一時間三十分三語♪ ( No.1 ) |
- 日時: 2012/03/26 02:26
- 名前: 水樹 ID:PTvXzcU6
お題は、「猫毛」「磯野、野球しよーぜ」「ツバメ」です。 縛りは勝手に、「昼野っぽく」です。
「磯野、野球しよーぜ」 名指しされた僕は呼吸が止まり、身体が硬直する。 教科書やノートをランドセルに入れて、帰り支度する僕の肩を軽くポンポンと叩き、昼野君はニヤニヤと笑う。無邪気な子供の笑顔とはかけ離れた、卑屈で厭らしい笑みだ。 昼野君は先生も見離す程の子供だった。きっと両親も見離しているだろう。一般の子供よりも一回り大きく、力も強く、上級生でも彼の前では廊下の端を選ぶ。暴君でも言い過ぎではない。運悪く、昼野君の陰口が本人に聞こえた時は、その女の子のランドセルの中に、クラスで飼っているハムスターの親子四匹や、絵具やアルコールランプを詰め込み、ランドセルのボールでサッカーを強制された。 遠慮がちに蹴るが、隙間から黄土色の粘着物の花火が校庭に飛び散る。昼野君が思い切り、空高く蹴りあげる、着地したランドセルから滲み出る鮮やかな黄土色の波紋。 ほらよと、昼野君はランドセルを返し、見なきゃ良いのに女の子はランドセルを見て、嬌声を上げて気絶した。その女の子は登校拒否になった。 そんな昼野君が普通の野球などする分けが無い、家が近所と言うだけで、昼野君と帰りを共にする僕は生贄と言われていた。 グラブは要らないと言われ、バットを持って空き地に行く。 空き地と言えば、ドラ○もんの空き地をみんな思い浮かべるだろう。 昼野君の空き地は最近出来た空き家の広々とした庭だった。 何でも老夫婦が住んでいたらしく、二人とも急死したらしい。 何故か鍵を持っている昼野君、平然と他人の家に入る行為に僕は歯が浮く程の寒気を覚えていた。 冷蔵庫からオレンジジュースを持って来てラッパ飲みする。僕も喉が渇いていて少し飲む。 庭には立派な松の木がある。生前まで丁寧に手入れしていたに違いない。 ? クリスマスツリー? 良く見ると松の木から何か吊らされている。 必死に身をよじり、その物は揺れていた。 猫や鼠や燕、愛くるしいウェルシュ・コーギー・カーディガンも厳重に縛られて吊るされていた。 「さあ、野球やろうぜ、磯野」 まさか、この吊るされているのをバットでフルスィング? とてもじゃないがそんな非人道的な事など僕には無理だ。 昼野君が取り出したのは、硬球のテニスボールにオイルを掛けて、ライターで火を点ける。それをバットで打って当てると言う物だった。焼球と言っていたのだと分かる。 一体この行為の何が面白いと言うのだろう。 何球打った所で、猫毛は霞めても、直撃とまではいかなかった。 当たらない事にイライラし、 「こっちの方が手っ取り早いぜ」 と、フルスィングで動物達の息の根を途絶やす昼野君。 一打で死ねないウェルシュ・コーギー・カーディガンは三度も打たれ、悲痛な叫びとともに、血肉を垂らした舌を出しグッタリした。 それからすぐに親の都合で引っ越した僕は運がいいだろう。 大人になった今でも彼との思い出は、凄惨で吐き気を催す。 ネットが普及し、最近、噂で昼野君の事を知った。 彼の精神は当時のままで、人を拒絶させる絵と小説を好み、ナイフの収集が趣味と。
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