Re: 即興三語小説 ー10月に突入。来年のことを考え始めるこのごろ- ( No.2 ) |
- 日時: 2014/10/05 10:51
- 名前: マルメガネ ID:VWicUX..
運命の輪
鑑定士が預かった指輪の鑑定をする。 その様子を持ってきた貴婦人と思われる品の良い客が心配そうな顔をして見守る。 「ふむ。値がつけられませんね。いいものです。大事にしてください」 心配そうに見守る客にいろいろな角度から指輪を眺めて鑑定した鑑定士が言うと、 「いくらでもいいのですが、買い取っていただけますか?」 と、その客が思わぬことを口にした。 いくらでもいいから現金に換えたいらしい。 それには鑑定士は困った。 すると、横で見ていた貴金属商が 「それなら、私が買い取りましょう」 と言ってきた。 「よろしいのですか?」 「はい。喜んで」 貴金属商が貴婦人にほくほく顔で答える。 貴金属商はささくれたような指で貴婦人からその指輪を受け取ると、なにがしかの金額を示した。 「それだけなら十分ですわ」 貴婦人が安堵した顔をして、貴金属商が示した金額に手を打ち、商談が成立した。 貴婦人が帰った後、貴金属商が貴婦人から買い取った指輪を確認した。 純銀製らしく、長い時間を経たらしいその指輪はいぶし銀のような光沢を放っている。 「君は、どうして買い取らなかったんだい?」 誇らしげに貴金属商が鑑定士に聞いた。 「いや、買うのはいいけど、なんだか不幸が訪れそうでね」 鑑定士が頼りなさげに答えると、貴金属商は 「そんなのは迷信さ」 と気にしていない様子だった。 それからしばらくしてその貴金属商は帰って行った。 それ以来、指輪の鑑定を依頼し、買い取ってくれるのか聞いた貴婦人も指輪を買い取った馴染みの貴金属商も来なくなった。 鑑定士といえば、仕事が舞い込んできて忙しくなり、そのこともすっかり忘れ、やがて数年の年月が経った。 「数年ぶりです」 そんなある日、一仕事を終えた鑑定士のもとにそう声をかけて入ってきた人物がいた。 指輪を貴婦人から買い取った馴染みの貴金属商である。 彼は数年前に比べると痩せこけ、目ばかりがぎらつき、頭も白髪になっていた。 「数年ぶりですね。どうなさったので?」 鑑定士が数年ぶりにやってきた貴金属商に聞くと、貴金属商は指輪を買っていろいろあったことを話して聞かせた。 その話を聞くところによれば、指輪を買った後に株価が上昇し、仕事も何もかも順調だったが、一年もせぬうちに金銀の価格が下落して経営が苦しくなり、また体を壊してしまって寝込んだらしかった。 「君が言っていたことは確かなことだったよ」 貴金属商がため息交じりに言う。 「なんとなくそう思っただけなんだがなぁ。苦労したねぇ」 鑑定士が苦笑いする。 「それで、あの貴婦人は来たかい?」 「いや、来ないよ」 何か文句があるのかと鑑定士は勘ぐったが、それは外れ 「あの指輪を返そうと思っているのだ。わしの手には合わなくてな」 と貴金属商が言った。相変わらず手だけはささくれだらけだ。 「ふむ。どうしたものか」 鑑定士は貴婦人の連絡先を聞いていなかった。 二人でどうしようかと悩んでいると、数年前に指輪の鑑定に訪れた貴婦人がやって来た。 数年たってもその女性は変わっていないようにも見えた。 「その後はいかがですか?」 貴婦人がそのように言う。 「いろいろありましてね。私の手には合いませんでしたね」 貴金属商がそう言うと、貴婦人は 「あらそうでしたか…。ではどうなさいますか?」 と聞いてきた。 「お返しします」 貴金属商がそう答えると、不思議なことにいぶし銀の指輪が割れた。 貴婦人はそれを見届けると何も言わずに立ち去って行った。 それと同時に割れたいぶし銀の指輪は煙のように消えていた。 「不思議なこともあるものだな」 「ああ。そうだ。やっぱりわしにはふさわしくなかったのかもしれんな」 二人でそう話す。 貴婦人の正体は何者であったのかはわからない。 ただ二人には、その貴婦人が運命の女神だったのかもしれない、と思えるのだった。
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まとまりがありません。無理やりな気がしますが、とりあえず。
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