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RSSフィード [140] 即興三語小説 ―次の三連休を探して、多分三十日以内―
   
日時: 2013/09/23 22:45
名前: RYO ID:XwoCAVwM

 手記と書けば聞こえはいいが、落書きとそう変わりないただの覚書きには違いないそれを鑑定士が見ている。鑑定士が見ているのは古びた黒革の手帳だ。見ているというのは少しばかり語弊があるかもしれない。見ているのはモニターであり、そこには到底分からない文字列が並んでいる。肝心の手帳は三六〇度のレーザーの光を浴びて、宙に浮いている。別のモニターには、次々にレザーが透過して判明した文字列が並ぶ。
「食肉が、……もうひとつ、いや、人肉? ……あとひとつ? 悪筆にもほどがあるか? それともさらに古い年代の人物のものか?」
 鑑定士の言葉に興奮が混ざったのが分かる。とはいえば、気になるとすれば、これが金になるかどうかだ。こんな手帳、興味なんてない。
「いいか。長年のよしみでいうが、こんな年代もを持ち込んでおいてそんなつまらなそうな顔をするなんてだな--」
「さっさとやれ」
 問答無用で足蹴にする。
「幼馴染だからって、足蹴はひどくないかい?」
「時は金なり」
「温故知新だ」
 とりあえず、足の力を込めて黙らせる。まったく、石油を掘りあてるわけでもあるまいし、いちいちこんな古人の手記に何が書いてあったかなんて、そうそう大事でもあるまい。もう人類が宇宙に飛び出して一〇〇年が経つというのに。温故知新といって、古きを知るなんてキチガイは--
「私だけよ。でも、こういう先人の知恵に私たちは学ぶ--」
「うるさい!」
 足の力を強めて、黙らせる。解析が終るのはもう少し先らしい。


ちょっとだけSF調?にしてみました。



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●基本ルール
以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。

▲お題:「手記」「食肉」「あとひとつ」
▲縛り:なし
▲任意お題:なし
▲投稿締切:9/29(日)23:59まで 
▲文字数制限:6000字以内程度
▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません)

 しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。

●その他の注意事項
・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要)
・お題はそのままの形で本文中に使用してください。
・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。
・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。
・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。

●ミーティング
 毎週日曜日の21時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。
 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。

●旧・即興三語小説会場跡地
 http://novelspace.bbs.fc2.com/
 TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。

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○過去にあった縛り
・登場人物(三十代女性、子ども、消防士、一方の性別のみ、動物、同性愛者など)
・舞台(季節、月面都市など)
・ジャンル(SF、ファンタジー、ホラーなど)
・状況・場面(キスシーンを入れる、空中のシーンを入れる、バッドエンドにするなど)
・小道具(同じ小道具を三回使用、火の粉を演出に使う、料理のレシピを盛り込むなど)
・文章表現・技法(オノマトペを複数回使用、色彩表現を複数回描写、過去形禁止、セリフ禁止、冒頭や末尾の文を指定、ミスリードを誘う、句読点・括弧以外の記号使用禁止など)
・その他(文芸作品などの引用をする、自分が過去に書いた作品の続編など)

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ともちゃんの恋 ( No.1 )
   
日時: 2013/09/24 12:49
名前: 野中 ID:NOuoA1HE

 ともちゃんがこの頃、真夜中にひっそりと一人で起き出していることを、わたしは知っている。
 時間はだいたい決まっていて、二時から三時ごろ。まず共用リビングの方から物音がして、次に台所の白熱電灯が点く微かな音がきこえる。わたしは布団のなかのあたたかい闇でうとうととまどろみながら、ともちゃんの出す音をひとつひとつ拾う。お菓子か何かの袋をやぶる音や、コップにお茶をそそぐ音、それからボリュームを絞ったラジオの音楽。台所の椅子の上で膝をかかえて、板チョコを齧っているともちゃんを、わたしは想像する。褪せた霜降りグレイのパーカーに、同じ色のルームパンツを履いて、茶色い短い髪をうしろで小さくひとつに結び、ぼんやりとラジオを聞き流しているともちゃん。うでにもあしにもおなかにも、しろくやわらかいマシュマロのような脂肪をたっぷりとまとったともちゃん。
 彼女はいま、恋をしているのだ。そのふっくりとしたからだの内にある心臓を、桃色にはじける果実酒のような、仄かな苦みを含んだ、とろりと甘い感情でみたしているのだ。わたしは布団から抜け出して、リビングの方へぺたぺたと歩いていった。
「かなみ?」
 足音に気づいたともちゃんが、ぱっと顔をあげる。口もとにべったりとこびりついたチョコレート。机の上にはアップルパイ、栞のはさまれた『地下室の手記』の文庫本、大福、かぼちゃの煮物、そしてこれから料理するつもりだったのか、生のままの赤い食肉とキャベツ、剥きかけの人参とじゃがいもが転がっている。音を消されたテレビの青白いひかりが、ひろげられた食べものの表面を白々と照らしていた。
「起こしちゃってごめんね。ちょっと、おなかがすいて」
 はにかむともちゃんの、まるいほっぺをゆびでつつく。
「嘘。今日、夕ごはんいっぱい食べてたじゃん」
「うん。でも足りなくて」
 言いながら、あとひとつ、とバタークッキーに手を伸ばして、ぺろりとたいらげる。
「止められないの。だめってわかってるのに、食べちゃうの。おなかがすくの」
 ほおばったクッキーをていねいに咀嚼しながら、彼女はぽつりとつぶやいた。
「さみしいときって、いつもより、おなかがすくでしょう」
 伏せられた瞳に、胸がぎゅっとしめつけられる。
 彼女はいま、恋をしているのだ。決してかなわない、かなしい恋を、しているのだ。

 好きなひとができた、とともちゃんに告げられたのは、一か月ほど前のことだった。ちょうどルームシェアを始めて一年が経つ日で、わたしたちは二人でささやかなお祝いのパーティをしていた。
「ほんとに? 相手はだれ? どんなひと?」
 わたしは嬉しくて、思わず身を乗り出した。大学の入学式でともちゃんと出会ったときから、彼女がこういう話をすることは一度もなかった。彼氏ができたと言ってはよろこび、ふられたと言っては泣くわたしを、ともちゃんはいつも優しく見守っていてくれた。今度は、わたしがお返しする番だ。せいいっぱい、ともちゃんの恋を応援しよう。そう思っていた。
「年上のひと、なんだけど」
 ともちゃんは妙に歯切れが悪かった。照れているのだと思いこんだわたしは、にこにことあかるく微笑みながら訊ね返した。
「いいなあ! 年上ってなんか素敵だよね。いくつくらい離れてるの?」
「二十五歳差」
 え、と笑顔が凍りついた。ともちゃんは淡々と話しつづける。
「古和先生っていう、私の入ってるゼミの先生なの。今年で四十六歳。奥さんも、子供もいる」
 わたしはどう返事をすれば良いのか、わからなかった。わたしの知っているともちゃんは、真面目で優しくてすこやかで、こんなドラマの中のような恋をする子ではなかった。
「ともちゃん、そのひとのことが好き?」
 おそるおそる訊くと、ともちゃんはこっくりとうなずいた。その瞳は、きれいに澄みとおっていた。

 あれからもうすぐ一ヵ月が経つ。ともちゃんは夜な夜な起き出しては、ものを食べるようになった。さみしさでからっぽになったからだをみたすように、いっぱいいっぱい、食べるのだ。
「好きなの」
 ふいに言葉がこぼれる。テレビの方を向いたまま、ともちゃんは呟く。
「好き。好き。大好き。本当に、好き」
 ともちゃんはぽろぽろと涙をこぼしはじめる。めったに泣かないともちゃんの涙。わたしの胸にも、かなしみがあふれる。唇を噛みしめて、彼女のぷっくりした小さな手をそっとにぎった。
「だめなことはわかってるの。先生には家族がいるし、私はでぶだし、もう本当に、どう頑張ったって無理なことは、わかってる。でも、じゃあ、この気持ちはどうすればいいの? どこに向ければいいの?」
 おどろくほど大きな涙粒が、頬を伝い落ちる。それ以上見ていられなくて、わたしは目を瞑った。
「こんなに汚く食べ散らかして。私、ぶざまだね。かっこ悪いよね。ごめんね」
「そんなことない」
 わたしはともちゃんの手をさすりながら言った。
「そんなことないよ」
 うすく瞼をあげると、ともちゃんが泣きながらチョコレートを齧っているのが目に入った。唇をべたべたにして、静かにぼろぼろと泣いている。
 その瞬間、わたしは彼女を美しいと思った。大好きなひとを強く想って、泣いている女の子。ひとがひとを好きだとおもう気持ちが、ぶざまな訳ない。かっこ悪くなんかない。ともちゃんの心は、きっとこの世の何よりも美しい。
 最初から絶対にかなわないとわかっている恋。誰も悪くない。だからこそ、こんなにもかなしい。かなしくて、うつくしい。
 鼻をすすりながら、ともちゃんは言った。
「でもね、好きにならなければよかったとは、思えないの。こんなに苦しいのに、どうしてだろうね」
 にぎった手に力をこめながら、いつかこの子が幸福になれますように、とわたしは願った。この恋はきっとかなうことなく散るのだろう。頭ではわかっている。それでもどうにかして、幸せになってほしかった。先生が奥さんと別れればいいとか、そういうことじゃなくて、ただ、心優しい、わたしの親友が救われることを、ひたすら祈った。
 夜は、静かに更けてゆく。

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