこの鉄の棺桶の中から反物質兵器を操り、敵と戦わなければならないのだ。非情なる他星系からの侵略者、異種知性体と。
 彼等が奇襲攻撃をしかけてきたのは、僕がまだ十二歳の頃だった。突然の攻撃に為す術もなく、世界各地の主要都市は破壊されてしまった。彼等が友好的な存在でないことは明白だった。それでも僕達の代表達はなんとか彼等と接触をはかり、戦闘を中止させ、交渉のテーブルにつかせようとした。何故なら、彼等はれっきとした知性体であり、大まかな生体組織が僕達のものと相似していたからだ。同じ知性体同士なら解り合えると僕達は信じていた。だが、その期待は彼等の第二次総攻撃によって裏切られた。そのとき、僕が住んでいた街も爆撃を受けた。通っていた学校も、思い出深い公園も、そして僕が好きだった女の子も、全部焼き尽くされた。戦闘員、非戦闘員の区別なき虐殺に到り、ようやく僕達は気づいた。彼等の目的が奴隷を必要としない先住民絶滅後の植民地化であると。
 そして、僕達の反撃が始まった。幸いにも科学力のレヴェルでいえば、僅かにこちらの方が上回っていた。僕達は彼等を押し返し始めたのだ。戦闘は地上・空中から宇宙空間へと移動した。そこで五年以上も一進一退の攻防が続いた。その間に僕は適性年齢に達し、軍人になった。自分が想像していた以上に才能があったらしく、初陣で初の撃墜を達成すると、その後も戦闘に出る度に撃墜数を伸ばしていき、何時の間にかエースと呼ばれるようになっていた。
 最初の奇襲攻撃から七年の月日が流れ、僕達はついに敵を本星まで押し返すことに成功した。僕達の大艦隊が今彼等の星へ総攻撃をかける為の最後の準備をしている。
 手元のスイッチを押すと、眼前のディスプレイに笑顔を浮かべた少女の映像が浮かんだ。僕が好きだった女の子。彼女の為にも、僕は勝利しなければならない。「絶対に勝つよ」と呟き、彼女の姿を消した。代わりに敵の本星が映し出された。僕は憎悪を抱きながら、それと相反する感情を抱いていた。自分でも不思議だったが、この感情は本物である。敵の本星を見る度に僕は感動してしまう。
 なんて青くて美しい惑星なのだろう、と。
志保龍彦
2012年07月05日(木) 23時44分59秒 公開
■この作品の著作権は志保龍彦さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
1000字小説です。感想など頂けたら幸いです。

この作品の感想をお寄せください。
No.12  志保龍彦  評価:0点  ■2012-09-22 22:04  ID:OIB9Tf4Hlfo
PASS 編集 削除
≫蜂蜜さま
感想ありがとうございます。
仰られる通り「凡庸」ですね。意外性のある展開を書くのがどうも苦手で、克服したいとは思っているんですが、これがなかなかに難しい。
精進します。


≫桐原草さま
感想ありがとうございます。
オチに騙されて頂けてホッとしております(笑)
1000字小説は、短編や長編、小説そのものの良い練習になると思うので、今後も書いていきたいと思います。
No.11  桐原草  評価:30点  ■2012-09-10 00:29  ID:1zZ2b3u5YfY
PASS 編集 削除
読ませていただきました。
1000字小説、難しいですね。ぴったりに納めようとすると一カ所の訂正がとても気になって、最後に999字だったりすると、負けた! って気になります。
SFは読むのは大好きなんですが、自分では全くかけないもので、書ける人というのは頭の造りがちがうのかなんて思ったり。もちろんきちんと最後のオチにだまされました。(笑)

No.10  蜂蜜  評価:20点  ■2012-09-05 13:51  ID:X5IOOPj01FA
PASS 編集 削除
お久しぶりです。拝読しました。
何となく冒頭から、鬼頭莫宏さんのコミック「ぼくらの」や、新海誠さんのアニメ「ほしのこえ」的な超絶鬱展開を勝手に期待してしまったのですが、その期待はアッサリ裏切られ、ありがちな展開のまま予想通りの着地点にすんなりと落ち着いてしまい、大変失礼ながら、「凡庸」という感想が真っ先に頭に浮かんでしまいました。ごめんなさい。

1000字縛りというものに僕自身はチャレンジしたこともなく、また、諸事情により長らくTCからも離れ、自身の制作活動はおろか読書すらできない状態が続き、リハビリがてらに感想などを投稿しに舞い戻ってきた僕如きが吐いて良い言葉では無いですね。ほんとうにすみません。作者の身を切るような苦労を充分に存じつつも、いち読者としての僕は、いつも自分のことは完全に棚にあげてワガママ勝手の言いたい放題で、本当に申し訳ない、としか言い様のない次第です。男だったら新作のひとつも書いて作品で勝負しろ! と、現時点の情けない自分をぶん殴ってやりたい気持ちです。

1000字縛りは、長らく執筆から遠ざかっていた僕には、ちょうど良いリハビリを兼ねたトレーニングになりそうです。今度僕も挑戦し、投稿してみますので、その際にはどうぞご遠慮なく感想返しでフルボッコにして頂けたら幸いです。

僕からは以上です。

***追記***

僕も書いてみました。現歴板にある作品名「旅人」です。
ジャンルも系統も異なるので単純な比較はできませんが、よろしかったらぜひ一度お読みいただけたら幸いです。

No.9  志保龍彦  評価:0点  ■2012-08-04 22:22  ID:7HYQb/KBe2Y
PASS 編集 削除
≫鈴木太郎さま
感想ありがとうございます。
成程、史実を下敷きにするというのは面白いアイデアですね。参考になります。
ありがとうございます。
No.8  鈴木太郎  評価:30点  ■2012-07-25 00:57  ID:AqN23dgrkHo
PASS 編集 削除
こんにちは。
とても面白く読ませていただきました。
『闘わざるを得ない理由』の設定を行う際には、
歴史上の事実を暗喩として用いると、結果的にストーリーをより奥深くしやすくなると思います。
明治維新でも、南北戦争でも、メジャーなものでテーマが合えばなんでも構わないです。
これからも楽しみにしています。
No.7  志保龍彦  評価:0点  ■2012-07-19 23:20  ID:Lc9CQTuXsQw
PASS 編集 削除
≫陣家さま
感想ありがとうございます。

どうせベタなら”僕の三つの目に映る〜”くらいを加えることですっきり落ちて良いんじゃないかと思いました。

成程、その発想はありませんでした。確かに最後の一行で落とすのですから、それくらい思い切って書いた方が良かったかもしれません。


≫G3さま
感想ありがとうございました。
1000字で密度のある内容を考えるのは難しいですね。しかし、そこで逃げてたらどうしようもないので、頑張ります。
No.6  G3  評価:30点  ■2012-07-15 22:26  ID:v1oYWlDv7GQ
PASS 編集 削除
読ませて頂きました。1000文字縛りって結構キツそうですですが、話しとしてよく纏まっていると思います。全体がモノローグというところに少し物足りなさを感じました。ちなみに私もこういう内容のSSを書いた事があります。陣家さん的に言うと私のは指が八本でした^_^.
No.5  陣家  評価:30点  ■2012-07-14 15:16  ID:1fwNzkM.QkM
PASS 編集 削除
拝読しました。

1000文字でシェイプされた文章ながら理路整然としていて叙述トリックのお手本的な作品ですね。
ただ、確かにシチュエーション自体がありきたりな感は否めませんでした。

それと最後のオチは
青くて美しい惑星=地球ということを直接的に理解させるにはやや弱いかなとも思えましたので、どうせベタなら”僕の三つの目に映る〜”くらいを加えることですっきり落ちて良いんじゃないかと思いました。

参考になれば幸いです。
では
No.4  志保龍彦  評価:0点  ■2012-07-12 19:33  ID:uAvmAqs6kCY
PASS 編集 削除
≫吉岡左右宇さま
感想ありがとうございます。
確かに物語の序文のようにも見えますね。
機会があれば長編で書いてみたいと思います。


≫zooeyさま
感想ありがとうございます。
1000字小説は、必要な文章と不要な文章を選り分ける良い練習になると思います。今後もちょこちょこ書き続けたいと思います。
ラストに驚いて頂けたのなら幸いです。なにせオチが全てのような小説ですので。
確かに「絶対に勝つよ」はベタ過ぎたかもしれません。ちょっとベタベタな台詞を言わせてみたかったんです(笑)


≫マサチューサさま
感想ありがとうございます。
1000字の縛りに関しては、二つ理由があります。一つは「1000字小説投稿サイト」のようなものがありまして、そこ用に書いた小説だからです。 もう一つの理由は、文字数が制限される中で必要な文章と不要な文章を選り分ける練習のためにしています。
この小説はオチが肝心で、読書を上手く騙せたら(驚かすことが出来たら)成功ですので、「だから何?」と仰る通り、それくらいの意味しかありません。 深いテーマなどがある訳ではございませんので。
No.3  マサチューサ  評価:10点  ■2012-07-12 12:29  ID:oCtkFZvppYg
PASS 編集 削除
 こんにちは、お初です。ロムりです。
 もしも、千文字以内という縛りプレイに、何らかの事情があったのならすみません。流れ着いての批評なので。
 これは小説ではなく、ただのあらすじの走り書きのように見えます。
 漢字は多く、改行は少なく、短いのに読みづらいと感じました。
 少年の方が地球外生命体だったってのにはだまされましたが、「だから何?」と言ってしまえばそれまでのような……
 新参者の分際で生意気言ってすみません。ただ、そういうサイトだと思いますので、読んだからには感想をば、と思って。
 これからもがんばってください
No.2  zooey  評価:40点  ■2012-07-12 02:18  ID:1SHiiT1PETY
PASS 編集 削除
読ませていただきました。
チャットでも少しだけ書きましたが、こちらにも書かせていただきます。

1000字でこれだけまとまった作品になるのだな、というところに、まずはすごいなと思わされました。
すっきりとトリミングして、文章量を最小限に抑えても、押すボタンは外さない、というか、そんな感じがしました。
好きだった女の子のくだりとか。

ラストも、とても良かったです。騙されて、おお! となりました。

巧い、とはこういうことなんだな、と感じました。

ただ、これは個人的な好みの問題なのですが、「絶対に勝つよ」というのが、ちょっとベタ過ぎたかなと思いました。
ベタなのは好きなんですが、たぶん私の好きなベタではなかったのだと思います。

ありがとうございました。
No.1  吉岡 左右字  評価:50点  ■2012-07-09 00:40  ID:6KwfwLRREoY
PASS 編集 削除
とても面白かった。
全体的に説明調ですが、説明調だからつまらないということはない(くどい言い回しですが)、ということが理解できました。
これが序文の長い作品なんか読みたいですね。
勉強になりました。
ありがとうございました。
総レス数 12  合計 240

お名前(必須)
E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)       削除用パス    Cookie 



<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD   編集 削除