ワンスプーン・ハピネス
 くたびれたスーツ姿にビジネスバッグを片手に提げ、重い足取りで夜半の繁華街を一人歩く男がいる。
 だが特段繁華街に用があるわけでは無く、ただ帰宅途中の乗り継ぎ駅間の街路を通過しているに過ぎなかった。
 ふと見上げれば扇情的ないかにも猥雑な看板が軒を連ねている。
 しかしその男"俊夫"は一瞥しただけで再び帰路である駅の方角へ歩を進める。
 まっすぐ帰宅したからといって彼を待つ家族がいるわけでもなく、特に高じている趣味があるわけでもないのだが……。
『生きてるだけで丸儲け、か』
 俊夫は今の無気力な自分を確認するかのようにひとりごちる。
 そんな言葉を座右の銘にしていた時期があったような気がする。しかしそんなものはある程度の生活の充実、人並みの希望があってこそ吐ける言葉だ。
 この不況下、半年前職場をリストラされ何とか派遣エンジニアの職にはありついたが、契約が切れればその先はどうなることかなんの見通しもない。
『お別れしても、ずっと良い友達でいようね』
 結婚の約束までしていた女の別れ際の言葉がふと思い出された。
 リストラされて一ヶ月後のことだった。それから半年程はちょくちょく連絡がある度に高い晩飯をおごらされたりしていたが、最近はそれもぱったり途絶えた。
 まあ、よくある話だ、金の切れ目が縁の切れ目、女の割り切りは早い。
 思えば恋人関係を維持するなんてことにどれほどの時間的、金銭的リソースを使ってきたことか、それはある意味エントロピーを維持しようとする空しい努力だったのではないか。
 そうだ、おれはただエントロピーの増大を食い止められなかっただけなんだろう。
 おかげで女というものにしばらくは関わりたいという気持ちさえ薄れてしまっている。風俗店のきらびやかな盛髪女の写真を見ても嫌悪感すら感じる程だ。
 早く部屋に戻って眠剤でも飲んで寝よう。
 俊夫はこのところ極度の不眠症に陥っていた。最近記憶しているかぎり3時間以上ぐっすり眠った覚えがない。それでもなんとか生活できているのが俊夫には不思議だった。
 人間の適応力というのは凄いものだ、欝でさえも日常に変えてしまう。

 繁華街のはずれまで進み街路樹が途切れ、もう少しで駅前の大通りにさしかかろうとしたところだった。
「お兄さん」
 唐突に一人の女が俊夫に声を掛けてきた。街路樹の陰にでもいたのだろうか。
 俊夫は一瞥したもののなるべく目を合わさぬよう歩を進める。よくいる客引きだろう。
「お兄さん、時間ない?」
 俊夫は無視を続けた。だが意外にも女は厚底ショートブーツをけたたましく鳴らしながら俊夫の後を歩調を合わせて付いてくる。
「お兄さんってばぁ」
 妙にしつこいやつだ、俊夫はなにか文句の一つでも言ってやろうかという気持ちになり、改めて女のほうに目をやる。
 一見どこにでもいる街頭の客引き女の風体だ。黒いホットパンツに胸の開いた白の長袖ニット、首にはベージュのストールを巻いている。薄着なのか厚着なのか四十男の俊夫から見れば理解しがたい系のコーディネートというやつだ。
 しかし顔のほうは意外なほど端正だった、夜目という要因はあるにせよ、それほど厚化粧というわけでもなく、不潔感は感じられない。茶髪だがさっぱりとしたエアリーなショートヘア、前髪からのぞく黒目勝ちの目はグロッシーな形の良いくちびると共にネオンのきらびやかな光が写り込んで思わず見入ってしまいそうになった。
 正直いい女だ、いや、はっきり言って俊夫の超好みと言える。だがそれ故に今の俊夫には目の毒に思えた。さっさと追い払うべきだ。
「ああ、今時間ないんでまた今度ね」
 俊夫は常套句を口にすると駅のほうに向き直り歩を進めようとした。
「あたしのこと風俗の客引きだと思ってんだ」
 背を向けようとする俊夫に向かって女がつぶやくように言い放つ。
「え? 風俗じゃないにしてもいわゆる飲食店ってやつでしょ?」
 俊夫は相変わらず隣について歩いてくる女に、つられたかなと思いつつも皮肉混じりに答えてしまう。
「飲食店? ぷ、何それ? マスコミ用語ってやつ?」
「あのねえ、あんまりしつこいのはねえ、」
 俊夫は立ち止まりだめ押しの文句を続けようとした。だが、女のほうに向き直ったのに気を良くしたのか女はかまわず言葉を続けた。
「迷惑防止条例第8条、不当な客引行為等の禁止、でしょ? 知ってるよ」
 女はちょっと得意げに両手を後ろに組み俊夫の反応を楽しむかのように俊夫の目をじっと見つめる。
「へえ、良く知ってるね、でもそんなもんしょせん抜け道だらけの条例だろ、そんなこと知っててみんなやってるじゃないの、現にあんたも」
 なるほどこいつはプロだ、さすがにこの手の情報はちゃんとレクチャーを受けてるものらしい。俊夫は若干ガードを緩めた自分を自省した。
「だーかーらー、あたしはポン引きじゃないって言ってるの」
「ふ、ポン引きね、じゃポン引きじゃなかったらなんなの」
 俊夫は不覚にも頬を緩めて答えてしまう。
「お兄さんとちょっとお話したいだけだよ」
 風がそよと吹いたのか不意に俊夫の鼻に甘酸っぱい空気が流れ込む。女の臭い、長らく遠ざかっていた女のフェロモン混じりの芳香に俊夫はあらがいがたい心地よさを感じてしまう。
「まあまあ、ちょっとお話聞いてみてよ、損はさせないからさぁ」
 ふう、客引きじゃないにせよ、何かの売り込みってとこか。いわゆるデート商法的な……。
 しかし、よく聞くとこの女、美声の持ち主だ。よくいる見てくれは悪くないが声は酒焼け声という、ありがちなお水女とは一線を画している。
 俊夫は警戒心を維持しつつも女の妙に澄んだ声をもうちょっと聞いていたい気分になっていた。
「で? どういう系の商談なわけ? それとも宗教系?」
 俊夫は完全に釣られたかと思いつつも一応先手を打つせりふを女にぶつけてみる。
「あたしね、神様なんだ」

 出た、完全に宗教女だ。この手の宗教女にはときおり驚くほどいい女が任務に就いていることがままある。男の弱みにつけ込む狡猾な手だ。 俊夫は早々に逃げだしたい気分に戻った。
「ああ、うちはお東さんなんでそういうのは結構です」
「ふふーん、そんなこと言って、ホントはお兄さん無神論者なんでしょ?」
 声質には似合わないぶっきらぼうなもの言いだが、実際その通りだった。しかしまあ、神仏など冠婚葬祭に形だけお世話になるもので大抵の人間は無神論者と言ってしまっても間違いはないだろう。そう考えれば大した洞察力というわけでもない。
「おいおい、そんなこと言ってオレが敬虔な仏教徒だったらどうすんの?」
「ないない、分かっちゃうんだよなぁ、だってあたし神様だもん」
 女は思いきり胸を張りながら自信満々な様子だ。胸の開いた服の間から豊満なバストの谷間がこぼれ落ちそうに強調された。
 透けるような白さと弾力が見てとれる。この眺めは確かにある意味神々しい。俊夫は目線を微妙に逸らしながらも瞬時に目に焼き付けようと試みる。男の悲しい性か。
「で? その神様がオレになんの用があるの? なんか願い事でも叶えてくれるの?」
「んー、まぁそんなとこだよ、って、話聞いてくれるんだ」
 女はにっこり笑いながら両手を胸の前で組む。意外に控えめなネイルのカラーリングが一種上品に見えてしまう。
「じゃあさ、こんなとこで立ち話もなんだからどっか入ろうよ」
 女がはしゃぐように俊夫に体を寄せてくる。甘い匂いがひときわ強く俊夫の脊髄を刺激した。
 さあて、ここは大きな決断どころだ。
 俊夫は自分の財布の中身を頭の中で確認する。幸い生活費をさっき引き出したばかりで五、六万はある。
 とりあえず宗教系の勧誘であればいきなり大枚をはたくような事にはならないかも知れないな、とは思ったがこれほどの美形である、もともと神様などと口走るのは単なるおちゃらけで、その場合少なからずの金額を放出する羽目になるだろう。そうなるととても今の持ち金では足りないかもしれない。カードは利くんだろうか。

 ここまでくると、今の俊夫は理性より、男の本能が完全に勝利を納めていた。逆に何かの売り込みや、なんとかクラブの勧誘ですぐさま説明担当のベテランスタッフがこんばんわと、合流する展開となりそうだったら即退散だ。
 最良のパターンとしては小遣い稼ぎ目当ての素人娘だろうが、今時ありえない気もする。せいぜい客にあぶれたデリヘル嬢が気まぐれに声を掛けてきたってとこか。そんな話もあまり聞かないが。
「ねえ、なにぼーっと考えてんの? 早くいこーよ」
 もう完全にキャッチ成功ということになっているらしい。ここで女の指定する場所までのこのこついて行けば完全にカモ確定だろう。
 俊夫は意を決した。
「で、どこに行こうって言うの?」
 俊夫は、努めて気乗り無さそうな口調で女に尋ねた。
 この質問の答え如何で、あらかたの展開が予想できる。俊夫は女が本性を見せる瞬間であろう返答をなるべく期待せず待っていた。
「んー、どこでもいいよ、二人きりになれるとこなら」
 デリヘルか、いわゆる援交ってやつで確定か。女を買う、俊夫にとっては初めての経験といってもいい。だが自分とていい歳をした男だ、あたふたするわけにはいかない。
 俊夫は落ち着いて辺りを伺う、特に怪しげな人物は見あたらなかった。ともあれまずは人目の無いところに行くのが先決だろう。
「どこでもって、どこ? じゃあその辺でいい?」
 俊夫は目線ですぐそこに見えるラブホのネオン看板を女に指し示してみせる。
「いいよ」
 女が答える、目線をやや落とし微笑むように見えた。
 完全割り切り系だな、まあ話が早くていいんだけど。俊夫は声を掛けられた場所からあまりに近い場所もややリスキーかといいう思いが頭をよぎったが、どこに行ってもそんな疑念がついて回るのは同じ事だろう。俊夫はあえて自分から女をリードする形をとった。

 巨大なネオン看板の割にはわかりにくい場所にあるエントランスをくぐると部屋番号と写真が並ぶ電光パネルの出迎えを受ける。ランプの消えている部屋は使用中だ。明日は休日ということもあってか、安い部屋から半分以上が埋まっていた。
 俊夫は女のほうを伺ってみる。特に物怖じする風でもなく、きょろきょろと物珍しそうに辺りを見回していた。
 携帯でどこかに連絡するものとばかり思っていたがそのそぶりも見せていない。
 こりゃ本当にプロではないのだろうか。それともすでに業界の狡猾な罠にまんまと引っかかっているのか…… ええいままよ。まさか、タマを取られるわけでもあるまい。
「どの部屋にする?」
 俊夫は努めて平静を装い女に訪ねる。
「ああ、この中から選ぶんだよね、んーこのパイレーツ風って書いてるのがいいかも」
「203号室ね、はは、じゃそこでいいよ」
 部屋は二階だった。"ラビリンスと"いう名前を冠したホテルにしては、いたってシンプルな内部構造だ。案内表示に沿って部屋まで続く階段を上る。そのとき、階段を下りてこようといていたメンテ要員があわてて部屋に戻る音が聞こえた。こんなところでいわゆる日本人的な奥ゆかしさをかいま見るのは皮肉なものだ。
 そして誰しも部屋に入るまでは無言でそそくさと移動する。どんな間柄だろうと、いろいろな思惑が交錯する時間なのだろう。
 幸い他の客と会うこともなく203号室までたどり着く。重めの防音ドアをを開けるとパネルの写真よりややくたびれた感じの明るい部屋が広がっていた。
 ドアを閉めると同時に精算機の音声が鳴り響く。
『いらっしゃしませ、会員カードをお持ちの方はお早めに挿入お願いします』
 初めて入るホテルだ、俊夫は当然そんな物は持ち合わせていない。精算機には、お休憩、お泊まり、ご精算の三つのボタンが並んでいる。
 今は午後9時をちょっと過ぎたあたりだ、午後8時以降は宿泊を選べば料金は一律で、0時を超えると自動的に宿泊料金がプラスされる仕組みとなっている。もちろん俊夫はご休憩のボタンを押した。
 ドアのオートロックが作動する音が聞こえる。
 ここまでくると俊夫の緊張も解け、一呼吸落ち着いた気分になる。ある意味優位を勝ち得た気がするものだ。少なくない対価は発生するにせよ……。
「はやくおいでよー、こっちだよ」女は素早くブーツを脱ぎすて、部屋の奥から俊夫に呼びかける。

 女は部屋のど真ん中に設置されたバイキング船をかたどったベッドをためすがめつ点検している。ベッドの四隅には手かせ足かせがセットしてあった。ちょっとしたSM趣向が売りの部屋のようだ。
「へえ、なるほどねえ、こうなってるんだ」
 ベッドの柱に繋がれた手かせを引っ張りながら女が驚いたように言う。
 まあ、素人臭さを演出するちょっとしたポーズだろうと俊夫は思ったが、ここまできたらそんな必要も無いだろうに。
「そんなの珍しくもないだろ?」
 俊夫は女の背後に立ち、腕を女の腰に回り込ませる。
「あん、ちょっとー、まずはお話でしょ」
 女は腰をくねらせながら俊夫の腕から逃れる。
「ああ、ごめんごめん、そうだったね、お茶でも飲む?」
 俊夫はキャビネットの中に置いてあるティーセットを取り出し、テーブルに並べた。ティーポットのスイッチを入れ、お湯になるのを待つ。
「わあ、気が利くね、あたしコーヒーがいいかな、お兄さんは何にする?」
 女はインスタントコーヒーの袋を破りカップに入れた。
「おれは、紅茶がいいかな?」
「おけー」
 あっという間にお湯が沸騰し、女がカップに湯を注ぐ。
「早いね、沸くの、あ、お砂糖は?」
「ん、要らないよ、ストレートで」
「んじゃ、あたしもブラックで」
 俊夫はお茶を入れる女の手元から一応目を離さないように気を付ける。
「はい、できたよぅ」
「ありがとう」
「ふう、落ち着くね」 
 女はベッドに腰掛けて、二、三口コーヒーをすするとベッドサイドのテーブルにカップを置く。
「温まったら横になりたくなるね、寝ながらお話しよっか」
 女は掛布をクッションの間から引きはがすそうに足下までまくり上げるとベッド奥の方に仰向けに横たわる。ニット地のトップスはソファの上に脱ぎ捨てていた。今はブラが透けて見える程の薄いシャツにホットパンツから延びる素足がまぶしいほどだ。
 俊夫はてっきり商談が始まるのかと思っていたのだが。
 この女、どういうつもりだろう?
 俊夫はカップを置き、ベッドに向かう。
 女の左側に腰を下ろし、足下の方からじっくりと女の体を眺めた。張りのある胸は横になっても形をほとんど崩していない。寄せ上げブラの威力かもしれないが。
 こうして近くで見てみると化粧や服装のせいで若く見せているわけでは無いようだ。実際ハタチそこそこにしか見えない。
 俊夫はベッドの枕側にある照明調節を適当にいじって部屋の明るさを半分程度にした。女は何も言わず俊夫の行動を見守っている。
 俊夫も女の横に寝そべり、自分の腕枕で女に向き合う姿勢をとる。左手の持って行き場に迷ったが、とりあえず女に触れない位置に置いた。
「えーとっ、シャワーはいいの? お風呂にお湯張ってこようか?」
 俊夫は何となく昔のクセで女に尋ねる。
「いいのいいの、そんな汗かく季節でもないじゃん、あたしはお兄さんとお話がしたいんだから」
 俊夫は女が時間稼ぎを狙っているのだろうとは思ったが、料金システムもよくわからないし、がっついてると思われるのもしゃくだ。
 ここは男の余裕をみせてお話タイムとしよう。

「ああ、そうだったね、ところで、名前聞いてないよね、なに子ちゃんって呼べばいいの?」
「あは、子は付かないでしょ、いまどきぃ」
「まあ、そうだろうね、で? なに美ちゃん?」
「あ、当たり、マミだよ」
 女が大きく瞳を見開いて答えた。驚くほどの事でもないとは思うが、俊夫はその見開いた瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚えた。
「へえ、かわいい名前だね、じゃ、マミタンって呼ぼうか」
 どうせ源氏名なんだろうし、少しは恋人ごっこの感じを出すのも形式美というものだろう。
「えー? いきなりマミタンなんだ、いいけどさぁ、じゃああたしもお兄さんのこと、トシちゃんって呼んだ方がいいかな?」
 俊夫は一瞬ギクリとしたが、スーツの裏地にネームが刺繍してあったのを思い出した。いつの間に見たのだろう。
「ああ、さすがは神様だね、なんでもお見通しなのかな?」
「そうだよぅ、マミタンに嘘付かない方がいいよぅ、ベロ抜いちゃうよぅ」
「えんま様みたいだね、怖い怖い、おれ嘘付くの下手だから大丈夫だよ」
「知ってるよ、だからお兄さんを選んだんだから」
「へえ、そうなんだ、じゃマミタン様はどんな願い事をかなえてくれるのかな?」
「なんでもおっけーだよ」
「はは、頼もしい神様だね、じゃ願い事はいくつまで?」
「いくつでも」
「おっとー、おれそんなお金持ちじゃないよ」
「それも知ってるよ、マミタン様だからね」
「えーっと、料金表とかある?」
「そんなのないよ、それにお金なんかいらないよ」
「マジ? なんで? ボランティア?」
「だってマミタンは神様だって言ってるじゃん」
「そっか、じゃそういうことにしとくよ、女神様」
「そうそう、素直が一番だよ、じゃトシちゃん、お願い事言ってみて」
 俊夫はお金は要らないと言う女の言葉を鵜呑みにしたわけではないが、とりあえずここは女のファンタジーに話を合わせないと事が進まないようだ。
「じゃあねえ、手握っていい?」
「だめ」
「え? なにそれ、どういうプレイ? おれってこう見えてもノーマル指向なんだけど」
「もっとちゃんとした願い事言ってよ、かなえ甲斐のあるさぁ」
 俊夫はややうんざりしてきたが、これもじらしのテクニックなのかも知れない。そうなるとなおさら男の余裕を無くすわけにはいかない。
「はいはい、じゃ神様マミタン様、我を世界一の大金持ちにしてつかぁさい」
「ムリ、それに変な方言ふざけすぎ」
「ありゃ? いきなり無理って、頼りない神様だなぁ、でも大金持ちなんて願い事の定番だろ?」
「だめだよぅ、世界一なんて、えいきょーが大きすぎるモン」
「影響? それって社会経済みたいな?」
「そうそう、それそれ、たぶん十億円くらいだったらなんとかごまかせるけど、けっこー難しいんだよ、ろんだりんぐとか」
「はっは、おもしろいね、マミタンは経済の勉強とかしてたのかな? そりゃいきなり現金で何兆円も勝手に作っちゃったらいろいろ不都合が出るだろうけどさ、なんかあるだろ、株とか万馬券とか宝くじとか。あ、それだといきなり世界一の長者ってのは無理か」
「そうだよぅ、だからムリ」
 この女、こんな他愛もない話がしたい為にこんなところまで来たのだろうか?
 誰しも一度はする、宝くじで一等が当たったらどうする的な夢物語を……。
「ところでマミタンさぁ、キミってなんの神様なの?」
「神様は神様だよ、信じてくれないなら神様やめちゃうよ」
「ん? やめちゃったらどうなるの? ロハじゃなくなるってこと?」
「やだ、ちょっとなに言ってんのかわかんないけどぉ、マミタン消えちゃうよ」
「え? 消えちゃう? そりゃないよ、ごめん、信じる、信じます」
「ホント? ホントに信じる?」
「信じる信じる、神掛けて信じます」
「くすっ、ヘンなの、無神論者でしょ? トシちゃんは」
 この女、どうもおかしい。カマトトぶってはいるがただの援交女でも無さそうだ。
 俊夫は持ち前の好奇心が頭をもたげてくるのを感じていた。
 女の色香につられてこの状況まできてしまったが、ひょっとしたら本気で自分が神様だと思いこんでいるのだろうか?
 それも考えにくいが、あまり逆らってなにかめんどうなことになるのも困る。
 俊夫はさりげなく女の手首を目線でチェックしてみた。傷跡は無いようだが……。
 なにはともあれ、もう少し話を合わせて様子を見た方がよさそうだ。
「それじゃあさ、マミタンが神様だっていう証拠をちょっと見てみたいなあ、なんでもいいからさ」
 俊夫はちょっと意地悪かとは思ったが、女の真意を測りたい衝動が抑えきれなかった。
「証拠? それ見たら信じれるの?」
「そうそう、なんかちょっとだけでも奇跡みたいなの見せてよ、神様らしいやつ。できる?」
「えー、じゃなんかリクエストある?」
「そうだなぁ」
 俊夫はここでシモ路線に流れを無理矢修正すべきかやや迷ったが、どうもそういう雰囲気でもない。
 俊夫はしばらく考えた後。
「じゃあさあ、物品取り寄せとかは?」
 俊夫のイメージでは、インチキ臭い神様の得意技は大抵これだ。空中から品物を出現させる、いわゆる奇跡の中でも一番わかりやすいパフォーマンスだろう。取り寄せという言い方が正式名称だったかは怪しいが。
「ぶっぴん? なにか出して見せればいいの?」
「うん、神様らしい物を出してよ」
 まさか舌出して、はい出ましたー、とかはやらないとは思うが、さてどうするマミタン。
「わかったよぅ、じゃなに出そうかなぁ。神様らしいものねぇ……」
 マミは上半身を起こし羽毛枕に腰を据える。俊夫もつられて体を起こす。なぜか正座してマミに向き合う姿勢をとってしまった。
 俊夫は脊髄反射で男の願望からくる期待が復活するのを感じていたが、マミの動作は俊夫の期待に応える物では無いようだ。
 マミは右腕を上方に高く上げるとそこで握り拳を作って見せた。顔は真剣そのものだ。そのまま右手を下ろし俊夫の目の前で手を開いて見せる。そこには、なんと男物の銀ベルトのクオーツが重そうに乗せられていた。俊夫はおそるおそるそれを受け取りチェックしてみる。確かに腕時計だ、しかもSEIKOの刻印までちゃんとされている。
 俊夫は腕時計とマミの顔を交互に見比べた。ぽってりしたアヒル口のくちびるがドヤッと言う感じで得意げに結ばれている。
 手品? そうなんだろうが、問題はこの時計だ。この女、相当なオカルト好きなのか? いや俊夫が思うよりもメジャーなエピソードだっただけか?
「どう、信じた? あたしもやればできる子なんだよねぇ」
 マミは無邪気に満足そうな笑みを浮かべている。
 俊夫はしばらく時計を眺めていたがマミのほうに再び向き直る。
「マミタンはサイババって知ってる?」
「え? サイばば? サイのおばあさん?」
「いや、知らないならいいんだけどさ…… で、この時計はおれにくれるの?」
「ダメー、見せるだけだよ、だってちゃんとした願い事って訳じゃないでしょ」
 そう言うとマミは時計を自分の右腕にはめた。大きすぎてぶらぶら状態だが。
「あれ? さっき願い事は無制限って言わなかったっけ?」
「いったよ、お願い事を聞くのはいくつでもおっけーだけど、かなえて上げられるのは一つだけだよ」
「え? そう言う意味だったの、なんか詐欺っぽいなー」
「ひどーい、マミタン詐欺師じゃないモン、詐欺師だったらトシちゃんみたいなビンボー人ねらわないよ」
「はっはっは、確かに貧乏人です、でもね、貧乏人ほど詐欺に引っかかりやすいものだからね、世の中」
「そうなの? トシちゃんって いろんなことよく知ってるね、物知りぃ」
「神様のくせにそんなことで感心してちゃ駄目なんじゃないの? まあ全知全能の神じゃないのはわかるけどさ」
「あ、またディスられた…… マミタンだっていろいろ知ってるよ、でもまだ勉強中なんだよ」
「え? いやいや、そっかあ、ごめんね、そうだよね、そんなに若いんだし、かわいいし、手品もうまいんだし全然おっけーだよ」
「えへ、まだまだだけどね、まだ800歳になったばっかりだし、でもやっぱりトシちゃんのとこに来れて良かったよ、やさしいもん」
 優しい、か、なんとも陳腐なほめ言葉だ。そんなものがクソの役にも立たないことがこの歳になってやっと分かったところだよ、800歳のお嬢ちゃん……。
 しかし不思議な子だ、ただのデリヘルか援交女と思っていたが…… 俊夫は久しく覚えたことのない感情に徐々に足下がさらわれていく気分だった。純粋に話しているだけでも楽しい、悪くない。トークとマジックショーで引っ張る、新種の美人局だろうか。
 俊夫はもうしばらくマミの白昼夢につき合っても構わない気がしてきた。

「ねえ、マミタン、お願い事のルール教えてよ、やっぱり一言で言える的なものかな?」
「そうだよぅ、ドラえモン出してとかはムリだよぅ」
「あ、やっぱり? それじゃ面白味もクソも無いもんね」
「そうだよ、欲張りすぎちゃダメだよ」
「じゃマミタンさぁ、お金はいいから、不老不死とかは? 欲張り過ぎ?」
「不老不死? できるよ、ホントにそれでいいの?」
「え? できちゃうの? ちょっと意外だね」
「うん、それもてーばんってヤツでしょ、けっこーリクエスト多いんだよね、それって」
「へえ、マミタンは今までにも誰かの願い事かなえてあげたことあるんだ、神様的なノルマでもあるの?」
「そんなの無いけど…… 呼ばれるの、気が付いたらその呼んだ人のとこに行けちゃうの」
「ふーん、じゃマミタンはおれが呼び出したってこと? 不思議だね、無神論者でなんの宗教も信じてないおれなのに」
「呼んでたよぅ、自分じゃ気が付かないんだよぅ」
「でもさあ、やっぱり神様といえば何か宗教がらみなもんだろ? でもマミタンは、キリスト教でもないし、仏教でもないだろうし、やっぱヤオヨロズの神的な感じかな」
「んーっと、神様わぁ、そこに信じる心があれば出てこれるんだよぅ」
「信じて無いのに?」
「……信じてるよ、マミタンのこと信じてないの?」
 マミは神妙な表情で俊夫の目をまっすぐ見ながら言う。俊夫はなぜだかぎくりとさせられた。なんの信憑性も無いくせに、なにか気迫がある口調だ。どういうわけだろう。
「あ、あぁ、そうだね、信じてるってさっきも誓ったもんね、でも……」
「神様はね、人がいるから神様でいられるんだよ」
「マミ、タン……?」
「キリストさまを信じてる人にはキリストさまが、ほとけさまを信じてる人にはほとけさまがちゃんと見えるんだよ」
 マミは俊夫に向き合いながらも遠くを見るような目で諭すような口調になっている。
「それは…… 分かるけどさぁ、ここはルルドの泉でも、菩提樹の下でもないぜ」
「そうじゃないよ、どこだって、なんだっていいんだよ、マンガを信じてる人にはマンガの神様が見えるし、お勉強を信じてる人には勉強の神様がちゃんとついてるんだよ」
 なにやら、マミの弁舌に力がこもってきた。いよいよ何か降りてきたのだろうか? 
 もしここで、
『あ、わかったー、おれが呼び出したんだったら、マミタンはスケベの神様でしょ』
 なんて口走ったらどうなるんだろうか。しかしまあ、ここは空気を読めというやつか。
 ――おれが呼び出した神様…… おれが信じるもの…… 無神論者のおれだから…… もしかして――
「じゃ、さ、マミタンはひょっとして」
「うん! スケベの神様だよぅ」
俊夫の言葉が終わらぬうちにマミが返答する。
「え!?」
「うそうそ、じょーくだよ、マミタン一流のじょーく。んー、なんかちょっとお説教ぽくなっちゃったかなと思ってー、この辺でじょーくのいっこもいれとかないとね」
 何から何までジョークとしか思えないこの会話の中、マミは本気で言っているのだろうか?
 そしてはっきりとは言い切れないがこの女、ある種のエスパーなのかも知れない。もしかすると天然テレパスの持ち主か?

「ねえマミタン、スケベなおれだけどさ、おれマミタンがなんの神様だか分かったかも」
「あれ、ホントに?」
「つまり、無神論者、唯物論者の神様だろ」
「うんうん、そんな感じ、神様がいないって信じてる人の神様だよ」
「……もうなんか、とんちの世界だよな、マミタンは一休さんとか好きなの?」
「もちぃ、大好きだよー、でもきっちょむさんの方が好きかなぁ、なんか庶民的でしょ」
「きっちょむさん…… キミ歳いくつなの?」
「800歳」
「そっか、そうだったね、つい忘れちゃうよ、ごめんね」
「いいんだよ、マミタン生まれたのは800年前だけど、出てこれるのは10年に一回くらいだから」
「へえ、その時が呼ばれた時ってこと?」
「うん、そうだよ、だから見た目よりも幼いねって、毎回言われちゃうんだよねー」
「ほんと、ヘンだよね、神様なんだからどんな人間よりモノを知ってるのが普通なのに」
「そう、そこが難しいんだよね、でもあんまり偉そうにするとそれはそれで…… あ、ううん、なんでもない」
 マミはひどくあわてた様子で言葉を打ち消した。俊夫にはその言葉の続きがわかったような気がしたが、今は深く考えないほうがいいような気もする。まだ願い事も叶えてもらっていない今は……。
「でもなんでおれがその代表なの? 世の中にはおれなんかより、もっと凄い唯物論者なんていっぱいいるだろ? ノーベル賞取った物理学者とかさ」
「えー、そんな人めんどくさそうだもん、それにそうゆう人は意外に神様とか、奇跡とかに弱かったりするんだよね」
「ふぅん、それだと無神論神としちゃ、出て行き甲斐が無いね、それに社会的成功者にそんな救済は必要ないわなー」
「そうだよ、格差社会のじょちょーになっちゃうよ」
「はは、良かった、おれ社会の敗残者で」
「うんうん、ホント良かったよぅ」
 マミは本当に悪気が無いつもりなのだろうか、いや、敗残者の意味を理解しているのかどうかも怪しいが。
「ま、とにかく恵まれない負け組に希望を与えに来てくれたわけだ」
「そうだよ、世の中捨てたモンじゃないよ、タイタニックに乗ったつもりでマミタンにまかせてよ」
「へえ、マミタンは親父ギャグも完璧だね、800歳はダテじゃないんだね」
「あ、やっぱりわかっちゃう? そうなんだよねえ」 
「はは…… よーし、じゃやっぱり願い事は、不老不死でいくかー」
 さて、マミは今度はどんなマジックを使う気だろうか。ガマの油売りじゃないと良いのだが。

「うん、それでいい? じゃあいくよー、あんまりお奨めじゃないけど」
 マミは再び背筋を伸ばしさっきのようにポーズを取り始める。
「ちょっと待って、なんかお奨めじゃないってのが気になるんだけど、なんで?」
「うん、なんか人によって違うんだけど、不老不死になると無気力になっちゃう人が多いみたいで……」
「へえ、なんでだろ、永遠の生って人間の普遍的な夢だと思うけど? どんなにお金や地位を築き上げても年取って死んじゃったらそこで終わりだろ?」
 マミは少し考えている様子だったが思い出したように語り出す。
「あのね、さっき駅で地べたに寝てた人いたじゃない」
「ああ、汚いかっこしたホームレスっぽい男かい?」
「うん、あの人も前にお願いかなえてあげた人なんだ……」
「そうなの? 前って言うと?」
「100年くらい前かな、やっぱり不老不死をお願いされてー」
「で、かなえてあげたんだ」
「うん、だから今も元気で不老不死やってるんだけど、不老不死になるとすごく気長になっちゃうんだよね」
「まあ、あわてる必要なくなるもんね」
「うん、それでね、不老不死って言っても不死身になる訳じゃないから」
「あ、そうなの?」
「そうだよ、老化はしないし、病気にもかからないし、怪我しても治りが早い体になるんだけど、普通の人が普通に即死するような目にあっちゃったらやっぱり死んじゃうんだよね。だからね、事故がおきるかもしれない車とか飛行機とか、電車にもめったに乗らなくなっちゃうんだ」
「そんなもんかなあ、実際なってみないと分からないけど…… でもせっかく生きてるんだったら有意義に命を使いたいって思わないのかな?」
 マミはどこか悲しげな表情を浮かべている。きれいに整った眉が小さく引き寄せられて見えた。
「ほりゅー、しちゃうんだって、人がなにかする時って、まず決めなくちゃいけないでしょ? どこに行こうとか、誰に会おうとか」
「保留ねえ、とりあえずいくらでも時間があるとしたら保留したいって気持ちになるのかなあ、永遠の保留…… なんとなくわかる気がするな」
「うん、だからほとんどの人はなんにもしない人になっちゃうんだよね…… 今は世の中が住みにくい時代だから、もうちょっと楽に暮らせる世の中になるまで待とうとか」
「ふーん、でも長く生きてればさあ、記憶とか知識はどんどん豊富になっていくんじゃないの? 年の功って奴でさ、それをうまく使えばちょっとは名の知れた人物になって、いい生活できそうなもんだけど」
「それがダメなんだよね、人の記憶って限度があって、ある程度忘れながらじゃないと新しいこと覚えられないみたいなんだ。それに、有名人になるのはムリだよ、ばれちゃうもん」
「あ、年取らないのはねえ、そりゃ芸能人にしても無理があるわな」
「そう、だから家族や兄弟ともじきに縁がなくなっちゃうんだ…… 友達や、恋人とも…… いつかどっかで失踪するか死んだことにするしか無くなるんだよね」
「ふーむ、そうなると孤立無援な路上生活者になるってのは結構理にかなってるのかもしれないね、なるほど」
「うん、でもそんな人ばっかりってわけでもないよ、中には外国に行ってなんかの教祖様みたいになってる人もいるよ。それかいろんな国を転々と渡り歩いたりする人とか」
「へえ、でもそれってかなり命がけだよね、大事な不老不死をふいにするかも知れないのに」
「うん、そうゆう人はただ生きてるのに飽きちゃった人が多いみたい。もう死ぬなら死んでもいいや、みたいな」
「それって、飽きる、というか生きてるのに疲れてくるのかな?」
「うん…… ほんと言うと自殺しちゃう人も多いんだ」
 マミは壁に掛かっている極楽鳥の絵を見つめながら吐露するようにつぶやく。
「だからね、人の命は短くてはかないからこそ、大きな事を成そうとするんだって。でも、自分の命をどう使うかなんて自由だしね、何が良いとも悪いとも言えないよ」
 ……どうもこの女、作家志望かなんかのリアリストで、話のネタを求めてこんな事やってるんじゃ無いだろうか?
 俊夫はふとそんな考えが頭をよぎった。
「マミタンって哲学者なんだねー」
「ちげえょー、神様だよ」
 マミはかわいくふくれ顔をしてみせる。さっきの沈痛な表情はもうみじんも残っていない。
「あ、やっぱり?」
「そうだよ、こんな話するのは特別大サービスなんだからね、お願い事がかなってもそれをどう使うかは、自己責任なんだから」
「自己責任ねえ、じゃあもうちょっと他の願い事顛末記も聞いてみたいね、参考例として」
「うん、いいよ、トシちゃんにだったらなんでも教えちゃうよぅ」
「はは、それじゃさあ、いっそお願い事一覧表みたいなのは無いの? お奨め点数付きでさ」
「えー、そんなの無いよ、トシちゃんって表が好きだね、職業病? あのね、お願い事はあたしができるかできないか聞いてから判断することになってるんだ」
「うーん、そうするとあんまりややこしいことはお願いしてもダメっぽいね」
「あ、またぶれいなこと言ってる! 言ってみてよ、例えば?」
「うーん、例えば、そうだなぁ、宇宙の果てが見てみたいとかさぁ」
「あはっ、トシちゃんらしい感じだよねそれ」
 確か、俊夫の記憶では学説的には宇宙に果てなど無いというのが一般的な説だと思ったが、どんな答えが返ってくるのだろうか。それともまた、一休さんか。

「宇宙の果てねえ……」
 マミは意外にも考え込んでいる。羽毛枕に勢いをつけて倒れ込み、上を向いて頭を沈めると髪の毛を後ろになでつける。やや尖った小さな耳が俊夫の目に飛び込んできた。俊夫もつられてまたさっきのようにマミのほうを向いて横向きに寝そべる。
「できるけどぉ、見てもあんましおもしろくないよ」
「あれ? またお奨めしないってやつ?」
「うん、たぶんがっかりすると思う」
「そんなの見てみないとわからないだろ」
「それに、それって消えモノでしょ、見ちゃったら、はい終わりの」
「消え物…… ってお土産のお菓子みたいに言うね、でも見れるってことはあるってことなんだよね?」
「あるよ、ふだんは見えないけど」
「普段って、地球から見えるの? 星座とかで言ってどっち方面?」
「えーっと、たしか和歌山の辺りにあったかも」
「えっ? 日本?」
「うん、この辺の分かりやすいとこでいくとね。今から行ってみる?」
 この女、和歌山出身なのだろうか? 訛りは無いようだが。
「和歌山…… あのさぁ、別に和歌山県をばかにする訳じゃないんだけどさ、やっぱやめとこうかな……」
「うん、そのほうがいいよ、別のにしなよ」
「そうだよね、ちょっと聞いてみただけだし、じゃあそうだなあ、何が良いか……」
 俊夫はそう言いつつも次の注文は決まっていた。実際なんでもかなう願い事を言えと言われればネタなどいくらでもあるのだが。

「うーんやっぱりあれか、超能力系ってやつ」
「どきっ、い、いちよー言ってみてよ」
 マミはなぜだか動揺しているそぶりだ、あながちおどけてるようにも見えないところが心憎い。
「あれだ、タイムトラベル能力、やっぱそれが最高だよな」
「ダメー、絶対ダメ」
 マミが俊夫の言葉を遮るように叫ぶ。
「早っ、なんかどんどん夢のない神様になってきたね」
「だってぇ……」
「やっぱりあれ? 社会秩序が乱れるとかの?」
「うん、あのね、前にそれ一回かなえちゃったことあるんだけどぉ…… 大変なことになっちゃったんだ」
「大変なこと? どうなったの?」
「例えばね、トシちゃんが一分前に戻るとするでしょ」
「うんうん」
「それやっちゃうと、その瞬間にトシちゃんが無限に増えて、トシちゃんフェスティバルになっちゃうんだよ」
「ん? なんかいやなフェスティバルだなあ、それって…… でもあんまり聞かないタイムパラドックスだけど、そうなるかな?」
「それがなっちゃうんだよ、一分前に戻った瞬間にさ」
「うーん、そう言われれば、そうなるような気もするけど…… でもそれって誰の視点から見るかの問題じゃないの?」
「神様視点ではだめなんだよぅ」
「神様なら、そういうややこしいことは都合良く解決できないの?」
「ムリ、だってあたし理論派なんだもん」
「はっは、理論派と来ましたか、まあ確かに無神論の神様ならしょうがないかな。で、一分前に戻っただけでインフレーションが起きちゃた世界はどうやって元に戻せばいいの?」
「え? 簡単だよ、二分前に戻すだけ」
「……きっちょむさん?」
「神様視点だよ」
 マミはさも当たり前と言った感じで言い放つ。
 しかしこの女、マミはSF好きなのだろうか? ひょっとするとSF作家志望とか。

「よーし、分かった、じゃもうちょっと簡単そうなやつ、透明人間になれる能力とかは?」
 俊夫はありきたりかとは思いつつもマミのとんち問答のお題には手頃な気のする注文を出してみる。
「できるよ」
 マミは今度は事も無げに言う。
「本当に? でもなんか副作用があるんだろ? どうせまた」
「んー、無いこともないけど」
「分かった、目が見えなくなるんだろ、網膜が透明になるから」
「え? ちがうよ、そんなことぐらいは神様パワーでなんとでもなるよ」
「あれ、そうなの? マミタン法則って難しいね」
「そうじゃなくて、あのね、透明になるじゃない」
「うん」
「それでね、よく車にひかれちゃう人がいるんだ」
「へ?」
「駅のホームから落っこっちゃう人もいたし」
「なんで? そんなのただのドジじゃないの?」
「うーん、そう言っちゃうとそうなんだけど、つい油断しちゃうんだよね、みんな」
「そんなことになるかなぁ?」
「あのね、透明だと誰も気づかないからぁ、人がたくさんいる場所だとぶつかりまくっちゃうんだよねぇ」
「はあ、なるほど、それで道路にはみ出たり、ホームから落っこちるってことか」
「そうそう、まぁそれも自己責任なんだけどね、気をつけてれば良いだけだし。それかあんまり人がいないとこで透明になるか」
「それは…… なんか空しいな」
「そうなんだよねぇ、透明人間なんて人にいたずらできてなんぼって感じでしょ?」
「はっは、よくお分かりで。しかしまあ後ろにも目が付いてるくらいきょろきょろしていないと危ないわけか」
「そうだよぅ、神経まいっちゃうよぅ」
 マミは脅すような口ぶりだ。

「はいはい、なんか簡単な願い事の割にはリスキーなのはよく分かったよ。うん、やめとく、なんか性に合ってない気もするし」
「そうだよぅ、トシちゃんはもっと堂々と神様パワーを使うべき人だよ」
「堂々と、か…… そうなるとやっぱあれかな?」
「なあに?」
「そのものズバリ、男の夢ってやつ」
「夢? 男限定なの?」
「まあ、男でも女でもいいんだけど、いわゆる人生の最大関心事ってやつかな」
「ふぅん…… いいよ、言ってみて」
「うーん、でもなあ」
「どうしたの?」
「なぜか言いにくいんだよなー」
「なんで?」
「つまりさ、本屋の店員がかわいい女の子だと買いにくい本があるだろ」
「本が欲しいの? トシちゃんって読書家なんだね」
「いや、そういう意味じゃなくて、つまり男の本能がかなう願い事って言ったらさあ…… あれだろ?」
「……分かってるよ、ホントは……」
「おっと、さすがマミタン」
「トシちゃんのえっち」
「ちょっとー、そんなこと言われたらますます口にできないだろ」
「若いね、トシちゃんって」
「おいおい、男は生涯現役なんだって」
「ふぅん、で、ヤリまくりたいってわけ?」
「ちょ、ま、ちがっ、だからあ、ただそういう行為がしたいだけなら、金があればできるだろ」
「ほほう、だから、ただでできる超能力が欲しいんだ、ただまんってやつだね」
「……やっぱり、言わなきゃ良かったかな、でもさ、違う、違うんだよ、おれは愛が欲しいんだって」
「えー? ホンキで言ってる? 懲りないねトシちゃんも」
「あ、そういうこと言う? マミタンって冷め冷め子ちゃんなわけ?」
「800年も世の中見てるとねー」
「ぐは、そうだったね、じゃ愛ってなんだい? 幻? 気のせい? その場限りの消え物?」
「ちょっとぉ、さっきからクエスチョンマーク大杉だよぅ、頭から生えてきちゃうよ」
「ふふ、ホントはね、分かってるよおれだって…… おれもそんなに青くないさ、ふふ、はは、ははは」
「ふぅ…… あのね、愛はぁ、一言でゆうとぉ」
「おや? 一言で言えるんだ」
「自分を守りたいって気持ちだよ、ただそれだけ」
「それだけ?」
「うん」
「やっぱり、冷め冷め子ちゃん?」
「ええー、説明したら長くなるからさらっと流そうよぅ」
「あれ、珍しくめんどくさそうに言うね、もしかしてマミタンもなんか痛い目にあったことあるのかな?」
「ん? あたしは大丈夫だよ、自分の身は自分で守れるから」
「じゃ、聞くけど無償の愛なんて無いわけ?」
「ないない、愛ってゆうのはぁ、減点式なんだよ」
「減点式? 品定めってこと?」
「うーん、ちょっと違うけどぉ、なんてゆうか、あれだよあれ、だきょーてん」
「わかったよ、マミタンの古傷に触れるようなこと言ってごめんよ、もう言わないよ」
「……なんか誤解あるみたいだけど、まいっか、いちよーあたしって唯物論の神様だからぁ、こうなっちゃうんだよね」
 マミは心なしかテンションが下がってしまったようだ。ぼんやりと自分の右腕にはめた腕時計を眺めている。
 心ならずもマミの神様としてのモチベーションを下げてしまったのだろうか、俊夫はなにかいたたまれない心持ちになっていた。
 なにかマミのテンションが上がりそうなお題に切り替えて空気を変えたほうが良さそうだ。
「それじゃあさー、堂々としてるとは思えないけど、あれは? 読心術とか」
 俊夫は超能力と名の付くものを思いつくままに口にしてみる。
「てれぱす? ムリだよ、トシちゃんには……」
「なんで?」
「あれはねぇ…… 図太い神経の持ち主じゃないと」
「……了解です。知らぬが仏ってやつだろ? それこそ神経まいっちゃうよな」
「ううん、トシちゃんには向いてない気がして」
「そっかあ、でもさあ、マミタンは神様だから、おれの考えてることお見通しなんだろ?」
「え? あ、うん、そうだよぅ、最初からお見通しだよぅ」
「へえ、 ここに来る間も?」
「そうだよぉ」
「そうだよなあ…… すいません」
「む、なんで謝るの?」
「それはー、まあねえ…… おれも男だから」
「……トシちゃんのスケベ」
「スケベって…… さっきよりパワーアップしてるような…… 大体ここはそういうコトしに来るところだろ?」
 マミは目線を俊夫からそらし、顔をそむけて黙ってしまった。
 ん? またやらかしたか? 今のは確かに失言だったかも知れない。
「あれ? 怒った?」
 俊夫は考えてみれば理不尽だとは思ったが、沈黙に耐えられずマミの横顔におそるおそる声を掛ける。
 マミはしばらく何事か思いつめている様子だったが、ゆっくりと俊夫の方に向き直り、再び俊夫の目をじっと見つめる。俊夫はなぜかドギマギしている自分を感じていた。
「トシちゃん」
「ん?」
「したい?」
 唐突な一言。俊夫は一瞬頭が真っ白になる。
「……え? マジ?」
 意外なところからの路線修正だ。てっきりその話はオミットだと思っていただけに俊夫は返答に窮していた。
 マミは俊夫の目をじっと見つめながら言葉を繋ぐ。
「でも…… 消え物だよ、いい?」
 俊夫を見つめるマミの瞳はかすかに潤んでいるように見えた。唇のグロスもつやを増したようにダウンライトをハイライトしている。

「消え物って…… そうかな?」
「そうだよ……」
 そもそも、女の誘いに乗ってここに来た目的、それを提案されているだけのはずだ。
 なのに、なぜだろう、変に切なさがこみ上げてくる。
「いや、そもそもえっちなんて言い方するからそんな感じするんだろ、もともとは…… そう、クリエイティブな行為だろ、つまり、その……」
「だめだよ、マミタンそこまではできないんだよ……」
 マミはこれまでになく察しが早い。いや、元からそうだったのかも知れないが……。 
「そ、そりゃそうだね、はは、願い事は一言で言えるもの限定なんだよな、最高でも四文字熟語までだっけ?」
 俊夫は無理におどけて見せている自分でさえも意味不明だった。
「やめとく?」
「え?」
 またまた返答に窮する質問だ。まだ当分とりとめのない話が続くものと思っていただけに、俊夫は完全に虚をつかれた思いだった。
 しかし、据え膳食わぬはなんとやらという言葉もある。うーん……。
「消え物って…… そんなこと言ったらなんでも消え物だろ、人間だって、どんな生き物だって、マミタンだっていつかは……」
 マミは再び黙り込んでしまった。マミに恥をかかせてしまったのだろうか? そうなると男としては情けない。
 俊夫は次の言葉がすぐに見つからなかった。沈黙が重い。神様ならぬ天使のお通りだ。
 俊夫は気まずい雰囲気に耐えられず、大きく伸びをするふりをしながら、マミとの距離を少し広げた。
「いてて、ちょっと腕がしびれてきたぞ」
 俊夫はずっとマミの横に向き合っている姿勢をとっていたので腕の血流が滞ってしまっていた。仰向けになり、マミの頭の上側に腕を伸ばし、天井のダウンライトをぼんやりと眺める。マミも同じように上を向いて天井を見つめている。

「マミタン、ごめんね」
 一呼吸おいたあと、俊夫は上を向いたまま言った。
「なにが?」
「うん、お願い事、なかなか決められなくて」
「しょうがないよ、あたしも力不足なんだよ、だからあたしも、ゴメン」
 マミもどこか緊張の糸が切れたようで、俊夫と同じように仰向けのまま答える。
「幸せって、考えてみると難しいよね。なにがどうなれば幸せなのか、究極の願い事ってなんだろう……」
 マミは黙って俊夫の言葉を聞いている。
「ねえマミタン、幸せって何かな……」
「苦しくないことだよ」
「はは、即答だね、マミタンは何でも答えを持ってるのかい?」
「いちよー神様だからね。……トシちゃんは? トシちゃんが思う幸せってなぁに?」
「おれ? そうだなあ、毎日ぐっすり眠れることかな……」
「へえ…… それだけ?」
「うん、でもまあ、それは幸せの副産物ってもんかな……」
「副産物ねぇ…… あのね、幸せも愛とおんなじなんだよ、減点式。採点するのはけっきょく自分なんだよ」
「はは、マミタンって、ペシミストの神様なんじゃないの? じゃあさ、人間ってなんのために生きてるの? どうせ死ぬのにさ」
 俊夫は我ながらまるで子供電話相談室で小学生がするような質問だなと思い、心の中で苦笑する。

「ひとつになるためだよ」
 だがマミは意外に静かに言葉を紡ぐ。
「ひとつ? なにと?」
「あのね、高く飛び上がるには思い切りしゃがまないとダメでしょ?」
「え? ああ、そんな言葉があるね」
「だからひとつになるにも、その前に思い切り高く飛び上がらないとダメなんだよ」
「しゃがむってことがひとつになるってこと?」
「うん、だから今は高く高く、できるだけ高く飛ぼうとするんだよ、みんな……」
「飛ぶ……? 鳥みたいだね…… うーん、どっちかというときっちょむさんのほうがいいかな、分かりやすくて」
 俊夫にはもうマミが何を言いたいのか見当も付かなかった。
 しかしまあ、漠然とした質問には漠然とした答えしか返ってこないものだ、マミはよく分かっているのかも知れない。

「じゃあさ、死んだらどこへ行くの? 天国?」
「それって、聞く神様が間違ってるよ、トシちゃんはそんなモノないって思ってるくせに」
「なるほどね、確かにそうです。死んだらそれまでだよね、後にはなんにも残らない。情熱も、思い出も、苦しみも。その方が良いんだろうね、きっと……」
「ちょっとちがうよ」
「違うって?」
「死ぬことは消える事じゃないよ」
「へえ、幽霊が残るの?」
「そんなのいるわけないじゃん」
「あらら、神様がそんなこと言っていいの?」
「だって見たこと無いんだモン」
「はは、神様が見たこと無いならいないんだろうね。だったらさあ。何が残るって言うの?」
「あのね、なにが残るって言うよりも、なんにも無くならないんだよ」
 マミの答えは相変わらず極論だ。合理と非合理がごたまぜ状態と言ってもいい。
「そりゃ、そりゃあさあ、元素レベルで言えばそうだろうけど、普通は目に見える形が無くなったら消えたって思うしかないだろ?」
「目に見えないとダメなの?」
「うーん、保存? すれば見えなくなるって事は無いだろうけど、それ以前に心臓が止まって生体反応が無くなったら普通は死んだって事だろ? 死亡届だって出さなくちゃいけないし」
「そんなの出さなきゃいいじゃん」
「いや、そういう人もいるけど、それは本人の意志とは関係無い話だし、あれ……? そうそう、だから、意志だよ、意識がなくなっちゃったら、それが死んだってことだろ? 体中の細胞が全部活動しなくなったらもう意識が戻ることは無いんだから」
「イシキなんて、もともと見えないよぉ」
「意識は見えなくても意識があるかどうかなんて見れば分かるだろ」
「何を?」
「え? か、からだ」
「体が見えないと分からない?」
「いや、まあ電話とかチャットとかで意思の疎通ができれば分かるけど……」
「じゃ、体いらないんじゃない?」
「もう無茶苦茶言ってるだろ、声出すのも、キー打つのも体がないとできないだろ?」
「くすっ、怒ちゃった? 分かってるよノーミソでしょ、要は」
「ん、まあ、そう言うことかな、脳が動かなくなったら脳死だからね、あ、別に怒ってないけどさ」
「じゃあ、体が無くなっても意識があったらどうする?」
「それって幽霊? いないって言わなかったっけ?」
「違うよ、意識があるかないかを決めるのが人じゃなくなるだけ」
「神様にはわかるってこと? それって死後の世界?」
「ううん、違うよ、今とおんなじ世界だよ、ただ、人の時間じゃ計れなくなるだけ……」
 マミはまた腕時計を弄びながら言う。
「分かんないよ、意識は続いていくってこと?」
「人の意識は人に分かるけど人じゃない生き物の意識が分からないのとおんなじだよ」
「うーん、体がばらばらになって、意識もばらばらになっても意識は残る? だとしても何もできないような気がするんだけど……」
「ちょっとした一休みだと思えばいいんだよ」
「一休さん?」
「飛び続けるのも疲れるでしょ?」
「さっきの鳥の話かあ」
「そう、飛ぶのに疲れてちょっと羽を休めるだけ」
「じゃあ、休んだらまた飛べるのかな?」
「うん、飛べるよ、今のトシちゃんの姿じゃなくても」
「……それって、子供とか子孫に引き継がれていくみたいな話じゃないの? あいにくおれには子供も隠し子もいないんだけど……」
「トシちゃん」
「はい」
「爪見せて」
「え? あ、はいどうぞ」
 俊夫は左手をマミの胸の辺りに持ってくるとマミは両手で俊夫の手を包み込むように握る。ひやりとした感触が俊夫のほてった手の温度を奪っていく。それは何ともいえない心地よさだった。
「へえ、トシちゃんって、きれいな爪してるね」
「そうかな、こういうパーツだけ無駄にできが良いんだよね、おれ」
「だいぶ伸びちゃってるよ、切らないの?」
「うん、深爪きらいなんでね。でもそろそろ切ろうかな、キーボード押しにくくなるし」
「ね、この爪はトシちゃんの爪だよね」
「そうだよ、つけ爪じゃないよ」
「もー、キモイこと言わなくてもいいの、そうじゃなくて、爪もトシちゃんの一部だよね」
「うん、そりゃそうだよ」
「トシちゃんも誰かの一部だったらどうする?」
「ふふ、おれが爪だったらきれいなお姉さんの爪がいいな」
「そうかも知れないよ、とってもきれいな……」
「えー、でも切られちゃったら捨てられて終わりだろ?」
「爪なんだから残ってるでしょ、新しいほうは」
「でも切られた爪は老廃物だろ、おれは老廃物ってこと?」
「それが寿命ってものだよ、でも爪はどんどん伸びていくでしょ」
「なんか情けない例えられ方だなー、でもまあ何となく分かるよ、切られた爪もおれ、残ってる爪もおれってことだろ」
「うん、そんな感じ」
「でも爪の次はなんか他のパーツになりたいな、きれいなおねえさんなら」
「またなんかえっちなこと考えてるでしょ」
「あ、わかる? んじゃ言わないでおくよ」
「言わなくても分かってるから、言わなくてもいいよ」
「そっか、そうだよね、マミタンには勝てないね……」
 俊夫はマミとのとんち問答にもさすがに疲れてきた。ただの馬鹿話の様でいて、よく考えると含蓄があるような気もし、結構頭を使う。
 しかしそれはなんとも心地よい疲労感だった。久しく使っていなかった筋肉を酷使した時のような爽快な疲労感、マミとの濃密な会話が俊夫の脳細胞をフル回転させたせいかもしれない。しかも、もうずいぶん長い間マミと話続けている気がする。

「マミタン……」
「なあに?」
「今何時かな……」
「当ててみて」
「9時にここに入ったから…… 11時くらいかな」
「あ、当たり、すごいね、ぴったりだよ」
 マミが腕時計を重そうに顔の前に持っていきながら言う。
「うん、時間感覚だけは達者なんだ」
「もしかして、時間無いの?」
「いや、大丈夫だよ、ちょっと聞いてみただけ…… こういう部屋って時計置いてないだろ」
「へえ…… ほんとだ、なんでかな?」
「ここは、日常を忘れにくるところだからね……」
「ふぅん…… でも、トシちゃんは忘れないんだね」
「まあ、リアリストだからね」
「神様視点?」
「ふふ、そうかもね……」
「そうだよ、だからあたしを呼べたんだよ」
「……あのさあ、マミタンは寛容な神様だよね、試したり質問ばっかりしてるのに」
「全然おっけーだよ、だってそのためにトシちゃんのとこに来たんだモン」
「そっかあ…… でも人生なんて疑問だらけだよね、誰にも答えられない疑問でいっぱいだけど、そんなこと口にできないしなぁ」
「あたしはなんでも聞いてあげられるけど?」
「ふふ、ありがとう、そうだよね、答えられるのは神様だけだよね、マミタン」
 俊夫は軽く顔を横に向け、マミの表情を伺った。
 しかし、マミは首を小さく左右に振る。
「聞いてあげられるけど…… 神様だって人間の知ってること以上のことは答えられないんだよ、きっと」
「そうかなぁ、マミタンはいろんなこと知ってるよね、おれ尊敬しそうだよ」
「だめだよ…… 人生にモーシンは禁物なんだよ、知ってた?」
「……知ってるよ、だから時々盲信しちゃってひどい目にあうんだけどね」
「わかるよぅ、モーシンしないことをモーシンしなかったんだね」
「はは、さすがマミタン…… でも考えてみるとさあ、何も考えないのと、考えすぎるのは同じことなのかなあ……」
「違うよ、きっと…… トシちゃんはちゃんと考えて行動して生きてきたんだよ、偉いよ」
「ありがとう、気休めでもうれしいよ。でも、結局なにも残せなかったんだ…… 考えてる間に。大事な物はみんなどっかに行っちゃった……」
「ふぅん…… 今は? 信じなきゃ良かったって思ってるの?」
「分かんないよ、信じるってことはだまされることを覚悟するってことなんだろ、多分」
「へえ……」
「あ、そうだ! ねぇトシちゃん」
「ん?」
「あたしが消してきてあげようか?」
「何を?」
「トシちゃんを裏切ったヤツ…… 裏切り者には死を、ってね」
「ちょっ…… 物騒なこと言うね、おれは…… だれも、恨んだりしてないよ」
「ふぅ…… 冗談だよぅ、トシちゃんってお利口さんだね…… でもまぁそうゆうと思ったけど」
「うん、おれは神様じゃないし、ただの人間だからね……」
「へえ…… じゃあじゃあ、トシちゃんも人をだましたことあるの?」
「あるよ…… 何回も」
「ふうん、じゃあ、おあいこなのかな」
「そう、おあいこなんだよ…… きっと……」
「トシちゃん……」
 俊夫は自分の横顔を静かに見つめるマミの視線がなぜか痛かった。
 俊夫はマミの視線から逃れる様にそっとまぶたを閉じた。


「トシちゃん?」
「うん……」
「ねむくなっちゃった?」
 実際俊夫は急激な眠気が襲ってくるのを感じていた。どういうわけだろう。眠らないことにかけては誰にも負けない自信があったはずなのだが。
 考えてみればこんなに誰かと延々と話をするのはずいぶんと久しぶりのことだ。とりわけ若い女なぞと。そのせいだろうか……。
「ちょっとだけ、休憩しよっか」
 マミはそう言うと足下の掛布をひっぱりあげ、俊夫の肩口までそっと掛けると、自分も掛布に潜り込む。
 猛烈にまぶたが重い、しかしこのまま眠りに落ちるわけにはいかない。そんなことは分かり切っている。
 俊夫は必死に襲いくる睡魔と戦っていた。
 刺激、なにか刺激が無いとやばい。
 俊夫はかろうじて保っている意識の中で必死に思考を巡らす。

「あのさ、お願い事、聞いてくれる?」
「いいょ」
「だっこしていい?」
「え? うん…… いいょ」
「後ろだっこでいいから」
「うん……」
 マミは掛布の中で背中を向け、枕を横にどけると俊夫の腕枕に頭を預ける。俊夫は足を軽くの字にしてマミの腰をぐいと引き寄せた。
「あ、ゃぁんっ」
 マミが軽く抵抗の声を洩らしたが俊夫はかまわずマミの背中に自分の胸を密着させた。そのままマミの髪に鼻をうずめる。柔らかなマミのヒップラインと腰のくびれが密着感を完璧なものにする。女の体が持つ独特のヌメリとした感触、それは気の遠くなるような心地良さだった。触覚に刺激を与える作戦だったのだが、逆効果だったかも知れない。

「まみ……」
「ふ、くぅ…… な、なぁに?」
 無意識に腕に力が入りすぎていたようだ、マミの声は少し苦しそうに吐息混じりになっていた。俊夫は腕の力を少し緩める。
「あのさあ、この体勢、なんて言うか知ってる?」
「え? ば、ばっく?」
「ふふ、そうだけど…… スプーンって言うんだって…… 食器入れの中に並んだスプーン…… みたい、だろ……」
「へぇ、なるほどね、誰に教えてもらったの?」
「誰だったかな…… もう…… 忘れたよ」
「そっか」
「マミタン……」
「なぁに?」
「マミタンはホントに神様なの?」
「まさか、そんなわけないじゃん」
「そうかな、おれ信じちゃうよ、もう……」
「だめだよ、信じちゃ」
「そうだね…… 信じたらマミタン、消えちゃうね」
「それもダウトだよ」
「そっか、そうだったね……」
「そうだよ、信じる者はだまされるんだよ」
「でも、もうお願い事、かなえて、もらったん、だよね……」
「こんなのサービスしとくよ」
「ホントの女神様だね……」
「らめぇぇ」
「……」
 俊夫の頭の中で睡眠物質が炸裂する音がこだましている。俊夫はもはやそれに抗う力は残っていなかった。
 次に目が覚めた時女は消えているだろう…… 多分、財布の中身も……。 
 俊夫は薄れゆく意識の中でぼんやりと覚悟を決めていた。
 そうだ、こんなことなら、最初から宿泊のボタン押しとけば……。
 俊夫が意識を失う最後に考えたのは、そんなばかげたことだった。
 マミのヤツ、休憩料金分の七千円、損こいちまったなぁ……。  (了)


陣家
2011年06月17日(金) 03時40分53秒 公開
■この作品の著作権は陣家さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
中二病的、ラノベタッチの作風を目指して見ました。
できる限り地の文を使わずに会話だけで物語を作り出すことに腐心したつもりです。
ただし、なぜかラブホのディティールだけは念入りに描写しました。
題材としてはなんの新鮮味もない三つの願い系ってやつです。
しかしラノベともちょっと違うかもですね。どうなんでしょう。
良かったら感想、ダメ出しお願いします。

この作品の感想をお寄せください。
No.13  陣家  評価:0点  ■2011-09-25 10:43  ID:1PfX6kiNm1I
PASS 編集 削除
N章さん感想書き込みありがとうございます。

まさかこちらの方にまで感想書き込みいただけるとは思いもよりませんでした。
なにしろ、おっさんホイホイなお話ですからねー。

物理学者のくだりに着目されましたか。さすがですね。
そもそもこの話を書こうと思ったきっかけが、ホーキングの死後の世界否定発言でして、なんか首根っこをつかまれたような気がしてしまいました。

一見相容れないようなモノとモノのコラボ……これは常に自分のテーマなのかなと思っています。
本作で言えば
無神論者と神道的な神様?
風俗と萌え?
という無茶苦茶な組み合わせになっています。
神様についての掘り下げが甘いと言えなくもないんですがそこはファンタジーなのかミステリーなのかをぼかしたことで逃げてしまいました。
多分森羅万象に神が宿るという多神教的自然発生神ってかんじのイメージしかできていません。

もしこの続編的な話を書く時がきたならば、とんでも設定を無理矢理作り上げておバカなお話を展開できたらなあと思っています。

ありがとうございました。
No.12  陣家  評価:0点  ■2011-09-19 21:54  ID:1fwNzkM.QkM
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ぢみへんさん感想書き込みありごとうございます。

読者ターゲットということであれば、やっぱりそういうことになるんだなあと納得してしましました。
ここまで感想をいただいている方々もほぼそういう年代の男性とお見受けしてます。
ていうか女性にはまったく見向きもされない系のお話になっていると自信を持って言い切れちゃいます。
そのなかでもぢみへんさんには特にジャストミートしたようで本当に良かったです。
ラノベが10代後半から20代前半の”男性”をターゲットに据えた作品が多いとするならば、本作はもう少し上の年代の”男性”がターゲットということになるのかも知れませんね。
まあ、つまるところは自分が読んで面白いと思う物を書いたというだけなんですが。
この延々と続く会話をダルと感じられるか、面白いと感じられるかは本作の主人公との相似率で決定されるのだと思われます。
その辺の読者を主人公の心情に沿わせるような描写ができるまでに至っていないのが筆者の拙さに他ならないと思います。

まだまだだなあと思います。
ありがとうございました。
No.11  N章  評価:40点  ■2011-09-19 12:20  ID:QV/RvA1Oh0Q
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拝読させていただきました。

高校生くらいの読者を対象として書かれているのかな? などと油断して読み始めたのですが、(良い意味で)予想を裏切られました。教師レベルですねぇ。
最低でも、「唯脳論」やブルーバックス・シリーズ(講談社)を解する程度の知能がないと会話についてこれないでしょう。

>「でもなんでおれがその代表なの? 世の中にはおれなんかより、もっと凄い唯物論者なんていっぱいいるだろ? ノーベル賞取った物理学者とかさ」
「えー、そんな人めんどくさそうだもん、それにそうゆう人は意外に神様とか、奇跡とかに弱かったりするんだよね

そういえば、かつて、湯川博士が空海のことを熱く語っていたような……。

宗教問題に関しましては、さらに厳しい、突っ込んだご意見がおありになったでしょうが、上手い具合にかわす、といいますか、セーブされているように思われました。

あと、ラブホに入る際の気まずい感じに激しく共感しました。あれ、なんとかなりませんかねぇ?

陣家様の幸福論として、ありがたく拝読させていただきました。また、再読させていただきます。

失礼しました。
No.10  ぢみへん  評価:50点  ■2011-09-19 01:13  ID:lwDsoEvkisA
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なんか、読者が中年でないと分からない良さがあるような(笑)、そういう味を感じました。終わり方も好きですね。
終わりの無い日常の中に、ふっと浮かぶファンタジーみたいで。ユーモアがあって良いじゃないですか。会話ばかりなのに飽きさせないのも上手いですね。
面白かったです。
No.9  陣家  評価:0点  ■2011-08-19 01:10  ID:1fwNzkM.QkM
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ゆうすけさん

感想ありがとうございます。
ゆうすけさんは私と年代が近いのだなあと、つくづく思いました。
女性読者…… まったく考慮に入っていませんでした。
エッチな展開をお望みでしたか、自分的にも書きたくて書きたくてしょうがなかったんですがサイトのカラー上泣く泣く諦めました。
ほんと、まったく動き無しですよね。ストップモーション過ぎてあり得ないと自分で読み返しても驚きます。

マミタンはある意味自分の夢に描く理想のキャラです。
これ書きながらうっとりしたりしてました。至高の自慰行為ですね。

ラブホについては、以前に私がレスした感想書き込みで、ついラブホの描写の甘さを指摘してしまい、作者さまの気分を害してしまった気がして、自作では特に注意を払いました。
よくある、いつの間にかホテルのベッドの上に居ました、みたいな展開がどうも納得できなかったのもあったんですが。

感想書き込みありがとうございました。
今後もよろしくお願いします。

ラトリーさん

感想書き込み頂けるとはちょっとびっくりでした。
そうですね、書き出しからホテルに入るところまではなんかまっとうなお話っぽいところが特に詐欺っぽいと言うか、肩すかしですよね。
読み手、選びますよねえ。おそらくほとんどの人は半分も読み進めないうちにブラウザの戻るボタンを押しちゃってるだろうなと思います。
もうすこしサービス精神という物を考え直そうと思っています。
マミタンは純粋に自分の中から出てきた100パーセント理想キャラクターです。
ビッチ=女神という男の願望をそのまんま具現化したような存在です。
でも難しかったのも確かです、ある意味純粋培養ですから。
もう少し成長させてみたいという気持ちもあります。
もしまたこのキャラを登場させる作品が描けたなら、もう少しましな立ち回りを与えてあげたいと胸に誓っています。
もしその機会がありましたら、また見に来て頂けたら幸いです。

感想書き込みありがとうございました。
今後もよろしくお願いします。
No.8  ラトリー  評価:30点  ■2011-08-18 23:52  ID:x1xfMMn8lDg
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 こんばんは。読む機会に恵まれましたので、感想など書いてみます。
 全編にわたって、「ふしぎ」のテイストがもやのように漂っているような物語でした。全体の大半を占める、俊夫氏といわゆるマミタンとの会話については、深く考えるより直感を楽しんだほうがするりと読める趣きを感じます。

 というか、この会話を楽しめるかどうかがけっこう大事っぽいですね。当初はマミタンの正体が何であるとか、ラブホテルを出たあとはどうなるんだろう、といったところを主に考えておりましたので、会話の雰囲気に浸ることができず、ちょっと楽しみどころを逃してしまったような気がします。最近は何かにつけて伏線を気にする読み方なもので、その辺も影響してしまったかな、と。

 幅広い方面の知識を生かして書かれた二人の会話、もとい世の諸事についての考察は「なるほど」と思うものもありました。一方で、前提となる知識が必要になる場面も多いので、そのたびに読み手を選んでしまうかなという印象です。個人的に、ノリと勢いで猛進しつつ読者の直感を揺さぶるのがラノベ、と考えていたりしますので、そういう意味で話の進行がゆっくりすぎるようにも感じました。
 もっと全体を引き締めて、読み手が興味をひかれる謎や伏線などを展開の中に複数用意してあると、作品としての吸引力が増すのではないか。ミステリー好きなので、総合的にはそんな考えを抱きました。

 ラブホテルの描写は丁寧でした。使ったことないので正直わからないんですが、きっとこういう感じだろうというリアリティがありましたね。そういった知識も貯えていかねば、と思ったのが一番の収穫でした。以上です。
No.7  ゆうすけ  評価:30点  ■2011-08-15 16:17  ID:6m2MqnoU.ZU
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拝読させていただきました。

はたして本当に神様だったのかどうか? この余韻がいいですね。私は神様だと思い、私だったらどうしようかと感情移入して読みました。やはり読者に投げかける何かがあったほうが、物語に引き込まれるものです。とはいえ男の欲望を描いたものを女性読者はどう思うのか? ちょっと心配したりして。
問答がやや凡長に感じたのはちょっと残念です。ラブホテル内で何かもうちょっと動きが欲しかったですね。どうせならもっとエッチな描写とか、いやすいません個人的な要望です。
ラブホテルの描写が秀逸で、ちょっと笑っちゃいました。自由に書けるノートがあって、ここにホラー書いておいたら面白いかなって思ったあの日をふと思い出したりして。
 全体的にふわふわと掴みどころのないような面白さを感じました。
No.6  陣家  評価:--点  ■2011-07-09 02:36  ID:ep33ZifLlnE
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瞬光さん、感想書き込みありがとうございます。
読み手を無視した怒濤のセリフ埋め立てでチャットハラスな一品となり、お恥ずかしい限りです。
えーっと、理解不能なのは当然です、なんのSF的考証もありませんですから。
まじめに読み解いてくださろうとして頂いたようで申し訳ありません。
聞いたことない名詞というのはどれだったのかはちょっと気になるところですね、全編作者の偏った趣味の産物と言ってもいいですから。
ロハ、とかルルドの泉辺りですかね?
落ちは、自分的にはぼかしすぎて、解りにくさ自体が解りずらかったかもと思っています。ある程度伏線やミスリード誘導っぽいものは置いたつもりだったので……。

作者の趣味全開で書きなぐった今作ですが、意外に続きの構想が勝手に頭に浮かんできたりして、もしかするともう少し続編を書いてみてもいいかなと思っています。
次次作以降にはなるとは思いますが。
ともあれ、高評価ありがとうございました。やはりそれなりに一生懸命書いたのは本当のところですから、すごく励みになりました。
No.5  瞬光  評価:30点  ■2011-07-07 19:09  ID:Dysgx265BmQ
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※ネタばれ含んだ感想です。

拝読いたしました。
まずは自分の拙作に、点数と深いコメントありがとうございました。
本作は30点としていますが、限りなく40点に近い30点です。
単純な好みの問題なのですが、場面展開が多かったり意外な行動を二人に取らせたら40点入れてました。
逆を言えば面白く実は深いそして論理的な文章のみで原稿用紙80枚(文章量を図りたいが為だけにワードにコピペして調べただけです。他の目的はありません)ほどの分量に到達させたことに感服です。
聞いたことない名詞も多く、思わずググってしまうほどでした。
(投稿した自分の拙作からは分かりませんが)論理的で面白い文章を適度に入れられるようにしたいと思う自分にとって羨ましいスキルです。

「トシちゃんフェスティバル」の言葉がなんかツボりました。フェスティバルになる説明を見てもそうなるのかな? でもそうなるんだろうな、と自分の頭では理解が追いつかない文章をかける方なので、オチのひねりがもう少し欲しかったです。作者さん返信のビブーティ云々より凄いオチがきっとかける方なのではないかとも思います。いえ、きっとビブーティ云々と一言で書かれたからそこまで感じないのでしょう。実際に本文の中で二人の会話のように面白く論理的に書かれたら脱帽ものになると思います。

拙い感想失礼しました。
No.4  陣家  評価:--点  ■2011-06-29 01:31  ID:ep33ZifLlnE
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nozomi様
感想ありがとうございます
正直に言っちゃうとライトノベルの風上にも風下にも、足下にも置ける代物でもありませんでした。
申し訳ありません。
テンポが良くて、テンポが悪い、全く持って言い得て妙なご意見です。
自分であらためて見てもそうとしか言いようがありません。
今回、何か新しい物をとの思いで挑戦してみたつもりなのですが、ただ単に読みにくいダルなものができてしまっただけのようです。
やはり基本をおろそかにせず文章作法は大事にするべき物ですね。
今回のひそかなもくろみとその失敗点を自分なりに列挙してみます。
・三人称視点と一人称視点の両立 →所々文章をきれいに分けることができずに混乱している部分がありました。
・ライトな文体と、ヘビーなテーマのコラボレート →大量の意味の分からない軽口&戯れ言ができあがっただけでした。
・魅力あるキャラの創成 →ただのすけべ親父と親父ギャルができあがっただけでした。
・落ちをどこか意味深長な感じに →作者の貧乏性を暴露した以上の成果はありませんでした。
とまあ、枚挙にいとまはありませんが、一つだけ、文字をたくさん並べるということだけは成功しました。
命を削って駄作を創り出す、その過程を見て頂けるだけで十分に報われている気分になります。

nozomi様、また懲りずに駄文がであがってしまったらここにアップしてしまうと思います。
その時はまたよろしければ忌憚無き貴重な感想お寄せ頂ければ幸甚に存じます。
ありがとうございました。
No.3  nozomi  評価:20点  ■2011-06-27 22:10  ID:Uw8ocRvbees
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こんばんは☆
読ませてもらいました。

ライトノベルにしてはちょっとアダルティだったかも知れませんねw
テンポが良くて中々面白かったのですが、ラブホに入ってからちょっとだるかったかなー、と。アクションを付けても良かったかもです。
No.2  陣家  評価:--点  ■2011-06-19 23:10  ID:ep33ZifLlnE
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お様、こんばんわ
陣家です
まずは、このような長々とした馬鹿話を最後までお読みいただきありがとうございました。
TCに投稿させて頂くのは今回で2回目で、一年ほど前に別ペンネームで投稿しましたが、サーバーのトラブルで消えました。
前作はセリフがほとんど無く、心情描写だけでストーリーを進めるような作品にしてしまったので今作はその反動でやってしまいました。
ラノベ風などと言いつつ、実はラノベという物がどういう物かちゃんと読んだことも無く、自身の描写力の無さに対する言い訳みたいなもんでした。
自分でも何度も読み返し、セリフを推敲したところでテンポの悪さは改善できず、やはり地の文を適度に入れていかないとテンポの調節は無理があると思いました。
自分的にはこのエピソード量で普通に地の文を挟んでいくと、おそらくこの倍近くの分量になるのが見えていたので、分量を増やしたくない気持ちが先行してしまいました。
でも、かえって、セリフが冗長になってわかりにくくなってしまったようです。要、鍛錬ですね。
本当の落ちは、自分にもわかりません。ただ、お様の感想を見る限り、素直にそう解釈される方が多いのだろうと思いました。実はラスト近くでビブーティでお茶に一服、云々感ぬんというくだりを入れていたのですが、あまりに夢がないかと思い削除しました。
ただ、お様の感想中の“じわじわと言葉が蘇ってきたりして”のご感想がなんともありがたいお言葉でした。
ほんの僅かでも心に残る言葉が記せていたのであれば素直にうれしいです。
感想ありがとうございました。
No.1  お  評価:30点  ■2011-06-19 01:21  ID:E6J2.hBM/gE
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チャットロムしてるみたいな気分になっちゃった。
てことで、こんちわ。
面白かったかどうか……、会話としてはまぁ、可愛らしいというのか、確かに厨二ッぽい感じもあってつまらなくもないんだけども、やっぱ、ちゃっとみてるみたいで、あんまりこう、テンポ良く、なんだろ、ある意味自然ちゃ自然なのかもしれないけど、のらくくらりとして、要領を得ないというか、まぁ、でも、最近はそう言うのも流行なのかなぁと思わなくもなく、なんだかかんだか、微妙な感じで微妙な感じが良でした。
主人公氏は「お休み」されたのかな。とすれば彼女はやっぱり神さまだったんだ。という落とし方を僕はしましたが、いかなものか。そうであっても良いし、そうでなくても言い訳ですが。
読後すぐには、うにゃ、とした感じでしたが、じわじわと言葉が蘇ってきたりして、うーん、案外良かったかもと思えてきました。とさ。
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