あーなんか言いたいことはいろいろあったけど、とりあえず4月の残業がこのままいくとやばいらしいから、5月は残業を控えたいらしい主催者です。懐中時計はもうそろそろ日付が変わります。GWなんてないなら、残業しなくていいらしい。え? 違う? 今年は休みが少ないから、まだまだ死ねないって。それはまだまだ殺せないってことじゃ……川縁の青柳は静かに揺れるだけ。締切り、ミーティングも5/6です。注意願います。 -------------------------------------------------------------------------------- ●基本ルール 以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。 ▲お題:「懐中時計」「青柳」「まだまだ死ねない」 ▲縛り:なし ▲任意お題:なし ▲投稿締切:5/6(月)23:59まで ▲文字数制限:6000字以内程度 ▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません) しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。 ●その他の注意事項 ・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要) ・お題はそのままの形で本文中に使用してください。 ・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。 ・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。 ・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。 ●ミーティング 毎週日曜日の21時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。 ●旧・即興三語小説会場跡地 http://novelspace.bbs.fc2.com/ TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。 -------------------------------------------------------------------------------- ○過去にあった縛り ・登場人物(三十代女性、子ども、消防士、一方の性別のみ、動物、同性愛者など) ・舞台(季節、月面都市など) ・ジャンル(SF、ファンタジー、ホラーなど) ・状況・場面(キスシーンを入れる、空中のシーンを入れる、バッドエンドにするなど) ・小道具(同じ小道具を三回使用、火の粉を演出に使う、料理のレシピを盛り込むなど) ・文章表現・技法(オノマトペを複数回使用、色彩表現を複数回描写、過去形禁止、セリフ禁止、冒頭や末尾の文を指定、ミスリードを誘う、句読点・括弧以外の記号使用禁止など) ・その他(文芸作品などの引用をする、自分が過去に書いた作品の続編など) ------------------------------------------------------------------------------
とある老人の日常 老人はロッキングチェアーに揺られ、ぼんやりと眺めている。テーブルの上には半分まで空けたグラス、懐中時計が開かれて置かれている。午後の心地よい風に青柳が靡く。時間を忘れそのまま眠気に誘われて…… 老人は既に止まっていた。どんな夢を見たのだろう。または過去の回想。苦痛のないその表情は安らかともいえる。繰り返しロッキングチェアーに揺らされると、腕は垂れていた。 日も落ち、部屋も暗くなる。 老人の額から補助灯が照らすと、老人は起動し体を起こす。溜息一つ。 まだ、まだ死ねないのか…… 機械化した体の自分を呪う。長生きしてねと老人に勧めた家族にも恨みが込み上げてくる。懐中時計を口の中にしまい、家族から送られてくる映像を頭で処理し、スリープモードに切り替える。 味気ないオイルの残りを流し込むと、留守番を頼まれた老人はまた、ロッキングチェアー型充電器に座り、一人揺られる。
死刑執行 過疎の町の山里に建てられた刑務所には三千人に及ぶ犯罪者が収容されている。 年ごとに犯罪者の数が増えるのは時代の流れか。 刑務所の近くに河川があり土手には柳が植えられているが、夏にもなると葉が青くなり青柳が風にゆらゆらと揺れて、のどかな風景で見る者の心を穏やかにさせる。 野沢はバスに揺られ土手を幾度もなく通った。 野沢がその日、刑務所に来たのは、死刑執行が間近に迫った受刑者Aに静穏な死を迎えてもらうためだった。 Aは三人の者を殺していたが、物的証拠などから、正当防衛ではないかと思えるようになった。 だが、A自身がそれを否定して、判決通りの死刑を望んだのだ。 野沢は、弁護士として最善の努力は尽くした。 妻と娘を亡くしている野沢はコンビニで買った弁当をバスの車内で食べた。青柳の葉が窓からひらひらと落ちてきて、白米の上に青いコントラストを作った。野沢は青柳の葉ごと白米を口に含んだ。少し苦い味がしたが、それは今回の弁護活動の結果を意味しているのかもしれない。 Aと話し合い事実確認をして弁護に何を望んでいるかわかるにつけ、野沢は、自分の無能力ぶりを思い知らされた。 三人の者を殺しはしたが、正当防衛に他ならないと野沢は考えていたからだ。 だからその方向で弁護したかったが、A自身が死刑を望み、自分に不利な発言をした。 以前、面会した時に野沢は尋ねた。「どうしてあんな発言をしたのですか?」「生きていても、仕方がないからさ……」「このままだと、判決通り死刑になってしまいます。Aさん、上告しましょうよ」「私は、死刑を望んでいる」「どうしてなのですか? たしかにあなたは三人を殺したかもしれない。しかし、あれは正当防衛でしょう。彼らが、あなたを殺そうと、車や刃物で襲ってきたから、あなたは対応しただけだ。その結果、彼らが死ぬ羽目になった」「どちらにしろ、私が存在していたから、彼らは亡くなった。だから、私は死刑になっても異存はありません」 死刑三日前の面会室で、Aは穏やかな表情だった。「何か、伝えたいことはありますか? 親族の方でもよいし、知り合いの方でもよいですよ。もちろん私にでもよいです」 Aは微笑を浮かべると「せんせい……」と呟いただけで、面会室を後にした。 当日午前十時前に懐中時計をスーツの懐から出した野沢は、時計が十時を三十分ほど過ぎるまで見ていた。 終わったか……。 野沢が弁護士事務所を出たのは夜遅くになってからだった。 駅前の屋台でおでんをあてにコップ酒を飲んでいた。「お客さん、あんまり飲んだら体に悪いですよ」 屋台のおやじが身体を気遣って声をかけてくれた。 野沢は酔っていたのだろう、屋台のおやじにAのことを話した。「そうですかい」そういいながらおやじは蛸(タコ)を出した。 蛸は生きていて、のらりくらりとおやじから逃れようとしている。 おやじはまな板の上で包丁を使い、蛸の脚を切り取った。 一本、二本、そして三本。 だが蛸は「まだまだ死ねない」とばかりにまな板からするりと路上に落ちた。そのまま路上をするすると動いていく。 おやじはそれを見て捕まえようともせずに「生きようとする生命力があるのですね」と言った。 切り取った脚を串に刺しておでんのタネにした。「おやじさん蛸を捕まえないのですか? 川に逃げちゃいますよ。もう橋の袂まで近づいています」「ああ、いいのですよ。その方に何があったのか知りませんが、本当は生きたかったのでしょう。しかし事情があったのでしょうね」「事情か……。もしあるとすれば何なのかな」「あの蛸は生きるために他の命を自分の物にしています。その命は三匹ではないでしょう。数えきれないほどの命を自分が生きるために食ったのでしょう。しかし、まだ食い足らないらしい」 野沢はお金を支払うと屋台を後にした。「仮説としては可能だな……。三人以外にも殺しをしていたかもしれない」 野沢は自宅に帰ると、仏壇の前に座り、妻と娘の仏さんに線香をあげながら、「きっと犯人を捕まえて償いをさせてやるからな……」と誓った。―― 了 ――お題:「懐中時計」「青柳」「まだまだ死ねない」
お題小説初めてですし、時間制限もオーバー(75分)し、内容むちゃくちゃかもしれません。ドリーム・タイム・デット・トラベル 俺は、走っている。 暗くなった道、その横で揺れる青柳。「こっちにいるぞ!」 後ろから、怒号と銃声が聞こえた。 街中で発砲?! ありえない、がそれ以上に俺の命が危ないことを確信した。 だから、このままさらに加速する。足には自信があった。 追いつかれたら殺される。 その核心だけを持って俺の知らない街を疾走していた。 目の前に、ちょうどいい小屋を見つける。 中に入る。真っ暗で、じめじめしていて気持ち悪いがこの際なりふり構っていられない。十分ぐらいたっただろうか。「チッ どうやら見逃したようだな」 という話し声が聞こえ、足音が遠ざかる。 小屋の壁にもたれかかりながら安堵の息を漏らしつつ思わずつぶやく「なんで、なんで俺が追われているのだろうか……」 しかし考えても全く分からない。 なんとなく、ズボンのポケットを探ってみると…… 先代から受け継がれてきた、俺が子供のころからよく使う懐中時計があった。古ぼけた、何の変哲もない懐中時計。 その、懐中時計の針がありえない速度で巻き戻っていく。 驚いて見つめていると、時計が白い光に包まれ…… 俺の意識はそこで途絶えた。 熱風を感じ、目を覚ます。 そこには、ありえない光景が広がっていた。 地獄の光景だった。 あたり一面火の海。川は赤く染まり、防災ずきんをかぶった子供たちが裸足で必死に走り、川に飛び込んでいく。 火の手はどんどん広がっていき、すべてものを焼き尽くす。 俺は、また訳も分からないまま命の危険にさらされた。「なんなんだよ! くそっ」 毒づきながら、生き延びる方法を考える。 このまま逃げるか? いやだめだ。追われているわけでもないし火災なら逃げても意味はないだろう。 目の前の川に飛び込むのは? それで、いいだろう。 自問自答をして、川に飛び込む。着水する瞬間、俺は白い光に包まれる。 今度は!なんなんだよ! またしても、わけのわからぬ状態で意識は途絶える。 気が付くと、俺は戦闘機に乗っていた。 しかも、体の自由がきかない。 俺が、他人の視界から見ているような、そんな不快感があった。 その戦闘機は、船に向かって攻撃する。 戦争なのか? 思っているそばから激しい戦闘が続く。 機銃のリズミカルな音が鳴り響き、爆発音がどこかしこから聞こえる。 やがて……戦闘機が船に突っ込む。 おいおいおい!死ぬ!死ぬって! と思ったら白い光に包まれる。 なんなんだよ!くそっ! そのあと、俺は次々と危険な環境に追われた。 狙撃されたり、津波にあったりだ。 しかし、死ぬ! と思った瞬間に白い光に包まれ、気を失うのだ。 しかも、だんだんと包まれるまでの時間が早くなっていく。 目が覚めた瞬間俺にいきなり男が刀で切りかかってくる。 もうむちゃくちゃだ!などと思ったら白い光に包まれていく。 そしてまた目が覚める。 そこは、何もない部屋だった。 その真ん中に、少女が立っている。 少女が話しかけてきた。「おもしろかった? 怖かった? ちなみにね、今日見た景色はすべて本当にあったことだよ。また、来てね?」 と、少女が言い終わると同時に気を失う。 最後に気が付いたのは、自室のベッドの上だった。 何の変哲のない、本やゲームが置いてある見慣れた俺の部屋。「夢……だったのか?」 起きた俺は、懐中時計を手に取る。 懐中時計は鈍く白い光を放っていた。 そして、俺の背中に、冷たい鉄が刺される。 血が流れていき、体温が低下していく。 俺は、まだまだ死ねない! 死にたくない。心からそう思った。 そしたら、夢で見た真っ白い光に包まれ…… 夢の中で最後に来た真っ白な部屋に来た。 少女がこちらを見る。「あれ?こっちに来ちゃったんだ。ここに来るって、すごいことなのよ?」と笑う。「すごい……?」「そう、ここは『懐中の部屋』 初めて来た人限定で、懐中時計の秘密を語っちゃおうってずっと待ってたんだけど百年近く誰も来なくて、君が初めての来訪者」「懐中時計?」「あら、知らないで来たの?まぁ、それもあり得るか。」「なーんだ、つまんないの。じゃあ、そのまま返しちゃお。真相を知りたくなったらまた来てね」「え?」 俺は、気を失った。 目が覚める。俺の部屋のベッドだ。体は健康そのもの。刺されたことが嘘のように。 刺した男はいないか目回してみるが、いなかった。 終わった。そう感じた。懐中時計は引き出しの奥深くに押し込んだ。 この経験の後、俺は懐中時計の真相を調べてみることにした。 しかし、そんなものあるわけもなかった。 だから、夢の中でまたあの少女に会おう。 夜、夢の中で少女に会う。「また来たってことは、懐中時計の秘密を知りたいってこと?」「ああ」「じゃあ、話すね」 と、少女は説明を始めた。 少女の話をまとめると。こんな内容だった。 呪われた懐中時計で、所持者が必ず何かしら危険な目にあい殺される。 そして使用者の死ぬ直前の記憶を、懐中時計が次の使用者に見せる。 その記憶を見終わったら、使用者が殺される。そのループだ。 俺は、強くいきたいと願ったから助かったそうだが、ほかの使用者は 仕方ないと諦めてしまったらしい。 少女の長い話が終わり、俺は、白い光に包まれる。 俺は、それから何もなかった。 懐中時計は、もう出さない。 そう心に誓い、過去の犠牲者に追悼をしつつ、 また、新たな日常を歩いて行こう。 この経験を――役立つときがあるかはわからないが――役立てながら。 fin
カーショ、カーショ、カーショ、カーショ。柔らかい金属を軽く叩くような音が、静寂の中で響く。ステップを踏むみたいに軽快だ。寸分のくるいもなく、一定のリズムを踏んでいく。カーショ、カーショ、カーショ、カーショ。 そう、時を刻む懐中時計の音は、常に同じリズムを保っている。彼が幼い子供だった時分から、ずっと。 彼は音を聞きながら、布団の中で寝返りを打つ。どうも床の中の体勢が定まらず、心地が悪い。そんな時に、頭が止むことのない柔らかな金属の音を捕まえてしまった。薄く、脳味噌の周りに漂っていた睡魔が、煙のようにふっと消えた。眠気の霧を突き抜けたその音は、一定のリズムで、鋭く頭に響き続ける。 眠れそうになく、気付かぬうちに、彼の意識は音の後を追いかけていた。ただひたすら、聞こえた音を、頭の中でなぞっていく。一定のリズムを。しばらくそうしていると、ふと、妙な感覚が脳裏をよぎる。 時計が刻む「時」は、こんな風に一定だったろうか。 その考えに当たってすぐ、彼の頭に別の言葉が浮かんでくる。まるで、二つの言葉が紐か何かで繋がっているみたいに。 時間は、禿げで老いぼれの詐欺師なんだ。 この妙な喩をしたのは誰だったか? たぶんイギリスかどこかの、昔の詩人だろう。そいつが誰であれ、どうでもいいことだ。しかし―― この喩を知ったのは、おそらく大学時代だ。何十年も昔。彼は英文学科の学生だった。当時は、言葉の真意が分からず、それでも――いや、それだから、魅力的に思った。ちょうど、卵と鶏のどちらが先か、という答えようのない問いが、不思議な吸引力を持つように、魅惑に満ちていた。 しかし、今はその言葉の正体がはっきり分かった。イギリスの詩人がどういう意図で言ったかなど、関係ない。一瞬にして、彼の脳はその言葉を、咀嚼し、呑み込んだ。そして彼の内奥にある醜も美もぐちゃぐちゃに混ざり合った魂に、すっと溶け込んできた。 詐欺師は「時」がたっぷりあると見せかける。少年期、無数の輝かしい「時」が彼を囲んでいた。彼はその一つ一つを捕まえるように、飛び回り、それでも「時」は溢れていた。青年期には、彼を囲む輝きは、ぐる、と暗く、重く、じめりとしたものに姿を変え、前途に影を落とした。永遠に苦しみが続くものと思わせた。心に痛みを感じながら、それでも暗闇から飛び出そうと遮二無二なった。しかし、どうあがいても少年時代のような輝きは、取り戻せなかった。働き始めた時は、その苦から抜け出したようなそうでないような、中途半端な状態だった。それからは、忙しさにかまけて、青年期に感じた精神の痛みなど、忘れてしまった。ただ、ただ、仕事をした。働いて、働いて、働いた。そして、ふっと気が付いた。自分が禿げた老いぼれであることに。たっぷりあったはずの、永遠に続くはずの「時」は、まるで手品のように、布をさっとまくり上げた時には、なくなっていた。 懐中時計の裏側には、子供の頃母が書いてくれた「青柳」という彼の姓が、はっきり残っている。その時から、変わらぬてらてらとした光沢を湛えて、同じリズムでステップを踏むように、「時」を刻む。様変わりしたその周囲のことなど、気にも留めないように。そして、この詐欺師はまだ何か企んでいる。そう彼は思った。時がたっぷりあると見せかけ、奪い去った後、その残された僅かの時間を、スローモーションで進めていく気だ。彼には、もう分かってしまった。 カーショ、カーショ、カーショ、カーショ。 彼は、まだまだ死ねない。----------------------------------------久々の三語です。大体一時間くらいで書きました。よろしくお願いします。
優しい柳 それは、ちょっと昔。 まだ、人と自然が共存して、お互いがお互いを大事にしているそんな時代。 あるひとつの町のお話です。 その町は、人が行き交う要所とし、大きくなったのですけど、結局は通り道です。そこそこという程度でした。とりたてて名物があるわけでもなく、特殊な技術が受け継がれているわけでもない。とりたてて珍しい物はありません。どうしてもと一つあげれば、そこには立派な青柳があるくらいでしょうか。 何も特徴のないこの村に何か一つ、と誰かが植えて、それを町の人々で大事に大事に育てていつの間にやら、他ではみないほどの立派な青柳となっていったのです。 ある日のことでした。 青柳に異変が起こりました。 村の人々が口々に噂にしています。 おい、柳のこときいたか? おお、きいたぞきいたぞ。枝、おれちゃったらしいな。 そうです、非常に雄雄しい柳は、枝も太く、おいそれと折れるものではありません。それがぼきりと折れているのが見つかったのです。 しかも、あれだろ、太い枝がぼっきりと。 そうだよ、あんなの折ろうったって折れないよ。 折れた枝は、柳の根元においておかれていたのです。同じくらいの枝、近くの枝を揺すっても微動だにしません。その枝が何故かぼっきり折れているのをみて、みな不思議がっていました。 しっかし、なんでおれたんだろうな。 さぁな。 それを聞いていた男が一人、ぼそっとつぶやくように言いました。『優しいからだよ』 そういうと、きらきら光る懐中時計を手に、その場を去りました。 しばらく噂話はされたものの、原因ははっきりせずに、偶然なにかの拍子の折れたんだと、誰も理由を解明しようとは思いません。 そして噂が消えた頃、また枝が折れたのであります。 やはり、前と同じく噂だけが氾濫します。 けれども、犯人はわかりません。そもそもどうして折れるのかわからない。ためしに力自慢が数人集まって、いくつかの枝に縄をかけて引っ張ってみたのですが、全くといって動きません。まだこの時代重機などもありませんので、自然に折れたのではないか、としか結論がでませんでした。 それから、時折、不思議なことに同様の事件が起きるようになりました。 その度に色々試してみるのですが、何故折れるのか全く判明しませんでした。 最初の一本が折れてから、三十年ほど過ぎた頃、とうとう、最後の一本が折れてしまいます。 町の人々は嘆きながらも、原因がわからないので、これが寿命なのかもしれない。と半ば諦めていました。 そこに一人の紳士が現れます。身なりがよく、付き人をつれていたので、一角の人物であることは一目でわかりました。 裸になり、今にも死に絶えそうとしている柳を見て、老人は苦渋の表情を浮かべ、今にも崩れそうにしています。 そして、意を決すると、紳士は動きました。 役所へ行き、直談判を行い、柳を土地ごと買取り、保護のためにまわりに柵を設けるための工事を開始しました。 不思議なことでしたが、全て順調にすすみました。 ある役所の役員はいいました。「あの柳には、恩があるんだ」 工事を依頼しにいった業者はいいました。「うちがやらずしてどこがやるんだ」 柳の保護するために、各所へ働きかけると、不思議とみな、柳に恩があるという口ぶりで手伝ってくれるのでした。 そして紳士が工事の進捗状況を確認したときでした。 一人の身なりの貧しい男が近づいてきます。体格が細く、頬もこけていて、満足に食事もできない立場であることがわかります。 そして男は紳士の前に行くと、「すみません。私も手伝わせていただけないでしょうか」 と覚悟を決めたような目で訴えてきます。「お前さんは……なんで、」 とここで紳士は少し考えてから、さらに聞きました。「枝が折れたと思うかね?」 本当な何故手伝いたいのか、と聞くつもりだったのですが、心に響くものがあったのでかえたのです。「この柳が、優しいからです」 男は答えます。 紳士は目を細めて、懐から懐中時計をとりだしました。「これは、年代物になっちまったが、それゆえいい値段がつくだろう。これをやるから、質屋にもっていくなりして、それを元でにもう一回頑張ってみるがいい」 男は紳士の言葉に、はっと顔をあげ、驚きました。何故そんなことをしてくれるのかわかりません。「わしは、最初の一本だったんだよ。きみが最後の一本なんだろ? わしもそれでここまでこれたのだ、きみだって、まだ大丈夫だよ」 そういって懐中時計を男におしやって、紳士は去っていきました。 それから、柳は死の淵からは快復たのですが中々枝が増え緑を戻すにはいたりません。 紳士は全力をもって、栄養を与え、災害から守り、大事に保護してきたのですが、元の青柳に戻すことはできていません。 それでも、現状維持で十年経ちました。 柳が快復する前に、紳士が床へ臥せってしまったのです。 紳士は、うわ言でいいます。「恩返しはすんでいない」「まだまだ死ねないのじゃ」 そのようなことを何度も何度も言います。 柳の快復を見届けないと死ねないと。 そこへ、一人の男が訪れました。 紳士が寝込む床の横にくると、懐から、懐中時計を取り出します。「ありがとうございました。貴方と、そして柳のお陰でこうやって生きています」 男の身なりは、以前と全く違い、きっちりしていて、その懐中時計に見合う男になっていました。「貴方に、そして柳に、恩返しをするためにやってきました」 それからしばらくすると、紳士は安心したような安らかな顔で息を引き取りました。 そして懐中時計をもってきた男により、柳の保護は続き、とうとう枝ぶりが快復して、元の立派な青柳へと快復しました。 そして側に神社が建てられ、御神体、御神木として祀られます。 もうこの青柳に縄をかけて首を吊ろうという人はいません。 今、青柳にかけられるのは、願をのせた札であります。 人々の願いをかけられた枝は二度と折れることはありませんでした。 だってこの青柳は優しいのですから。