真夏の逃避行 ( No.2 ) |
- 日時: 2012/11/16 19:33
- 名前: サニー ID:653EnH3k
僕は、今日初めて小学校をさぼった。 うだるような暑さは、どこにいても一緒だった。それは、教室だろうがこの神社の境内だろうが変わることはない。だが蝉の声すら聞こえない程の静けさのせいかこの場所のほうがいささかましに思える。 逃げ出してみて一つのことが分かった。毎日通っていた学校への道は、線路ではないということだ。脇道へ一歩踏み出せば簡単に脱線できたし停車駅すらない。 登下校は、地域ごとに決められた班で行われて、僕の班は、6年の武田と同じ5年の鈴木、そして3年の石塚の4人だった。鈴木は、いいやつだけど武田は、大嫌いだった。 一昨日だってそうだ。石塚がものもらいで眼帯をつけていることをひどく冷かして、ついには眼帯を取り上げて田んぼに投げ捨てた。石塚の半開きの右目が一瞬僕のほうを向いたがすぐに武田の太った体が間に入った。 「ほら見てみろよ。すげえな、紫がかっていてアケビみたいだ」 僕は、アケビを見たことがないがもし彼のまぶたのような色なら食べたいと思わないだろう。 僕が今日学校をさぼったのは、そんな武田に会いたくなかったからかもしれない。今日は、月に2度の給食にデザートがつく日だった。デザートの日に武田は、時々給食のデザートを自分に献上するように言う。 給食の後の昼休みにあいつにデザートを持っていくと待ってましたと言わんばかりに食いつく。太った彼が食いつく姿は、言葉では表せない醜さを孕んでいて餌に群がる養豚場の豚ですら彼の前では、紳士淑女に思える。 特に今日は、プリンの日だった。僕は、プリンが好きでいつも母親に買ってほしいとせがむが聞き入れてもらえることは、少ない。カラメルソースの苦さが好きだし、それを包み込むほどよい甘さも大好きだった。 だがら僕は、今日小学校をさぼった。今にして思うと登下校の時に顔を合わせなければよかっただけだ。だけどもう12時は、過ぎてしまったと思う。空腹感と日の高さがそれを教えてくれる。 神社の境内には、たくさんの木と木陰がたくさんある。だけどそんなものは、この夏の暑さと真昼の日差しの前では、役に立たない。木漏れ日ですら突き刺さるような熱をもっている。 がさがさと物音が聞こえる。こんなとこで学校をさぼっている姿を見られたくなかったので隠れるよう様子をうかがった。 どうやら山のほうから誰かが降りてきたらしい。あんなところから人は来ないのでなにか動物が降りてきたのかもしれない。 山に動物は、たくさんいるらしいが僕が見るのは車に轢かれたタヌキやイタチの死体だとか猪に食べられた農作物くらいだった。初めて見る生きた山の動物がどんなものか興味がわいてきたので鳥居の陰に隠れて様子をうかがった。 がさがさと音が近づいてくる。音は、どんどん大きくなりついに音の正体が知れた時には、真夏だというのに背筋が凍った。 「熊だ」 叫びそうなる口を押さえつけながらささやいた。 逃げなければ、食われてしまう。だが逃げ出したいのに足がどうしても動かない。熊は、獲物でも探すかのように周りを見渡している。どうやらまだこちらに気づいていないようだ。 僕は、顔を出すことをやめて鳥居の裏に隠れた。鳥居の太さは、僕が隠れるのには十分なものだったが、熊の姿が見えないのはどうしようもなく怖かった。 がさがさと音がする。音は、近づいているようにも遠ざかっているようにも聞こえる。足は、まだ動かない。 音が聞こえなくなった。おそるおそる鳥居の陰から顔を出すと熊の姿は、見えない。どこかに隠れているのかもしれないとも思ったが走って逃げ出した。後ろからは、何も聞こえない。 どうにかして家についくと母親が驚いた顔をして、「どうしたの」と聞いてきた。正直に答えるか迷ったが嘘をつくことにした。 「宿題忘れちゃった。昼休みの間に走れば間に合うかなって思って取りに来たの」 なにもランドセルを背負わなくてもと母は、笑ったが納得したようだ。宿題を鞄に入れるふりをしてまた走って学校に向かった。 遅刻の理由は、何にしようかと思ったが熊に会ったから遅刻しましたと言っても馬鹿にされるだけだろう。下校の時に武田と顔を会わせるのは、憂鬱だがもう脇の小道にぬける気は起きなかった。
71分で11分オーバーでした。 誤字脱字がきっとどこかにあると思います。
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