救いの女神
 靴を履いて立ち上がったユウタは、ふと、玄関脇の鏡を見た。鏡には背が低くてずんぐりしていて、頭が禿げ始めている風采のあがらない中年男の、しょんぼりした顔がうつっていた。嫌な所は全部父親から受け継いだもの、でもそんな父親をユウタは最近までは尊敬していた。
――僕はイケメンじゃないし、どうせ不細工なんだろう、でも、人一倍努力してきた自信はある。実らない努力はないと信じてきたし、中身を見てくれる人がいるものだと信じてきた。頑張っていれば、きっといつか女神様が現われて僕の我慢が報われるはずだと信じてきた。手を差し伸べる聖女はきっといるはずだと信じていたんだ。
 いつもの癖で、目を閉じて物思いに耽り始めたユウタは意を決して目を開けて、いつも持ち歩いているセカンドバッグを肩にかけ、シャツをズボンにたくしこんで、黙って家を出て一人梅雨空を見上げた。心まで湿らせてしまいそうなどんよりとした空に、歩いて行く気力すら奪われそうな気がして下を向く。少し歩くと、何かに引っ張られるように振り返って家を見てしまった。もう帰ることのない家。そこには、半身不随となった父が一人寝ているはずだ。振り払うように前を向き、雨の中、傘をさして歩き始めた。この雨が、心の闇を洗い流してくれるなら喜んでこの傘を捨て去るだろうに。
 早朝の木更津駅は相変わらず閑散としている。奇妙な逆さ狸のモニュメントに笑われているように感じたユウタは、足早にバスを探した。駅近辺には観光バスが数台いて、日帰り温泉ツアー、グルメツアーなどの表示が見えた。幸せそうな人達の群れは、ユウタには醜い欲望の権化にしか見えないのだった。
 あった、目的の観光バスは存在を憚るようにひっそりと佇んでいた。今にも壊れそうなポンコツバス、乗ってしまえば帰ることのないバス。
 ユウタは立ちつくし、目を閉じて思い耽る。
――ずっと思い焦がれていたミユキ、その微笑みだけで僕は魅了された。彼女を見てから僕は変わった。彼女に慕われたい、その一心が僕を前向きにしてくれた。それまで何に対しても熱くなれない僕が、生まれて初めて本気になったんだ。男としての魅力を身に付けて、必ず思いを遂げたい、三十路を越えてやっと青春が訪れた。勇気を振り絞ってのアタック、ようやく実ったはずだった。彼女こそが僕の女神様、彼女こそが手を差し伸べる聖女だと確信した。それなのに。
 悲しみの感情に背中を押されてバスに乗り込むと、既に大半の席が埋まっていた。誰もが俯き、お互いを見ることもしない人の群れ。
 ユウタは、どこからか入り込んだ排気ガスの臭いに軽く咳き込みながら指定された席に座った。健康に悪いな、などと今更思ってみても無意味な事を思いながら。
 ふと時計を見ると、既に出発の時間を過ぎている。絞りかすのように痩せこけた運転手が苛立ち始めると、苛立ちはいつしかバス全体を覆った。

どたどたどたどたどた

「ごっめーん。寝坊しちゃった。だって目覚まし鳴んないんだもーん」
 重低音を響かせてイノシシのような女がバスに乗り込んできた。どっしりとした団子っ鼻の顔が太い猪首で、出るべきところが平坦で出ちゃまずい所がどっしりとした体に繋がっている。ボーリングピンを連想したユウタはミユキを思い出した。美しいプロポーションを誇るミユキはよく言っていた「女はプロポーションよね」そんな美しいミユキを見るのがユウタは好きだった。
 
どたどたどた

「私ハルミ、よろしくね」
 最近目に見えて太ってきたユウタをも軽く凌ぐであろう体重を示す重い足音を響かせながら、ハルミと名乗ったその女はユウタの隣にどかっと座った。そして一瞬驚いたようにユウタの顔を覗き込んできた。ユウタの眼前に迫るイノシシみたいな顔。ユウタは何も言えずに硬直するのみ。
――うわ、イノシシに食われる……。
「あら、あなたって私の初恋の人に似てるわ……不思議な縁があるみたい。今日はたくさん食べましょうね。しっかりとお腹すかしてきたんだあ」
――ないと思うけど、縁なんか。それにしても何を言っているんだイノシシ女。このバスの意味を分かっているのかよこのブス? 生きることを止めたい人が集まり、一緒に冥府に旅立つバスなのに。秘密を守るために乗り込んだが最後、絶対に生きて帰れない掟があるのに。もしやこのデブ、乗り込むバスを……。

びりっ、ばりばりばり、ばりばりばり

 ハルミはポテトチップを食べ始めた。しかも飲み物はマックスコーヒーだ。
――たくさん食べるためにお腹すかしてきても、いきなり間食したら意味ないじゃないか……いや、そういう問題ではなく。
「あら、ごめんね。私一人で食べちゃってた。はい、これ」
――うわ、え、くれるの?
 ポテトチップを手渡されたユウタはなんとなくほんんわかとしてしまう。そういえば朝飯食べていなかったな、と思いながら口に入れた。
――辛い! ハバネロじゃないか。こんなの食わすなよ……何でこいつは平気でばりばり食べてんだ?
 バスは苛立ち混じりに出発した。ユウタが前を見ると、運転手の険しい顔がミラーに映っていた。ハルミはきょろきょろと周りを見渡すと不意に立ちあがった。
「何よこのバス、皆暗いわね。そうだ、一人ずつ自己紹介しましょうよ。今思っていることとかも言ってよね。ほら、あんたから。ちゃっちゃとやっちゃって」
 いきなり指名されたユウタは狼狽した。
――僕から? ちょっと待ってよ。いきなりそんな自己紹介なんて。そうだ、どうしてここに来ることになったのかを思い返してみよう。
 三十路を越えた頃、僕は生きる意義を見いだせずに悩んでいた。
 目を閉じるとミユキの笑顔が浮かんできた。初めて本気で好きになった女性、初めて人生に意義を感じたあの頃、僕は男としての価値を高めるために努力をしたんだ。彼女を振り向かせるために頑張ってきた。彼女こそが、僕を虚しくて退屈な毎日から救い出してくれる女神様だと信じて頑張ってきた。そして想いは叶った、二人でデートしたあの日の事は忘れない。ずっと幸せが続くものだと信じていたあの日。どんなアイドルだって叶わない抜群の可愛らしさとプロポーションを誇るミユキ、僕の唯一の自慢の彼女だったのに。それなのに……。
「な〜にぼんやりしてんのよ。ったくもう、ばかみたい。じゃあ後ろの人から順番に自己紹介して」
 いきなり思考を中断されて苛立ちを感じたけど、最初に言わなくてよくなって安堵してしまう小心者のユウタ。

 ハルミに指刺された初老の男性は明確に狼狽し、目をしばたかせながら語り始めた。
「あ、あの、私ですか、私は大田区で機械加工をやっている田上といいます。倅を大学に行かせていましてね、まあ馬鹿息子なんでとにかく金かかるんですわ。一緒に仕事していた弟が去年ガンで死んだんです。ずっと背中が痛いって言っていてね。不況で仕事減って会社赤字だったんでろくにいい医者にも診せられなかったんで、見つかった時にはあんた、そりゃ手遅れでしたよ。倅の学費だって足りないから、借金借金の繰り返しでね。家族に内緒で借金していてね、督促状片付けるのも大変でね。友達に借金して、返すあてもないし。そしたらあんた、私も背中痛くなっちゃってね。きっとガンですわ、もうお終いですわ。もう……」
 初老の男性は堰を切ったように泣き始めた。その泣き声につられてすすり泣く声がそこかしこから聞こえてくる。折からの不況に加えて震災によるさらなる不況、そして異常な円高、中小零細の経営者達は日々、経営難という津波と戦っているのだ。そして健康に対する不安は精神を蝕み、時に死を選ばせる。
「何言ってんのよ。倅に仕事手伝わせばいいじゃない。一人で背負いこんで自爆なんてばかみたい。無理して大学行かすなんて、全然教育になってないじゃないの。あんたの生き様を見せつけてやんなさいよ。家族守る為に戦ってんでしょ、自信持ちなさいよ。ホントにバカ息子だわね。まあ、美味しい物食べてすっきり忘れちゃえばいいわ」
 ハルミの明るい声が響くと、バスの中は見事に凍りつく。田上と名乗った男はハンマーで殴られたような表情だ。 

「はい、じゃあ次、そこのおばちゃん」
 ハルミに指刺された中年女性は明確にむっとした。歳はハルミとそれほど変わらないだろうに、誰がおばちゃんだよ。しかし言い返す気力もなく、大人しく自己紹介を開始した。
「私は石塚といいます。私ね、パチンコにはまっちゃって。最初は遊びのつもりだったんです。でも一回勝ってからもう止まらなくなっちゃって。あの快感が忘れられないの。ばかよね。生活費全部つぎ込んで隠れて借金して。一回勝てば取り返せると思って何度も何度も。夫にも子供にもこんな事言えないわ。私って本当にばかよね」
 石塚がそう言って涙ぐむと、「俺もはまった」「私も」と、同病パチンコ依存の声がちらほらと聞こえてきた。
 たった二人が話しただけで、バスの中はすすり泣く声で満たされ……。
「ははははは、本当にばかね。自分が悪いだけじゃん。そんなの美味しいもの食べて忘れちゃえ」
 ハルミの明るい声に、バスの中は一瞬にして静寂につつまれた。突刺すような視線が降り注ぎ、ユウタはただ隣にいるだけでいたたまれなくなってきて恐る恐るハルミを見た。ハルミは平然として仁王立ちとなり、後部座席を指刺すのだった。
「はい次、そこの暗い顔したにいちゃん」
 どう考えても場違いなハルミに対して誰も押しとどめることができないままに自己紹介は続くようだ。顔面蒼白な男が気の毒なぐらいに狼狽している。彼はしばしの沈黙の後、消え入りそうな声で語り始めた。
「鈴木です。僕は生きていて何も面白くないんです。全てが義務に感じるんです。両親の期待が重いんです。結婚とか仕事とか、面倒だし、やりたくないんです。なんの為に生まれてきたんでしょうか? 生きる意味って何なんでしょうか? 苦痛と虚しさしか感じないままに三十路を迎えてしまうんですよ。もう嫌だ、こんな惨めな人生はもう嫌だ。こんな、夢も希望も愛も友情も努力も成功もない、時の淀みに漂うような人生はもう嫌なんだ。この気持ちを誰にも言えない、親に言えない、誰も僕の気持ちを分かってくれないんだ」
 誰にも言えなかった鬱屈した気持ちを吐き出して、鈴木の表情が和らいだ。苦痛や悲しみを語りあえる仲間がいない彼は孤独だったのだ。
「何言ってんの? 言わなきゃ分かりようがないじゃない、ばかみたい。やりたくないんだったらやらなきゃいいじゃない。なんの為に生まれたですって? 意味なんかあるわけないじゃん。両親がエッチしたから生まれただけに決まってんじゃん。なんにも考えないで美味しい物食べれば元気になるわよ。元気になったらやりたいことやりゃいいじゃん。はい次、ちゃっちゃと行くわよ。そこのガキんちょ」
 ハルミが指刺した先には小学生ぐらいの太った男の子がいた。こんな子供までが人生を放棄するとは世も末か。
「ボクはケンタといいます。ボク学校で苛められてます。デブだとかブタだとか言われてます。お父さんとお母さんはケンカばかりしていてボクの事はほったらかしです。誰も助けてくれないし、女の子はキモいって皆でばかにするし。いじめっ子のあいつさえいなければ、あいつが言いだしてから皆一緒になって言うようになったんだ。あいつを呪い殺してやりたい。お父さんとお母さんだって、ボクが死ねば気が付くはずだ。思い知らせてやる」
 小学生男子は真っ赤になった眼を潤ませて虚空を睨みつけている。その先には何が見えているのだろうか。
「ばかみたい、死んだら負けじゃない。死ぬ勇気があるんなら殺しちゃえばいいじゃない。太ってるぐらい気にすんな。両親なんかほっといて好きなことやっちゃえばいいのよ。好きな物たくさん食べて元気になればへっちゃらよ。はい次、隣の女の子」
 小学生男子の隣には、見事なまでに不細工な中学生ぐらいの女の子がいた。学年に一人いるかいないかぐらいの不細工だ。
「私は小山田マサミ。こんな顔に生んだ親が憎い。私をブスだからって笑ったあいつらが憎い。どうせいくら頑張ったってこの顔じゃ一生彼氏できない。死んで生まれ変わった方が早い。可愛く生まれ変わりたい。アイドルみたいに私もちやほやされたい!」
 女の子はおいおい泣きだした。アイドルは何故アイドルなのか、それは生まれつき容姿に恵まれているからだ。努力では達成できない領域、頑張っても届かない境地。生まれた瞬間、否、受精着床した時に既に人生の大半は決まってしまっている。配偶者の選択肢、周囲の待遇、さらには年収、そこに平等はなく理不尽な差別あるのみ。
「ばかみたい、死んだって生まれ変わらないわよ。死んだらお終い、あんたの負けよ。あんたを笑う連中に負けて悔しくないの? 美味しい物たくさん食べて幸せになれば、私みたいに可愛くなれるわよ」
 ハルミはそう言ってにやっと笑い、腰に手を当ててくねくねと軽く踊った。
――誰が可愛いって!? バス内の全員が心の中で突っ込んだ。しかし内気な彼らは誰もが声に出せないのだった。ユウタも思う、曙とか小錦に紛れれば可愛いんじゃないか。
 バスは木更津を出てアクアラインを渡って西を目指している。目指す先は富士の樹海だ。ネット文化が生んだ最悪のコミュニティ、自殺サイト。一人では踏み出せない最後の一歩を集団で踏み出す愚かな群れ。ユウタは目を閉じて思い耽る。
――僕がこの世を去ったら、父はどうなるだろうか? ラブホテルで頸椎損傷状態で発見された父親、不倫をしていたことは明白だった。多数の性病と腹部の打撲傷もあって昏睡状態が続いて今では寝たきり、怒った母親は寝転んだままの父を足蹴にして飛び出していった。父親に重傷を負わせた犯人については、恥かしいので被害届を出せずに結局わからないままだ。そういえば父の会社の課長さんから、不倫相手についてなにか書かれた封筒が来ていたはずだ。たしか僕が持っていたはずだが。
「運転手さん、海老名サービスエリアには寄るんでしょ! あそこは美味しい物たくさんあるんだあ! 皆で食べに行きましょうね。たくさん食べるぞお」
 ユウタはハルミの声に驚いて思考を中断させられた。至近距離で大きい声を聞くのは心臓に悪い。

 ぽりぽりぽりぽりぽり

 ユウタが目にしたのは、ケロッグ「チョコワ」の大箱に手を突っ込み、鷲掴みにして口に放り込んでいるハルミだった。
――それって牛乳かけて食べるものでは……、っていうか、海老名でたくさん食べるんじゃないのか? いや、もうどこから突っ込めばいいか分からないよ。
 驚くユウタを見てハルミはにやっと笑った。
「はい、あんたの番よ。自己紹介ちゃっちゃとやっちゃって」
――きた、ついに僕の番だ。
「僕はユウタといいます。僕は見ての通りあまりイケメンではないですし、むしろ不細工に近いと思います。僕はずっと何に対しても熱くなれず、ぼんやりと生きてきたんです。でも好きな女性ができて、頑張ったんです。最初は相手にもされなかったけど、ついに付き合ってくれたんです」
 ここまで語ったユウタは、天を仰いで目を閉じた。
――あの日のミユキの事を思い出すと涙が出てくる。あの日、ミユキは言った「やっぱり不細工って無理。あなたと私じゃやっぱり釣り合わないと思わない? 私やっぱりイケメンがいい」そして軽薄そうなイケメンと手を繋いで去っていった。不細工はいくら頑張ったって無駄なのか? そんなバカな事があっていいのか? イケメンに生まれたらそれだけで女入れ食い状態か、そんな不平等が許されるのか? 天道是か非か!
 迸る思いが堰を切ったように口から出て行く。
「不細工だからって振られたんだ! こんなに頑張ったのに。仕事にも自信つけたのに、たくさん勉強したのに、誰も僕の頑張りを見てくれないんだ。報われない努力はもう嫌だ」
 人目を憚らずに泣いてしまうユウタ、しかしこのバスにはそれを笑う人はいない。同憂、相憐れむのみだ。
「何よ、そんな人を見た目だけで判断するバカ女、相手にしない方がいいわよ。努力したなんてあんたの方がよっぽど立派じゃない。大丈夫! きっとあんたの方が幸せになれるわよ。ほら、もうすぐ海老名よ、たくさん食べて元気出して!」
 ハルミはそう言ってユウタに手を伸ばしてきた。ユウタは、ハルミの笑顔が一瞬眩しく見えて放心状態のまま手を出す。その手にはたくさんのチョコワが載せられた。
――だからさあ、これからたくさん食べるんだろ。
「やっと私の番ね。私はハルミ、こう見えてOLやってんだ。こないだやっと恋人できたんだけど、変な病気うつされちゃってさ。蹴っ飛ばして帰って来ちゃった。お父さんとお母さんはずっと仲が悪かったんだけど、こないだやっと仲直りしたと思ったらお父さん死んじゃってさ。お父さんが死ぬ間際に凄い怒られた、変な男と付き合うなってさ。ほっとけっつーの。変な病気は気合いで治すから気にしない、今日はたくさん食べるんだあ」
――意外と重い過去じゃないかハルミ、もしかしてこのバスに乗ったの本意なのかな?
「見えてきたあ。海老名だあ」
 バスはハルミに押し切られるように駐車場に停まった。
「さあ、行きましょ。夕張キングメロンパンと名物メロンパンとプレミアムメロンパンを食べるぞお!」
――メロンパン三つも食べるんかい?
 ユウタは心の中で突っ込みながら、イの一番にバスを降りるハルミに引きずられるようにバスを降りた。雨は止み、空には太陽が姿を現していた。
 ユウタはハルミの真意が気になっていた。それに、さっき言われたことが胸に刺さっていた。気持ちを踏みにじられたような、きれいに洗い流されたような、なんと言えばいいか分からない気持ちに捕らわれていた。つい物思いに耽りそうになり、ハルミが見えないことに気付く。
 ユウタは大急ぎで歩いてやっとハルミを見付けた。ハルミは両手に肉まんを持っていた。
「この皇肉の肉まんとチャーシューまんが美味しいんだあ! 一緒に食べましょ、はい」
――メロンパンはどうしたんだ! 
 手渡された肉まんを一口かじったユウタは、その美味しさに感動した。そして美味しそうに食べるハルミを見ていてなんだか和みそうになったが、さっきの気持ちをぶつけることにした。
「あのさ、僕のさっきの話だけど。僕の元彼女のミユキのことだけどさ」
「ああ、あのバカ女ね。それがどうしたの」
「とても素晴らしい女性だったんだよ。可愛くて」
「どこが? 人を見た目で判断するバカ女じゃん。あんたもそうなの? 人を見た目で判断するの?」
 ユウタは頭をハンマーで殴られたような気がした。
――僕もそうなのか? 人を見た目で判断していたのか? 人間は見た目じゃないなんて言いながら、ミユキの見た目に心奪われていただけだったのか。そんなの嫌だ! 人間は心根が一番大事なんだ。前向きに生きる姿が一番美しいんだ!
 ユウタの心の中にいた可愛いミユキの姿が、たちまち醜く歪んで破裂して消えた。
「僕? そんなわけないだろ。人間は心根が一番大事だよ」
「よかった。あなたって私の初恋の人に似てるんだあ。あなた見てるとちょっとドキドキしちゃうかも」
 ハルミの満面の笑顔を見たユウタは心の闇が洗い流されていくのを感じた。肉まんってこんなにも美味しかったのか? 美味しく食べるってのは、これほどまでに心を癒すのか? 
 ユウタは美味しそうに食べるハルミの横顔に見とれている自分に気付いた。その優しい眼差しを見ていると、心が穏やかになってくる。
「そうよね、心根が一番大事よね。あんたいい事言うじゃない。私も好きよ」
――僕は何をしたかったんだろう? 僕が探し求めていたのはなんだろう?

「あのハルミとか言う太った女をなんとかしろ!」
 バスの中では運転手の倉内の怒声が響いていた。ワンマン社長にこき使われた挙句にその社長は突然死して会社は倒産、出戻りの娘と鬼嫁にいびられて自暴自棄になり、自殺バスの運転手という最悪の再就職を果たし、一世一代一回のみの仕事に従事して折角心静かに死んでいこうというのに、こうまで心かき乱されては我慢ができないというわけだ。絶対に死のうという決意、それが僅かに崩れつつあることに対するなんともいえない気持ちが、ハルミをなんとかしろという言動に込められていた。バスには練炭とロープが積んである。皆を縛って一緒に逝くための道具だ。

 一足先にバスに戻ったユウタに、バスの運転手が言う。
「ハルミが戻ってきたら皆で押さえつけてロープを巻きつけるからお前も手伝え。余計な事を喋るあいつは邪魔だからな」 
 ユウタは驚いてバス内を見渡した。どの顔も暗く、消極的に同意をしているようだ。ユウタの心は揺れていた。このバスに乗る時には確かに死ぬ決意があった、バスに乗っているのは同志だけだと思っていた。ハルミはどうなんだろうか? 
 ユウタは目を閉じて思い耽る。
――きっとハルミは死ぬ間際に食べまくっているんだろう。あんな容姿だ、女を捨てているんだ。最後にたくさん食べてきっとあいつは幸せだったに違いない。……本当にそうなのかな? 違うんじゃないかな。死んだら負けだってあいつ言っていたじゃないか。そうだ、あいつを助けないと。でも、僕一人でできるだろうか? そんな勇気、僕にあるだろうか?

 どたどたどた

「ごっめーん。だってメロンパン買おうと思ったら凄い並んでんだもん。皆の分も買ってきたから一緒に食べましょうね」
 大量のメロンパンを両手にぶら下げたハルミが何も知らずに帰ってきた。
 ユウタは微かな勇気を振り絞ってハルミに言う「来るな。このバスから逃げろ! お前は生き伸びてくれ!」
「へ? 何言ってんの? それよりほら、このメロンパンが美味いんだあ」
 まったく状況を理解していないハルミに駆け寄ろうとしたユウタにバスの乗客が襲いかかった「貴様、裏切るのか?」無慈悲な拳がユウタに迫る。
 後頭部に衝撃を受けたユウタは、為すすべもなく倒れ伏した。
「ちょっと、何すんのよ!」ユウタは意識を失う瞬間、ハルミの声を聞いた気がした。

 初老の田上が泣きながらハルミに襲いかかった。
「貴様ごときに何が分かるんだ。俺だって頑張ってきたんだ」
 運転手の倉内も続く。手は震え、足腰は不安定だ。
「会社が潰れて給料貰えなくなった辛さがお前に分かるか? 女房と娘にばかにされる悔しさが分かるか?」
 恵まれない容姿の女の子マサミも泣きながら後に続く。
「不細工で苦しんでいる私の悲しみがどうしてわからないの?」
「うるさーい! 考えたってしょうがない事は、考えたってしょうがないでしょ!」ハルミの大声が全てを飲みこんだ。

 ユウタが目を覚ますと、目の前に手を差し伸べる聖女が見えた。その手は柔らかくて触れているだけで心の傷を癒してくれて、その笑顔は心の穴を埋めてくれた。
「ねえ知ってた? このバスって自殺者が乗るバスだったんだって。あはははは、びっくりよね、私間違えて乗っちゃったみたい。グルメツアーのつもりだったんだけどね。あんたもそうでしょ。さっきは有難うね。私を助けようとしてくれたのね」
――ハルミが女神に見えた、だと? どうしたんだ僕は。それにしてもやっぱりそうか、やっぱりバスを乗り間違えていたのか?

 バスを見渡したユウタが見たのは、泣きながらメロンパンを食べている面々だった。ハルミに言われた言葉を反芻しながらメロンパンの甘味を味わう彼らは、死ぬ決意が確実に薄れていた。
 足元には運転手と田上が頭を押さえて唸っていた。ユウタが驚いていると、ハルミは照れ笑いして喋り出す。
「あ、ちょっと押したら倒れちゃった。頭打ったかも。あはははは、だってばかみたいに襲いかかってくるんだもん。私の魅力に引き寄せられたかな? それよりさ、皆! メロンパン美味しいでしょ! だから死にたいなんて気持ち捨てちゃえ! さあちゃっちゃとグルメツアー行くわよ」
 マサミと名乗った不細工な女の子は、ハルミに抱きついて泣きじゃくっていた。「私もハルミさんみたいに強くなりたい、死ぬなんて悔しい、幸せになってあいつらを見返してやるんだ!」
――ついに見つけた。僕の女神、手を差し伸べてくれる聖女。
 ユウタは胸が熱くなった。死にたかった気持ちがばかみたいに思えてきた。涙が止まらない。ハルミと一緒に美味しい物を食べる日々を想像するだけで心がときめいてきた。止めどなく溢れる涙。ハルミと一緒に生きて行きたい、前向きな気持ちで力強く前進する姿勢こそが美しいんだ。そんなハルミを僕は好きになったんだ。ユウタは溢れる涙を拭うためにセカンドバッグを開けてタオルを取出した。
 はらり
 見知らぬ封筒がタオルの隙間から落ちた。ユウタは何の気なしに封筒を破って中の便せんを読んだ。
『君のお父さんの不倫相手について。君のお父さんは、うちの会社のハルミと不倫していた。君の父親に重傷を負わせたのもきっとこのハルミだ。だけど、そっとしておいて欲しい。このハルミは、心優しい純真な女性なんだ。親の仇だなんて思わないでほしい』
 封筒には写真も同封されていた。その写真には、まさに今目の前にいるハルミが写っていた。
――なんてこった! このバスに乗る前に見たら、きっと不細工なブタ女に見えたであろうその顔、でも、今では女神に見える。父親の仇だって? そんなの関係あるもんか、さあ、美味しい物たくさん食べて幸せになるぞ。
ゆうすけ
2011年08月15日(月) 14時14分00秒 公開
■この作品の著作権はゆうすけさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 自分のスタイル未だ定まらず、といいますか、寧ろ崩れてきた感のあるゆうすけです。
 連作短編三部作を書こう、好きな要素抜きで書こう、意気込んではみたものの、他の優れた投稿作品を見ると穴に入りたい気持ちです。
 
 日々多忙であり執筆する時間も減りますが、皆様の作品はなるべくたくさん読ませていただこうと思っています。

 貴重な時間を割いて読んで下さった方に感謝いたします。

 8/18誤字修正 山田さん様 ありがとうございます

この作品の感想をお寄せください。
No.20  ゆうすけ  評価:0点  ■2012-04-15 16:12  ID:m0hMR5bWYIY
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山本鈴音様 御批評ありがとうございます。
私はどうにもせっかちでして、展開を急ぐ傾向があります。そこらへんを見破られて恥かしい限りです。じっくりと物語に向き合う努力をしていこうと思います。
ハッピーエンドとバッドエンド、近頃はハッピーエンドばかりになっておりますけど、バッドエンドも書きたいと思っていまして、その時の気分できまるかも。
No.19  山本鈴音  評価:50点  ■2012-04-08 13:23  ID:xTynl89qwNE
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続編を完読してから来ました。

小道具の食べ物が効果的に用いられ、暗澹としがちなシチュエーションを明るく盛り上げてて良い!
ハルミの性格も最高です。
ただし、別のバスと誤って乗車したのなら、序盤に一時狼狽するシーンが必要なのでは。

ハルミに対する怒りなり、死や家族への思いなりで、一度ぐらりとユウタの感情が揺らぐシーンが見たかったです。
心のひだ、と言うべきものが欲しいといいますか……。

ただ、急速ながら、ハッピーエンドへ持っていったのが良かったです。
バッドエンドも好きですが、今作の場合はハッピーな結末が正解と思えました。
No.18  ゆうすけ  評価:0点  ■2011-10-25 08:45  ID:DAvaaUkXOeE
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返信を書きに来ました。手足口病からやっと回復したゆうすけです。

D坂ノボル様
人々はどんな悩みを抱えているのだろうか? そして欲しい答えは? 話のネタのために私はヤフーの知恵袋を覗いて見て、いかにベストアンサーを獲得するか「人生相談」的なことをちょっとやってみました。結局は今作には生かせなかったのですけどね。
ひねくれ者の私は、見た目がいいだけでちやほやされるアイドルって好きじゃないんですよね。ロシアの突撃銃みたいな名前、AKBなんちゃらって感じのアイドル集団とかって目ざわりですし。
生まれつきの不公平、これを主題にするのはちょっと荷が重い気もします。D坂さんこそがこの分野の先駆者であると思いますよ。
No.17  D坂ノボル  評価:40点  ■2011-10-23 20:40  ID:Gex.yodsPQg
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拝読しました。自殺バスツアーってシチュエーションがまずよかった。
ひとりひとりの自己紹介も、重くなりすぎず、だれもが共感できるユーモラスな悲哀があって、読者のシンパシーをあおりやすくできていたと思います。
なかでも、容姿の問題が何人かから挙がっていましたが、これはもっと別の作品でも突き詰めてほしい一大テーマだと思います。
他人には軽視されがちな悩みでありながら、じぶんのなかでは最重要問題にもなるという、そして生まれ付いての不平等と理不尽をもっとも明確に表す深遠な主題だとも思えますので…。
しかしそれらの悩みに対するハルミ流の回答が、じつのところ正解なのかもしれません。
重いテーマを軽く打ち捨てるところに妙味を感じました。
No.16  ゆうすけ  評価:0点  ■2011-09-19 17:24  ID:YcX9U6OXQFE
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返信を書きに来ました。仕事の合間にやってくるゆうすけです。

FK様
やはりエンディングにおける捻りの無さが一番の問題のようですね。あっさり味で物足りないし、頑是ない手弱女のような素直さで、正直つまらない終わり方だったようです。
なんとかハッピーエンドにしようと、一応プロットを考えてそれに従って書いたのですが、パンチ不足ですね。
他のも読んでいただけるとの事、嬉しいお言葉です。
No.15  FK  評価:30点  ■2011-09-19 12:58  ID:9k6nD5IEsbI
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 読ませていただきました。
 出だしの部分、とくに「この雨が、心の闇を洗い流してくれるなら喜んでこの傘を捨て去るだろうに。」がいいですね。グッときました。
 また車中の告白がみんな深刻で、身につまされました。あまりに深刻すぎるようにも感じましたが、良いですね。
 しかし、ラスト、先ほど生寿司を食べたら、ようやく4個食べて、しかも最後は口に押し込むようにした小生としては納得できません。
 小説としてはこれで決まっていますし、納得できますが、小生なら、生きる気力を取り戻した乗客を、運転手がさらに悲惨な状況を告白して谷底に転落していくとか(これだと途中の運転手の告白を変えなければなりませんが)、ポンコツバスが悲惨な身の上を告白して勝手に谷底に転落するとか、そんなラストも考えられるなと思いました。
 妄言多謝。
 連作とのことですので、他の玉稿も読ませていただこうと存じます。
No.14  ゆうすけ  評価:0点  ■2011-09-10 15:15  ID:YcX9U6OXQFE
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返信を書きに来ました。土曜の昼下がり、仕事中にやってくるゆうすけです。

はしずめまい様
元気になってくれましたか。私が作品にこめた想いが、伝わったのだと嬉しく思います。
私が言いたい事を、たくさんセリフにこめて叫んでおりますからね。
可愛い女性に惹かれて玉砕、あの日の気持ちとか、まあ四十にもなりますと、いろいろと切ない思い出がありましてね、そういうのは大切に取っておいて作品のネタにするのです。若い頃の辛い思い出、詩でも小説でも、極上のネタだと思いますよ。私の場合、素材を活かすのが下手で、変な味付けで誤魔化しているような気がしますが。
No.13  はしずめまい  評価:50点  ■2011-09-10 13:50  ID:Vlg.gSKY1.s
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 拝読しました。

 食べること。ほんと幸せな時間ですよね。
食べて、元気ださなくちゃ。

すこし元気がでました。ありがとうございます。
No.12  ゆうすけ  評価:0点  ■2011-09-06 08:54  ID:1SHiiT1PETY
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返信を書きに来ました。仕事中にのみ現われるゆうすけです。

HAL様
前作も読んでいただけましたか。ありがとうございます。楽しく読んでいただいたとのことで、大変嬉しく思います。
大笑い! この一言がギャグを書くものにとっては極上の感想です。かなたんさんとHALさんの連作を読んで「こいつは面白い!」と思って私も挑戦してみたのですが、今作はギャグが不発だったような感じがして若干凹んでいました。
ハルミのセリフが平板で盛り上がりに欠けたようですね。いずれ、今回いただいた批評を参考にして、この話をグレードアップさせようと思います。実は前二作もそうやって作り上げたものなんですよね。
No.11  HAL  評価:40点  ■2011-09-03 21:27  ID:VTNJW6kplLg
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 拝読しました。
 痛快ですね! 楽しく読ませていただきました。(ごめんなさい、実は無精をして感想を書きに上がってないのですが、前2作とも楽しく読ませていただきました!)

 それにしてもハルミさん、破壊力あるなあ! と、大笑いさせていただきました。
 リアリティでいえば、たしかに少々弱いところかもです。ご都合といえばご都合でしょう。でもその強引さが、味になっていると思うし、わたしは好きです。ご都合主義万歳! です。現実は暗い話でいっぱいで、なかなか痛快にも美しくもいかない、だからフィクションくらいは! と思う気持ちがあります。

 ぜいたくをいうなら、ハルミさんの励まし(というかお叱りというか)というかのくりかえしが、ちょっとワンパターン気味だったかな? とは思いました。「美味しいもの食べて」の部分は共通としても、もう少し、それぞれにちょっと意表をつくような内容だったり、さりげなく心に響くような深さがあったりすると、さらに感動が増したかも、なんて思います。(……などと、自分にできないことを書くこの棚上げっぷりです・汗)

 とても楽しく読ませていただきました。ありがとうございました!
No.10  ゆうすけ  評価:0点  ■2011-08-20 08:42  ID:cAiMe27hMAw
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レスを書きに来ました。ギャグがすべっても懲りずに次のギャグを考えるゆうすけです。

かなたん様
紙ヒコーキが繋ぐ連作を読ませていただいた時の感動、私も書いてみたいと思ったんです。伏線って私も好きなんですよ。いろいろと感動をいただいておりますよ。ハッピーエンドを書きたくなったのも、かなたんさんと山田さんの作品の影響が大きいです。なんかこう、優しい雰囲気といいますか、爽やかな読後感、出してみたいです。とはいえ、ブラックユーモアやマニアックな話にも挑戦していきたいですが。
やはり、最終部分を丁寧に描ききることができていなかったようですね。
たくさん読書をして勉強したい気持ちです。また参考にさせてもらいますね。

楠山歳幸様
頭のネジが抜けている?……きっと私も同じネジが抜けているのでしょう。
さて冗談はさておき、このハルミにはモデルがおりまして、よく私の傍らに寝そべっていたり、私より早く御飯を食べ終わったり、病院で過食するなと言われた直後に食べ放題でたらふく食べたり、常に私より体重があったり、べったりとソファに座ると尻に根っこが生えて動かなくなってあれこれ指図したり、日がな一日韓流ドラマを見ていたり……。
さて冗談はさておき、笑っていただけた。嬉しいです。暗いテーマに明るいキャラ、この対比のギャグ、完全に不発かと若干凹んでおりました。
No.9  楠山歳幸  評価:40点  ■2011-08-20 01:49  ID:sTN9Yl0gdCk
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 読ませていただきました。

 良かったです。とても良かったです。前半では続きが気になってどんどん読み進みました。
 どんよりと暗いいろいろな志願者たち、破天荒に無邪気なハルミの「食え」この対比がとても面白かったです。笑わせていただきました。皆様のレスを拝読すると、僕の頭のねじが一本抜けているためかもしれませんが(失礼)。「生きる」と「食」この関連も体に訴えるみたいで良かったと思います。
 僕も片桐様のご指摘のように皆の生きようとする理由みたいな所がやや希薄かな、と思いました。
 でもハルミの魅力は十分感じました。結婚する(できる)ならこんな女性がいいなと思います。
 
 拙い感想、失礼しました。
 
No.8  かなたん  評価:30点  ■2011-08-19 18:51  ID:5mChna81r9M
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読みました。
とても面白く読むことができました。
自殺志願者たちの乗るバス、そこに紛れ込んだマツコ的な女性。とても面白かったです。伊坂幸太郎チックな世界観と展開に、わくわくしながらあっという間の読了です。

父親とハルミの結びつきは必要なかったのでは――という感想を思いついたのですが、前作、前々作と読んで納得しました。
なるほど! と色々な意味で納得しました。
ただそうなると、やはりラストの父親の仇云々はもう少し丁寧に描いたほうがいいのかなあ、と感じました。

楽しませて頂きました。
では。
No.7  ゆうすけ  評価:--点  ■2011-08-19 17:24  ID:1SHiiT1PETY
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レスを書きに来ました。踏み出せば即ちこけるゆうすけです。

片桐秀和様
私が作品を通じて言いたかった思い。わかっていただけて嬉しいです。
「人間は心根が一番大事なんだ。前向きに生きる姿が一番美しいんだ」
「考えたってしょうがない事は、考えたってしょうがないでしょ」
この二つのセリフを叫びたかったのです。このテーマを描く力が足りず、また、ギャグのキレ味も足りずでトホホな感じです。
 面白いとは何か? 本当に難しい命題だと思います。私がここに投稿してきたのは、私的には最高に面白いつもりなんですが、気合いを入れたのが空振りすることも多く、毎度悩みます。だからこそ笑っていただいたという感想を見るたびに欣喜雀躍するのですけどね。

ラトリー様
おおお! 嬉しい御言葉です。三作とも読んでいただけましたか。そして、私の作品を記憶していてくれたのですね。
もしかして、私って結構古参なんでしょうか? 未だ新人のつもり、或いは毎回初陣の気持ちなんですが。昔から投稿しているわりには成長がなく、穴があったら入りたい気持ちです。
心地よい読後感、これを書きたかったのです。ハッピーエンドを書くようになったのは最近なんですよね。TCで読んだ感動的な御話に影響を受けましてね。以前はブラックユーモア全開で主人公は酷い目にあってばかりです。
温かい励ましの言葉、有難くいただきます。
No.6  ラトリー  評価:30点  ■2011-08-19 00:48  ID:x1xfMMn8lDg
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 読み終えてから連作ということに気づき、過去二編を読んでまた戻ってきました。というわけで、感想など書いてみます。

 体内の細胞や臓器を人物風味に取りあげ、豊富な知識で生き生きと展開されるギャグ物語。自分が初めてTCを訪れた時に初めて衝撃を受けたのがゆうすけさんの作品でした。過去二作はそのテイストが存分に発揮されていて、懐かしさと同時にブラックな笑いがこみ上げ、大いに楽しめました。

 一方、こちらのお話は趣きが異なり、自殺志願の人たちを無邪気なぽっちゃり(?)ヒロインがひっかき回す流れになっていますね。その分、作風としては模索段階なのかなという気がしました。すでに他の方も書かれていますが、ハルミの「おいしいもの食べれば大丈夫!」なキャラだけでは自殺を止めきれない印象が強いです。しかも、相手はそれぞれリアルな理由から自殺バスに乗るにいたった複数の人間。一人ひとりの苦難を相手にしていた細胞・臓器系のストーリーより救わないといけない相手が多いというのも、ギャグながら展開に無理を感じてしまった理由の一つのように感じました。

 しかし、ギャグの流れからさわやかなハッピーエンドへ突き抜けていくゆうすけさんの作品には、いつも心地よい読後感がついてきます。お書きになる物語の幅を広げる意味でも、こうした系統のお話はぜひともどんどん挑戦していただきたいと思いました。そうすることで、もともと得意なジャンルにもさらに新風を吹き込めるのではないでしょうか。
 思ったところとしては、だいたい以上のとおりです。
No.5  片桐秀和  評価:20点  ■2011-08-18 18:33  ID:n6zPrmhGsPg
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読ませてもらいました。
描こうとしている内容(と僕が推測する内容)は好きなのですが、パンチに欠けるという印象は拭えませんでした。捻り、あるいは設定がまだ弱いと思えてしまいます。ストレートにしては球速がまだ遅い、とも言えるかな。そう思ったのは、自殺から生きる活力を得る過程が飛びすぎているからというのが一番の原因かなと。
と、きつめなことを書いてますが、作品傾向としては好きだし、ゆうすけさんのセンスを知っているので、今回をひとつの踏み台として、さらにステップアップされるんだろうなとも思えます。
次回作もお待ちしておりますよ。
No.4  ゆうすけ  評価:0点  ■2011-08-18 17:01  ID:1SHiiT1PETY
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レスを書きに来ました。何度投稿しても初陣の気持ちのゆうすけです。


らいと様
感想ありがとうございます。今作は、スタイルに迷ったり、連作にするための伏線回収など設定に無理があったり、さらには好きな要素なしで書くことに挑戦したりと、色々と挑戦したものでして、完成度が低かったようです。
重くて暗いテーマに、明るいキャラをぶちこむことで対比的面白さを狙うも完全に失敗したようです。今後の糧にさせていただきます。

山田さん様
以前「人間は中身が大事ってのはイケメンが言ってこそのセリフ」みたいな事を作中に書いた時に反応してくださいましたよね。人間は見た目なのか? それに対する私の気持ちを込めてみました。主人公の考え方の変化を書きたかったのですが、私の力ではうまく描けなかったようです。
私が描きたくて描ききれなかった世界、山田さんが感じて下さったものと一緒だと思います。結局、単純な話ですからね。私の想いをうまく表現できなかった、私の力不足を強く感じます。
ギャグは何度も不発に終わっているので、また不発記録が増えただけです。はい、私の力不足です。
テーマに対する掘り下げ、現実感など、非常に拙い話であったと思います。TCにおいて何度も心を震わせてくれる作品を読むうちに、心地よい読後感やカタルシスのある作品を私も書いてみたいと思うようになり、まあ今作は挑戦してこけた感じです。
お陰さまで七月三日に生まれた三男は元気に育っております。子供らはきっと私に似て偏屈になるだろうなあ。

陣家様
期待してくれる言葉、嬉しく思います。前二作は私が最も好きなテーマ、過去に十作以上は書いてきたものなんですよね。人体と病気、これをテーマにするとどんどんイメージが膨らんでいくのです。
さて今作、提示していただいたアイデアを見て素直になるほどと思いました。やるなら徹底的にやる、これですね。濃厚に攻めるべきでした。作り込みの足りなさを感じます。
励ましの言葉、ありがたく頂戴します。
No.3  陣家  評価:30点  ■2011-08-17 23:08  ID:1fwNzkM.QkM
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拝読させていただきました。

このシリーズってどちらかというとマニアックでミクロな戦いがメインだったような気がするんですが、今回はハルミちゃんがメインということでハルミちゃん自体のキャラで押していくような展開を目指したんですね。
で、そう言う事で行くと自殺志願理由についてのカウンターチャージはあるもののそれはただのハルミの一方的な毒舌にとどまってしまっていて、結局は暴力とメロンパンで解決と言うのが食い足りない原因だと思います。

ここは徹底的にスラップスティック的展開とラッキーガール・ハルミという本作のご都合主義をフル稼働して強引な解決エピソードを展開していくことも可能だったと思います。
例えば自殺志願理由の何人かは単なる金銭的危急のためなので、あるサービスエリアでハルミが宝くじを体にくっつけて戻ってくるとか。
あるサービスエリアでは居合わせた例のいじめっ子をいじめるハルミを件の小学生が追い払って人望獲得とか。
あるサービスエリアでは身分を隠したデブ女子モデルのスカウトに見初められたハルミが憤慨して、この子の方がデブなのにとマサミを生け贄に連れてくるとか。
最後には樹海の死霊をハルミの腸内細菌が退治して運転手を除霊しちゃうとか。
どれもベタですけどとにかく自殺という重いテーマから読者にカタルシスを与えるにはそうとうのぶっ飛んだ展開が必要だと思います。

なんかしょーもない話を勝手に展開してしまいましたが、ゆうすけさんならもっともっと面白いものを書ける方だと思います。
これからも期待しています。
お互いがんばりましょう。
では失礼致します。
No.2  山田さん  評価:30点  ■2011-08-17 20:56  ID:iNA2/rsuwOg
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 拝読しました。

 読者ってのは、時に物語の内容を自分の中で、自分に都合の良いように推測して読み進めていく生き物だと感じています。
 要するに自分勝手な生き物なんですよね……しかも気まぐれときたもんだ……だからなかなかに手に負えない。
 ってことで、僕も自分勝手に内容を以下のように推測しながら読みました。

・ユウタの父親と不倫をしていたのは、なんとミユキだった。
・自殺志願者を集めたってのは嘘で、実は自殺を留まらせるためのバス・ツアーだった。
・その自殺を留まらせる大役を担ったのは、もちろんハルミさんである。

 ってことで、読み終わって「全然当たってないじゃん! チャンチャン!」
 と気まぐれな読者である僕は他の作品を読みにいくのだった……。



 なんてレスじゃあまりにも失礼ですよね。

 実は僕の推測は全く当たってなかったんだけど、ゆうすけさんが描こうとした世界はなんとなく判る気がします。
「判る気がする」と少々遠慮目に書いたのは「判る! 判る!」と書いちゃうと嘘になるだろうからです。
 そして、そんな世界に僕は賛同できます(あくまでも僕が思う作者さんの描きたい世界ですから、本当のところでは差異があるでしょうけど)。
 少し長めのレスをこうして書いているのも、その世界に賛同できるからのように思います。

 多くの人の自殺志願の気持ちが揺らいでいる。
 それはあくまでもハルミさんの存在がそうさせたのであって、食べ物は副次的な存在のように思えます。
 ハルミさんも、僕が推測したような「自殺を思い留まらせる」なんて大それた役目を負っていなかったからこそ、本来の明るさ、力強さ、ポジティヴ思考が発揮できたんだと思います。
 感情って、僕らが思っている以上に他人に感染しますからね。
 そういう意味では、個人的に食べ物の描写はもう少し削られても良かったように思います。

 ゆうすけさんのことだから、今回もギャグは意識されて書かれたのでしょうか。
 実は僕は今回は全くギャクを感じなかったんですね。
 それ故にちょっと気になる箇所はありました。
 それは自殺したいと思い詰めるまでの要因や、それに対するハルミさんの対応の言葉、これらに今一つ新鮮味が感じられなかったからです。
 こんなものに新鮮味を求めてもしゃあない、といえばそれまでですが、ちょっとベタ過ぎやしないかなぁと。
 既視感があるが故に「おいおい、そんなことで死のうと思えるのかよ」「おいおい、そんなことで自殺の動機が揺らいじゃうのかよ」と、少々現実味が稀薄だったように感じます。
 あるいは僕がちょっと真面目に受け取り過ぎてしまったためかも知れないですが。
 ちなみに、今回もギャクの要素を盛り込んでおられたのだとしたら、申し訳ないです(汗)。

 最後に誤字が一つ
「男としての魅力を見に付けて」
 これは「身に付けて」ですね。

 以上、読み返してみると、長い割にはあまり役に立ちそうにないレスになってしまいました。
 すいません(大汗)。
No.1  らいと  評価:30点  ■2011-08-16 20:20  ID:J44h6PeHayw
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拝読させて頂きました。

なんか軽いんですよね。自殺バスツアーという重いシチュエーションなのに、軽い。美味しいものを食べれば治るとかそんなんで治るならとっくにみんなやっているよ。と言いそうです。ハルミは今回だけは場違いだったような気がします。やはりギャグでは自殺は救えないんじゃないでしょうか?
拙い感想失礼しました。
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