Re: 即興三語小説 ―梅雨入りはまだ先― ( No.4 ) |
- 日時: 2013/05/26 22:45
- 名前: マルメガネ ID:UO4NpY4U
神踏島
神前に点された和蝋燭の炎が上にすう、と伸びて揺らめく。 その炎が照らし出す周囲以外は全くの暗がりで、聞こえてくるのは風の音と潮騒ばかり。 絶海に浮かぶ孤島の神踏島。 伝説いわく、荒ぶる神が海を渡るとき踏んだがために平らになったというその島の、海神祀る宮で厳かに神事は行われていた。 老いて痩せ枯れた神官が掠れて震える声で祝詞を読み上げるさまは、伸びる和蝋燭の火影に照らされて、禍々しい空気をより濃くしている。 人間の深い業に魅せられて集まり来る物の怪の気配か。 「ふるへゆらゆらとふるへ……」 古き神々の世の呪の言の葉が宮の内部に響く。 「ひふみよいつむななやここのたりてとう。ふるへゆらゆらとふるへ」 吹き込む海風が和蝋燭の炎をなびかせ、依代の少年の周囲に張られた注連縄の紙垂を揺らせる。 なおも老神官は掠れて震える声で呪を唱え続ける。 「おほわたつみの神にまうしてまうさく、かみふみしまのみあらかつかえまつりし、むらじの…」 老神官が続ける。 「かみくだりて、宿りたまへ」 長い祝詞の末。 闇は一段と濃さを増していた。
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