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RSSフィード [332] 即興三語小説 ―「しっぽ」「低血糖」「おにぎり」
   
日時: 2016/12/04 22:09
名前: RYO ID:DpKtqsHg

●基本ルール
以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。

▲必須お題:「しっぽ」「低血糖」「おにぎり」
▲任意縛り:主人公が裸から始まる

▲投稿締切:12/11(日)23:59まで 基本的に毎週日曜です。連休のときは連休の末日。投稿がない場合、延期することがあります。

▲文字数制限:6000字以内程度

▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません)

 しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。

●その他の注意事項
・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要)
・お題はそのままの形で本文中に使用してください。
・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。
・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。
・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。

●ミーティング
 毎週日曜日の21時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。
 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。

●旧・即興三語小説会場跡地
 http://novelspace.bbs.fc2.com/
 TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。

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Re: 即興三語小説 ―「しっぽ」「低血糖」「おにぎり」 ( No.1 )
   
日時: 2016/12/07 23:00
名前: 朝陽 ID:yJNMFkZI
参照: http://dabunnsouko.web.fc2.com

 低血糖を起こして玄関でぶっ倒れていたら、シンヤがブドウ糖のタブレットを口に押し込んでくれた。
 目を開けてもいなかったのだけど、唇にふれた指がひんやりしていて、ああシンヤ今日はもう帰ってきてたんだと、回らない頭で考えた。
 自己管理しなくてはいけないと、日に十ぺんくらいは思うのだけど、そのことを日に十一ぺん忘れてしまえる人間だから、こんなふうにいつまでも自堕落な生活を送るはめになっているんだと思う。自覚はあるのだ、いつだって。
 知り合った最初のころは、わたしが倒れるたびにいちいち大騒ぎしていたシンヤだけれど、一緒に暮らすようになって二か月も経つころには、もうすっかり慣れっこになって、どれくらいだったら病院に連れて行かなくてもいいとか、何をどこに常備しておいたら安心だとか、なんでも淡々と対処してくれるようになった。救急車まで呼ばれたのは、この一年でまだ二回。
 なんでここまでしてくれるんだろうなあ、と思う。こっちは、一年のあいだに百ぺんくらい。
 もとから好き合っていた恋人が、あるとき急に病気になったのなら、かいがいしく世話を焼くというのもまあわかる。そこまでできる人もめずらしいんだろうけども、ともかく理解はできる。
 だけどシンヤは違う。同棲までしているくせに、わたしたちは恋人ですと、他人に向かって堂々と紹介できる気がしない。一年も一緒に暮らしていて、それらしいことをまったくしていないというわけじゃないけども。
 好きとか付き合おうとかなんとか、そういうステップを踏んだ覚えもないし、どちらかというとシンヤにしてみれば、ひよわな野良猫を見捨てそこねて拾っただけなんじゃないかと思っている。ちゃんと聞いたことはないけれど。
「そろそろ生き返った?」
 笑いぶくみのやわらかい声が、台所のほうから降ってくる。その声に、うんざりしたような色がまったくないことが、毎度のことながら、不思議になる。
「もうちょっと」
 これは完全に甘ったれで、本当はもう起き上がれそうな気がしていたのだけれども、そのまま床と仲良くしていたら、猫のちびが寄ってきた。わたしの鼻のところをべろりと舐めると、顔の横で丸まってしまう。
 ひとの顔におしりを向けないでよー、とこれも百回目くらいの苦情。しっぽが顔をくすぐって、つい、笑ってしまう。それで、笑う元気が出てきたことに気づく。
 シンヤの同居人という意味では、ちびのほうがずっと先輩だ。わたしが最初に会ったときにはすでにぜんぜんちびじゃなかったちび。拾ったときにちびっこかったから、ちび。そのネーミングからして、シンヤの先を考えなさの度合いがすごいと思う。ひとのことを言えた義理ではないけれども。
 ひとひとり拾って、この男はいったい、どうする気なんだろう。
 厳密にはわたしはちびと違って、そこらの道端に行き倒れていたわけじゃないし、自分の巣だっていちおうは持っていた。かろうじてトイレと風呂はついてますよみたいな安アパートではあったけども。洗濯機がベランダにしか置けなかった上に、寒くなると洗濯物をため込んで完全に女子失格の生活ではあったけども。
「起きて、ちゃんとしたごはん食べよう?」
 なんでこんなに穏やかな声が出せるんだろうなあ、と、いつものように不思議に思いながら、うん、と返事だけして、すぐには立ち上がらないで、いっときちびを撫でた。
 ちびは、ちょろい猫だ。誰にでも甘えるし、ちょっと撫でるとすぐごろごろいう。にゃー、と話しかけると必ず返事をしてくれる。
 先に食べちゃうよ、と催促の声が降ってくる、うん、と答える、だけどシンヤは言葉とはうらはらに、座ってじっと待っている。苛々するようすもなく、忍耐づよく。どうしたらこんな人間が出来るんだろう。
 雑穀ごはんと、今日は大根の味噌汁と白身魚のムニエル、かぶのサラダ、大根と卵と鶏手羽の煮物。味噌汁はきのうの残り物だけど、シンヤの作る料理は、いつも、きちんとしたごはんだ。だけどほんとうは、ひとりのときは、てきとうに袋ラーメンとかですませてしまったりもすることを、わたしは知っている。
「食欲ない?」
 首を振る。ちびが魚を狙ってくるのを、抱きかかえて下ろす。すぐ膝によじ登ってくる。爪がささるのに悲鳴を上げて、また下ろす。
「おいしくなかった?」
 これにも首を振った。シンヤのごはんは、いつでも美味しい。美味しいので、困惑してしまう。
「白米のおにぎり、お腹いっぱい食べたい。海苔だけで具が入ってなくて、うんと塩がきいてるやつ」
 だめだよ、と苦笑が返ってくる。
 ちびの尻尾を握りながら、なんでこの男は怒らないんだろうなあ、と思っている。
 たとえばシンヤの、街角で募金箱をもって突っ立ってる人がいたらかならず近づいていっていくらか入れるところだとか、事故現場に行き会ったらためらわずに駆け寄って救護を手伝うところだとか、ちょっと行列があったら順番をすぐ人に譲ってしまうようなところだとかを見て、いいひとだと思うのは、とても簡単なことだ。
 だけどこういうときにいらいらしないのは、いいひと、で片付けていいようなことなんだろうか。
 そもそもわたしは、怒ってほしいんだろうか?
 そうかもしれない。たしなめられるのではなくて、怒られたいのかも。愛想をつかされたら困るのは、自分なのに?
 自分でもよくわからない。
「今日はバイト行けた?」
 ん、と答える。わたしのほかは店長の奥さんと高校生バイトしかいないコンビニで、週4回、短い時間働いている。もちろんそれだけで食べられるわけがないから、もっと前には別の店で、もっとたくさんシフトを入れていたのだけれど、生活が不規則になってよけいしょっちゅうぶっ倒れて、ぜんぜんだめだった。
 いまのバイト先だって、わたしがぶっ倒れて何度目かの無断欠勤をやらかしたときに見た、店長のなんともいいがたい苦い顔つきで、こんなに人手が足りなくなかったらきっとクビにしたかったんだろうになあというのがいわれなくてもよくわかって、だからなるべく急に穴を開けるようなことはしたくないなといつも思うのだけれども、思っていてもすぐ忘れてぶっ倒れるのがわたしで、なんていうかもう、いろんなことを、自分でもだめだなあと思う。思っているつもりだけど、心底から反省していないからこんななんだろうなあと、ひとごとのように考えているのが、わたしのだめなところの真髄だとも思う。
「明日ちょっと遅くなるから、今日の残りをあっためてね。ご飯だけ炊いてくれる?」
「ん」
 ちびがあきらめないので、ムニエルだけ先にいそいで食べてしまって、流しに空いた皿を持っていくシンヤの背中を、じっと見つめる。運動がにがてでずっと影のうすい文化部の幽霊部員だったよという、線の細い、だけどそのわりに背筋のすっと伸びた背中。背骨の形が、シャツからうっすら見えている。
 振り返ったシンヤと目が合う。なに? と目顔で聞かれて、なんでもない、と言葉で返事をする。
「あのさ」
「ん?」
「漬け物、まだある? 大根の葉っぱのやつ」
「あるよ。漬ける前にちょっとだけちびがかじったやつ」
 つられて笑って、シンヤの目尻の皺をぼんやり見つめて、大根の葉っぱで漬け物を作ってくれる男の子、に毎日びっくりし続けている自分の慣れなさにもびっくりして、雑穀ごはんに漬け物をのせる。
 シンヤと会う前だって、もっとちゃんとしなくちゃなあと、漠然と思うことはもちろんあったけれど、日に十ぺんも思うようになったのは、シンヤと暮らしはじめてからのことだ。この古くて小さいけれど、生活のにおいが隅々まで染みついた、ささやかな庭のある家に、転がり込んでから。
 シンヤのご両親は何年も前にそれぞれ亡くなっていて、シンヤはそのまま実家にひとり、途中からはひとりと一匹で、暮らしていたんだそうだ。
 この家にはじめてお邪魔して、シンヤが作ったごはんをごちそうになったときに真っ先に思い浮かんだ、ちゃんとした暮らし、という言葉は、魔法の呪文のようにわたしを惹きつけて、いまも魅了しつづけていて、だけどたまに、ふっと、息苦しくなるときがある。
 息継ぎのように、口を開く。「もっと……、」
「ん?」
「もっと、ちゃんと、しないとなあ」
 すっかり口癖になっているせりふ、シンヤは耳タコだろうに、もうとっくに真に受けてもいないんだろうに、
「まあ焦らずに、ちょっとずつね」
 なんていって、目尻に皺を作って笑う。にゃあ、と、あいづちのようにちびが鳴く。魚をあきらめてキャットフードに鼻面を突っ込んでいたはずが、いつのまにか、ちゃっかりシンヤの膝の上にいる。
 それとも真に受けてないと思うのはわたしの僻みで、シンヤは底抜けのお人好しだから、ほんとうにわたしがいつかちゃんとした真人間になるって信じているんだろうか。
 わたしがちゃんとできるようになったら。そのときシンヤは、安心してわたしの手を放すんだろうか。
 それは、ずっと、なるだけ真剣に考えないようにしてきたことだった。
 その日が来るのが怖いから、だからわたしは本当の本音のところで、ちゃんとできるようになろうと思えないんだろうか。
 手を伸ばして、ちびの喉を掻く。ごろごろ喉を鳴らして、ちびが顔をすりつけてくる。
「ねこ、さ」
「ん?」
「最後まで面倒みられないなら、拾ったら駄目だよって、親とかに言われたことない?」
 んん、と思い出すような顔で、シンヤが言葉を探した。
 わたしはどういう返事を期待しているんだろう。
 返事を待ちながら、シンヤの顔を見ていられなくなって、目を伏せた。撫でるのをやめても、ちびはまだごろごろいっている。
「そういえば、あるかも。拾ったんなら最後まで面倒みなきゃだめだよって」
 シンヤはたぶん何気なく言っただけで、他意なんかなかったと思う。
 だけどわたしは言葉に詰まった。自分から聞いておきながら、どう返事をしていいかわからなくて、だいぶ時間が経ってから、「そっか」とだけ返した。


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 ひさしぶりにお邪魔します。一時間半くらいで書いて力尽きて、ちょっとだけあとで手を入れました……オチが納得ゆかないままですが、本来60分で書き上げるイベントですし、この悔しい感じも三語ならではかなという気がしてきたので、居直って投稿します……。くやしい。
 任意縛り使いませんでした。

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