君のための殺人計画
 突然ですが、私、二重人格者と呼ばれている者だったりします。自分の中なのかはわからないけど、確かにいるの。それが普通ではないと知らなかった。物心ついたときから、私には常に彼女がいたんだ。
 彼女の名前はルウ。あ、えっと、私と同じで十五歳……のはず。私が中学の制服を着ているからね。やだな、忘れっぽいんだった。でね、ルウはとっても優しい人なの。イヤなことは何でもやってくれるし、私の負担を減らしてくれようとするの。何でも自分でやろうと頑張ってるし。健気で、とってもとっても可愛いんだ。
 でも、ルウは自分は悪い人だと言う。そんなことないのに。だって、とっても心の綺麗な女の子だもん。

 目の前にはルウと親しかった、私の友人がいるの。制服が良く似合ってるな。クラスでは人気が高かったしね。うん、可愛いし。でもね、十分位前からずうっと寝たまま動かないの。ちょっとほっぺた突いちゃおう。うわ、柔らかいな。ちょっと血まみれだけど。
 私はそれ以上その子に何かをするでもなく、ただ、床に座って見つめてるだけ。ああ、またルウに怒られちゃう。制服が汚れちゃったからなー。あはは。
ここ、どこだっけ。あ、そうそう。ここはこの子の家だ。どうりで狭いと思った。私の家はなんか広いし。教室ももっと広いしね。
 あれ、なんでこの子、死んでるんだっけ。ああ、私が殺したんだっけ。ルウと仲良くしたからだよ。ごめんね。別にあなたが嫌いだったわけじゃないんだ。
 ほらね、ルウが怒ってる。こういうときは引っ込んで、ルウに全部任せちゃうの。ちゃんとやってくれるから、安心できる。あ、早くしないと、この子の親が帰ってきちゃうんだった。やだな、ルウ。そんなに怒らないで。制服はきちんと綺麗にするって。

 私はルウ、と呼ばれている。アリスの中にいる人格、らしい。普段私は表に出ることはない。アリスの裏に隠れて、見ているだけだ。アリスのしてきたことをすべて知っている―――いや、覚えている唯一の人間だ。私は完全な記憶能力を持つ。アリスは時々自分の名を忘れるくらいの記憶力の悪さ。おかげで約束などはすべて私が覚えている。全く、世話の焼ける同居人だ。
 アリスは笑顔のまま、人を殺してしまう。その三分後には殺したことさえ忘れているが。見た目は天然で電波みたいな女の子なのに、気に障ることをした人間を即座に殺したがる。学校内の友人は気づいていない。気づかれないように、私が処理しているからであるが。先ほど言ったように私は完全な記憶能力がある。だから、アリスがやったことをすべて覚えている。本人が覚えていない殺人に関して。
 本来ならば、止めるべきなのだろう。しかし、止めることが出来ないのだ。いや、止めようと思えば止められる。しかし、見て見ぬふりをしている。何故だかはわからない。自分のことが一番わからない。アリスのことなら手に取るようにわかるのに。
 止められない。私はどんどん狂っていく。アリス、アリス………!

 目の前には私と親しかった、アリスの友人がいる。つい十分ほど前、アリスに殺されてしまったが。いま、彼女の親はいない。帰ってくる前に自殺に装って、制服を綺麗にしなくてはいけない。アリスに決して疑いがかからないように。
 いつまでも座ってちゃダメだ。でも、アリスは周到だ。自殺にしか見えないように殺すのだから。私がちょっと手を加えるだけで完全犯罪。最近、そうでもないのだが。昔は制服を汚すこともなくやってのけたのに。
 ああ、どうして私はこんなことをしているんだろう。

 ルウは自分が一番悪い人だと言うの。違うのに。しかも、とっても頭がいいから、私が忘れてることとか全部覚えててくれるの。え? なんで「しかも」なのかって? 私が殺した人のことを覚えてるから、可哀相なの。私が何も覚えていないと思っているから、尚更。
 綺麗な心を傷つけて、傷つけて。私しか見えないようにするの。私が人を殺してルウが狂っていけば狂っていくほど、私を見るようになる。ね、いいでしょう?
 これは周到な殺人―――。ルウという心の綺麗な女の子を、自分の物にするために練られた殺人計画。馬鹿なふりをしているのも、私とずっといてもらうため。元々、私の中にいるんだから逃げられないけど。あ、ルウっていう人格が消えれば逃げれるか。逃がさないけど。この気持ちは所謂、恋? 違うって言わないで。だって、こんなにも嫉妬に狂ってるんだもん。
 ルウが私の友達と話してるだけで私は友達を殺したくなる。でも、あんまり仲良くない友達を殺してもあんまりルウは悲しまない。だって、ただの私の友達だもんね。だから、殺さない。
 ねえ、ルウ。もっと狂ってよ。私だけを見て。
 ルウが私しか見えなくなったら、殺人は止めてあげる。
 そのときは、私もルウだけ見るわ。一生、ルウしか見ないであげる。
 だから、早く私だけを見て。

 ルウ、ルウ。私しか見えなくなるまで後何人殺せばいい?

 次は誰を殺す? 何人殺す? どうやって殺す? 考えるだけで楽しくなってくる。
 もっともっと残酷に、もがき苦しむように殺さなきゃね。ルウも、殺しちゃう人も苦しむように。だって、私のルウに手を出したのよ。生ぬるい殺し方じゃ、全然足りない。何回殺しても足りないわ。
 ルウが苦しめば苦しむほど私を見る。ねえ、もっと私を見て。
 優しいルウはいつも泣くわ。うん、狂っていくわ。もっと、もっと。
 私だけを、見てよ、ルウ。
 もっと狂って、私しか見えなくなればいい。
 ルウのために、私は何人でも殺すから。

 だから、後何人殺せばいい?





春玲
2011年05月17日(火) 19時26分25秒 公開
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No.4  春玲  評価:--点  ■2011-06-06 19:09  ID:GKzOrD5LcaY
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ご感想ありがとうございます。
具体的、ですね。いろんな人に言われます。でも、足したらごちゃごちゃしちゃうので、これ以上は足さないことにしました。不思議っぽいですしね。
あんまりリアリティがあってもなー、と思っちゃったんですね、これが。
では。
No.3  しぐれ  評価:30点  ■2011-06-05 19:38  ID:4XlrxbZ8Xgo
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 拝読させてもらいました。
 個性ある一人称視点の文章が読みやすくて、物語の内容を早く理解することが出来ました。すごいと思います。
 二重人格でありながら、自分自身であるもう一つの人格を狂愛(?)しているなんて、良いキャラクターですよね。

 しかし、情景描写が極端に少ないせいか、全体的に見た感じイメージが固まりにくいかな。と思いました。
 個人的な欲を言えば、具体的な殺害方法や殺された人の状態、その親がヒステリックになってしまう場面なんてのを描写したらもっと狂気が感じられるのかな、と。
 僕の読み方と捉え方が駄目なのかもしれないですけれど(敢えて心理描写だけで物語を進める作者の意図があったのかもしれませんし)、どうか一意見として見てもらえると助かります。

 以上を踏まえた上でも、読みやすく、分かりやすい狂気の表現が印象深い良い作品だと思います。
 上から目線のコメント、大変失礼いたしました。それでは。
No.2  春玲  評価:--点  ■2011-06-03 21:49  ID:GKzOrD5LcaY
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ご感想ありがとうございます。このような高得点を付けていただき恐縮です。
……はい、そうですね。一般的なウケは狙ってません。分かる人だけわかってくれればいいなー、とかね。
では。
No.1  凶  評価:50点  ■2011-06-02 16:56  ID:H5kn4nBA6qA
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はじめまして。なんとなくこのサイトを見つけてなんとなくこの作品を読みましたが、最高ですね、おもしろかったです。短くて読みやすいし個性的な設定で「恋」という単語を使っているけどよくあるラブストーリーのように一般ウケ狙いの「ただのハッピーエンド」な作品ではなくて痛快でした。狂った時代に狂うなら気は確かだ♪俺も投稿してみようかな。
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