怪談の、名前。 |
「こんな時は、やっぱり助けて欲しかったりするよね。誰でもいいからさ」 すっきりとした笑顔で何も後悔するようなことなど無いかのように彼は言った。そして死んだ。口から多量の血を吐いて。彼の腹には大きい穴が開いていた。前から覗いたら、向こう側まで見渡せそうな。まるで彼の最後の表情みたいだと思った。 人の命を奪うことは、こんなにもあたたかいことなのだと知った。 血に塗れた自分の手を眺めて、舐めてみた。塩辛い味がした。あたたかい味がした。 血に塗れた彼の顔を眺めて、迷い無く舐めた。塩辛い味がした。あたたかい味がした。 私はこんなにも飢えていたのか。フローリングの床に広がる血を眺めながらそう思った。 舐めた。舐めた。彼の血を、彼の塩辛さを、彼のあたたかさを、全部。 彼は死んだ。彼の血は、美味しかった。 血の気の失せた美しい笑顔を見ながら、私は小さく鳴いた。 彼という殻を破って、私は生まれ変わった。 私の黒い毛並みは黒さを増し、私は前よりも一回りも二回りも大きくなった。 耐え切れなくなって、私は彼の手を口に含んだ。そのままもぐもぐと咀嚼して、ばりばりと骨を噛み砕いて、ごっくんと飲み込んだ。 何故彼はこんなにも美味しいのだろう。何故彼はこんなにもあたたかいのだろう。 私は彼を食べた。背骨は硬すぎて、心臓は血を失って小さくなっていて、でも美味しかった。残さず食べた。 彼の痕跡は、部屋に漂う血の匂いだけになった。 ひとつだけ残念だったのは、彼の最後の言葉。 助けを求める対象に自分が入っていなかったこと。 けれども良い飼い主であろうとした貴方の心意気に敬意を示して、私は貴方から貰った名を名乗り続けます。 貴方の貞淑な飼い猫であったクロは、これからもクロです。 ごちそうさまでした。 |
時雨樹舘
2011年09月04日(日) 18時46分23秒 公開 ■この作品の著作権は時雨樹舘さんにあります。無断転載は禁止です。 |
|
この作品の感想をお寄せください。 | |||||
---|---|---|---|---|---|
No.6 シロクマ 評価:20点 ■2011-10-10 19:21 ID:44gQOvYh1xI | |||||
読ませていただきました ・・・・・・じつは山田様がおっしゃっている「猫が人をくらう話」というのは私の拙作であろうかと・・・。 作品名は伏せますが、ここ3作中3作猫がでてきてうち2作は人食いなのです。なんという奇遇たるか。 そういう意味で他の方はどういう切り口をなさるのか、と興味深いです。 と、余談は置いておきまして てっきりチェストバスター的なものを連想したのですが、猫だったんですね なんとなく、自分には猫っぽさが足りないという気がしてなりません というより、最後の一文を「貴方の〜飼い犬であったシロは〜」でも成り立つのではないかな、と思いましたし モチーフや題材を活かしきれていないように思えました 表現も作り込みが浅い感じで、「あたたかい」「塩辛い」がちょっと物足りない表現だったかも とはいえ、ところどころ見るべきところもあり、今後に期待というところで。 |
|||||
No.5 時雨樹舘 評価:0点 ■2011-09-20 14:13 ID:LQUwln8ub/Q | |||||
感想ありがとうございます 山田さん様→勢いだけでつらつらと書いたので……。そうですね、考えてみれば小さな猫が一日で食べきれるわけ無いですよね…… FK様→恋人を食べた?!……好きすぎたんですかね?執筆者名クロですかー。それをすると誰が書いたのか解らなくなってしまうので、書き直すときには手紙風に差出人のような形でクロの名前を入れてみたいと思います。 |
|||||
No.4 FK 評価:30点 ■2011-09-07 17:15 ID:9k6nD5IEsbI | |||||
読ませていただきました。 雰囲気があって、いい文章と感じました。 むかしフランスで、恋人を食べた(一部ですが)日本人の手記があって、読んだ記憶があります。そんな話かなと思って読み始めたのですが、違っていて、これはこれでいいと感じました。 でも、こういくなら執筆者名は「クロ」とすべきなのではないかと感じました。妄言多謝。 |
|||||
No.3 山田さん 評価:20点 ■2011-09-05 21:26 ID:3RErvQF9ZU. | |||||
拝読しました。 むむぅ、人肉を食らう、っていう話は流行っているのかなぁ。 当サイトでも何作か読んでるし、ほんの少し前には猫が人を食らう話を当サイトで読んだばかりだし。 まぁ、それはさておいて。 前作、前々作と拝読してきて、今作においても何かを持っていそうな方だな、という印象は変わりません。 ただ、作者さんご自身が書かれているように、情報が不足しているかと思います。 端折りすぎ、というか、物語のスケッチを読んでいるというか、そんな印象を受けました。 例えば、猫が人間一人を食い尽くすには、やはり相当の日数が必要だと思うんですね。 仮に化け猫だったとか、とてつもなくデカイ猫だったら話は別ですが、これといってそのような描写はないですし。 そうすると、時間の経過に従って、色々な描写も可能だと思うんですよ。 昨日はここを食った、今日はあそこを、明日はそこを、みたいな感じですかね。 あるいは、死体が時間の経過によってどんどんと腐敗していく様子なんかが描写出来ると思うんですね。 それに伴って猫の思考だって微妙に変化させることも出来るかと思います。 そう考えると、もっともっと面白い話になるような気がします。 余計なお世話なんですけど、ちょっと楽をし過ぎたのかな? なんて思ったりしました。 ほんと、余計なお世話ですいません(汗)。 失礼しました。 |
|||||
No.2 時雨樹舘 評価:0点 ■2011-09-05 20:05 ID:H9eobUD4x3o | |||||
感想ありがとうございます。 書き直すときはもう少し根本から考えてみます。 |
|||||
No.1 片桐秀和 評価:10点 ■2011-09-05 18:48 ID:n6zPrmhGsPg | |||||
読ませてもらいました。 気持ちの悪い感じはでていましたが、物語としては弱いというか、筋があまりに見えなすぎるといった印象です。背景を想像させるという書き方にせよ、もうすこし余地が欲しかったかなと。 文章不足感とメッセージに書かれていますが、どこが足らないというより、そもそもの話の骨格がしっかりしていない感じでしょうかね。 ただ、端々の文章には面白みがあって、その部分は良かったです。 辛口かもしれませんが、いつくか作品を読ませていただいているので、作者さまへの期待を込めているとおもっていただければ幸いです。 |
|||||
総レス数 6 合計 80点 |
E-Mail(任意) | |
メッセージ | |
評価(必須) | 削除用パス Cookie |