Re: 即興三語小説 ―来週だけで残業が20時間オーバーな予感― ( No.5 ) |
- 日時: 2013/06/09 10:20
- 名前: Azu ID:p6GlbuvI
伝えたい
私 河野絵里菜は、美術館に来ていた。 美術館で展示されている絵の作者…… 絵に惹かれてやってきた。作者を知らないのだ。 絵は描いていた。美術大学にも行っていた。 しかし、自分に疑問を持ってしまったのだ。 どうして絵を描いているんだろう? 自分は何をしているんだろう? と。 疑問を持ったままいい絵が描けるはずがなく、結局私は絵の道を諦め社会人になった。 変わったことと言えば、一時やけで飲んだ白ビールが好きになったことぐらいか。 それ以降、絵はもう見なくなった。 そんな私を美術館へと動かしたのは、テレビのコマーシャルで流れた一枚の絵だった。 こんな絵は初めて見た、と思った。 言葉で表せない絵だったのだ。 そしてなぜか、その絵に強く惹かれた。 美術館の入り口で、チケットをもらう。 そこには、作者のプロフィールがあった。 名前は、『イノカ・ノエル』 外人だろうか? 経歴は興味なかったので、飛ばして絵の項目を見る。 そこに、こんな一文があった。 『絵具に強いこだわりを持っており、使う絵具は岩絵具だけなのです。』 なんでだろう。と思いながら顔を上げると、そこには特徴的な作品の数々があった。 その中でも特に目を引いたのは、曲がりくねった道が描かれた絵。 その絵を見て、私の心に火がついてしまった。 なぜなら、その絵の、そしてその絵を描いた人物の意識が私の体に流れ込んできたのだ。 優しく諭すような声が聞こえる。 『ねえ、絵を諦めたことを後悔してない?』 「後悔……しているかもしれない。けど……」 『けど、じゃないよ。ほら』 風景が、浮かび上がってきた。 そこには、小さな娘が絵をかいていた。 一心不乱に、でも、どこか楽しそうに。 『絵は、楽しむものだよ? 有名な作品を描こうなんて思わなくていいの』 「そっか……」 絵は、楽しむもの。 昔は、絵はへたくそだった。けれども、楽しく絵を描いていた。 それが、いつからか 「いい絵を描かなきゃ」 と思い始めて、だから自分に疑問に思ってしまったのだろう。 ――――楽しく、思いっきり絵を描きたい!―――― 久しく忘れていた、絵を描きたいと思う渇望。 私は美術館を急いで出た。 『思いっきり、描いてきなよ』 と言う優しい声に後押しされながら。 家に戻って、画材を探す。 画材の保管場所は覚えていたので、すぐさま準備して真っ白なキャンパスに筆を走らせる。 無我夢中で、筆を走らせた。楽しかった。 筆の音、岩絵具の匂い、色、すべてが心地よかった。
完成したころには、日が傾いていた。 完成した絵は、曲がりくねった道の絵。 そう、あの美術館で見た絵とそっくりだったのだ――――
エピローグ 私は、世界的に有名な画家になっていた。 特徴的な画家として。 最近は、近代的な機械の絵も描いている。 きっかけは、ニュースでみたタイムマシンの開発だった。 また、絵を描いていく。様々な絵を。 機械的な近代絵、山を映した風景画。 あの時使った岩絵具を使いながら。 私を導いてくれたあの優しい声の様に、私は絵を通じてメッセージを伝えていく。
――――絵でも何でも、楽しまなくちゃいいものはできないよ――――
Fin
先週は忙しくてかけませんでした。 ここまで読んでくれてありがとうございました
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