あのせいで |
ここは摩天楼、大通りを風がスイーッと吹きぬける。時刻は昼、正確な時間はわからないが気温から推察するに午後三時辺りが妥当か。僕は気づくと大都会の真っ只中に居て歩道を歩いていた。その前に何をしていたかは何一つ覚えていない。まるで、ワープなどでこの場所へ飛ばされた気分だ。僕は曖昧な記憶の中に取っ掛かりを感じつつ、何を目的とするわけでもなく、とりあえずは今居る場所から向こうに見える銀行らしき建物まで行ってみようと思った。 歩いていて気づいたことがある。一つは、ここは日本ではないということだ。標識は英語で書かれているし、今歩いている場所も見覚えがあった。おそらく、ここはニューヨークだ。確かに、よく建物を見てみるといずれも洋画で見たことがあるものばかりだった。何故僕はニューヨークにいるのだろうか。それに、ここは大都会ニューヨークであるはずなのに人っ子一人いないのは一体どういうことなのだろう。ニューヨークのような大都会には常時人がひしめき合い、さぞ賑やかな場所なのだろうと思っていた。今日は何かお祭りがあるのだろうか、それとも…。 一瞬僕の脳裏におぞましい考えが浮かんだが、あまりに認めたくない想像だったので必死に拭い去った。いや、まさか、そんなことはあるまい。 バタバタバタ。背後で鳥の群が羽ばたき、飛び立った。彼らは天高くそびえ立つビル群の間を縫って僕の視界から遠ざかっていった。その光景はとても一瞬の出来事で、まるで彼らは何か恐ろしい物に出くわして、恐怖のあまり条件反射的に逃げ出したかのように見えた。僕はその場で固まってしまった。あまりの異常事態に脳の回路が硬直し、その影響で足を動かす信号まで途絶してしまったようだ。要するに怖い、怖くて足がすくむ。僕の脳裏には先ほど浮かんだおぞましい考えがぐるぐる回って僕の恐怖を増幅させていた。これはおそらくパニック映画だ。どうして僕がパニック映画に登場しているのかは分からないが、この状況は明らかにベタベタなパニック映画、それもゾンビや宇宙人、その他もろもろのそれだ。冷や汗が噴出す。今にもそこらのショーウインドーが激しい音を立てて割れるとともに、陸から空から食人生物が襲い掛かってくるように思われて、小便がちびりそうだった。ああ、何故こんなにも不自然な静けさなんだ、耳鳴りがする、吐き気がする、誰か助けてくれ。 ドシーン。大都会に大音量が起きて、静寂が破られた。ついにパニック映画が始まったのだ。僕はこれから僕を襲うであろう食人生物から逃げられないことを早くも悟り、近場にあったゴミ箱に隠れることにした。もう絶望だった。僕は必死に息を殺して身をできるだけ低く保っていたが、地鳴りは明らかに僕の居場所を察知しているかのようにその音量を増して近づいてきた。僕は錯乱して隠れることを忘れてゴミ箱から飛び出し、走り出した。そして、見なければいいのに後ろを振り返って僕を襲うそれを見た。それは巨大なサイだった。巨大なサイは磨き上げられた猛々しくそそり立つ角を天高く突き上げると、「ガオ」と雄たけびを上げた。僕はたちまち逃げることも忘れてその場にへたり込んだ。巨大なサイは怯える僕を一瞥すると、久しぶりの獲物だといわんばかりに僕のほうへ突進してきた。万事休す、死を覚悟した。僕は巨大なサイに踏み潰されてしまうのだ。そして全身が砕け散って死んでしまうのだ。 しかし、僕は覚醒した。すべては夢だったのだ。 寝具は寝汗でぐっしょりぬれていた。部屋にはクーラーが効いているため、かなり寒い。階下から母の声がする。 「おきなさい!」 母の声は大音量なので二階に居ても間近で聞いているようだ。おや? おきなさい、おおきなさい、大きなサイ。なるほど、あのせいでこういうことか。お後がよろしいようで。 |
吉岡
http://ameblo.jp/bxfxd092/ 2011年01月31日(月) 12時12分25秒 公開 ■この作品の著作権は吉岡さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.3 桜井隆弘 評価:20点 ■2011-02-02 23:31 ID:SED/FC6RMzg | |||||
オチはオチでも、僕は夢オチの方が予想できてしまって期待を上回りませんでした。 夢オチで構成するならオチは確定しているので、内容の方をもう一ひねりする必要性があるんじゃないかなと思いました。 例えば、隠れる場所がゴミ箱ではなくて、意を決して便器に頭から突っ込むとして、現実でも酔っ払ってトイレで寝てしまっていたとか。 ……まあ、あれですよ、今のは悪い例ですけどね。あくまで、例えばですよ(笑) 「大きなサイ」で全てを集約しようとするよりも、色んな方面で夢オチを受け止められるように工夫すると、より面白くなる気がしました。 ただ、大きなサイというオチは読めなかったので、軽いですけど新鮮でした。 |
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No.2 ゆうすけ 評価:20点 ■2011-02-02 17:55 ID:T.PxdaSZZp6 | |||||
拝読しましたので感想を書きます。 脱力系のオチですね。弱い感じは否めないです。 やはり、オチに繋がる伏線か、複数のオチが欲しいですね。こういった話は珍しくないので、もう一工夫、作者さんならではの味付けが欲しいと思いました。 大きいサイみたいな母親に、まさに踏まれている状態で目を覚ますとかもありかな。 ではまた。 |
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No.1 k-suke 評価:20点 ■2011-01-31 21:00 ID:lNnl8BDOAHo | |||||
有難うございます、読ませていただきました。 まず、オチですが、良いんじゃないんですか?僕は割と好きですよ。 ただ、目が醒めるまでにもう一工夫あったらいいな、とは思います。 あと、夢オチを匂わせる巧い伏線や、夢と現実のリンクがもっとあると、もっと面白くなるかも。 あと気になった処ですが、 >>その影響で足を動かす信号まで途絶してしまったようだ。要するに怖い、怖くて足がすくむ。 の部分ですが、>>要するに怖い、〜〜の部分はいらないかも。ちょっと流れが断たれてしまう気がします。 またショート読ませて下さいね。 |
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総レス数 3 合計 60点 |
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