愛されたいのは、君もぼくも同じだったんだね。ぼくは君に執着するし、君もぼくに執着する。つくったものとつくられたもの。
 手放したくないだろう、それが愛なんだよ。
 ぼくの細胞と染色体と血液と皮膚と産毛と眼球と腕と脚と心臓を、うみだしたのは君で、こわすのは、だれだ?


 最初はただの幼稚なアイデアだった。売れ残ったペットたちを組み合わせて新しい動物をつくり、それらをもう一度販売することはできないだろうか? 道徳や倫理が腐りきったこの国で、それらは簡単に実現した。羽根が生えたウサギ、手のひらサイズの猫。売り上げと技術は比例する。徐々に研究は高度化していき、ついにヒトをつくりだすことにも成功した。ただし完璧なオリジナルではなく、最初からあるものを基盤にして新たな人格をつくりあげる技術。 所謂、クローン作りだった。


 イオリはさっきから一言も喋らずに、膝に乗せた白いウサギを撫でている。ウサギの背骨からは爪ほどの大きさの羽根がびっしりと生えていた。テロメアと名付けられたその羽ウサギは身動き一つせず、イオリの手に体を任せている。自分の中の、大切なものを壊した人を、どうしてそんなに信頼できるんだろう。委ねられるのだろう。
「サチさんを、」
 イオリがぽつりと云う。テロメアがひくりと鼻を動かした。
「サチさんを、あなたはきちんと愛していましたか」
 ぼくはサチのことを思い浮かべる。ぴったりとしたシルエットの長袖黒シャツの上に、裾の長いコートをはおっているサチ。つやつやと輝く黒髪は、いつも肩につくかつかないぐらいの長さで切り揃えられている。黒ずくめだからだろうか、露出した腕と脚は眩しいほど白く透き通って、頬はうっすら朱を差したように赤い。何より強く残っているのは、瞳の色。完璧で果てしない、暗鬱とした混沌の黒。万華鏡の四隅のような、餓死した子猫の眼のような、指先でつまんだ半音フラットのような、薄っぺらでやさしい黒。ぼくたちの、つくりぬし。
「うん。心から」
「愛していたと?」
「云いきれる」
「そうですか」
 再び沈黙。永い年月を経て脆くなったコンクリートの壁が、またどこかで崩れ落ちた。あさい地響き。崩れ落ちた天井から覗く空は馬鹿みたいに青くて、ぼくは色を殺すようにぎゅっと目を瞑った。
「ならどうして、」
 ふいにイオリがぼくを見た。不思議な色の眼をしている、円やかな青にうすい緑が溶け込んで。
「どうしてあなたはサチさんを、」
 瞬きをして、何かを叫ぼうとして、けれど言葉を飲み込んで耐えた。云ってはいけないこと。思い出してはいけないこと。
 ずっと昔、始まりの日を覚えている。水槽の外は鮮やかで眩しくて不透明で優しくて、ぼくはそんな世界に生まれてこれたことを神さまに感謝した。ありがとう、ぼくに世界とサチを与えてくれて本当にありがとう、ありがとう。暖かい胎内の闇もぬるい羊水も知らない、ぼくはサチがいればそれで良かった。それこそ初めから。サチはぼくの世界であり、神だった。失いたくない。ずっと側に居たい。壊されたくない。もっと欲しい。
「それがつまり、ぼくにとっての愛」
「なら尚のこと」
 イオリがぼくを睨みつけた。青緑の瞳。つくりものの証。ぼくたちのあいした色。
「私だって、サチさんのこと大好きでした。本当に好きでした。なのにあなたが、」
 イオリがまた泣き出したので、ぼくはそっと彼女の髪を撫でた。あの夜のことも覚えている。サチがぼくをころそうとした、あの夜。
 夢と現実の淡いで、呼吸ができないことに気がついた。ぼくの上に誰かが乗って、首を絞めていた。くるしい。えずきそうになる。喉の力を振り絞って叫ぼうとしたとき、カーテンの外から漏れる浅い光が影を照らし出した。
「サチ?」
 濡れた黒い眼が光る。長い睫毛の先に、淡い埃が絡んでいた。サチの白い腕は、そのままぼくの首に伸びていた。手のひらから力が抜けていく。乾いた咳を数度して、もう一度サチを見上げた。彼女は黒いキャミソールをだらしなくはだけさせて、ぼんやりとぼくを見つめ返した。ゆっくりと動く唇。
 ごめん。
 声は音にならず、かすれて消えた。ぼくは何も言えず、ただサチを見つめ続けた。酸素が足りないせいか、視界がぐらつく。ぼくのお腹の上に白い脚があって、ぼくの肩をサチの左腕が押さえつけていて、もう一方の腕はまだ首にかかっていた。ぐ、と再び手のひらに力が入り、ぼくは眼を閉じた。
 しぬかもしれない、と思った。でもサチにならころされてもいい、とも思った。意識が沈むのを待っていたけれど、いつまで経っても視界は暗くならない。やがて手のひらが外される感覚がした。瞼を上げると、サチが泣いていた。ぼくのお腹に座り込み、サチが泣いていた。何か呟いているけれど、ところどころにしか聞き取れない。
 単細胞からつくりだしたクローンは、あなたがはじめてだったの。
 成功するなんて思ってなかったから。
 思考できる命なんかつくらなければよかった。
 イオリのときに誓ったはずなのに、どうしてまたつくっちゃったんだろう。あなたを。
 ごめんね、こんな世界に生まれて来たくなかったよね。
 サチは、やわらかい光の中でいつまでも泣いていた。ぼくをつくったことを後悔するサチ。ぼくのことを想って、ぼくをころそうとしたサチ。そして、そんなサチを心から愛するぼく。二人とも、少しずつ狂ってる。狂っていて、けれどどうしようもなく正常だ。
 互いをただ慈しみあう関係。親子でも恋慕でもない。ぼくたちは、もっと深いところで繋がっている。指を伸ばして、縮めて、また伸ばす。この手のひらが君を本当の意味でころすなら、ぼくは迷いなく両手を切り落とすよ。でも今は。君を。泣き続けるサチの黒髪を何度も撫でた、あの夜。いつのまにか泣き止んだイオリが、まっすぐぼくを見つめていた。
「私も殺すのでしょう?」
 イオリの、藍色の長い髪が風になびく。廃墟に差し込む一筋の光が宙に舞う埃を照らし出す。
 嘘かもしれない。もしかしたら、ぼくの見ている景色は全部嘘で、サチも、サチに対する愛も憎しみも恐怖も。
 嘘だったら良かった。実はぼくはまだ形のないいきもので、あのふるい闇の中で見た夢だったら良かった。
「その右手の銃で」
 テロメアは息絶えた。イオリの靴の下で、静かに潰れた。眼球はとろけ、あかい水が流れて、けれどテロメアは幸福そうだった。つくられて、こわされて。逃げたくても逃げられない巨大なエゴの輪廻にまわされて、結局出ることは叶わなかった。それでもぼくは幸せだ。サチにつくってもらえたこと自体が、ぼくの意味であり幸福でもあった。
「サチさんを殺したその銃で、私も、殺すのでしょう?」
 サチは最期に、長い手紙を書いてくれた。壊れかけた右腕で、一生懸命。ぼくに宛てた手紙を。

ゆるさなくていい。私をゆるさないで。でもずっと憎んでいろなんて言わない。ただ黙って、哀しそうな目で私を見つめ続けてくれればいい。つくってはいけないものをつくってしまった。私の罪はそれだけ。ヒトと動物の境目は、一体どこなんだろうね? 動物の遺伝子なら好き勝手いじっていいのに、ヒトの染色体は並び替えてはいけない。これって変だよ。道徳とか倫理とか、難しいことは分からない。私がやったことは、摘み上げた遺伝子をシャーレからシャーレへ移し替えただけ。だけど、たったそれだけでも、神さまはゆるしてくれないんだね。私は失敗作だから、少し頭がおかしいんだ。善悪の判断なんてつかないよ、これっぽっちも分からない。だから君は私をゆるさないで。馬鹿な私をゆるさないで、そしてできればずっと覚えていて。お願いだよ。

 バランスが保てているのなら、何もおかしいことはない。つくられたものにしか分からないこと。死が欲しい。愛が欲しい。均衡は脆く、すぐに壊れる。
心に終焉を打つため、ぼくはサチをころした。きれいな赤い血にまみれて、サチは唇の隙間から言葉を漏らす。
「チヒラ。私、あなたのこと愛していたよ」
「ぼくもだよ」
 赤い光が滲んで消えた。ぼくの目の前で、幾千もの孤独が弾けた。もうすぐ迫る闇色を忘れたふりして、ぼくはサチに向かって微笑んだ。
「ぼくはサチをころした。ぼくはサチをあいしている。……これで満足?」
「うん。私、今とっても幸福だ」
 サチの瞳が小さく揺れた。目尻から、一滴水がこぼれる。ぼくの膝から、サチの黒髪が流れるように落ちた。音もなく閉じた瞼と、硬い指先。脇腹から流れ続けるサチの血が白い頬を汚した。ぼくはそれを親指で拭う。血のついた指先を舐めると、かすかに甘かった。誰かがつくったサチの血液。瞼の裏に潜んだ赤は、確かにうつくしかったね。どこまでも。

 ぼくはサチにつくられた。
 サチも誰かにつくられた。
 ふたりとも、ほんとうの人間じゃなかったんだ。
 ヒトでないものがヒトでないものを作り出す、そんなことが在ってはいけない。
 いけなかったのに、サチはぼくとイオリをつくりだした。
 世界のバランスが崩れる。
 つくったものつくられたもの関係なく、ぼくはサチを愛していたつもりだったのに。
 この感情さえもプログラミングされたものだったなんて。

 ねえサチ。にんげんになるって、とてもむずかしいことだね。




 かつてイオリだったものを、ぼくは手のひらで掬って舐めた。サチがつくったイオリの血液。かすかに苦い。
 愛がこの世界の正義なら、ぼくは正しい。
 広がる青い空が本当なら、愛はかなしい。
 ぼくは口を開けて、銃口を喉の粘膜にあてがった。鉄の味がする。この引き金を引いた後も、空は青いのだろう。ぼくたちの死体は残りつづけるのだろう。どうかもう、この世界に生まれてきませんように。愛なんて知らずに、暖かい闇の中でずっと死に続けていられますように。もうすぐぼくは人差し指を引く。飛び出してきた弾丸は、ぼくの喉を裂き背骨を壊し命を奪っていくのだろう。本当は、こんな鉛の粒なんかで死にたくなかったんだ。
 死にたくなかった。
 嘘。
 
 ほんとうは、サチにころされたかったんだよ。
沙里子
http://peekaboo0303.web.fc2.com/
2011年07月22日(金) 11時06分00秒 公開
■この作品の著作権は沙里子さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
去年の作品。SFのようでSFじゃない何か、小説と詩の中間、落書きみたいなものですが、感想頂けると嬉しいです。

この作品の感想をお寄せください。
No.9  沙里子  評価:0点  ■2011-08-19 10:20  ID:s2/IWHRoys.
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村雨さま

ご感想ありがとうございます。

>川端康成「反橋」「しぐれ」「住吉」
未読なのでぜひ読んでみたいと思います。

へえー、世界って宇宙含めてのことだったんですね……!初めて知りました。
確かに壮大な宇宙の前ではどんなことも無意味に思えますね……

ご感想、本当にありがとうございました!
No.8  村雨  評価:30点  ■2011-08-18 06:54  ID:AHDXDYyLKo2
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村雨と申します。

抒情詩な小説というのが一番いいのでしょうかね。勉強不足のため適当な言葉が見つかりません。
川端康成「反橋」「しぐれ」「住吉」あたりを思い浮かべました。

この三作の冒頭は共に、

あなたはどこにおいでなのでしょうか。

で始まるのですが、冷たく寂しい気配を貴方の作品も匂い立たせているなと思いました。

内容や文章表現においては、この作品に限っては、破滅的願望を持った世界観とそれに応じた心理表現が行使されているようで、マッチしていると思います。即物的な臓物を最初に出すことで、生理の根源にまで遡ろうとしているといいますか。

ところで、世界というのは、地球の中に息づく人間や海や山や文化などではなくて、宇宙空間全体を指す言葉らしいですね。

宇宙空間たる世界から見れば、意味など不要かもしれませんね。

夢幻のなかでまどろみました。
No.7  沙里子  評価:0点  ■2011-08-09 11:40  ID:s2/IWHRoys.
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時雨樹舘さま

ご感想ありがとうございます!
とても嬉しいです。これからも頑張って執筆していきたいと思います。
No.6  時雨樹舘  評価:40点  ■2011-08-07 18:48  ID:ZHaKzhz4Udw
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何回も読み返したくなる小説でした。
読み返せば読み返す程切なさがこみ上げてくる、こんな小説を私も書きたいです。
No.5  沙里子  評価:0点  ■2011-07-28 19:23  ID:s2/IWHRoys.
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境さま
ご感想ありがとうございます。

タイトルは、自分的にもう少しひねれば良かったかな、と思っていたのですが、雰囲気に合っていると言っていただけて嬉しいです。

>心情の流れがそのまま物語の流れに直結している風に感じられた
確かにそうですね……。いわゆるセカイ系というジャンルに入るのかもしれません。
予定調和、予想通りの展開ばかりになってしまったところは次回から気をつけたいと思います。
エピソード数そのものももっと増やしたほうが良かったですね。

ご意見・ご感想、本当にありがとうございました!
No.4  境  評価:30点  ■2011-07-28 00:55  ID:QfLJ/Mke12A
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 読ませていただきました。
 まず、タイトルが素晴らしいな、という風に感じました。特に本文中ではクローズアップされているわけではないんですが、全部読んで、「ああ、なるほど」と納得できると同時に、「むうん」と作品全体を振り返ってみたくなりました。効果というと語弊がありますが、タイトルが作品全体を牽引していて、雰囲気を盛り上げていたように思います。

 文章の表現でいうと、ひらがなであらわされているところ、カタカナのところ、漢字のところ、それぞれマッチしていて素晴らしいなという風に思いました。

 ただ、少し残念に思ったのが、心情の流れがそのまま物語の流れに直結している風に感じられたところです。予定外の出来事がひとつあった方が、最後の空虚さと欲望的な部分が際立ったかなと。主人公が被造物感をよりよく感じるエピソードがあってもよかったかなと。

 文体や雰囲気はとても切なくて、よかったです。また読ませてください。
No.3  沙里子  評価:--点  ■2011-07-23 13:31  ID:G16P/SM0Oq2
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山田さん様
ご感想、ご意見ありがとうございます。

>置き方が形式ばった感じがしてしまって、少し見え透いた印象を受けてしまいました。
そうですね、確かに蛇足だったかもしれません……。
読者の為というより、自己満足の雰囲気づくりの為に書いてしまった感じです。

>「分かりにくいだろうから、ラストを迎える前にきちんと説明しておかなければ」という意識が働いたのかもしれない
もうまさに仰るとおりです。話のいちばん大切なところなので、ぼやけたままラストまでいってほしくないな、という思いから付け足したような気がします。(あやふやですみません、随分前の作品なので)
けれど、何となくの曖昧な認識を「甘味な感覚」というふうに形容してくださったことをとても嬉しく思います。


HALさま
ご感想、ご意見ありがとうございます。

>イオリさんのプロフィールというか、姿が見えてくるのが、少し遅かったかな
確かにイメージの喚起しにくいですよね……反省します。
読み手様に対する配慮というかそういう細かい気配りができるようになりたいです。

日常のエピソードもどこかに入れておけば良かったです。
そうすれば相乗効果で悲劇がさらにくっきり浮かび上がってきたかもしれないのに……なんて今更ですが、次から意識したいと思います。
No.2  HAL  評価:40点  ■2011-07-22 23:09  ID:aDXBl/4mTww
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 拝読しました。

 美しい!
 いつもそうですが、文章の呼吸、作品を包む繊細な空気、美しい描写、表現が、すごく好きです。山田さん様がおっしゃっている
> 指先でつまんだ半音フラットのような
 ……の部分もそうですし、
> 睫毛の先に、淡い埃が絡んでいた
 こことか大好きです。
 なんだろう、うまくいえませんが。描写に、生々しいような現実感のある部分と、耽美あるいは幻想的な部分があって、そのバランスが、絶妙に好きだなと思います。

 気になるところは……あくまでわたしの感覚では、ですけれども、イオリさんのプロフィールというか、姿が見えてくるのが、少し遅かったかな? という印象がありました。序盤のシーンで、もうすこし詳しく人柄や外見などを描写してあったほうがわかりやすかったかなあと。

 あと、気になるというのとは違うのですが、悲劇が起きる前の日常、三人のあいだにあった、幸福な思い出、のようなエピソードを、中盤から後半のどこかで、ひとつ読みたかったかも、なんて思いました。ただ単にわたしの好みかもしれません。というか多分そうです、ごめんなさい。

 と、後半ずいぶんと好き勝手にぜいたくをいいましたけれども、ただの読み手のワガママですので、参考程度にさらりと聞き流していただければ充分です。
 楽しませていただきました。いつもながらつたない感想、どうかお許しくださいますよう。
No.1  山田さん  評価:40点  ■2011-07-22 17:30  ID:GuwX6j.lV5k
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 拝読しました。

 非常に切なくて悲しいお話ですね。
「落書きみたいなもの」とおっしゃっておられますが、もしこれが落書きみたいなものであるなら、僕の中の落書きの定義を変える必要がありそうです。

 あらすじだけを取り出してみると、かなりベタなお話かと思います。
 それを一気に読ませてしまう内容にしているのは、作者さんご自身も書いておられるように小説と詩の中間のような形態をとっておられるからかな、なんて思います。
 ところどころに、目を引く、はっとする、ドキっとする表現が点在していて、それらがこの作品を次へ次へと読ませる牽引力の一つの要素になっているように思いました。
「指先でつまんだ半音フラットのような」とか「ぼくは色を殺すようにぎゅっと目を瞑った」とか、他にも惹かれる表現があちらこちらにありました。
 そして最後のあたりに出てくる「この引き金を引いた後も、空は青いのだろう」という感覚。
 僕が死んだあとも空はずっと青いままなんだろうなぁ……この感覚って本当に何ともいえないものだと思います。




 気になったのは二か所。

 まず冒頭。
 あくまでも個人的な嗜好でいえば、「最初はただの幼稚なアイデアだった」で物語を始めてくださったほうが好きでした。
 イントロなしでいきなり歌から入る感触っていうか、このイントロ(「愛されたいのは、君もぼくも同じだったんだね〜こわすのは、だれだ?」までの章ですね)の置き方が形式ばった感じがしてしまって、少し見え透いた印象を受けてしまいました。
 まぁ、これはあくまでも僕の嗜好の問題ですから、この始まり方を支持される方も大勢いると思います。

 それと「ぼくはサチにつくられた」から始まる八行。
 僕は不要だったと思います。
 物語の背景を要約して説明されているような印象を受けます。
 僕やイオリがサチにつくられたことも、そのサチも誰かにつくられたことも、そこまでの物語を読めば「そういうことなんだろうな」と読み手は理解できるように思います。
 そして「そういうことなんだろうな」といったあやふやな感覚(僕にとっては甘味な感覚なのです)こそが読み手として必要だったように思えるんです。
 輪郭がはっきりとはしないんだけれど、おぼろげながらも姿形が見える、あるいは想像できるという感覚っていうんでしょうか。
 ですから、「ぼくはサチにつくられた〜」と明確に説明されてしまうと、そのあやふやで甘味な感覚がちょっと損なわれてしまったかな、という思いです。
 また、小説と詩の中間のような作品、ということからすれば、この箇所はちょっと他から浮いているようにも思います。
 このあやふやで甘味な感覚のまま「ねえサチ。にんげんになるって、とてもむずかしいことだね」の一文を読んだら随分と印象が変わったように思いました。
 もしかしたら作者さんご自身の中で「分かりにくいだろうから、ラストを迎える前にきちんと説明しておかなければ」という意識が働いたのかもしれないなと推測したりしていますし(違っていたらすいません)、読み手さんの中には、こういうきちんとした説明が必要だと感じていらっしゃる方もおられるかと思います。
 そう考えると、これもまぁ僕の嗜好の問題なんですが(汗)。




 とまあ、長々といろいろと役にも立ちそうにないことばかりですいませんでした。
 なんだかんだ書いてますが、この作品、好きです。
総レス数 9  合計 180

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