へちまは夜眠る ( No.4 ) |
- 日時: 2011/03/07 00:05
- 名前: つとむュー ID:K74kRgLw
二○一×年。 静岡県浜松市にて、幅が三十センチを超える超扁平なへちまが発見された。場所は、へちまたわしを作っている農家の農園内。突然変異と考えられるが、農家ではその種から超扁平たわしを増やすことに成功した。 扁平へちまをたわしと同じ方法で乾燥させると、幅三十センチ、長さ五十センチのへちまマットが誕生した。農家では最初、バスマットとして売り出してみたが、売り上げはさっぱり。困った農家は、やけくそでトートバッグを作ってみた。しかしそれが大ヒット。 『柔らかくて膨張性があるわりにはかなり丈夫で手触りもよい。そして、バッグの中身がチラチラと見えるのもお洒落』 女性雑誌でそう紹介されたのが決め手だった。へちまトートバッグはバカ売れし、超扁平へちまの在庫はあっと言う間に無くなった。 それと同時にへちまという自然素材が見直され、次々とへちまを使った商品が開発される。遺伝子操作も行われて、新種のへちまも作り出された。 いわゆる、へちまブームの到来だ。 どんどんと巨大化したへちまが生み出され、その硬さも自在にコントロールすることが可能となった。強度を増したへちまはいろいろなものに細工され、ついにはロッキングチェアーまで作られることになった。 そして、ブームに乗ろうとへちまの栽培に乗り出したある製薬会社の研究所で事件は起きた。
「お、おまえだったのか。研究室に忍び込んだ奴とは」 警備員から不審者を見かけたという通報を受け、俺は研究室に泊まりこんで見張りを続けていた。そして三日目の夜、研究室に侵入したそいつを捕まえたのだ。 「そうですよ、先輩。お久しぶりです」 そいつは三ヶ月前に会社を辞めた後輩だった。名を浩次という。正体がばれて開き直ったのか、あっけらかんとした浩次の受け答えに俺はつい頭に血が上ってしまった。 「なんだその言い草は。お前一人のために俺達の時間がどれだけ無駄になったと思ってるんだ」 浩次が忍び込んだ研究室は、会社の命運をかけてへちまの遺伝子操作を行っている実験室だった。極秘情報が社外に漏れたかもしれないという危機に、俺達当事者は東奔西走するハメになったのだ。 「どうせ俺は、もうすぐ消えてしまう身なんです。先輩、ここは慈悲深く見逃してくれませんか?」 噂によると、浩次が会社を辞めたのは深刻な病気が見つかったからという。 「も、もうすぐ消えるって、お前、どういうことなんだ?」 病気のことは聞いてはいけないと思いながら、俺は聞かずにはいられなかった。すると浩次は急に笑い出す。 「あはははは。先輩、俺は末期ガンなんですよ。あと数週間の命なんです。ここで見逃してくれないと先輩のこと呪いますよ。祟りじゃってね」 病気ってそういうことだったのか。しかしここは素直に見逃すわけにもいかない。そんなことをしたら俺達は明日の晩も張り込みをしなくてはならなくなる。 「そんなお前が何で研究室なんかに忍び込むんだよ。何か研究でやり残したことでもあるのか?」 「まあ、そんなもんですよ」 浩次は少し辛そうに息を吐きながら椅子に腰掛ける。病気というのはまんざら嘘では無さそうだ。 「いや、やはりお前を見逃すわけにはいかない。申し訳ないが、明日の朝まで休養室で監禁させてもらう。いいな」 「……」 浩次は何も答えず、ただ研究室の天井をぼんやりと眺めていた。
我が社ではへちまブームに乗って遺伝子操作による巨大へちまの開発を行っていた。そしてその過程にてある重大な発見をしたのだ。 ――巨大へちまから取れるへちま水は、若返りを本当に実現する。 もしかしたら浩次は、そのへちま水を自分の病気に使ってみたかったんじゃないだろうか。 浩次を監禁した休養室のドアを見ながら、俺は考える。明日の朝になったら浩次に直接聞いてみよう。そして、会社のお偉いさん方に彼の扱いを委ねたら、俺の役割はとりあえずはおしまいだ。彼が警察に突き出されようが、慈悲深く見逃されようが俺には関係ない。その後は家に帰ってぐっすり眠ることができる。 少し安心した俺はついうとうとしてしまい、休養室での物音に気がつくことはなかった。 朝、俺が休養室のドアを開けると、浩次は死んでいた。棚にシャツを引っ掛けて首を吊っていたのだ。
浩次の死は穏便に処理された。警察は、ただの自殺ということで彼の死を扱ってくれた。忘れ物を取りに元の職場を訪問した彼は社内で倒れ、運び込まれた休養室で病気を苦にして自殺した、という俺の証言を信じて。 あれから四ヶ月。 実験室の巨大へちまは二メートルぐらいの大きさにまで生長していた。これは世界最大の大きさだ。 「浩次。お前はいったいこの部屋で何をやっていたんだ?」 彼の死後、俺は彼のアパートの掃除を手伝った。そして部屋の片付けをしながら、彼が最期に何をしようとしていたのかを探った。しかし結局何も分からなかった。 「このへちまから取れるへちま水は、お前を救えたかもしれないのに……」 俺は巨大に育ったへちまを優しくなでる。すると突然手から伝わってきた得体の知れない違和感に俺は腰を抜かす。 「何!?」 へちまに密着させた掌から、ドクドクという心臓のような鼓動が伝わってきたのだ。 「ま、まさか……」 へちまの中から『祟りじゃ』という声が聞こえてくるような気がした。彼が残した最期のあの声で。
---------------------- 遅刻しました。2100字くらいです。 夜の9時くらいから断続的に書いたので2時間くらいでしょうか。 なにかあらすじみたいなものが出来てしまいました。意味不明かもしれません。
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