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RSSフィード [261] 即興三語小説 ―「半減」「クマゼミ」「桜」
   
日時: 2015/08/02 22:18
名前: RYO ID:lToMRwL.

 最近、小説を書きたいと思いながらも、
 書けるようなメンタルじゃないし、
 時間もなかったり。
 もう少し、余裕が欲しいです。

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●基本ルール
以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。
▲お題:「半減」「クマゼミ」「桜」
▲任意お題:なし
▲表現文章テーマ:なし
▲縛り:なし
▲投稿締切:8/9(日)23:59まで 
▲文字数制限:6000字以内程度
▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません)

 しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。

●その他の注意事項
・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要)
・お題はそのままの形で本文中に使用してください。
・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。
・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。
・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。

●ミーティング
 毎週日曜日の21時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。
 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。

●旧・即興三語小説会場跡地
 http://novelspace.bbs.fc2.com/
 TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。

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○過去にあった縛り
・登場人物(三十代女性、子ども、消防士、一方の性別のみ、動物、同性愛者など)
・舞台(季節、月面都市など)
・ジャンル(SF、ファンタジー、ホラーなど)
・状況・場面(キスシーンを入れる、空中のシーンを入れる、バッドエンドにするなど)
・小道具(同じ小道具を三回使用、火の粉を演出に使う、料理のレシピを盛り込むなど)
・文章表現・技法(オノマトペを複数回使用、色彩表現を複数回描写、過去形禁止、セリフ禁止、冒頭や末尾の文を指定、ミスリードを誘う、句読点・括弧以外の記号使用禁止など)
・その他(文芸作品などの引用をする、自分が過去に書いた作品の続編など)

メンテ

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Re: 即興三語小説 ―「半減」「クマゼミ」「桜」 ( No.1 )
   
日時: 2015/08/08 00:48
名前: ID:D5IA0Fp.

小説であるとは言いません。「物語の流れが把握できる程度の粗筋」を目論んでいます。ゆえ、かなりの省略があります。
プロットを組むのに6時間、粗筋として起こすのに4時間程掛かっています。

*********************************

クマゼミ男爵とサクラ乙女          蒹垂 篤梓



 テーブルを差し挟んで座る二人。少年と青年。ぱちりぱちりと囲碁を指す。
「賭をしようじゃないか」
 と言いだしたのは青年。少年は訝しみながらも了承する。囲碁の盤面は少年が優勢だった。
「ここに、とある男女がいる」
 と指し示すのは何もない宙空。そこに浮かび上がる二つの光景は、光の屈折を弄って見せる、ちょっとした魔法のテクニック。青年は、老練な魔法使いだった。
「男は、ある事件を切っ掛けに故郷を去り、見知らぬ異郷で苦労しながらも身を立てようとしている」
 映し出されるのは、熊のような顔をした大柄な男。身なりは労働者階級のそれだが、大勢の人々に囲まれ、信頼を得ているのが見て取れる。
「女は、土地に残り土地の有力な商家に嫁いだ。彼女のお腹の中には、かの男の子が宿っていたが、夫となる男はそれを認めた上で彼女を娶り、家族三人で今は幸せに暮らしている」
 穏やかに微笑む家族の肖像が映される。
「さてここで、ちょっとした悪戯を仕掛けようと思う。この映像を互いの夢に見させるのだ。その上で、どういう反応を見せ、どういう結末に向かうのか。それが今回の賭だ。要は、彼は彼女の心を取り戻せるのか? ということだが、どうだね? 私はね、ダメだと思うのだよ。彼は彼女の元に向かうが、結局、今の幸せを捨てられない彼女に拒絶されると思う。君はどうだ」
「じゃあ僕は、彼は彼女の心を取り戻す方で良いよ」
「では、賭は成立だな。言っておくが、賭の対象に我々が直接干渉することはルール違反だ。倫理的にも許されない。分かっているだろうがね。直接干渉はダメだからな」
 なおざりの返事をする少年に、
「ルール違反はダメなんだからな」
 大事なことだからって、三度は言いすぎだろう。
   *
 とある「世界」の、とある片田舎。小さな街を取り囲んで広大な農地が広がる。そんなどこにでもある風景の中に、溶け込むことのない異風の者が一人、足取り重く歩いている。
 小高い丘の中腹にある垢抜けない邸。そこにいるだろう、とある家族に会うため、はるばる海を越えてやって来た。手には望遠鏡。邸を囲む森の木の一本に上る。
 蝉のようだと、ふと思う。彼の生家の家紋には蝉の羽のモチーフが使われる。クマゼミというあだ名は付きまとい、今でもクマゼミ男爵と呼ばれている。
 そこから覘く、穏やかな家族の風景。
 男は木から下り、その足で再び故郷を後にするため歩き出す。胸の中のうずきを押し殺して。
 男はすぐにでも発つつもりでいた。それを留めたのは一人の少年。不思議な雰囲気の少年で、気付くと翌日また会う約束をしていた。
 やむなく入った酒場を兼ねた宿屋で、男は旧知に出遭う。男は元々この地に生まれた。この地を統べる男爵家の三男坊で悪童として知られていたから、旧知とはそのいう連中のことだ。そのうちの一人が囁く。
「あの時、ミツバチのヤツが旦那をはめたって話ですぜ」
 クマゼミには苦い思い出がある。故郷を去らなければならなくなった事情が。無実の罪の嫌疑を掛けられ、罪には問われなかったが土地を追われた。
「馬鹿を言うな、ミツバチのヤツがそんなことをするものか」
「あっしも聞いた時は耳を疑いやしたが、どうやら本当らしいですぜ」
 男が押し黙ったのを潮に会話は途切れ、酒瓶の空くのと共に夜が明ける。男は一日眠り、気持ちを決する。なぜか現れた昨日の少年が、
「僕が渡りを付けよう」
 と申し出るのを、訝しむこともなかった。
 深夜、二人きりで会うクマゼミとミチバチ。
 真実を問うクマゼミ。
 真実だと答えるミツバチ。
 クマゼミが決闘を申し込む。それを受けるミツバチ。翌日の深夜零時にこの桜の木の下で。
 二人は別れる。
 少年が問う。
「彼は奥さんに真実を告げるかな? 僕はそうは思わないけど」
「告げるだろう。アイツはそういうヤツだ」
「かもね」
 そして、時が来る。
 立ち会いがいるだろう? と微笑む少年。クマゼミとミツバチ、そして、かつてサクラ乙女と呼ばれたミツバチ夫人とその娘が会する。あの初々しくも儚いまでの可憐さは影をひそめたものの、魅力が半減することはなく、活き活きと凜凜しくも成熟した美しさに目を見張る。春は過ぎ、夏が訪れていた。自分は春の頃の彼女を失い、今、夏の訪れによって再び巡り会えた。
「なぜ、連れて来た」
「彼女が来ると行ったから」
「そうか」
 剣を構える二人。合図と共に剣を交える。一合、二合、そして、クマゼミの剣が折れる。
「俺の負けだ」
 静かに立ち去ろうとするクマゼミ、何も言わず見送ろうとするミツバチ。
「ちょっと待って」
 呼び止めるのはサクラ。
「あなたの娘です」
「良いのか」
 ぎこちなく尋ねるクマゼミ。デリケートな割れ物でも扱うように、優しく娘を抱き締める。
「僕の負けのようだ」
 ミツバチがどこか晴れ晴れと言う。
「勝ち負けなんて勝手に決めないで」
 ぴしゃりと言うサクラに誰も反論できない。
「私はあなたの妻で、商会の嫁です。そのことに悔いなどありません。あなたにも、とても感謝してますし、家族としても、一人の女としてもあなたを愛しています」
 うぅぬと渋面を浮かべ唸るクマゼミ。
「ですが、かつてこの人と愛し合った頃のあったことも、認めて頂きたいのです。分かれたといえども、憎くて別れたわけではありません。あなたを責めるつもりはありません。でも、今でもこの人のことを尊敬する気持ちは消えません。あなたへの気持ちとは違う意味で、この人のことも愛おしく思っています。それを認めて欲しいのです」
 今度はミツバチが、うぬと唸る。
「いけませんか」
 ミツバチは静かに息を吐き、
「いや、心のつっかえが取れた気がする」
「わたしの心を知った上であなたの妻でいさせてくれますか?」
「もちろんだとも」
 夫婦としての抱擁を交わす。
「じゃあ、約束の物を」
 少年の催促に対しサクラが渡したのは、自身の髪の一房。それを、クマゼミに渡し、
「約束の物だよ」と。
「二人とそれぞれ賭をしていてね。一勝一敗、ちょうど良かった」
 と笑う。
「その髪を握って、彼女のことを思い浮かべれば、彼女の気持ちが伝わってくるはず。どんなに離れていても、彼女のあなたへの気持ちが分かるはずだよ」
 大事にしまい込むクマゼミ。
「さて、もう一人賭に負けたヤツがいてね。そいつからの戦利品は、これだ」
 と天に向けて掌を掲げると、そこに、へんてこなワッペンが二つ。かなりセンスが悪い。が、半永久的に摩耗しない材質は魔法による物だ。
「これがあるとね、年に一回、夏にだけ二人は夢の中で会える。二人が互いに望む限りね。今回は特別に、三人で会える仕様にしておくよ」
 クマゼミとサクラが最後の抱擁を交わし、ミツバチと固い握手をする。
 その朝早く、クマゼミは再び故郷を去った。
   *
「直接の干渉は違反だと言っただろう」
 囲碁盤を挟んで講義する青年。少年は、
「良く言うよ」
 と呆れ顔を浮かべる。
「あれで良かったのか」
「何の話だ、君がズルをして賭に勝ち、私が負けた。それだけのことだろう」
「まあ、それでも良いけどね」
 ぱちりと碁石を置く。
「こっちも僕の勝ちってことで、よろしく」
 悔しげに臍を噬む青年は、ぶつぶつ文句を言いながら、やがて、
「ありがとう」
 と聞こえるか聞こえないかというくらいの声で呟いた。

(。・_・)ノ

メンテ
ばかやろうども ( No.2 )
   
日時: 2015/08/10 00:37
名前: ラトリー ID:HmenSlD2

 病院の自動ドアを出ると、きつい日差しとよどんだ熱気に見舞われた。
 夏も終わりだというのに、太陽の力は先月から半減どころか倍増したかのようだ。
 すぐそばの桜の木から黒い虫のようなものが空中へ飛び出した。春先にうっとうしいほど薄桃色の花びらをつけていた桜も、今はただの街路樹以外の何物でもない。
 黒い虫のような何かはそのままどこかへ飛び去るかと思いきや、急に力つきたようにアスファルトの地面へと落ちて動かなくなった。
 少し歩を進めて正体を確かめる。セミだった。甲羅のような模様のある腹部と六本の足を上にした黒い姿は、時おりゼンマイを巻きなおした玩具のようにぴくぴくと震えている。次第に動作が遅くなってきているから、もう間もなく本物の死を迎えるだろう。
 周囲一帯、セミの鳴き声が途切れなく続いている。シャーシャーと声ばかりうるさくて品のない音色から推測するに、おそらくクマゼミの大群だ。
 この世を謳歌する単一種の生物と、そこから漏れて死にかけている一個体。
 想像してみて、さっき見てきたのと似たようなものだと思う。人の死も、場合によっては驚くほどあっけない。地上へ出てきて羽化したセミが一週間どころか一ヶ月は生きのびることもあるのを考えると、余計にあっという間の出来事に感じられる。
 前方に足音がした。死にかけのクマゼミのすぐそばに、黒光りする革靴が見えた。
「熊田のおやっさん、とうとういっちまったのか」
 耳にこびりつくような、聞く者の神経を逆なでする声。視線を上げると、生白い肌をした面長の男が立っていた。つり上がった眉に切れ長の瞳、鼻筋の通った威圧感のある顔立ちだ。口元を三日月にゆがめ、仕事帰りのサラリーマンのような風体をして、この暑いのに黒ズボンのポケットに手をつっこんでいる。
「……馬原か」
「夏が終わるまではもつと思ってたんだが、見こみ違いだったな。しょせんおやっさんも大したタマじゃなかったってことか。つまらない」
 馬原は鼻を鳴らし、吐き捨てる調子でつぶやいた。まるでこの場にもっと多くの関係者が居合わせていて、いかに自分が不届き者かを見せつけるように。
 だが俺は知っている。目の前の男は、誰より熊田という人物を尊く思っていた。
 口に精いっぱいの笑みを浮かべようと努力しているが、眼がまったく笑っていない。よほど落ち着かないのか、視線がせわしなく左右に動いている。それだけで演技としては失格だ。本当は深い悲しみに包まれているのが手にとるようにわかる。
「おやっさんの遺体は、姐さんが専用の車に載せて家に連れ帰ったよ。明後日が通夜、次の日が告別式だそうだ」
「自宅で最後の水入らず、ってわけか。未練がましく付き添っても生き返るはずねえのに。さっさと斎場に回せばいいものを」
 ポケットに入れた馬原の腕が震えているのは、動揺を抑えきれないからだ。昔からそうだった。感情がすぐ表に出る、わかりやすすぎる男。おまけに、さんざんあの人に世話になっている。取り乱すのを恐れて、死に目に立ち会うのを避けたのも納得だ。
「なあ、鹿嶋。この暑い中、おれが汗だくでやってきた理由がわかるか。おやっさんが最後にどんな死にざまを見せたか、気になって仕方ないんだ。早く教えてくれよ」
 もっとも、俺も馬原と立場は似たようなものかもしれない。あの人は生き残るための知識や知恵を授けてくれたし、おかげで悪くない地位を手に入れることもできた。
 セミの死骸を視界の隅にとらえたまま、俺はしばしあの人との思い出にふけった。
 両親の不仲、毎夜繰り返される口論とエスカレートする暴力。ちょうど中学に上がったころから壊れ始めた家庭に背を向け、一度非行に手を染めてから堕ちるのは早かった。
 なまじ体格と体力に自信があり、狡猾なやり口の是非にも頭が働いたから、幸か不幸か、ちょうど痛い目にあって道をやり直すきっかけも生まれなかった。母が父の命を奪い、鉄格子の向こうに送りこまれると、その時点で俺が遠慮する相手は誰もいなくなった。
 これまで犯罪と名のつくものにはだいたい関わってきた。だが牢屋にぶちこまれるのは俺じゃない、安易に手を組んだ愚か者がたどる末路だ。
 うまい汁を吸わせてくれる相手を見つけ、顔を見せないで行うアドバイスと出所をつかませない資金で援助する。たとえ警察に目をつけられても罰金だけで解放される案件にとどめ、致命的な証拠には触れさせない。そうやって少しずつ生きる糧を蓄えてきた。
 熊田に出会ったのはそんな時だ。地元の幅広い業界に顔がきき、口より先に手が出る威勢のいい連中を何百人も従えるだけの人望があった。馬原が呼び習わす通り、あの男は確かに「おやっさん」と慕われるだけの度量をもっていた。
 俺は馬原と同じ時期に熊田の一家へ入った。
「馬原に鹿嶋、ウマにシカか。こいつは傑作だ」
 何が面白いのやら、熊田はそう言って俺と馬原の肩をたたいて豪快に笑った。
 その頃から、あの男に引導を渡すタイミングを見計らっていたのかもしれない。
 俺は馬原と組んで事に当たることが多かった。地元の得意先へのあいさつ回り、時々お礼参り。表には出てこない秘密の貿易、ダイエットあるいはストレス解消に役立つ魔法の薬の販売。素直に受け入れない相手には、ちょっとした実力行使を用いて言い含める。
 鉄砲玉を務めるのは馬原で、俺はもっぱら後方支援を好んだ。どうしても出ていく時は熊田の子飼いを引き連れて、数の力で相手を威圧することを忘れなかった。
 もちろん、時には同業者と仲良くすることも必要だ。お互いが紳士協定によって暴発を押さえこんでいるのだと警察に信じこませ、裏から金の力をちらつかせる。奴らが究極的に守ろうとしているのは治安じゃない、秩序だ。混沌を嫌うのなら説得もたやすい。
 こうして俺は熊田からの信頼を高めていった。同時に熊田の健康状態は徐々に悪化し、俺が熊田一家の跡継ぎに指名されたころには風前の灯火と言っていい状況だった。
 もともと酒も煙草も大いに好む性格で、暴飲暴食を常としている男だった。どんなに頑健な人間でも、長年の無理がたたって急に命を落とすことは充分に考えられる。
 俺はただ、ほんの少しその後押しをしてやったにすぎない。医療機関でも発見が困難な、ごく微量の毒物を百日単位、千日単位でターゲットに摂取させる。気づく奴などいるはずがない。なぜならそうやって、俺は今まで無事にやりおおせてきたのだから――
「……ありがとう、鹿嶋。おやっさんの最期が立派だったってこと、よくわかったよ」
 熊田の闘病ぶりについて話し終えると、馬原は泣きそうな顔で、かろうじて笑みを浮かべながら何度も首を縦に振った。
 この過剰な仕草を含め、俺は馬原のことがどうも嫌いになれない。こんな愚か者であっても、今まで俺のために一生懸命働いてくれたのだ。
 ひとたびトップとして組織を率いる立場となったからには、これまで以上に取り立ててやらなければならないだろう。馬原の肩に手を置き、穏やかな声色を出す。
「泣くな、馬原。これからのことを考えろ。おやっさんの思いを俺たちで継いでいくんだ。お前のことは頼りにしてる。きっとうまくやっていけるさ。俺たち、似た者同士だろ」
 馬原が顔を上げた。満面の笑みに涙を流しながら、意を決したように進んでくる。地面のセミを踏みつぶす音がした直後、俺の額には一丁の拳銃が突きつけられていた。
 ポケットにずっと入っていたからか、銃口は弾が放たれる前からほのかに熱かった。真夏の太陽のようだ。クマゼミの大合唱が遠ざかっていく。
「ああ、そうだな。俺たち、本当によく似てる。おかげでおやっさんが手遅れになるまで気づかなかった。お前の企みを見抜けなかった。まったくとんでもない――」

 銃声。

「馬鹿野郎共だ」

―――――――――――――――――――――――――

 久しぶりに挑戦してみました。やっぱり難しい……
 実際に書くのにかけたのは、三時間くらいです。

メンテ
Re: 即興三語小説 ―「半減」「クマゼミ」「桜」 ( No.3 )
   
日時: 2015/08/10 02:44
名前: ラトリー ID:HmenSlD2

>お さん
 お久しぶりです。読ませていただきました。
 あらすじということで、全体に物語をぎゅっと圧縮した感じがありますね。それでも所々に感情の見え隠れする描写があって、「これは虚無に見せかけた哀愁、これは不機嫌に見せかけた感謝の気持ちかな……」みたいにいろいろ想像することができました。
 必要最小限の内容がきっちりこめられていたからだと思います。

「二人の登場人物が賭けをする」という書き出しは個人的に好きなジャンルの短篇でたまに見かける気がしますが、賭けの内容もさることながら、どちらが勝つのか(あるいはどちらも勝ち・負けになるのか)のパターンも気になるところです。
 今回のお話では、「一勝一敗」という言葉から「どちらも勝ち・負け」になるのか、それとも少年の独り勝ちになるのか……本筋からするとあまり重要なことではないようにも思いますが、その辺少し、読み取りきれなかった心残りがありました。
 勝負をする以上、あんまり「何でもあり」になると個人的にどうしても気になる性分なもので。

 実際に、文章が足されて「小説」になった時、男爵・ミツバチ氏・ミツバチ夫人(かつてのサクラ乙女)の三角関係の清算はけっこう紙面を割きそうな気がします。
 娘も「あなたの娘です」で果たしてうまくなじんでくれるかどうか。その辺、読めるとしたらどんな感じかなあ、とあれこれ考えているところです。

メンテ
Re: 即興三語小説 ―「半減」「クマゼミ」「桜」 ( No.4 )
   
日時: 2015/08/10 23:30
名前: ID:Nl.mktak

らとりーさん
どうも、おひさしぶりです。
たまにはチャットにも顔を出して下さい。
まあ、日曜にしか人はいませんが。
感想、ありがとうございます。

まず、御作について。
TCで任侠系の話を見るのは、あまりなかったように思います。
ちょっと新鮮でした。
しかも、かなり雰囲気があって興味深かったです。
ただまぁ、僕の読みが甘いのかも知れませんが、レトリック的な意味で馬の心情の推移が良く分かりませんでした。似た者同士? なの? 馬鹿野郎どもだ」の台詞の 共 が鹿の他に誰を指すのかわかりませんでした。

感想への返事として
>冒頭
イメージとしては、道教説話的な仙人の話の雰囲気でした。

>賭け
「二人とそれぞれ賭をしていてね。一勝一敗、ちょうど良かった」
と書いてあるように、一勝はサクラに対して、一敗はクマゼミに対してです。
だから、サクラから品物を徴収して、クマゼミに渡しているわけです。青年魔法使いとの賭とは、これは別です。
青年との賭については、なんでもありもなにも、
「何の話だ、君がズルをして賭に勝ち、私が負けた。それだけのことだろう」
と書いているように、ずるです。
そもそも、この話において賭は単なる体裁です。
青年が正面から頼みごとが出来ないから賭の体裁で話を持ち出し、しかも、ことさらズルを協調することで、少年が事態に干渉することを促しているわけです。
サクラとクマゼミとの賭けも、結果を読み切った上で、サクラには勝つように、クマゼミには負けるように張ったわけです。そもそも、その二人と賭をすることは、青年から押し付けられたミッションをこなすための単なる手段なので。
つまり、そもそもからして本来の意味での賭の要素は皆無なわけです。
ま、唯一まともな勝負だったのは、青年と少年の囲碁だけですね。

>あなたの娘です
そりゃ、事前に母子の話し合いがもたれたことでしょう。父親抜きでね。
大人しく着いてきたと言うことは、それなりに納得したからじゃないでしょうか。今のところ、その程度にしか考えてませんが。娘とクマゼミとのことについては、この瞬間より、しばらく後になってからの方が色々ありそうな気がします。今この瞬間には、多分、思考と感情が追いついていないというのもあるかも知れません。てか、この子、幾つなんだろう? それにもよるなぁ。10才くらいだったら、まだきょとんかもしれない。5年もすれば荒れるかも知れませんけどねw

まぁ、他にもかなりの省略があって、動作的な展開以外の部分ではかなり分かり難いというか、書く方としても、設定を変えたりできるよう幅を持たせてあるので、そのものとしては、不親切設計になっています。逆にプロットとしては感情部分を入れすぎかなぁという危惧もあったり。

それと、クマゼミとサクラの名前の意味は分かって頂けたでしょうか? ここ、分かって貰えていないと、お題を名前に使うなんてズルじゃないかといわれそうです。
いちおう、答えとしては、
>あの初々しくも儚いまでの可憐さは影をひそめたものの、魅力が半減することはなく、活き活きと凜凜しくも成熟した美しさに目を見張る。春は過ぎ、夏が訪れていた。自分は春の頃の彼女を失い、今、夏の訪れによって再び巡り会えた。
という文章そのままです。蝉と桜の盛りの季節の差が発想の起点でした。
この話のプロットとしては、究極これだけのようなものです。

どうもありがとうございました。

メンテ
Re: 即興三語小説 ―「半減」「クマゼミ」「桜」 ( No.5 )
   
日時: 2015/08/11 18:54
名前: ラトリー ID:fuGLpE8s

>お さん
 感想&解説ありがとうございました。
 自分の書いたのだと、やはり結末の落とし方へ注目しすぎて心情変化が置き去りになっている、という難点がありますね。
 ウマとシカが共に(そして彼らだけが)まさに馬鹿野郎なんだ……というノリで発想したので、その点がはっきりするよう手持ちデータの結末を書きかえておきました。
 また何かの機会に、どこかで出せたらいいなあ、と思います。

 解説のほうは、交えて読みなおすことでいろいろ細かく見えてくるものがありました。
 青年は、当事者たちがみなそれぞれの形で幸せになってほしかったんですね。それで、むしろ少年がずるをするよう言外に促して、結果的に念願をかなえたと。
 実際に物語としてもう少しふくらんだ形になれば、さりげない描写でその辺がうまく読みとれるようになってるんだろうな、と思います。

 彼らの娘にしても、将来的にはいろいろありそうなのは予感できます。ただ、そこへ行く前に物語が終わるのであればあまり問題ないかも、と再読して感じました。
 サクラとクマゼミの名前の由来は、何となく感じてました。そもそもクマゼミの生態として、桜の木にとまって樹液を吸うのは割と普通にあるみたいですね。
 春に花が満開のうちはセミも地下へもぐってすごし、夏になり葉が生い茂ると地上へ出てきて幹にとまり、栄養を受け取りながら声を限りに鳴き続ける。
 両者の関係は物語にしても不思議な因縁・つながりを生みそうで、どことなく魅力的でした。自分が書いてみようと思ったのも、その辺がきっかけのような気がします。

メンテ

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