Re: 即興三語小説 ―「牡蠣」「初冠雪」「年上」 〆切12/3に延期します ( No.1 ) |
- 日時: 2017/11/29 21:56
- 名前: しん ID:uYoK3ySY
初恋
--恋は、雪のようだ。 大したことなければ、すぐ溶けて、跡形もなく消える。 激しいと長く続き、深くつもり、辺りを覆い隠し、他に何も見えなくなり、暖を求める。 それでも、時期がすぎると、結局すべて溶けてなくなり、平穏が訪れる。
小学校一年生のとき、わたしはいじめられていた。 クラスの中心的な子が、わたしを臭いといいだし、その取り巻きがくんくんと臭いを嗅ぎ、本当だと叫んだのが始まりだった。 最初は、そんなことないよと笑って返して、その日の夜、お風呂で一生懸命に洗って、姉のシャンプーやリンス、ボディシャンプーをこっそり使って、匂いでばれて姉にグーで殴られた。 姉のシャンプーとリンス、ボディ シャンプーは特別で、とてもいい匂いがした。 次の日、またクラスの中心の子がわたしを嗅いで、鼻を摘んで臭いと叫んだ。 自分で自分をかいだけど、とてもいい匂いしかしなかった。 けれど、他の子も鼻を近づけては、くさいくさいと連呼する。 いつの間にか、わたしのあだ名はカメムシになっていた。 それからイジメがはじまった。臭いからと雑巾で顔を拭かれ、給食のときも席をはずされ、体育では誰も組んでくれない。 近くを通ると、鼻をつまみ、笑い声をあげる。臭い臭いと言いながら。 色んな人にきいても、誰も臭くないという。同じクラスの子以外は。 学校ではいつも下を向き、何も喋らず、牡蠣のように生きた。 ある時、たまらず学校の片隅の階段ですんすん泣いていると、その人がやってきた。 その人は隣に座り、ずっと待っていた。わたしが泣き止むのを。 そして泣き止んで、顔を上げたわたしに、どうしたの? と優しくきいてくれた。 その言葉があまりに優しくて、その人にしがみついて、激しく泣いた。 それからのことはよく覚えていない。 その人に何か事情を話した気もするけれど、小学1年生のわたしが冷静ではない状態でうまく説明できるわけはない。 でも、それからしばらくしていじめは止んだ。 その人から、先生に報告がいき、いじめをとめるように動いたのかもしれないし、ただ飽きただけかもしれない。
今になって思うのは、年上のその人が、わたしの初冠雪だった。
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Re: 即興三語小説 ―「牡蠣」「初冠雪」「年上」 〆切12/3に延期します ( No.2 ) |
- 日時: 2017/12/03 20:02
- 名前: マルメガネ ID:xEGrzH.c
師走前の休日
亥の子の日の前から、異常に寒暖の差が激しくなり、とある地方の最高峰が初冠雪を観測したとの情報が流れた頃。 使い古しの石油ストーブを出すと、そこには越冬のために飛来したカメムシが掛けたビニール袋に止まっていた。 悪臭を放たれてはかなわないので、そのままそっとビニール袋を外し、愛用の石油ストーブを隙間風の入る部屋に設置し、カートリッジ式のタンクに灯油を入れて部屋に戻る。 対流反射方式のオーソドックスな石油ストーブの天板に、ネットで手に入れた自家発電方式の対流ファンを置き、点火しようとしたが芯が上がらない。 あぁやっちまった、と思いながらレバーが破壊されるような勢いで強引に押し下げると、錆がこすれる音がして芯が上がった。 やれやれとばかりに、点火してそのままいると、やはりどこからともなく隠れ潜んでいたカメムシが数匹出てきて、ぶんぶんと飛び回るのには閉口した。 そのあと、お使いを頼まれて、スーパーに行くと、すでに鍋物用の出来合いスープが販売されており、いよいよ冬がそこまで来ているのだ、と思われたが誰も手にしていない。 「あんたぁ、年上なんじゃからね」 お菓子売り場で、なにかしらのお菓子を巡って始まった兄弟げんかを叱る親の声が聞こえるのを後にしていろいろ回る。 魚介類売り場ではH県特産のボイル用牡蠣が売られていた。 お使いメモにはその旨は書かれていない。 お使いメモに書かれた品々をさっさと買い物かごに入れてレジに並んでいると、今度は大泣きしている子がいた。 どうやら欲しかったお菓子を買ってもらえなかったらしい。 なんだかんだと、買い物を済ませてさっさと自宅に戻ると、やはりカメムシが大量にどこからともなく這い出ていて、暖かい日だまりで歩き回っていた。 今年の冬は厳しくなりそうだなぁ、と思う私がいた。
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