ホームに戻る > スレッド一覧 > 記事閲覧
RSSフィード [45] わしゃァ見たんじゃ。あれは間違いなく、三語じゃった。
   
日時: 2011/08/21 22:26
名前: 片桐秀和 ID:6ioV39hw

「眼帯」「震える声」「そこを右に」が今回のお題ダー。
 締め切りは11時半ダー。
 ダー。

メンテ

(指定範囲表示中) もどる スレッド一覧 お気に入り 新規スレッド作成

めだま、のはなし ( No.4 )
   
日時: 2011/08/21 23:34
名前: 弥田 ID:6HQbZfHU

 そろそろと夏も暮れ、うすら涼しくなってきた。から。キミは、震える唇をつぐんで、指先をそっと痙攣させながら、ちぎれるようなあえぎと一緒に右の眼窩から目玉を産んだ。生まれた目玉はゆっくりと床を転がり、水気を含んだ音たてて、ソファの脚にぶつかった。までを見届けてから、どちらともなく、ふう。とため息をついた。
「今年も無事に済んだね」
「ええ、万事滞りなく。今年でもう二〇回目だもの。いい加減慣れちゃった」
 ふう。と再度ため息ついて、キミは空いた右目に眼帯をつけた。止めゴムに前髪が巻き込まれて、舌打ちしながらそれを取ると、水滴のようにぽつり、とこぼした。
「じゃあ、おいわいしようか」
「……うん、そうだね」
 言葉に込めた感情がうまく読み取れず、僕は困惑しながらも賛同した。ちょうど栄に新しいレストランが建てられて、一度訪れておきたい、と思っていたところだったのだ。その旨を話すと、キミは、「あなたが行きたいのなら、そこでいい」と頷いた。僕らは目玉の出産(もしくは堕胎)のために使われた器具を綺麗に洗って片付け、それから一緒にシャワーを浴びた。彼女の眼窩は淫らに暗く、まわりが赤く色づいていたので、欲情した僕らは、狭いバス・ルーム内で身体を折り曲げながらセックスした。陰茎を眼窩にいれると、ほどよく湿っていて、よかった。「もうすこしそこを右に」とキミが言ったので、左側をこすってやると、不意だったのに驚いてか、いっそう高く鳴いた。きゅう、と壁が収縮して、僕も内熱を吐き出した。キミの右目のはしとはしから、漫画にでてくる涙のように、つう、と白濁が垂れていった。それからもう一度シャワーを浴び、服を着て、僕らは外に出た。
 そうして、がだんだん、だんだん、の音に包まれながら、地下鉄に乗っている。車内にひとけはなく、僕と、キミと、あとは蛍光灯のしらじらしい光と、それに照らされる極彩色の釣り広告と、それだけだった。しばらくの間、ふたり、ずっと無言でいた。がだんだん、だんだん、の音が全てだった。新栄で降りる予定で、今名古屋を越したところだから、あと二駅でついた。伏見、にさしかかるちょっと手前で、ふいに震える声がした。
「……あのね、」
 とキミが言う。
「みぃ子が結婚するんだって」
「へえ」
「うん、それだけ、なんだけど」
 僕は何かを言おうとして、だけど、言葉は見つからなかった。
「おいわい、だね。今日は楽しもうね。最近は、目玉のことで手一杯だったから、大変だったね」
「ううん、あれくらい、どうってこと」
「ごめんね」
 キミは、閉じたまぶたに似た静けさで、そう言った。それから、出産(あるいは堕胎)の疲れがたたったのか、ふ、と眠り込んだ。伏見駅につくと、どっと人が乗り込んで騒がしく、それでもキミが起きないので、終点までじっと乗り続けた。息を殺して、じっと乗り続けた。

メンテ

(指定範囲表示中) もどる スレッド一覧 お気に入り 新規スレッド作成

題名 スレッドをトップへソート
名前
E-Mail 入力すると メールを送信する からメールを受け取れます(アドレス非表示)
URL
パスワード (記事メンテ時に使用)
投稿キー (投稿時 投稿キー を入力してください)
コメント

   クッキー保存