Re: 即興三語小説 -つゆはまだあけない- ( No.2 ) |
- 日時: 2012/07/09 22:35
- 名前: 1 ID:IbNesEco
三語はじめて、です。お題は、「カレー」「スイカ」「怒りの秋葉原」です。改行とかうまくいってなかったらすみません。
ポケットの中の戦争 その日、僕はとあるメイド喫茶にいた。勿論、聖地秋葉原にあるメイド喫茶だ。僕は、メニューを開いてすぐに新メニューと華々しく飾られた文字に見入った。 「甘くもあり、辛くもあり、それは激しい恋にも似た夏期限定特製カレー」 常連の僕としては、決して見過ごせない、甘美な響きを持ったメニューではないだろうか?僕は、早速、その特製カレーを注文した。オーダーが入ったことを告げる声を聞きながら、僕は妄想を膨らませる。 激しい恋にも似た特製カレー。お気に入りの、まりちゃんや弥生ちゃんがどんなご奉仕をしてくれるのか気になりすぎて、顔が真っ赤になる。 「は~い、新メニューの特製カレーだよぉ? 完食したら、まりが御主人様に良いことしてあげるね?」 まりちゃんがニコニコ笑いながら、カレーを僕の目の前に置いた。まりちゃんのためなら、こんなカレー如き、簡単に平らげてくれるわ、と意気込んだ闘志が速攻で萎える。 「スイカ?」 それは、考え得る限りで最低なカレーの具材。ルーの熱さで半ば半壊した三角形のスイカが死屍累々、と皿の中に横たわっている。融解したスイカの水分で、カレーはびちゃびちゃになり、最早、何かが鳴き出しそうな惨劇ぶりを醸し出していた。 いや、これが恋。こういう苦難を乗り越えてこそ、激しい想いは届くもの! 「おえええええっ」 我に七難八苦を与えたまえ、と口に入れた瞬間に、仏の顔が垣間見えた。 「どうかな、御主人様?」 まりちゃんに尋ねられて、僕の開戦レバーがオンにスイッチされる。 「どうかなじゃねえぞ、ボケええ! 何が激しい恋じゃボケええ!」 「ひっ、ごっ御主人様?」 「何が御主人様じゃ、こらああ! 親はスイカを握らせて、カレーをつくれと教えしや!!」 「与謝野晶子?」 「正解! じゃなくて、こんな珍妙なメニューを御主人に出すんじゃねえ! 誰がこんな糞メニュー考えやがった!!」 僕が騒ぐのを聞きつけたのか、店の奥から執事服を着た強面の男が二人、現れた。 「ふっ、都合が悪くなるとすぐに潰しにかかってくる。どこかの腐敗した政府と一緒だなぁ、この俗物どもがっ、この僕が命じる! お前らは今すぐ死ねっ!」 「騒がないで下さいよ、御主人様、ちょっと店の裏まで来て下さい」 二人の男が僕の腕を掴む。僕は、必死に抵抗した。 「スイカカレー出した貴様らが悪いんだろうが!! 開発者出せや、こらあ! ご主人様って微笑んどきゃ何出しても食うとか思うんじゃねえぞ、こらあ!!僕が、この僕がお前らに真のスチュワードシップってものを教えてやらぁ!!」 抵抗空しく、僕はお花畑(トイレ)を経由して、天国(店の裏)に連行された。 「じゃあ、ちょっと静かにしてもらいましょうか?」 スイカカレーを発端とする、血の日曜日事件に対して、聖地の同朋が立ち上がった。一人のご主人様に対する過激な仕打ちに抗議する集会は激化し、遂に聖地内での本格的な武力衝突に発展した。
「敵は、メイド喫茶にあり」 僕は、スイカカレー断固反対、の鉢巻を額に巻きつけ、同朋の前で高らかに宣言する。モデルガンの音が周囲に鳴り響き、数百人の雄叫びが天に轟いた。先鋒隊が勢い良く、かのメイド喫茶に突入していく。 「やりましたね」 参謀の同志に声をかけられ、僕は苦笑した。 「いや、戦いはこれから、だよ」
後年、このある意味有名すぎるメイド喫茶襲撃事件は、歴史の教科書にこう記された。
怒りの秋葉原、と――。
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