年の瀬はどこかほの暗く ( No.4 ) |
- 日時: 2014/01/05 22:19
- 名前: RYO ID:vmHa/4cM
夕暮れ。オレンジ色が目に眩しい。風は穏やかでも、空気は冷たい。年の瀬のはずが、まったくそんな気にはなれなかった。地元にでも戻ってくれば何か感じるものがあるかもしれない。そう思って帰ってきたものの、そんなことはなかった。何をしているんだか、と自分を笑う。 「お前がいても役に立たないから、どっかそこらへんで時間でも潰してろ」 早々に大掃除から追い出されたのは、三時間も前のことだ。近所を散歩してみたが、見知った顔には会わなかった。もしかしたら、知っている顔もあったかもしれなかったが、五年振りだ。相手の顔なんて覚えていなかっただけかもしれない。声をかけなかったのはお互いさま。そんな言い訳をする。 「自信がなかっただけか。声をかけたところで、何をいうのか?」 いつ帰ってきたんだ? 今何してるんだ? 結婚は? 想像しただけで、いちいち答えることも面倒だ。 散歩にも飽きて、近所の公園のブランコに腰を落ち着かせている。コートの襟を立てて、寒さをしのぐ。 「おーい。鏡餅は供えたか?」 近所の家から声が聞こえた。確かに年の瀬なのだろう。仕事も休みに入った。だからこそここにいる。が、まったく年末年始の感じがしない。仕事が忙しかったからか? 確かに次々とやってくる仕事に追われていたのはあるが、それも毎年のことだ。先輩の言動にイラついて喧嘩してしまったためか? それはそれは馬鹿馬鹿しい。 ため息を吐きながら、これから毎年、こうなのかと思うと、俺の人生ってなんなのか。大学まで卒業して、それなりのところに就職して五年、仕事にも慣れて、やりがいもそこそこにある。とくに大きな不満もない。上司や先輩にときどき腹が立つことはあれど、そこそこにやっていける。その思いは今も変わらない。が、この実感はなにか? ブランコに揺れながら、家々の屋根に沈んでいく夕日を眺める。 定年まで、こんな感じなのかね。こんな人生のはずだったか? そう思ったら、目の前が真っ暗になりそうだった。脂汗が伝うようなひやりとしたものが、背中を走る。不満はないが、淡々と過ぎていく人生。それが悪いとは思わない。そこそこの人生でかまわなかった。が、この恐怖は一体何だ? こんなはずじゃなかった。なんとなく紅白を見て、年越し蕎麦食って、年末年始のはずだった。 正体のわからない恐怖を目の当たりにしているようだった。残りの人生これでいいのか? そう思いながら、それ以外の人生などない、そんな人生。 大きく息を吐き出す。 年末年始だから、そんな気分になってしまっただけだ。別に仕事が始まれば、いつも通り。 「高志君?」 不意に呼び止められて、顔を上げる。そこには小学校のときの同級生の奈緒子が立っていた。 「いつ帰ってきたの? 今何しているの?」 矢継ぎ早に質問してくる奈緒子。さっきまで悩んでいたことが、一気に吹き飛んで、何と答えていいのかわからないでいると、奈緒子の携帯が鳴った。一瞬顔をしかめて、奈緒子は携帯にでた。背を向けて二、三答えてから、奈緒子は向き直った。 「親から、早く帰って来いって。私、五日まではこっちにいるから、連絡頂戴ね」 奈緒子は一方的に連絡先を聞き出すと、夕暮れに消えていった。 何を期待していたわけじゃない。ただ、ほんの少し人生に何かが起こったような気がして、ゆっくりブランコから立ち上がる。 「そろそろ帰るか」 ついさっきまで悩んでいたことさえ、どこか馬鹿馬鹿しく思えて、笑っていた。
---------------------------------------- 90分くらいです。 久しぶりの三語でした。 やっぱり日々書かないとダメですね。 今年は少しでも書く年にしたくて頑張ってみたものの、暗くなった。 シドちゃんの話も考えたんですけどね。 それは、またそのうち
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