Re: 即興三語小説 ―連休何してた? ( No.2 ) |
- 日時: 2012/12/02 22:22
- 名前: RYO ID:savHttUg
ミホはその日の夕食の食欲が湧かなかった。ベッドの上でぼんやりと、空腹を感じながらも、胸は知りたくもなかった事実でいっぱいだった。 あのとき、マホの部屋に入らなかったのなら、知らなくても良かったのかしら。 出てくるのはため息ばかり。別になんということもないはずなのに。どうしてこんなにもショックなのか。自分でわけがわからない。 ミホとマホは双子だった。いつも一緒だった。幼稚園も、小学校も、中学校もずっと同じクラスだった。それが別々の高校に進学した。それでもお互いにその日あったことは話をしてきた。互いの間に秘密などなかった。そう信じて疑わなかった。マホの部屋でまさかあんなものを見つけるなんて。同じ双子なのに。 「ミホ、入るよー」 ベッドの上でもんもんとしていると、突然、ドアが開いた。 「何よ! ノックくらいしなさいよ!」 思わずカッとついてでてしまって、ミホは後悔した。 「いきなり何よ。今まで別にノックなってしてないじゃない。ミホだって、私の部屋に入るのにノックなんてしてないじゃない!」 マホの言うとおりだ。フェアじゃない。分かってはいる。分かっては――。 「私にだって、いろいろあるのよ」 「ベッドの上で寝転んで、一体何があるって言うのよ?」 「別になんだっていいでしょ! それより何?」 「もういいわよ!」 マホはそのままドアを思いっきり閉めて出て行った。 自己嫌悪。 ミホは天井を見上げて、顔を両手で覆う。 これじゃただの八つ当たりだ。分かっている。分かってはいる。お互いに別々の人格で、別々の人間なんだ。双子といっても。 どこかで、マホは自分の延長と思っていた事実に愕然とする。 マホはどうなんだろうか? 私が同じことをしたら、どう思うのだろう。それとも、私と違って、自分は自分とでも思っていたのかしら? 『双子だから、いつも一緒だね?』 そうにっこり笑って行ってくれたのは、十才の誕生日だった。同じタイミングでお互いに笑顔だった。あの瞬間のお互いに強くつながった感覚は紛れもなく本物だったと確信していた。確信していたからこそ、そうこれまでも、これからも一緒だと、そう思っていた。 それが、あの瞬間崩れ去った。なんでこんなものがマホの部屋から見つかるのか、わけがわからなかった。私の電子辞書が壊れなかったから、マホの部屋に入ることはなかったのかもしれない。あるいは、机の上に電子辞書が置いてあれば……。 ミホはこの感情の正体が分からない。 冷静に考えてみれば、別になにもおかしい話ではない。マホだって、一人の人間なんだ。人間なんだから、そう別におかしい話じゃない。 ミホの頭の中で今日学校であった会話が呼び起こされる。 「となりのクラスの晴子は彼氏いるんだって」 「ほんと?」 「えーいいな。私も彼氏欲しい」 「かっこいい?」 そう、別におかしい話じゃない。なのに、なんでこんなにも、胸が苦しいんだろう? 嫉妬ともに似た感情がわきあがる。誰に対する感情なのか? あれを見つけた瞬間、自分と同じ顔をした女が見知らぬ男に犯されるイメージが鮮烈にわきあがった――それは嫌悪なのか、嫉妬なのか? 吐き気がした。それは自分自身なのか? マホへなのか? 「ミホ、マホ。お風呂に入りなー」 そう下から言ってくるのは母親。 「はーい」 そう返事をしたのは隣の部屋にいるマホだった。 自分と同じ体の裸が浮かんで吐き気は増した。 隣からごそごそと音がしたかと思うと、ドアが閉まって、階段を下りる音が響く。 もう一度マホの部屋で、冷静にあれを手にとって考えてみたい衝動に駆られる。あれが未開封であったのであれば、もしかしたらこんなにも悩まなくてよかったのかもしれない。初めて見たものだったけれど、それが何かは容易わかった。 私たちは双子よね? ミホの足が自然とマホの部屋に向かった。 なんだって、コンドームなんて――。 嫉妬にも似た嫌悪感がミホの中に湧き上がる。 ミホはゆっくりとマホの部屋のドアノブに手をかけた。
---------------------------------------- 時間は60分くらいか? 愛はきっとどこかに語られているはずです。憎み愛ってやつかしらね?
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