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RSSフィード [45] わしゃァ見たんじゃ。あれは間違いなく、三語じゃった。
   
日時: 2011/08/21 22:26
名前: 片桐秀和 ID:6ioV39hw

「眼帯」「震える声」「そこを右に」が今回のお題ダー。
 締め切りは11時半ダー。
 ダー。

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あの場所へ ( No.3 )
   
日時: 2011/08/21 23:32
名前: 片桐秀和 ID:6ioV39hw

「桜ヶ丘小学校を知りませんかー!」
 多くの人が行きかう路地の片隅で、ランドセルを背負った少女が叫んでいる。
 必死なのだろう。頬を赤らめ、眼に涙を浮かべ、震える声で、誰かに問いかけているのだ。
 行き交う人々の誰もが同情するように彼女を見るが、その問いかけに答えるものはいなかった。
 可哀想にとは私も思うが、だからといってどうすることも出来なしない。ここにいる誰もが、道に迷っている。それは、私も同じことだった。
 迷い路、というのだそうだ。
 例えば彼女のような子供が、学校に向かう途中、不意にいつもと違う道から行ってみようとしたときそれはあらわれる。馴染みの街の馴染みの通学路を離れ、一本違う道から学校に行こうとすると、どんどんと見慣れぬ光景が眼に入ってくる。こうなるともう遅い。その先にあるのは迷い路から通じる、ひとつの街なのだ。
 その街には多くの人がいる。
 すべてが、迷い路を通った人々だ。仕事場にいくはずだった社会人。自宅に帰ろうとした老人。近くのスーパーまで買い物に行こうとした主婦。みなが迷いながら、それぞれの道を探している。街を出る道を探すのは容易ではない。雑多な街の中、本当の抜け道を知っている人はただ一人なのだという。そして、その答えを知る人物は、迷った原因によって違うという。
 私もまた、かれこれ半日以上、私が向かうべき道を知っている人物を探している。ふと耳にした噂では自分の出口へ続く道を一日かけても見つけられなかったものは、永久にこの街の住人となり、自分と同じ理由でここに迷いこんだ人を待つ役目を果たさねばならない。まるでいわれのない無期懲役を科せられたように。

「青葉丘をご存知の方はいらっしゃいませんか!」
 私は叫ぶ。半日以上も叫んでいるため、喉はとうにつぶれ、まともな声は出ないが、それでも懸命に声を上げ続けていた。もうすぐ丸一日が過ぎるのではないかという恐怖に、脂汗が滲む。
 どこだ、どこにいる。私の行くべき道を知る人物は。
 疲労のため、とうとう声が出なくなってくる。相手に聞き取れるのかさえわからないままに、私は叫んだ。その時だ。
「兄さん、青葉丘をお探しかね?」
 不思議な老人だった。左目に眼帯をしており、白い髭を蓄えている。背を丸めて、杖を片手にゆっくりと私に歩み寄ってきた。
 声がでない。返事ができない。私は相手に伝わるように、必死に頷いた。
「ああ、ようやく会えた。わしも、青葉丘に向かう途中、迷い路に入ってもうての。一日しても出口に通じる道を見つけられんで、あんたをずっと待っとった」
 私は眼に涙を浮かべて、頭を下げ続けた。感謝を、どうしても伝えたかった。
「ええ、ええ、気にしなさんな。これでわしもようやく帰ることができるわ。見るに、兄さん、そろそろ一日経ってしまうんじゃないかの? これはいかん。急ぎなされ。わしに出会えても、一日過ぎてしまえば、意味がない」
 老人の言葉を聞いて、私の鼓動は速まる。しかし、それを伝えることができない。
「わかっとる、わかっとる」老人は頷いて、前方の狭い路地を示した。「この先を右に行きなされ」
 ――ありがとう!
 私は深く頭を下げると、老人の示す道へ走った。いつか必ずお礼をすると心に誓いながら。


 いつもの道を歩いている。青葉丘へ続く道だ。どこからどうやってたどり着いたのかわからない。おそらく迷い路とはそういう道なのだろう。安堵とともに思う。
 青葉丘には霊園がある。私の家族が眠る墓がある。
 私はあのとき不意に、違う道から行こうと思ったのだ。今の自分では合わす顔がないのではないかと思え仕方なかった。そんな心の迷いが私をあの街へいざなったなら、どうにか抜け出した今、私がすべきことはなんだろう。
「正直に、ありのままを報告しよう」
 そう呟いて、私は真っ直ぐ青葉丘へ向かう。そこであの老人と再会し、改めて感謝を伝えようと思いながら。

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