明日が仕事の主催者です。ああ、不規則な仕事だ。さて、なんか任意の多い回ですが、全て使う勇者が登場するんでしょうか?--------------------------------------------------------------------------------●基本ルール以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。▲必須お題:「野ざらし」「立春」「八百」▲縛り:「コミカルなシーンとシリアスなシーンを両方いれる」▲任意お題:「ホットアップルシナモン」「桃」「有給休暇」「眩惑」「誘惑」「独り言」「何もかもが終わった」「レアアース」▲投稿締切:2/13(日)23:59まで▲文字数制限:6000字以内程度▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません) しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。●その他の注意事項・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要)・お題はそのままの形で本文中に使用してください。・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。●ミーティング 毎週土曜日の22時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。●旧・即興三語小説会場跡地 http://novelspace.bbs.fc2.com/ TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。--------------------------------------------------------------------------------○過去にあった縛り・登場人物(三十代女性、子ども、消防士、一方の性別のみ、動物、同性愛者など)・舞台(季節、月面都市など)・ジャンル(SF、ファンタジー、ホラーなど)・状況・場面(キスシーンを入れる、空中のシーンを入れる、バッドエンドにするなど)・小道具(同じ小道具を三回使用、火の粉を演出に使う、料理のレシピを盛り込むなど)・文章表現・技法(オノマトペを複数回使用、色彩表現を複数回描写、過去形禁止、セリフ禁止、冒頭や末尾の文を指定、ミスリードを誘う、句読点・括弧以外の記号使用禁止など)・その他(文芸作品などの引用をする、自分が過去に書いた作品の続編など)-------------------------------------------------------------------------------- 三語はいつでも飛び入り歓迎です。常連の方々も、初めましての方も、お気軽にご参加くださいませ! それでは今週も、楽しい執筆ライフを!
その光景はたったの一言、悲惨といえばよかった。 家屋は無残に壊れ去り、広範囲にもうもうと土ぼこりが立ち、かしこで火の手が上がっている。まるで巡航ミサイルが落とされた後のようで、戦争などない日本の風景だとは信じられない。 その中心にいるのは大怪獣かなゴン。 いまも彼女の剛腕が高層ビルをなぎ倒し、その頑丈な足の裏で霜柱をそうするように民家を踏みつぶしている。 強いての慰めは、避難勧告であの辺りに人がいないことぐらいだ。だがそんなものは気休め程度にしかならない。「かなみ……」 独り言として、漏れたのは、かつての友人の名前。暴虐をつくす大怪獣かなゴンが人の頃であった本名だ。 彼女は、自分より大きいものが許せないのだ。人であった頃の夢が、彼女をあんなにも変えてしまった。彼女の全てを変えてしまった。 だが、彼女の行いが許されるはずもない。 町が破壊される様を、ゆかりは搭乗席から見ていた。 未来型巨大ロボットゆかリンガー。 父の開発したこれは自分にしか操縦できない。これは、ガン●ムに多大な影響を受けて未来的巨大ロボット工学に進んだ父が、万能不思議金属レアアースを買いあさり、有給休暇の全てを費やして作った、ゆかり専用の超高性能の未来型巨大ロボットだ。ゆかりを溺愛する父から誕生日にもらったものの、使い道がなく家の格納庫に長く放置してあった。 ゆかりは、これが決して好きではない。 ただ、それでもかなゴンに対抗できるのはゆかリンガーだけだ。 いま「がおー」とか雄たけびを上げながら暴れているかなゴンは、あまりにも正視に堪えない。 昔は、あんなのじゃなかったのに。ゆかりは、思わず目をつぶってしまった。 そうして、昔の記憶を思い出した。 かつてのことだ。 立春。 暦の上で春とはいえ、まだまだ体感では冬の季節。 ゆかりは、しょんぼりと肩を落とし、暗い気持ちで通学路を歩いていた。 先日のことだ。ゆかりの誕生日の時、父親が巨大ロボットとか言う訳のわからないものをプレゼントしてきたのだ。 ゆかりはでっかいものがあまり好きではない。小学生の時から伸びまくった身長がコンプレックスになっているためだ。父親に悪気がないのはわかっている。彼のできる最高のプレゼントを贈ってくれたのはわかる。 それでも喜べない。「はあ……あ」 生徒の人ごみの中、ゆかりはひときわ小さい人影を発見した。 ゆかりは、ぱっと顔を輝かせた。さっきまでの暗い足取りはどこへやら、たっと軽やかに駆けだす。「か、な、みー!」 大声でちっちゃい人影の名前を呼び、駆け寄る。 ちっちゃい人影がゆかりの呼び掛けに応え、ふ、と顔を上げる。「あ、ゆか――」「もうかなみ相変わらず可愛いんだからちっちゃいんだからぁ! なにこの桃色のほっぺ! むっちゃぷにぷにしてる! やーん、もっと触らせて!」「うわあうやめなこのちっちゃとかうなでのす」「えへへ、なに言ってんのか全然わかんないよこのミクロ娘!」「ゆかりがほっぺた引っ張ったからです! てかミクロって! 意味は通じますか厳密には違います! ていうか、ええい! 放すのです!」 かなみがぷんすかと拳を振り上げる。ゆかりにしてもひとしきりいじって満足したので解放する。「なんなんですか、朝っぱらから!」「いや、ちょっと気落ちすることがあってさ。でも全部吹き飛んだ! かなみをいじって充電された!」「そうですか。じゃあ、もう触らないでください」「やだ」 ジト目横目でにらんでくるかなみに、ぺろっと舌を出す。 舌をひっこめてから、訊く。「そだ。かなみは、夢とかある?」 並んで歩きながらそう訊いた。二年の子の頃になると、学校では進路の話題もぽつぽつ出るようになるのだ。 かなみは、むうと膨らませていたほっぺたをおさめて、そうですねと呟いた。「夢、ですか。もちろんありますよ」「へえ、どんな?」「将来ビッグになってやるという壮大な夢が」「それは、また、何というか」 ギターを持った高校男児みたい、という言葉は濁す。「なんですか? はっきり言っていいですよ」「漠然としていて形の無い夢だね! 大丈夫! 先生になにか言われるかもしれないけど気にすることはないわ! わたしが保証する! ちっちゃいかなみにだって、未来は無限に広がっているのだから!」 いいこいいこーとかなみの頭をなでなでする。ゆかりにとってちょうど撫でやすい位置にかなみの頭があるのだ。「そうですか」「おっと」 かなみはゆかりの手を邪険に振り払い、じろりと睨みつけてくる。その眼光は、ちびっこに似合わず鋭い。「私はビックになり大怪獣となって暴れまわり、林立する高層ビルをなぎ倒していきたいのです。そして逃げ惑う人々を、特に私のことを小さいとからかった奴等をぺちゃんこに踏み潰してやる。そういう夢なのです。そう!」 びしっと勢いよく指付ける。指差されたゆかりは、目をぱちくり。「まずはゆかりからですよ! 私がビックになった時は覚悟なさい!」「そんなばなな」「もうちょっとましな突っ込みをお願いします」 棒読みのツッコミにテコがはいる。手厳しいことである。「いやいや。昨今では古臭いと敬遠されがちだけど『そんなばなな』というのはツッコミとボケが合わさった、いたく高度で完成された文句だとわたしは――」「はいはいそうですね良かったですね」 かなみはそのまますたすたと歩き出してしまう。「やーん、無視しないでよかなみ。ごめんね! かわいくてついつい!」 台詞が前後で繋がってないが気にしない。ちっこいかなみを後ろからギュッとする。「やめてください! 放してください! てか、ちっこい言うんじゃねえです!」「いやだよん」 ジタバタ暴れるかなみをぎゅうっと抱き締めて拘束する。ゆかりにとってちっちゃいのは正義だ。かわいくってたまらない。「あ、そうだ」 かなみを抱きしめたまま、ふと、幻想植物学者の叔父から聞いた話を思い出す。「わたし、誰でも身長を伸ばせる方法知ってるよ」「マジですか!」「マジマジ」 ものすごい勢いで食い付いてきたかなみに叔父から聞いた話しをそのまま伝える。「野ざらしになっている誘惑の木になる魅惑のリンゴを使って眩惑のホットアップルシナモンパイを作って食べれば、身長が三センチ伸びるんだって。ただし、食べすぎ注意」 ちっちゃかわいいかなみは、まったくの無表情で一言。「そんなバナナ」「いや、ほんとらしいよ?」 そう。 すべては過去のこと。 ちっちゃかわいかったかなみはもういない。ゆかりが教えたように天然記念物指定の誘惑の木から第一種危険物扱いされている魅惑のリンゴをもぎ取るという暴挙を犯し、そのレシピが特殊調理食として認定されている眩惑のホットアップルシナモンパイを八百個作りその全てを食い尽したかなみは、見事体長2538センチの大怪獣かなゴンになり果てた。 二人の友情は何もかもが終わったのだ。 いつまでも過去に浸っているわけにもいかない。 ゆかりは目を開く。ゆかリンガーを操縦し、大怪獣かなゴンの目の前に着陸する。「かなみ!」 もう彼女に言語は通じない。それでもこちらに向かってくるのは、彼女の本能ゆえだ。かなゴンは自分よりでっかいものに対する破壊衝動のみで動いている。ゆかリンガーは全長2550センチ。かなゴンよりもやや大きい。そのため、標的になるのだ。「もう、人間じゃないのね……」 ずしんずしんと大地を揺らすかなゴンを見て呟く。わかってはいたのだ。そもそも、ホットアップルシナモンパイを八百個食い尽した時点でそれが人間、ましてや女子高生のはずがないではないか。 それが真実。 ただ。 ただそれでも。「かなみ……あんたの夢の果てがこんなのだなんて、わたしは認めない……!」 かなゴンが、ゆかリンガーを押し潰さんとばかりにその巨大な腕を振り下ろしてくる。ゆかりはゆかリンガーを操縦させ、その巨大な腕を受け止めた。 ずず、とゆかリンガーが押される。ものすごい力である。ゆかリンガーを操縦するゆかりにも、そのすさまじい圧力は伝わってくる。「わたしは……っ」 ゆかりの顔が、苦痛で歪んだ。「わたしはこんなでっかいかなみなんて認めない!」 かっ、と目を見開く。力ずくで、かなゴンの身体を弾く。 かなみがかなゴンとなってしまった責任の一端は、自分にもある。だから、これは自分の役目なのだ。こんなにでっかくなってしまったかなゴンを、ちっちゃいかなみに戻さなければならない。ゆかりは、ちっちゃいかなみが大好きだったのだ。 ゆかリンガーが、ゆかりの操縦によってよろめいたかなゴンに躍りかかる。「かなみ! わたしがあんたの目を覚ましてやる!」 大怪獣かなゴンと巨大ロボットゆかリンガー。その最後の戦いが、いま始まった。---------------------------------------------------------------------------------------- 確か、いつかの三語で夢落ちで終わらせるという縛りの時に書きつつも完成できなかったやつです。もとが夢の中の話だったので、まあ随分と好き勝手をしてます。真剣にシリアスを書けば書くほどコメディにしかならないものを目指しました。 ちなみに、断じて続きません。
「何もかもが終わった。やるべきことは終わった」 沈んでいく夕日に、ぼそりと鎌田は独り言のように呟く。イームズのラウンジチェアの感触を楽しみながら、お気に入りのホットアップルシナモンティを飲む。その芳醇な香りが鼻孔をくすぐり、その熱は喉元を通り胃に至り、ゆっくりと全身に伝わっていくようである。「それにしても美しいな」 窓の外は、夕焼けに赤く燃えている。目眩さえ覚える。この夕日が沈み、再び朝が来たとき、鎌田にとって新しい戦いが始まる。 机の上に置いた携帯が鳴る。 こんな良い時間に、なんと無粋な。この私の至高の一時が台無しじゃないか。 鎌田は携帯を一瞥して、無視した。 考えようによっては、これも良いBGMか。 鎌田はイームズに体を預けて、ゆっくり目を閉じてこれまでのことを思い出す。 鎌田が末期の胃がんを宣告されたのは、年末のことだった。余命は、三ヶ月と言われた。食欲がなくなったり、便通がおかしかったりと、軽い自覚症状はあった。それでもまさか、がんだとは思いもしなかった。レアアースを中国から輸入する仕事についていたのだが、中国の対日感情が、首相の余計な一言によって最悪になっていたために、休むに休めなかった。結果、発見が遅れた。 仕事を優先した。会社を愛していた。それには間違いない。海外の会社から破格の待遇でヘッドハンティングの話が来たときでも、その誘惑に負けそうになりながらも、会社を思い鎌田はその話を蹴った。 その結果がこれか――鎌田は静かに笑う。会社はきっと自分の頑張りを認めてくれる。そう思っていた。会社に末期がんであることを告げると、あっさり閑職に飛ばされた。突然野ざらしにされ、野良犬にでもなった気分がした。閑職に回されて横領しただの、多額の借金が発覚しただの、浮気がばれたのだと、ひそひそと噂されるのは耐え難かった。懸命に働いて、上司からも部下からもそれなりの信頼を得てきたのだと思っていた。そう思ってきた。 それは私の勘違いだったんだな。 鎌田は遠い目で、夕日を見つめる。もうじき、ビル群の中に沈んでいく。 鎌田は年が明けて、有給休暇を全て使うことにした。思いのほかあっさり取ることができた。もうすでに自分は用済みなのか、それとも病気を気遣ってくれたからなのか鎌田は考えたけれど、それが分かるはずもなく、すぐに考えるのはやめた。 有給は四十日も余っていた。こんなにも余っていたことが悔しくもあり、嬉しくもあった。と、同時にどうせ死ぬのだからという思いも芽生えた。貯金も何もかも、使ってしまえ、と。離婚して、どうせ独り身。家族もいない。仕事一筋に生きてきたのだから、最後にぱーっと散るのもいいだろう。心残りがあるとすれば、一人娘の桃のことくらいだ。元女房には何の未練もないけれど。 鎌田はまず、元女房に連絡をとって、桃と会う約束を取り付けた。「一体、どういう風の吹き回し? 突然桃と会いたいだなんて」「娘に会ったらまずいのか?」「そういうわけじゃ、ないけど。なんかね……」「なに、仕事が一段落して、休みが取れたのさ」「驚いた。あれだけ仕事一筋で、家庭のことなんかまったく顧みなかった貴方から、そんな言葉が聞けるなんて」 元女房は本気で驚いていた。それを聞いて、鎌田は胸を締め付けられる思いだった。それでも平静を装って、「お前にも迷惑かけたな。申し訳なく思っているよ」「嘘八百ばかり並べないで頂戴。全く。貴方はそうやっていつも、自分の都合の良い方に話を持っていこうとするんだから」「ああ……そうだな」 涙が出そうだった。元女房であってもこらえるらしかった。「どうしたの? なんか声の調子が悪いみたいだけど」「多分、携帯の調子が悪いんだろう」「ふーん。桃と会わせてあげられるのは――」 これが自分の蒔いた種かと思うと、鎌田はやり切れなかった。 桃とは遊園地に行った。昔、約束をしていて、結局連れていけなかったから。いつのまにか桃は十歳になっていた。離婚したのが七歳のときだったから、もう三年になる。 十歳にもなると、娘というのはどこかよそよそしかった。父親であるはずなのに、という思いが鎌田の中に過ぎる。どこか固い娘の笑顔。いつかほころぶと思っていたけれど、それは最後までなかった。どこか好きな物を買ってくれるおじちゃん、遊園地に連れて行ってくれるおじちゃん程度でしかなくなっていたのだと、実感する。「ねぇお父さん。今度はね、私――」 そう言って鎌田が桃からせがまれたのは、ブランド服だった。「ああ、分かったよ」 鎌田はそう答えながら、娘と援助交際でもしている気分になる。「今度、お母さん。再婚するって」「そ、そうか」「新しいお父さんは、優しくて、いつも家にいて、何でも買ってくれるんだよ」 そう笑顔で話す桃に、鎌田は悲しくなる。 これも私が悪かったのだろうか? いつも家にいるって、ちゃんと働いているのだろうか、それで収入はどこから――桃にそんなことを聞いても仕方ない。ただ、それでもいつも家にいてくれることを、この子は喜んでいるのだから。死に行く私には関係ない。 そう鎌田は自分に言い聞かせていた。 娘と会ってしまったら、鎌田の心残りはなくなってしまった。いや、自分の信じていたものが、何もかもが脆く崩れ去ってしまって。どうでも良くなってしまったというところが実際のところだった。 鎌田は独り、旅行に行き、美味いものをたらふく食べ、クラブに行きホステスをはべらせては散財した。 何もかもが虚しく、それでも何か使い切らなくては収まりがつかなくなったしまった。 仕事も、元女房も、娘も忘れて、独りでただ金を使っているときだけが最高のときだった。貯金はすぐに尽きて、借金も作った。あっという間に、有給休暇は過ぎてしまって、立春を迎え、今に至る。 夕日に照らされ、鎌田はアップルシナモンティを飲む。「思えば、結構元気に過ごせたな。本当に俺は死ぬのか。残った時間はせいぜい――」 夕日が沈んでいく。携帯は今も鳴っている。鎌田は重い腰を上げた。「もしもし。鎌田です」 鎌田は静かに言った。思いの外静かだったから、思わず笑みが漏れた。「ああ、良かった。やっと繋がった」 声の主は鎌田の主治医だった。「どうかされたんですか、先生?」「い、いや、申し上げにくいことなんですが」 主治医の歯切れは悪い。「先生、どうせ私は時期に死ぬんですから、はっきり言ってくださいよ」「いや、はっきり言えば、喜ばしい話ではあるんですよ」「どういうことです?」「まぁ、鎌田さんのカルテを他の患者さんと取り違えていることが発覚しましてね。鎌田さんが余命三ヶ月というのは、間違いだったということです」「は?」「いや、大変申し訳なかったです。明日からの入院についても、必要がなくなりましたよ。病院としても、ベッドが足りなかったわけで、一つでも空いてくれて助かります」 主治医の声は底抜けに明るい。鎌田は現実が飲み込めない。「いや、ほら、驚きで声が出ないのは分かります。こんな初歩的なミスは私も初めてではあるんですけど、鎌田さんにしてみれば天国から地獄じゃなかっった、その逆ですね、この場合」 主治医の笑い声はどこか別の世界のように、鎌田には聞こえていた。「そんなわけで、また明日にでも、鎌田さんは診察させてもらいますので、そのままいらしてください」 そこで、主治医の電話は切れた。 鎌田の頭の中でいろいろと過ぎる。会社のこととか、元女房のこととか、桃のこととか、借金のこととか――鎌田はとりあえず、そのまま携帯を手に、離婚したときに世話になった弁護士事務所に電話を掛けることにした。 気がつくと夕日は完全に沈んでしまっていた。―――――――――――――――――――――――――――すいません。締め切りオーバーです。コミカルなシーンが見当たりません(ぁいや、シリアスからコミカルにと思ったんですが。お題はとりあえず消化。桃は反則でしょうが。もう少し描写をやっぱりいれたいな。
「ねえねえ、ホットアップルシナモンとホットピーチシナモンの違いって知ってる?」 八百屋の前を通り過ぎてしばらく行くと、隣を歩く智美さんが僕を見上げるように聞いてきた。立春を過ぎたばかりのぽかぽか陽気が、智美さんの笑顔を明るく照らしている。「材料の違いだけなんじゃないですか?」「じゃあ、どっちが好き?」「実物を見たことも食べたこともないから分かりません」 僕は正直に答えた。「どちらかと言えば?」「そうですね。どちらかと言われれば、ホットアップルシナモンかな」 なぜなら僕はホットピーチシナモンという単語を初めて聞いたからだった。「ふうん、透くんって意外と草食なんだね」「だから、どうしてそこで草食って言葉が出てくるんですか? 第一、草じゃなくて果物だし」 智美さんは、サークルの中でもちょっと変わった先輩として知られていた。少し発想が飛んでいるから気をつけろと先輩方から聞いている。「これは一種の心理テストなのよ。林檎のような頬っぺたの女の子と桃のようなお尻の女の子のどちらが好きか、このテストで分かるらしいの」 僕はちらりと智美さんを見る。智美さんは、ちょっと田舎風で背が低いけれど、出ているところはしっかりと出ている女性だった。つまり、林檎のような頬っぺたと桃のようなお尻の両方を兼ね揃えている上に、胸もとても大きい。「はははは。草食……かもしれませんね」 僕が引きつった笑いを見せると、智美さんはいきなり僕の腕にしがみついてきた。「ちょ、ちょっと先輩。からかわないで下さいよ」「怒った顔の透くんも素敵よ」 僕が智美さんから離れようとすると、逆に智美さんは強引に腕を組んできた。 智美さんの胸の柔らかい感触が腕を通して脳に伝わってくる。その信号はビビビと僕の下半身を熱くした。 ――これはピンチだ。 そう判断した僕は、別の話題を切り出すことにした。「じゃあ、先輩に聞きますが、今話題のレアアースとレアメタルの違いって知ってます?」 金属の冷たさは、熱くなった僕の頭も冷やしてくれるだろう。「知ってるわよ。レアアースは希土類元素のことで、レアメタルは希少な金属のことでしょ?」 僕の作戦は一瞬で撃沈した。 腕に柔らかな感触を与えている智美さんのあの豊満な物体の中には、きっと豊富な知識が詰まっているに違いない。そう考えるとさらに意識してしまっていた。 ――ダメだ、ダメだ。こんなんじゃダメだ。 いつのまにか僕は独り言を呟いている。 そんな僕を見上げながら、智美さんはますます密着度を高めてきた。「透くんだって健全な男の子でしょ。もっと本能に素直になったら?」 僕はたまらず智美さんを突き離す。「嫌なんです。そんなことで先輩と親しくなるのは!」 声を張り上げてしまい、僕は慌てて辺りを見渡す。幸い僕達二人は、人気の無い路地に入り込んでいたようだった。「……」 智美さんはびっくりしたような顔をした。そして静かに俯いてしまう。 二人は向かい合うようにして、しばらく路地裏で立ち尽くしていた。 ――ああ、何もかもが終わってしまった。先輩とはいい雰囲気だったのに。 僕がそう思った時。「そんなに私って魅力無い?」 智美さんが顔を上げた。「田舎くさい女って嫌い? 私の体って全然ダメ?」 ちょっと涙目だった。 僕は真面目な顔で智美さんの目を見た。「胸の大きさとかそんなことで先輩を好きになりたくないんです。ほら、先輩はちゃんと知っているじゃないですか、レアアースとレアメタルの違いを。そういうところに先輩の魅力を感じたいんです」 臭いセリフだとは思ったが、智美さんの涙を見たからには言わずにいられなかった。「よかった……」 智美さんにゆっくりと笑顔が戻る。「ねえ、透くん。本当の私を見ても、嫌いにならない?」 そして僕を見つめる目に力を込めた。「ええ、決して嫌いになりません。僕を信じて下さい」 僕は男らしくきっぱりと言い切る。 すると智美さんは少し考えた後、意を決したように上着の中に手を入れた。そしてしばらくゴソゴソとやった後に服の中から拳大のクッションを二つ取り出す。「実はね、私の胸ってフェイクなの」 目の前には胸がぺったんこになった智美さんが居た。そして真っ赤な顔で「みんなには内緒よ」と言い残して、走り去って行ってしまった。 僕はしばらくその場に立ち尽くす。 ――やっぱり胸の大きい先輩の方が良かったかも。 僕の心はまだまだ冷たい風の中で野ざらしになる。 今度先輩に会ったら、眩惑と誘惑の違いについて問うてみたい。放り出された僕の気持ちがそう告げていた。------------------------------------------遅刻した上に、ただお題を消化しただけのような不自然なものを書いてしまいました。最初から反省ばかりで恐縮ですが、折角時間を使って書いたので投稿します。うーん、まだまだだなあ……
とりさとさんまさかのお題完全消化。お見事です。「眩惑のホットアップルシナモンパイ」とか「誘惑の木」とかは固有名詞っぽくて強引な気もしますが、「万能不思議金属レアアース」には笑ってしまいました。作品のベースがコミカルなので、シリアスは弱かったような感じがしますが、コミカルなシーンは面白かったです。この作品は、縛りが夢オチだった時に書かれた作品なのですか。そういえば、その時に僕も作品を書きかけていたような……RYOさん昨年の四月から参加させていただいている、つとむューと申します。チャットでもお世話になっています。RYOさんの作品に感想を書くのは初めてだと思います。この作品もほとんどのお題を消化していますね。「野ざらし」とか「八百」の使い方が上手いです。こちらは作品のベースがシリアスなので、コミカルは弱かったような感じがしますが、僕の作品よりはコミカルなような気がしました。シリアスなシーンも、僕の作品よりもちゃんとシリアスになっています。ただ、末期の胃がんで、それが誤診だったという設定は、ちょっとリアリティが薄いかなぁと思いました。すぐには思いつきませんが、何か他の病気で、コミカルなシーンを演出するのに適したものがありそうな気もします。自作品シリアスなシーンも、コミカルなシーンも、そんなのあったっけ?と思ってしまうくらい弱いです。沢山お題を使ってみたので、どうだ!と思いながら投稿したら、とりさとさんやRYOさんの方が沢山使っておられてまさかの大ショックです。(しかも、とりさとさんやRYOさんの作品の方が質が高い)良かったのは、書いてて楽しかったことくらいかな。それにしても、ホットピーチシナモンとはなんじゃい?(追記2/16:リアリティと人に言っておきながら、自作では「ぺったんこ」。こちらの方がリアリティがなかったかも……反省)
とりさと。 アホかお前はの一言です。 RYOさん。 うわあ、何これ面白いです。 思わず吹きました。ナイスなSSをごちそうさまです。確かにこれは前振りが重ければ重い程最後が生きるから、描写を書きこみたくなりますね。でも今でも充分悲観的になっています。もっと絶望的な状況に叩き落としたら、さらに面白くなるんだろうなと確信できるような出来。悲劇を一転して喜劇に変えるその手腕。お見事とそれに尽きます。 つとむューさん。 男らしさはどこ行ったぁああ! まあ、それはともかくとして。恋愛だ恋愛だとにやにやしていました。シリアス部分とコメディパートで空気の差がでていたら、もっとにまにまできますねこれは。やー、しかし最後はまたひどい終わりかたでしたねw(いい意味で!)。いや、でもですね。先輩も悪いけど、受け止められない主人公はもっと悪い!
>明日が休みだったらいいのにね とりさとさん ぶっとんだ設定に笑ってしまいました。 こういうのは私は思いつけないなと。すごい。 できれば、最後まで書いて欲しい。そこで終わらないで。>ある男の余命宣告 RYO そういえば、こういのも書いてたっけ。 記憶に残ってなかった作品。 どこかにありそうな話だな。 回想と現在の区別がはっきりしてないしな。>眩惑と誘惑の違い つとむューさん 落ちが想像と違った。実は男という落ちを想像してたんですが。えーそっちかと。肩透かしをくらった気分でした。 それにしても、純情な男の子ですね。 田舎臭いというわりに、積極的なところに違和感を感じました。