形骸と人形 |
真っ暗。ひたすら真っ暗でじめじめして水の跳ねる音が耳に響いて。膝を抱え込んで泣こうにも床はこけむしていてあらゆるところにゴキブリやネ ズミがわんさかいて。少し寄り掛かろうにも壁には蜘蛛の巣が一面に広がっていて。 仕方なく立ってる俺の目から溢れだす透明な水滴の光も見えなくて。いつもここに来る度に自分が危うくなる。俺は本当にここに存在しているのだろうか。 今日の罰も終わって外に出たら回りが明るすぎてまたよく見えなくて。耳に入る罵詈雑言も雑音に過ぎないと自分を騙して。 たった一人そんな俺を見て泣くのは何時も母と呼ばれる存在で。俺はその母に何の感情も持たなかった。 俺がいたのは大きな屋敷。いつしかここにいて毎日のように罰と称して地下牢と呼ばれるところに入れられて。毎日のように父と呼ばれる絶対なる者に蹴られ殴られ踏みつけられ。そんな俺を間近で見せられて声を殺しながら泣いていた母に父は勝ち誇った声を上げた。 お前のせいだ。お前のせいでこいつは殴られてるんだ。 いつしか殴られる痛みは他人の物になった。 祖父と呼ばれる存在がその話を聞いてくれ。母は平坦な声で一つの言葉を際限なく繰り返し。 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。俺はそんな母の声を何の想いもなく聞いていた。 祖父は俺ら親子を父から引き離してどこか遠くにやり、俺は何の迷いもなく物のように必要以上に動くこともなくそれに従って。 俺は罰の時間になると暗い部屋に閉じ籠もり次に部屋の扉が開けられるまで部屋のなかに只立ち。学校と呼ばれる場所に行っても必要最低限しか動かず後は自分の席に座り只物思いに耽って。 俺は…… いきなり思考にノイズが走り意識がなくなり、次に起きたとき俺はクラスの人気者になっていた。 ――今回だけだからね。 どこからか聞こえる声を無視しながら必死に人気者の振りをして。まるで 今でも「自分」という名の形骸は必死に人気者の振りを続けみんなを笑わせ。 形骸はともかく、 |
時雨樹舘
2011年08月28日(日) 17時44分12秒 公開 ■この作品の著作権は時雨樹舘さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.3 時雨樹舘 評価:0点 ■2011-09-03 16:13 ID:ZHaKzhz4Udw | |||||
感想ありがとうございます ゆうすけ様→読み返してみると、やはり全体的に物足りないです。後半は特にそうですね……。もう少し文章を足してみたいと思います。 山田さん様→人形と形骸の違いですか…。確かにぼんやりとしています。書き直すときはもうちょっと違いが分かるようにしてみます。 |
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No.2 山田さん 評価:20点 ■2011-08-30 18:56 ID:3RErvQF9ZU. | |||||
拝読しました。 なんとなくわかるような、わからないような。 最初は新しい人格がホイッ! と現れたのかと思ったのですが、元からある人格がその新しい人格を観察しているようなので、多重人格とはちょっと違うなぁと。 人形(ひとがた)と形骸の違い、というのも漠然と判るような気がするんですが、その差異がもう少し明らかになってくれると、読み手としても「ははぁ、そういうことかな」と思えるんじゃないかと感じたりしました。 前作の「床夏怪奇譚」を読んだときも感じたのですが、何か無視出来ないものを持っている方だなぁ、と僕は思います。 今回の作品も、ちょっと漠然としていて曖昧なんだけど、「フンッ」と顔を背けて素通りできない雰囲気を僕は感じました。 次作も機会があれば読ませてもらいます。 |
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No.1 ゆうすけ 評価:20点 ■2011-08-30 09:05 ID:1SHiiT1PETY | |||||
拝読させていただきました。 父親からの虐待によって心に傷を負った少年が、学校では人気者になっているるが、自分を肯定できずに違和感を感じて苦しむ。要約するとこんな感じでしょうか? 前半の虐待シーンはダークな雰囲気が出ているとは思いますが、若干パンチが足りない気もしました。(私自身物足りないとの感想をいただく事が多く、偉そうな感想を書くのは甚だ心苦しいのですけど) 自分では凄いシーンを描いたつもりでも、余所様にはあっさり味だったりするんですよね。 後半部分との連結がよくわからなかったです。 心の中は冷たい嵐が吹き荒れているのに表面的にはピエロのようにおどける人気者を演じてしまうギャップに苦しむ、などのような筋があった方が分かりやすいかなと感じました。 |
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総レス数 3 合計 40点 |
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