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RSSフィード [58] 三語「保存液」「そびえ」「砂時計」
   
日時: 2012/01/10 00:44
名前: 星野田 ID:pb5dvHKE

縛りは「最後は極上のハッピーエンド♪」です
2:00まで

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Re: 三語「保存液」「そびえ」「砂時計」 ( No.1 )
   
日時: 2012/01/10 01:27
名前: 1 ID:sJDseHTI

「保存液」「そびえ」「砂時計」の三語です。縛りは、極上のハッピーエンドです。
 時間は2時までです。


「ソフィエ、ソフィエ、もう寝たの? 炬燵で寝ると風邪引くよ」
 首をコックリとコックリと上下運動している彼女に彼は声を掛ける。
「もう寝たんだね」
 彼が肩を突っつくとソフィエは後ろに倒れた。炬燵の電源を切り、寒くならないように上着をソフィエに重ねる。
「グゥグゥ… 私はソビエ・マルフィエ・ユイコッチ、ソフィエってお言い。言う事聞かない奴は保存液に浸してやるけんね。一生ユラユラするけんね」
 どんな夢を見ているのだろう。ロシアの留学生なのになぜ広島弁と、彼氏はソフィエの寝言に微笑む。
 冷えた鍋を温め直し、箸を入れる。
「鍋が食べたいじゃけん、日本人なら炬燵に鍋じゃろうがッ! 熱燗用意せいっ! あほんだらぁ!」
 ソフィエの要求を素直に答えた彼、実際にはパンも有り、チーズフォンヌな鍋だった。
 締めの御飯を入れるとラザニアに変わっていた。
 それでもほくほくと頬張る彼女の笑顔はふつくしい。美味しい物を食べる人の顔ほど無垢な笑顔はないだろう。
 冷えた熱燗を口に入れて彼も横になる。
 一人の鍋は寂しい、年越しなら尚更だ。この異国の地で彼女は寂しさを紛らわせたのだろうか。
 起きたら窓を開けて空気を入れ替えよう。彼女の故郷ほどじゃないけど、日本の清々しい寒さも捨てたもんじゃない。
 ソフィエが寝がえりを打つたび、蹴りを喰らう彼。
 カウントダウンの砂時計は既に落ちていた。

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Re: 三語「保存液」「そびえ」「砂時計」 ( No.2 )
   
日時: 2012/01/10 01:56
名前: 星野田 ID:pb5dvHKE

「保存液」「そびえ」「砂時計」
縛りは「最後は極上のハッピーエンド♪」
ジャンル:純文学
***************

『連休』

【 】
 その橋を渡るときは、呼ばれても振り向いてはいけない。祖母は生前、口を酸っぱくしてそう言っていた。自動車も通れないような横幅の古びた石橋で、住む人間も滅多に使わない。この橋には鬼が住んでおり、振り向いた人間を地獄への門に引き釣りこむそうだ。周囲は草木が好き勝手にそびえ、橋の名は雨風にけずれてもう読めない。そう思えば曰くつきの場所に見えなくもないが、人に忘れられた小さな橋だった。
 ある日、橋の真ん中まで歩いたとき、後ろから「にゃあ」と聞こえた。振り向いた。

【 】
 近くの公園で青空市場が開かれた。その一画にブルーシートを広げた老婆がいた。陽気に当てられうつらうつらとしている。のんびりとした雰囲気が気に入り、彼女の商品を眺めた。そのひとつに同じ大きさの砂時計がふたつ、横並びに繋がった置物があった。老婆はぼんやりとした口調で「金色の砂時計をひっくり返せば、五年若返る。銀色の砂時計は歳を取る」と言った。興味を持ったので、紙幣一枚と交換に砂時計を貰った。
 家に持ち帰り、金色の砂時計を逆さにした。

【 】
 メガネを壊してしまった。これでは危なくて外を歩けない。記憶を便りに一時間ほど部屋をあさると、コンタクトレンズの容器を見つけた。一度か二度はは使ったのだが、目にあわなくて結局メガネを愛用していたのだ。蓋を開けると保存液の中にはコンタクトレンズが入っていた。もういつのものだかは分からない。
 このレンズを通して何を見ていたのだろう。そう考えながら、レンズをつけた。

【朝】
 猫に餌をやり、靴を履いてドアを出た。

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Re: 三語「保存液」「そびえ」「砂時計」 ( No.3 )
   
日時: 2012/01/10 02:06
名前: あばば ID:sEdlNfjo

 お砂糖、スパイス、すてきなものをいっぱい。全部まぜればスーパーかわいい女の子が誕生するし、隠し味にケミカルXをくわえればパワーパフガールズだって爆誕してしまう。らしい。どうせなら私だってそういう「いい」感じの素材を使ってにんげんを生み出したかった。のだ。だけれども、どの文献を読んでも、どんな大家をたずねてみても、それらの素材でホムンクルス精製を行う術を知ることはできなかった。聞けばあの大碩学、パラケルススですら、自らの精液を用いることでしか人工生命を作ることはできなかったというではないか。……精液! スーパーかわいい女の子に精液は似合わない。いや、似合うという人もあろうが、すくなくとも私はそのような歪んだ思考を持ち合わせない。欲望に穢れぬ身体こそ、スーパーかわいい女の子の、スーパーかわいい女の子たるゆえんではなかろうか!?
「ばーか。おまえの好きなあいつ、ほら、同じクラスの、席が右後ろの、あいつ。鈴木と毎晩やってるってよ。なんていうの? セフレ? それ。それなんだってよ。そびえるナニに毎晩またがってんの。まだ一六だか一七だかだってのに、お互いやるよねー」
 うるさい! その話は聞いた。ついこないだ聞いた。おまえから聞いた! わからないのか。だからこそのホムンクルスだ。だからこそのスーパーかわいい女の子だ。その一撃、愛の一撃によって、私は救済される。ああ、なげかわしきは妄執の苦しみかな。一〇八の煩悩は二重螺旋をえがき我ら衆生をさいなむこと牛頭馬頭のごとしであるが、しかし煩悩こそ煩悩を打破する最大の剣であると知れ。そしてビッチはおっ死ね。ちくしょう、穢れる前にさらっておけばよかった! 殺して、内臓をとりだして、保存液につけこんで、そうして、そうして、あは、あはは。
「あー、はいはい(若干引き気味に)。そうだね。愛は大切だね。必ず最後に勝つね。逆転サヨナラホームランだね。砂時計みたいにひっくりかえるね。正義だものね。んでホムンクルスはわかったんだけど、その流れでなんで俺が呼び出されてるわけ?」
 言っただろ。ホムンクルス精製には精液が必要なんだ。そして、私はとある事情により精液を出せない。
「まあそりゃあ女には無理だろろうな。……て、おい、ま、まさか」
 うふふ、そのまさかだよーん! あは!

(ナレーション)この後三時間にわたる情事をおこなった二人は本来の目的をわすれ、すっかり性欲に流される。後、交際をはじめ、後、破局、後、よりをとりもどし、二八歳、ついに結婚するのであったー! ちゃんちゃん。これがこのおはなし最大のハッピーエンドです、なんか本当にごめんなさい。

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Re: 三語「保存液」「そびえ」「砂時計」 ( No.4 )
   
日時: 2012/01/10 02:16
名前: タナカ ID:sJDseHTI

「保存液」「そびえ」「砂時計」の三語です。縛りは、極上のハッピーエンドです。
時間は2時までです。




「あけましておめでとう」
「う、うん、あけましておめでとう」
 ああ、これは夢なんだなと思ったのは、僕への第一声が殺人鬼だったからだ。身長二メートル。筋骨隆々身体に、アイスホッケーのマスク、もはや一時間三語と言えば殺人鬼。手抜きな作者の苦心の作。しかもどんなサービスショットか分からないが、ムチムチの筋肉裸にエプロンだった。全くもって意味が分からない、新年早々こんな初夢に心底がっかりだ。
「君の為におせち料理を丹精込めて作ったんだ、口に合うと嬉しいな」
 夢の中で味などあるのかなと、黒豆を食べる。
 これはっ! 程よく煮込んであって、素晴らしく美味しい。箸の止まらない僕に殺人鬼はマスクの中で微笑んでいるようだった。伊達巻、蒲鉾、他の料理も絶品だった。複雑な心境、涙を流しながら僕は食べていたに違いない。
「腹ごしらえしたら、初詣行きたいな」
「う、うん」
 なぜ殺人鬼なのだろうと、心底悔やむ僕がいる。歌って踊れて初日の出万歳みたいな、ミニスカのアイドルに、営業スマイルでも言われたかった。
 人ごみをすり抜け、僕達はお賽銭を投げた。
 袴に着替えた殺人鬼は、手を合せ、熱心にお祈りする。少し気になり殺人鬼に聞いてみた。
「何てお祈りしたんだい?」
「え~、僕から言うのぉ? 恥ずかしいなぁ」
 こんな遣り取りは望んではいない、新年早々だからと、僕は握った拳を緩める。殺人鬼はマスクの下で頬を染め、
「君に邪魔な書き手の人を、この手で葬りさりたいって、お願いしたのさ」
 すぐに実行できるのでは? お願いでもなんでもないだろう。
「みんな凄い書き手の人達だからね、影響される事はあっても、邪魔な人なんていないさ」
「じゃぁ、そうだなね、君に酷評を入れた人を、夢の中で地の果てまで追い回すさぁ。聳える山中の洞の中、保存液に浸かして、砂時計をいくら反転させようと、無限地獄もアリだね。夢の中なら何でもありだからね。なんならマスクを取って僕の素顔を見せるさ、トラウマ間違いなしだね。そんな初夢を見たら二度と書けなくなる事間違いなしさ」
 それもどうかと思う。だけどここは殺人鬼の想いを受け入れよう。
 本当にそんな夢を見たら面白いなと、ちょっと楽しみな僕がいる。

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Re: 三語「保存液」「そびえ」「砂時計」 ( No.5 )
   
日時: 2012/01/10 02:57
名前: ぼびりお ID:pb5dvHKE

「ソフィエ、ソフィエ、もう寝たの? 炬燵で寝ると風邪引くよ」
 肩まですっぽりとこたつ布団の中に入ったソフィエは、コタツの中で手足を丸めスヤスヤと寝てしまっていた。これが王国のお姫様だとは信じられない。
 思い返せばクリスマスの日。一人コタツに入りジングルベルジングルベルを歌いながらケーキを火を消した時に、何がどう下手したのかファンタジックな異世界に飛ばされて閉まった。30歳になるまで童貞だと魔法使になれるんだぜ。俺の誕生日はクリスマスで、魔法使いおめでとう祝いも含まれているのだ。ちくしょう。
 さて謎ワープが終わりわたくしめがやってきましたのはマガダ王国の謁見室。え、本当に魔法使になっちゃったの? そのど真ん中にコタツとケーキとシャンパンと三角帽子とヒゲメガネをつけた私が急に現れたからさあ大変。たちまち兵士たちに槍をつきつけられる自体となった。狭い部屋に連れていかれ「これは何だ!」と尋問官の一人がケーキを指さす。「ケーキです。食べ物です。甘いです。コージコーナーです」と恐る恐る言うと、彼は生クリームをすくいなめた。
「う、うまい!!」
 尋問官はケーキがお気に入りになったようだ。よかった。心証がよくなったようだ。シャンパンについても聞かれたので「お酒です。飲み物です。シュワシュワです。安物です」と答えた。尋問官はカップにシャンパンをつぐと一口飲んだ。たちまち顔を真っ赤にし、ろれつが回らなくなり、最後には「ぉ汚ぷ」て感じの呻き声と共にゲロをはいた。へへへ、尋問官を逆にゲロささせてやったぜ、とか思う余裕もなくコタツともども牢屋にぶちこまれた。
 牢屋の中は意外と暖かく、コタツがあるから更に暖かい。臭い飯だが、ご飯もでる。トイレがないので、隅の壁でしろって言われたときは引いたが、まあそこそこ楽しいひきこもりライフだ。
 コタツでぬくぬくしている私を見にきたお姫様がソフィエで、部下の静止を聞かず一緒にコタツに入りぬくぬくし始めた。コタツ恐るべし。そもそもコンセントないのに何でこのこたつは温かいのだろう。今気がついた。まさか俺、本当に魔法使になったのだろうか! すぐそばにはおお麗しいお姫様がころがってすやすや。この牢獄の中、ちょっと私のおしっこの匂いがするかもしれないけど気にならないのでしょうか。不思議。目をギラギラして見張ってるお付きの兵士がいなければさらば童貞、ルパンdive!!ってなところだ。
「寒くないの?入れば?」
 と誘うと、最初はしぶっていた兵士もコタツに入ってきた。わかるよ。ずっと立ってるの寒いし、つかれるものね。しばらくしてその兵士も寝てしまった。もしやこのコタツ。入ったものを安眠に導く呪われたコタツなのではないだろうか。俺は本当に魔法使になってしまったのかもしれない、すげえ。
 次の日、姫と兵士は目を覚ました。
「わらわ、寒い」
「私も寒いです」
 姫と兵士はそう言いながらコタツから出れない。わかるぞ。コタツの魔力は恐ろしいよな。でも見回りに来た尋問官が怒ったので俺はコタツのスイッチを切って二人を追い出した。二人はまたコタツに入れてくれ、暖かくしてくれとせがんできたが、これ以上やると尋問官にまた怒られるからダメだと断った。それではと俺は牢屋から解放され、応急の西にそびえ立つ塔のてっぺんに立派な個室を用意してもらえた。俺はそこでもコタツに入り、料理長に命令して鍋を作らせた。姫や例の兵士がときどきやってきてコタツに入るので一緒に食べる。この世界には酒がないらしいので、飲み物はいつも水だ。寂しい。みんなシャンパンは飲めないけど、アルコールは腐食効果があるからなにかの保存液につかうといいよ、ってアドバイスしておいた。
 王様も「謁見室でそのコタツを見た時から入りたかったのだ」とかいって、コタツに入るようになった。行き来する人々は、のぼりおりで脚力もついて一石二鳥と大喜び。
 その他、大臣や王妃や、王子や将軍がコタツに入らせろとやってきて、とりあえずコタツでオセロをやったり、麻雀をやったりあそんだ。あんまりにも遊んでいたので国政が危うくなるほどだった。傾国のコタツというやつだ。しまいにはでっかい砂時計をつくり、それが落ちきったら次の人に交代するルールを作った。
 しかし春がやってきて、コタツに入らなくても暖かになると人々が訪れる頻度も減ってきた。俺もコタツから出よう。人間はみんな、いつかはコタツからでなければいけないのだ。

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