わしゃァ見たんじゃ。あれは間違いなく、三語じゃった。 ( No.2 ) |
- 日時: 2011/08/21 23:37
- 名前: 水樹 ID:rtnuyD42
お題は、「眼帯」「震える声」「そこを右に」です。 縛りはホラーです。
眼帯女
眼帯女って知ってるかい? 女は助手席に座っていた。遊園地の帰り道、流れゆく景色、窓に顔を向けていて、男からは表情は読み取れない。寝ているのかもしれない。 「眼帯女って知ってる?」 たいした話題でもないのは男も分かっている。運転している自分に少し気を使って欲しいのもあった。 「何それ? 面白いの?」 あくびを一つ、顔を向けず、返事だけする彼女、 「ちょっと怖い話だね、都市伝説みたいなもんさ、聞く?」 遠慮がちに尋ねる。彼女は興味を示した素振りもなく、 「教えて」 と顔を見せず、眠気を噛み殺しているようだった。 「眼帯女、文字通り眼帯をしている女性だね、この人はただ眼帯をしているんじゃないんだ」 そうなの? と返事だけで見向きもしない、男は運転しながら、 「眼帯、目を隠す物だね、だけどその女の人は、顔中に眼帯を付けているんだ。顔を覆い隠すほどに、顔中に」 なぜ? と彼女の興味は男に向いた。顔は向いていないが。 「ネットでの噂だと、顔がグチャグチャとか、両目が無くて眼窩が黒い穴とかだね、眼帯女は一人暮らしで、部屋中に眼球を置くコレクターとも言われているんだ。実際に見た人は、両目を眼帯女にくり抜かれた上、何も覚えて無いって言うんだ、もしくは意識不明、両目は見つからないんだって」 「そうなんだ」 彼女はただ景色を眺めていた。男はわき見して彼女の様子を窺うが、怖がっている風には見えない。彼女のアパートまですぐそこまで来ていた。 「すぐそこだね」 震える声を男は出していた。頭をよぎる、助手席に座っている彼女の素顔を男は覚えていない、見た記憶などなかった。首から上の彼女は常に顔を隠していた。正面に居ても俯いたり、後頭部を正面に向けていてもなぜか気にならなかった。 「そこを右に曲がって」 彼女の指示に従う、ネットでの噂を反芻する男、彼女のアパート付近で噂になっていたからだった。 「あなたのも…」 え? っと男は聞き直す。 「あなたのも頂戴」 顔を向けた彼女、そこで男は彼女の素顔を初めて見た。ネットでの噂は全部デマだった。彼女の顔は目玉で整形されていた、全てが眼で作られている。大小の眼球が重なり合い、鼻や唇を形どっていた。何万とも言える中心の黒目は全て男に向けられている。 新しい眼を手に入れる喜びからか、彼女の眼球唇の両端は上がり、男が最後に見たのは彼女の笑顔だった。
前作のパク…
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