Re: 糞まみれの瀬戸物の壊れやすい蠅まみれの三語 ( No.3 ) |
- 日時: 2011/07/25 00:38
- 名前: 言葉に惹かれて ID:Cmh6kxgA
母の気まぐれ
外は、分厚い雲のせいで真っ暗だった。まだ雨は降っていないらしい。 わたしは暗い自室で、目をこらして本を読んでいた。読み始めて間もないのだが、 いたるところに鉛筆で線が引かれている。それが、母親の読書の仕方だった。かび 臭そうなその本は、わたしが一人暮らしをするにあたって母から渡されたのだが、 そのときすでに表紙はなかった。おまけに、背表紙の文字がすりきれているから題名 もわからない。手垢のしみついた茶色い頁には旧字体が散見され、漢字源なしでは意味 がわからない個所もある。 支離滅裂肉欲大食破壊僧南無。頁をめくると、そんな文字が飛び込んできた。意味は よくわからないが、いわゆる煩悩から俗人を救う言葉だとしたら、少しは心の慰めにな るだろうか。 眼球の奥が重い。薬のせいだろう。長引くから、夏の風邪はやっかいだ。しかし一人 暮らしの今、家にいるかぎりは誰に迷惑をかけるともない。昔は、風邪を引いたといえば 家族、とくに母親からは嫌な顔をされた。真っ先に発病するうえにおまえの風は必ず人に うつる、と。
会いたい。 支離滅裂肉欲大食破壊僧南無から先に進まない頁を見つめながら、思う。 お腹を切ってまでわたしを生んでくれたのに、母はよく言った。おまえは性格的に嫌い。 たしかに、さばさばしている母からすれば、私の行動にはいらいらさせられるのだろう。 だから彼女は、「あんたが突かれるの、よくわかるよ」とよく口にしていた。それだけなら まだいい。わたしにはもっと悲しいことがあるのだ。おはようと言っても彼女からの挨拶はめったに返ってこないし、自分たちが育ててきた子供の話をするのにも兄のことばかりで、 わたしはほんとうに彼女とは相容れないのだと実感してしまったのだ。 でも、だからこそ気が向いたときの彼女との会話は、わたしに大きな幸せをもたらした。 それは、おはようという言葉が返ってくることであり、わたしの話しかけに反応を示して くれることであった。 わたしは、母の気まぐれを望んでいる。 だから唱える。支離滅裂肉欲大食破壊僧南無、支離滅裂肉欲大食破壊僧南無。 二度、唱えてみる。独立して二年、ホームシックだ。 支離滅裂肉欲大食破壊僧南無、支離滅裂肉欲大食破壊僧南無。 母親との確執に関して、わたしはたくさんの壁にぶつかった。それでも、親は親なんだ。 支離滅裂肉欲大食破壊僧南無。それを、救う言葉だと信じて。そしてわたしは、救いを 求める声で。
三語、二回めの挑戦。かなり強引に終わらせました。でも、心の慰めにはなった気が します。ちなみにわたくし本人は実家暮らしです。 時間が足りなかったけど、投稿に遅れてしまったけれど、楽しくかけました。 ありがとうございました。
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