ぐらっ

 ぐらっときたと思った。

 それが始まりで、同時に終わりでもあった。始まりから終わりまで、わたしには一瞬のことと感じられたが、客観的にどうであったかは、わからない。
 それに、ぐらっ、というのも、もしかすると、どすん、だったかもしれないし、ぺしゃ、だったかもしれない。

 例えば、花梨の実。見るからに重そうな果実が、細い細い枝の先端の、さらに枝分かれしたマッチ棒みたいな枝にぶら下がり、幹から延び出た枝全体は節目という節目でしなり、今にもどこかで折れそうな、いわんや、マッチ棒みたいな枝に至っては、よくぞ捻じ切れないものだという状態で、幾月にもわたって耐え続ける。
 しかし、ある時、ふっと気付くと枝先に実はなく、その実は地面に落ちている。わたしは花梨の実が落ちる瞬間を見たことが無い。だから、それが一瞬のことなのか、それとも、じりじりと、時間をかけておこることなのかわからない。

 ぐらっときた。わたしがそう感じた一瞬は、まさに花梨の実が落ちる刹那のようなものであったかもしれない。
 ただ少し違うのは、花梨の実は上から下へと落ちるけれど、わたしの感じた一瞬には、上下の感覚など、まるで無かったことだ。そして、左右の感覚も無かった。

 例えば、宇宙に浮かんだ大きな球体。宇宙ゆえ、球体の内部には方向感覚というものが存在せず、そしてわたしは球体の中心に在ってただただ漂い続ける。
 やがて球体は、不意に、破裂、もしくは収縮し、その中心に在ったわたしも無限に拡散、または微小な一点へと収縮し、同時にわたしの意識も拡散、または収縮し、いずれにせよ、やがて無に帰するだろうと悟った瞬間。

 ぐらっときた。その始まりから終わりまでの間に感じたわたしの感覚は、以上のようなものであった。
 そしてわたしという存在は、限りなく希釈、または濃縮されていった。
YEBISU
2011年10月02日(日) 09時09分18秒 公開
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■作者からのメッセージ
庭の花梨を見ながら、思いつきで書きました。
批評など頂けると嬉しく思います。

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No.7  ゆうすけ  評価:20点  ■2012-01-22 12:53  ID:YcX9U6OXQFE
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拝読させていただきました。

ぐらっときた。大震災、そして原発問題、当たり前だと思っていた日常が、所詮は砂上の楼閣にすぎず、いとも簡単に崩れ去ってしまうのだと、実感した瞬間にまさに「ぐらっときた」と感じたものです。
自分が自分らしさを保っているなにか、自信や信念、今を生きるために心に秘めた力の根源、勇気の源、それが揺らぐ瞬間も「ぐらっときた」と感じます。
己が今ここに存在する、その認識すら「ぐらっときた」感じに襲われる。イメージが広がる作品だと思いました。
No.6  YEBISU  評価:--点  ■2011-10-08 19:49  ID:AdjJZ9RooXE
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貴音さん、メッセージありがとうございます。
長い、エッセイ風、というご指摘。ありがたく聞かせていただきました。
ただ、これは元々、出来るだけ言葉を削って、簡潔に、という前提で書いたもので、私としてはこれをそんな風に変える気が無かったりします。
けれども、次の作品はそんな感じで書いてみようかなと思います。
ありがとうございました。
No.5  貴音  評価:30点  ■2011-10-08 15:39  ID:ehlEiC0vTxA
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はじめまして、読ませて頂きました。
不思議な感覚のお話ですが、イメージは湧きました。
最後の一文で全体が引き締まるように感じました。
抽象的な感覚を表現されているので、もう少し長い
エッセイのような書き方をされたらもっと面白そうだと
思いました。
No.4  YEBISU  評価:--点  ■2011-10-05 19:41  ID:AdjJZ9RooXE
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FKさん、メッセージありがとうございます。
ご指摘の通り、感覚のまんまです。これでは確かに小説になってないですね。
ただ、面白い、との評を頂けたのだし、もうちょっと考えてみます。
No.3  FK  評価:20点  ■2011-10-05 09:05  ID:n9lEYyDOZ32
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読ませていただきました。
 なんだか、世界の終わり、たとえば膨張宇宙が収縮に転じたときにこんな感覚になるのかなと思いました。
 想像するだに、恐ろしく、また興味深い感じがすることでしょう。
 ただこれだと、最後から2行目にお書きのように「感覚」に過ぎません。これを小説にするには何らかのストーリーが必要かと存じました。
 ともあれビッグ・バンの反対が起こったみたいで、面白いと思いました。
No.2  YEBISU  評価:--点  ■2011-10-03 18:34  ID:AdjJZ9RooXE
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シロクマさん、メッセージありがとうございます。
タイトルの「ぐらっ」というのは、正直、時節柄どうかと思ったのですが、ただ、花梨の実を見ながら、あれが落ちる時はどんなふうだろうかと思い、最初に浮かんだのが、ぐらっ、だったので、そのままタイトルにしちゃいました。
また別の機会に批評など頂けることがあれば、よろしくお願いいたします。
No.1  シロクマ  評価:20点  ■2011-10-03 07:38  ID:44gQOvYh1xI
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タイトルが気になって読んでみました。
良い意味で抽象的で、どういう状況なのか考える楽しみがありますね。
自分は、つまり亡くなりゆく刹那の出来事なのだな、と捉えました。
宇宙的恐怖感と梨という近しいものを例えに出す表現は素直に面白いと思いました。
うーん、あまりろくな感想が言えない自分。指摘すべき点もあるはずですが、とりたてて自分には思いつかず。
批評というほどのものは言えなくて申し訳ないです。では、また機会がありましたら。
総レス数 7  合計 90

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