Re: 即興三語小説 ―梅雨入りはまだ先― ( No.6 ) |
- 日時: 2013/05/27 12:27
- 名前: zooey ID:6Lyks.cM
窓から差し込む太陽の光が、少年の顔に照り付ける。ちりちりと肌が焼ける感覚と、目に来る眩しさに、彼は顔を背け、いらいらと拳で机を叩いた。 外はいい天気なのに、彼は遊びに行けない。一昨日、サッカークラブの合宿の際に、階段で転んで右足を骨折してしまったのだ。彼はそのまま家に連れ戻され、試合に出るどころか、応援することもかなわなかった。何より、試合ではなく、ただ普通に転んで怪我をしたことが情けなくて、家に着くとわんわん泣いた。しかし、すぐさま、今度は泣いていることが情けなくなって、困ったことに余計に涙が溢れた。 さすがにもう涙は出ないが、その時の自分の姿が脳裏にちらつくと、胸がつぶれるような感覚になって、覚えず目を瞑ってしまう。この時もまた、そんな風にして彼は瞼を閉じた。 瞼に日差しが当たる。視力検査の際に瞼をペンライトで照らされる時みたいに、蜘蛛の巣状の血管が見え、うえ、と気分が悪くなった。 しかし、しばしを置いて、瞼にかかる光が弱まり、すうっと赤っぽい蜘蛛の巣が消えて、暗がりが生まれる。そっと、目を開けてみた。 ちょうど、流れてきた雲に太陽が隠れたところだった。強い日差しがないだけで、世界は今までと変わって見える。窓の外の灰色っぽいコンクリが、先程よりも濃い色となっていた。彼は、何でもいいような気持ちで、ただぼんやりと、外の景色に視線を泳がせた。 太陽が雲間から出てきたり、隠れたり。そんなことの繰り返しを、ただ見つめるだけで時間が過ぎていった。しかし、何十度目かの繰り返しの際、ふと、世界の色が変わっていることに彼は気が付いた。灰色だったコンクリが、オレンジ色にてらてらとしている。 驚いて、視線を上げると、さっきまでよりずっと大きな太陽が、ぽったり、熟れた夏みかんみたいに、コンクリの色より更に濃く、オレンジ色に輝いていた。薄く、眩しく、目に痛い光ではなく、世界を染め上げるみたいな、しっかりとした色。空は、見事に絵の具で塗ったみたいになっていた。その色の力強さに、太陽の影響力に、彼は声を失った。 そして、昔、祖父の家で見た、暗がりの中で煌々と輝く、大きな和蝋燭の炎を思い出した。ゆらっ、となりながら、同じように周囲の暗がりを染め上げていた、オレンジ色。祖父はそれを少年に見せながら、こう言った。炎みたいに強い子になってくれよ。 思い出すと、何だか急に、すとん、と腑に落ちる感じがした。漠然としていたが、突然、強さというものの意味が、魂に入って来た気がした。人間の強さも、目の前の色、蝋燭の炎と同じではないかと思えた。 自分の気にしていたことが、なぜか小さなことに思え、彼はゆっくり、握った拳で机を叩いた。
----------------------------- 和蝋燭が微妙すぎたので、ちょっとだけ付け足してしまいました。 本当にちょっとですが、ごめんなさいごめんなさい。。。。
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