野良猫の贈り物 ( No.2 ) |
- 日時: 2016/01/04 01:12
- 名前: RYO ID:LLo0tej2
年の瀬――大掃除をしていたら、買った覚えのないものが目に入ってビニール紐を結ぼうとしていた手を止めた。 「こんなもの一体、どこからか拾ってくるのか……」 思わず言葉がついて出ていた。目の先にあるものを拾ってきた主は、もういない。 二階建て学生アパート。部屋の数は一階に四部屋、二階も四部屋で、不動産で聞いた間取りはどの部屋も同じ六畳のワンルーム。そんな二階の角部屋。窓を開ければ、同じようなアパートがすぐ目の前にある。その向こうにも、似たような景色が広がる。 一度息を吐いて、手元に目を戻して、作業を続ける。もう読まなくなった雑誌をビニール紐で括り、玄関にまで持っていく。芸能人の誰が結婚しただの、落ち目のアイドルの誰が脱いだとかで袋とじのあったゴシップ誌や週刊誌の間に、DVD付きだったりアダルトな雑誌が混ぜ込んである。なんというか、男の見栄というやつだ。 玄関には燃えるゴミの袋が二つに資源ゴミが一袋、その隣に雑誌の束が並ぶ。 振り返って、どこで拾ってきたのかわからないブレスレットに目をやる。鈍色に光るそれは、元はもっと輝いていたのかもしれない。 気まぐれに残り物をやったら懐いてきた野良猫がいた。懐いてきたあたり、元は飼い猫だったのかもしれない。といっても、エサを食べているときだけ近づいても逃げないだけで、食べ終わってしまえばすぐに住宅街に消えていくような奴だった。ときどき、じっとこっちを見つめてニャーと鳴くのが可愛くもあった。名付けようとも思ったが、なんとなくやめておいた。情が移るとか、そういうことでもなく、なんとなく、そういう気にはならなかった。今思えば、気まぐれな隣人に、いや隣猫に、気まぐれにエサをあげていたというそれだけの関係に満足をしていたのだろう。 もしかしたら、あいつは新しい居心地の良い寝床でも見つけたのかもしれない。 「そうすると、あれは、あいつなりの恩返しのつもりなのかね?」 ブレスレットはいつの間に部屋の隅に置いてあった。時々拾ってきたものを置いていく癖ある奴だったから、ブレスレットも、あいつの仕業だと俺は疑っていない。 「ねずみの死体が置いてあったときはさすがに困ったが」 思い出して、苦笑する。 就職も決まり、春にはここを出て行く。 「あいつにもそれが分かったのか、それとも――」 ふと猫は死期を悟ると人目から隠れるという話を思い出す。 窓に外に目をやると、薄曇りも空の下でチラチラと雪が舞い始めていた。 「通りで寒いわけだ」 あいつはどこかで凍えてはいないか――寒空の下、軒下で丸くなる猫を想像する。雑種で、黒とグレーの斑な猫だった。 どこからか、遠く猫の鳴き声が聞こえた気がした。
------------------------------------------------------------ 締切オーバーしてすいません。 23時すぎから書き出して、90分くらいです。 今年は三語も頑張ってみようと思います。 いつまで続くかわかりませんがw
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