それは明日にも起こりうる事象 ( No.2 ) |
- 日時: 2011/09/07 21:26
- 名前: マルメガネ ID:KxrgJOFQ
一見して穏やかそうに見える海も実は荒々しい表情を垣間見せることがある。 太平洋上の某地点でそれは確認された。 群青色の水面に横たわる黄褐色の帯。 変色した海域は激しく煮えたぎり、硫黄の匂いが鼻をつく。その場所は海底火山が多数存在している海域であり、過去何度も噴火しているのが目撃され、また魔の領域とされ忌み嫌われていた。 火山活動が活発化しているとして、観測調査船が出され綿密な調査が始まると、その変色域はさらに拡大し、噴出地点も増えた。 「臨時ニュースを申し上げます。太平洋上にて、海底火山の観測に乗り出していた観測調査船が消息を絶ちました。乗組員三十名の安否が気遣われます。今現在、海上保安庁の巡視船二隻が捜索にあたっている模様。詳細は、のちほど情報が入り次第お伝えいたします」 ある日、そのニュースが流れ、人々は驚愕した。新領土が誕生するかもしれない、という密かな願いの裏に。 現場に急行した海上保安庁の巡視船は、付近の海域を捜索していたが、それといってめぼしいものは見つからず、噴火の危険性も高まってきているためそうそうに引き上げた。 と、そのはるか彼方で水面がまんじゅうのように盛り上がり、激しい水柱と粉々に砕け散った岩石が四方八方に飛び散り、噴き上がった煙が空高く立ち上った。激しい轟音が辺りを震わせる。 噴火である。 降り注ぐ生まれたての軽石。そして厄介な細かな火山灰。引き起こされた高波。そして吹き荒れる熱風。 木の葉のごとく揺れる船舶は、回避行動に出た。 その操船はまるで神がかったようだった。 「臨時ニュースを申し上げます。先ほど入りました情報によりますと、消息を絶った観測調査船の捜索にあたっていた巡視船二隻が、海底火山の噴火に遭遇。各船ともに被害」 灰を被り、軽石の直撃をうけて窓ガラスが割れ、船体も損傷した巡視船の姿が映像として映し出された。 巡視船がとらえた噴火の映像も生々しく、その場で核実験でも起こったような錯覚すら覚えるほどだった。 その衝撃的なニュースが報道された二日後、派遣された別の巡視艇と巡視船が、波間に漂う観測調査船の残骸を発見した。 軽石が大量に浮遊している海域から少し離れた場所であった。どうやら、噴火に巻き込まれたらしいのは確実であり、残され波間に浮かぶ船体は激しく傷つき、かろうじて船名が読み取れるほどであり、何十年も歳月が流れたようにみえた。 しかし、乗組員三十名の行方は分からなかった。 すべてが絶望的であった。 生存者がいると信じ、関心を寄せていた国民から落胆した声と深いため息が漏れたのはいうまでもない。 噴火はその後も絶え間なく続き、海上にぽっかりと小さな島が誕生した。 その島も激しい潮流による浸食を受けつつも、爆発的な噴火と緩慢で大量の溶岩を噴出する活動を繰り返し、確実に面積を拡大していった。 それから数年、数十年の歳月が流れ、人々の記憶から悲劇が消え去ろうとしていたとき、その島の付近に観測調査船が現れた。 月面を思わせるような凸凹して、多数の噴気孔、噴火口が蒸気を発している島の調査が目的だった。 「黙祷」 船の甲板に立った乗組員が、黙とうを捧げる。 彼らは忘れていなかった。 かつて、ここで観測調査をしている最中にあえなく噴火に巻き込まれ、殉職してしまった仲間、あるいは先輩たちを。 その彼らに島は噴火することもなく、開いた多数の噴気孔や噴火口から、静かに湯気を立てているだけだった。変色した海の色は相変わらずであったが。 またその海域で激しい活動がいつ起こるのか全く予想はできない。 それがひとたび起こると、それは最強の核爆弾に匹敵するエネルギーが放出されるに等しいのだ。 その力の前に人の力は到底及ばないのである。
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