手編みのマフラー ( No.4 ) |
- 日時: 2014/12/28 23:19
- 名前: RYO ID:ANx40xS2
ひと編み、ひと編み思いを込める。 ニュージーランドもまだ深夜。彼はきっと眠っている。もしも今起きているなら、浮気を疑ってやる。 深夜まで起きている両親に合わせて蛍光灯は消して、読書用のLED電球だけつけて、ベッドの中でマフラーを編む。 「喜んでくれるかな?」 手作りのマフラー。彼がニュージーランドに留学したのは今年の四月のことだ。突然のことだった。相談はなかった。いつも一人で決める彼だった。そんなところを好きになった。誰にも流されず、自分で決める。自分にはなかった。 「美奈子はこれいいでしょ?」 「こういうのは好きだったわよね」 友達が言ってきたら、うなずくしかなかった。適当にその場を合わせて、後悔してきた。おいしくないものを、おいしいと言い、あの人かっこいいと思っても、「ダサッ」の一声で、何も言えなくなった。 自分に嫌気が指していた。 そんな自分に、声をかけてくれたのが、彼――隆だった。 「無理してない?」 たまたま友達みんなで遊園地に行ったときに、ベンチに腰を掛けていた。隆はやさしく笑いかけてくれた。正直、気が進まなかった遊園地。こんなことがあるなんて、思ってもみなかった。 「なんか、気になって」 緊張しながら声をかけてくれた隆に好感が持てた。隆なら、素直に自分の思いが言えるような気がした。隆とみんなでとった写真は机に飾ってある。そっと隆の隣で写った写真だ。 マフラーは半分ほど編みあがった。ひと編みごとに、思いを込めていく。 隆がニュージーランドに留学をすることを知ったのは、遊園地に行ってから間もなくなった。遊園地にいったのが思いで作りだった知ったのは、それから一週間後だった。 空港まで見送りに行った。私を見つけた彼はひどく驚いていた。そんな彼を笑顔で見送った。あの時の彼の顔は今も忘れられない。 「やっとここまで」 あっちの真冬までには間に合いそうだった。立ち上がって長さを確認する。私の身長はもう超えていた。二人で巻くにはまだ足りない。 机に置いてあるチケットを確認する。 ニュージーランド行の往復券。マフラーは二人でするためのもの。 「こっちが夏でよかった。冬だったら、寒くて、こんな夜中にまで編めなかったもの」 網かけの白いマフラーを首に巻く。その隣に隆がいる。そのことを考えただけでも、幸せな気持ちになれた。 マフラーを編むのは得意だった。これで十本目。記念すべき本数だった。過去のマフラーはなぜかもらってもらえなかった。付き合っていた彼に、せっかく編んだのに。一度もその首には――隆は違うわよね。今までの真とか、隆弘とか、雅彦とか、正一郎とか、孝治とか、純一とか、蒼汰とか、彰とか、庄司とか――そういえば最近はどうしているのかしら。みんな休学したり、心療内科に通院したり、精神科に入院したりしたらしいけど。私とわかれて、変な女にでも捕まったのかしら? 隆がニュージーランドから帰ってくるのは、来年の冬。待っていられない。彼のホームステイ先は、フェイスブックで確認できた。その近くにフェイスブックの友達ができた。少し泊めてほしい理由を伝えると、二つ返事だった。隆とも顔見知りだったらしいから、内緒にしてほしいことをお願いした。こういうことはサプライズにするのは、万国共通らしい。網掛けのマフラーをアップしたら、感動してくれた。こちらの思いもわかってくれて、お互いに涙した。 ニュージーランドに飛ぶのは来週。夜な夜なLED電球の下マフラーを編む。手作りのマフラーを編む。 隆は喜んでくれるかな? 隆は私が来ることを驚いてくれるかな? 私は暗い部屋の中で、期待に胸を躍らせて笑った。
---------------------------------------------------------- ストーカーネタでやってみました。 ひどいな。まとまらない。 今年の三語はこれでおしまい。 来年もよろしくお願いします。
|
|