Re: 即興三語小説 ―来週だけで残業が20時間オーバーな予感― ( No.8 ) |
- 日時: 2013/06/09 02:04
- 名前: しん ID:QkEYAG/k
えもいわれぬ
ドアフォンを鳴らすと「はいって」とスピーカー越しに声がきこえてくる。 誰がきたかなど確認はしていないのだろう。 なんせ呼び出されたのは私のほうなのだから。 ドアノブをまわすと、施錠もされておらず、簡単にひらく。 玄関に入ると、見やすい場所に一服の絵が飾られている。 それは訪問者に見せびらかせるように、いや実際見せびらかせるためなのだろう。 一人の女性の絵である。看板娘は、虹の袂で輝く笑顔にやわらかい幸せをふりまいていた。 施錠して、声をかけながら、奥へとすすむと、予想通りに絵の主役である女性が、同一人物とは思えない暗い表情で、缶ビール片手に、机に突っ伏している。 できあがっている。 思わず嘆息するけれど、なれたもので、勝手に冷蔵庫のビールをとりにいく。 アルコールを摂取したいわけではないけど、ビールくらいしかない。 「あ、わたしのも」 はいはい、と答えて。アサヒ、キリンのビールをそれぞれ手に取る。 アサヒは彼女の分。キリンは本来、彼女の彼氏の分なのだけど、それが消費されることがほとんどないので、私ができるだけ消費する。 ビールには、女と一緒で賞味期限というものがあるので、ずっと置いておくと味がおちる。 アサヒをあけて彼女の前に置くと、お礼もいわずにぐびぐびと飲み下す。 キリンをあけて、義理とばかりに口をつける。 「で、どうしたの?」 大体呼ばれた理由はわかっているのだけれど、きいてあげないといけない。 彼女はちょっと面倒な友人。 「あのね、ちょっときいてよ彼ったら……」 いつも、彼のことで呼ばれる。 「うんうん」 彼女は何故かいいよどむ、次に何を言えばいいのかわからないのかもしれない。 「わからない。」 「なにが?」 彼女のビールをもっていないほうの指が部屋の片隅を指し示す。 そこには、一枚の額縁が立て掛けれらている。 絵の部分は逆向きで、見えない。 彼女の彼氏は画家である。玄関においてある絵は、彼が彼女に告白するときに贈られた物で、あの表情の彼女をみたことがなかったので、私は最初彼女だと気付かなかった。彼にとって、彼女はああ見えているのか、それとも彼の前ではああいう表情をしているのか少しきになる。 そしてそれから、彼が彼女に絵を贈ったのは、これが二枚目ということになる。 今回も何かの意思表示ではないかと思われる。 絵の向きを変えて、眺めるとなんともいえない。 「これ……なに?」 「わかんない。」 なるほど。もらったけれどわからないのね。 そこに人は描かれておらず、ただ床に牛乳がぶちまけられたような絵が描かれている。 「なにか、いってなかったの?」 「なんかね。白の岩絵具の材料は貝だとかなんか、ハマグリがどうのって貝の話してた」 謎である。 「ねぇ、これってつきあいを白紙にもどすって意味じゃないよね? わかれようって意味じゃないよね?」 私に必死にすがりついてくる。 「それ……きいたの?」 「きくわけないじゃん! いやだよ! 絶対わかれない!」 泣きだした。 正直、なだめてすかして、慰めて、希望的観測を言わせる為に呼ばれたのだから、悪いことはいえない。 「大丈夫、大丈夫だよ」 気休めをいう。 絵の謎を解こうと、角度をかえたり、目の前まで近づいてみたりしてみるけれど、何も発見はなかった。 本当にこの絵が悪い意味ならば、うまく動いてあげなければならない。 面倒くさい友人だけれども、大事な友人なのだ。 白紙にもどす、という意味なら何も描かれていない白いキャンパスを渡せばいいのだから、そんなはずはない。床のような絵に白い絵具を塗る意味はなにかあるに違いないのだ。 わざわざ絵具の材料の話までするのだから、そこに何か意味があるはず。 絵に少し、さわると、彼女が小さな声で「汚さないで」と言ってきた。 彼女にとって、この意味不明な絵はとても大事なものなのだ。 突然、綺麗な音楽が、一瞬流れた。 一瞬だけしか流れなかったのは、その音源が彼女の携帯電話で、鳴った瞬間彼女が携帯電話をとったからだ。 ぐだぐだ愚痴をいいながら欝にはいっていた彼女が、人がかわったように明るくなり、声音もかえて、しおらしく話しているところをみると、彼氏からの電話らしい。 話し方の雰囲気的にラブラブなのが伝わってくるように思える。 電話との会話がとぎれると、彼女は名残惜しそうに、切なそうな顔をしている。 「なにかいってた?」 「わかんない」 「……え?」 「わかんないよおおおお」 よしよしと頭を撫でる。 電話の声音をきくかぎり、修羅場ではないようだけど。 「なにを喋ってたの?」 「絵のこと……」 「あれ?」 そこに立て掛けてある謎絵を指さすと、彼女はこくりと頷いた。 「なにっていってたの?」 「あのね……あの絵は****を描いたんだって」 「****? なにそれ……」 それは意味不明だった。聞いたが故に余計意味がわからない絵となってしまった。 「そんなはずないよね。わかんない。わかんないよおおおおおおお」 と叫ぶとまたがぶがぶとビールを飲みだした。 そういえば玄関にある絵のときも、意味ありげに渡されて、相談されてひどく悩んだ。悩まされた。最終的に詰め寄って、交際してくださいという意味だと彼氏の口から説明させたのだ。 ふと、あの絵のときの難解な説明を思い出し、もう一度、白い絵をみる。 そして貝の話。 ふっと、頭に一つのことが思いついた。 絶対にこれ、とはいえないものの、あの彼氏なら、そうかもしれない。 いや、そうにちがいない。 一気に馬鹿らしくなった。 「ねぇ、なにかほしいものある?」 「……ビール」 冷蔵庫からあたらしいアサヒビールをとりだして、彼女に渡してやった。
家に帰ると、パソコンの前に座る。 本当にばからしい相談にのってしまった。 どうせまた詰め寄って、彼氏に説明させないといけないのだけど、今回はしっかり、雰囲気なども考えてやらなければならない。 今回は放置してやろうか、と半ばやけくそ気味に思わないでもないが、そうすると、また何度も彼女を慰めに呼ばれることになるので面倒だ。 半ば冗談で探していたモノが、ネット検索みつかった。 あるものだ、と一人ごちる。 嘆息する。 あの絵がまさか、血の跡だとは思わない。 だって白いのだから。 そして、貝の話はきっと前置きで、本命はきっとハマグリの話。 ハマグリは、二枚の殻が綺麗に重なりあい、世界中のハマグリを探しても他に綺麗に重なるものはないということで、夫婦の象徴である。 血の跡が、白いのは、きっと、血痕が白いのだ。 なんていうプロポーズだろうか。わかるはずがない。 彼女の絵を描いて、題名を光彩といいはなった、彼なのだから仕方ない。 そして注文完了の画面を見た。 まぁこれでいいでしょう。 赤いはずの血を白く描いた彼への皮肉もあるのだが、わからないだろう。 赤ビールと白ビールの詰め合わせを、お祝いに贈り物として注文しおえた。 紅白でおめでたい。 めでたいことはいいことだ。
――――――――――――――――――――――― 今回二つださせていただきました。 というか、前にUPしたやつが、漫才のネタで、小説っぽくなかったので、小説をあげないとと思ってもう一つ描かせていただきました。 今回は難しかったです。ビール、絵具 なら簡単ですが、白ビール、岩絵具 は非常に限定的なもので自然にだす というのがちょっと難しいです。 男性は、話の上ででているだけだから、これでもいいのかな? では。
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