Re: 即興三語小説 ―今週から残業が多いという理由で業務量が減った― ( No.5 ) |
- 日時: 2013/07/07 23:04
- 名前: しん ID:VBFmkCB.
特別な日
梅雨という時期が嫌いだ。 空は青くないし、太陽は輝かない。 今日も空には分厚く黒い雲に覆われて、既に小雨が降っている。 せっかくの七夕、特別な男女の一年に一度の会合をぶちこわすことないのに。 日直の仕事がおわり、教室にもどると誰もいない。放課後でそれが当たり前なのに、まるでとりのこされたように胸に不安がうずまく。 窓際の自分の席から外をのぞくと、やはり今日は織姫と彦星はあえないのだろうと思う。 許されざる男女が唯一愛し合える機会を阻むのはよくない。 なんだか切なくなり気力がぬけて、机に突っ伏した。 「かな、おい、どうした」 しばらくすると、そんな声が教室の外からきこえてきて、聞きなれた声が近づいてくる。 近づくにつれて、声に危機感まざってきて、嬉しいけれど、無駄に心配させてしまった罪悪感があるので顔をあげた。 「おにいちゃん」 わたしより一学年上、中学三年生の男子がが何故か二年の教室にくる。別に珍しいことではない。だってわたしは妹なのだから。 「お前、傘わすれただろ」 抗議の声をあげてみる。 「お前、っていった」 お兄ちゃんがやれやれという感じで言いなおした。 「かな、傘わすれただろ」 返事にこまるので黙ってみる。 「ほら、かえるぞ」 とお兄ちゃんは大人用の黒い傘を掲げてみせる。 「うん」 お兄ちゃんについていくように下駄箱をでると、お兄ちゃんが傘をひらいて、わたしがよりそう。大きな傘は二人を包むのに充分のおおきさをもっていた。 二人だけを包むその世界にそれでも満足できなくて、雨が肩にかかるからとお兄ちゃんにひっついた。 今日はだけは、一緒にいてもいい日だよね。
おれが高校に入学して、妹のカナがよく憂鬱な表情をしている。今年高校受験なので仕方ないとはおもうだが、どう接していいかわからない。 今まで小中学校と一緒で、べったりしていたので、それがなくなるとどうすればいいのかわからないのだ。でもおれも妹も兄妹はなれをするべきなのだから丁度いいのかもしれない。 そう思っていると、むこうから接触してきた。 おれの部屋にわざわざ、はいってきて。 「おにいちゃん」 「どうした」 カナは切羽詰ったような、暗い面持ちで俯いている。 決心がつかずに、二の句をつげれないようだが、何が言いたいのかわからないので助け舟もだすことができずに頭をひねることしかできない。 「え、映画っ」 「映画?」 「……つれてってっ」 思わず、考えがとまった。 何故、おれが映画につれていかねばならないのか。 「友達といけばいいだろ」 普通そうだろう。好きな男といけとはいわないが、中学時代を思えば普通に遊びにいく友達くらいいたのだから。 当たり前のことをいったつもりだが、なぜかカナはむすっと嫌そうな顔をしている。 カナは何か定期いれサイズの手帳ををおれに見せた。 前もってそのページを指でおさえてたのだろう。ページの確認もせずに目の前におしつけてくる。 「おにいちゃん、一緒の中学だったのに、校則もわすれたの?」 そういわれても、校則なんてそもそも覚えてもいない。 さしだされた生徒手帳のカナが指をさしているとこを見ると、映画、喫茶店、プール、ゲームセンターなどに行く時は必ず保護者同伴しなければならない。というようなことが書いてあった。 こんな校則があったなんて知らなかった。中学時代、プールやゲームセンターに友人と一緒にいったことがある。あれは校則違反だったのかと今更知る。こんな校則無視すればいいだろ。とは思ったものの、今から友人を誘うのも面倒だろう。 「なら、行くか」 そういうと、カナは驚いたような顔をあげ、破顔一笑して。 「用意してくる!」 と自室へとはしりさった。
おれたちの住む町には映画館がない。なので電車に乗る。電車では一応狭い席が空いていたので、カナに薦めてやるが、一緒に立っているということだった。電車が揺れるたびにカナの華奢な身体が大きく降られ、おれにあたるので、ささえてやる。 電車で大体三十分揺られて着く七つ先の駅にはまるで駅がおまけにみえるような大きなショッピングモールがあり、その最上階に映画館がある。 天気の良い日曜日のせいか、それとも特別な日なのかわからないがショップングモールはよくある休日よりも人が多いようだ。 人ごみの中はぐれないように、お互い意識しながら進むので意外と時間がかかった。 昼一の時間帯というのもあって映画館も混んでいたが、無事お目当ての映画のチケットが買えたようだ。 映画を見たいなんていうから、カナも成長したのだとおもっていが、アニメ映画だった。まだまだカナも子供なのかもしれない。 上映時間まで少し間があるので、適当な席に座って待つことにした。待合が広くてホールの中央に丸テーブル席があるのだ。 カナはどこか落ち着きがなく、していて、突然なにかに気付いたように席をたつと。 「ちょっと、まってて」 とどこかへ走っていった。 お手洗いなのかと思っていて、気にしなかったのだが、帰ってきたカナの手にはカキ氷が一つ握られていた。 カナは悪戯小僧のような笑みで「これあげる」とおれの前に置く。 その笑みから、明らかにこれは何かあるとおもうのだが、なにかはわからない。 危険なことはしてこないだろうと、カキ氷に手をつける。 メロンだとおもっていたそれは、明らかにメロンと違う。甘ったるいが、酸味があり、氷の冷たさもあるので、口の中がすっきりする。カキ氷としては初めて食べる味だけど、不味いってわけでもない。 「どう?」 カナが好奇心いっぱいで尋ねてきた。何の味かわからないが。 「初恋の味がする」 この甘酸っぱい感じがなんとなくそんな喩えがぴったりのような気がした。 「えっちょうだい」 カナがおれから、かき氷とスプーンをひったくり、ガツガツ食べて、額をおさえた。 「おにいちゃん、初恋の味ってなに、甘い梅の味しかしないよ」 そうか、梅だったのか。色合いからすると青梅ということだろう。言われてみると納得である。珍しいかき氷があったので試食させたのだろう。 カキ氷がなくなる頃に、丁度映画の上演時間が近づき、上映室へとはいっていった。 アニメなんて、とおもっていたが、ジブリ映画でもないのにこれが結構面白い。 終わり付近になると、鼻をすする音がきこえたので横を見ると、カナが涙をながしていたので、身体をつついてハンカチをさしのべると、ハンカチを顔元に押し付けていた。 上映がおわり、客がほとんどはけてもカナは動こうとしなかった。 仕方ないので、手を引いて外につれだし、カキ氷を食べた席までつれていった。 通りがかる人々がちらちらみてくる。泣いている女子と困ったようにしているおれ。その絵面が少し恥ずかしかったので、ジュースでも買いにいこうかと席をたつと、カナがおれの袖をひっぱってとめた。 「おにいちゃん、いかないで……山になんて、いかないで」 それは今見てきたアニメの話だろ、しかも山にいってしまったのは弟だろ、と言いたいがぐずっているカナにそんなことをいえるべくもなかった。 席にすわりなおし、しばらく様子をみていると、カナは少し静まった。 「おにいちゃんと、同じ高校にいく」 「……うかるならいいんじゃないか」 「……いいの?」 公立高校だし、反対することもないだろ。 「がんばれよ」 カナは嬉しそうに頷いて、おれの手を引いて、ショッピングモールを渡り歩いた。 ディズニーやサンリオのキャラクターショップなど、おれらの町にはないファンシーなアイテムを売っているところがあるので、まわれるだけまわて、帰途につくために電車にのった。 駅は乗るひともおおいのだが、降りる人も多いため、二人並んですわることができた。 カナが肩に頭をのせてきたので、見てみると目を閉じてねているようだった。 去年のことを覚えているだろうか。 カナが傘をわすれていることに気付いて、大きな傘をもっていってよりそって帰った。何故、あのときおれがカナの分の傘をもっていかずに、一つだけしかもっていかなかったのか。 カナの寝顔をみながら、青梅のカキ氷の味を思い出した。
楽しかった。 お兄ちゃんが高校にはいってから少しよそよそしくなって少し不安だったけど、同じ高校にいっていいって言ってくれて安心した。 電車の座席にお兄ちゃんと座ると、寝たふりをして、頭をお兄ちゃんの肩にのせた。 去年のことを覚えているだろうか、相々傘で一緒にかえったことを。 借りたハンカチをにぎりしめる。あのときと一緒だ。わたしのカバンにはハンカチくらいはいっている。あの時も折りたたみの傘がはいっていたけど、それは秘密。
ふと気がつくと、二人は終点駅についていた。 兄妹でささえあってねていたのだ。そして地元の駅を寝過ごして大分いってしまった。 帰宅がおそくなる旨を家に電話して、ユーターンする電車にのる。地元の駅についたときはもう、あたりは真っ暗だった。 今年は晴れで空には星がきらめいている。 二人で夜空をさししめした。 織姫と彦星は今年は幸せにすごせただろう。
----------------------------------------------- お題が比較的簡単なので、逆に難しかったです。インスピレーションがわかない。 勝手に自分のなかで七夕(提出最終日が七夕だったので)と妹モノという縛りをくわえました。 ついでにせっかくの七夕モノなので少しわざと遅れて投稿です。 書くのにちょっと時間がかかりました。はかってないのでわかりません。文字数も数えてません。
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