Re: 即興三語小説 -一気に秋めいてきました ( No.2 ) |
- 日時: 2014/09/24 16:29
- 名前: ウィル ID:khOkPKyg
鯛焼き屋の都市伝説
巷説。街の噂、雑談色が強いこれらの話は真実と嘘が入れ混じる。それは時に都市伝説と呼ばれ、意図なしに、時には悪意を含んで作り上げられていく。 都市伝説、つまりそれらは伝え説くものであり、それを語る上ではかならず語り部が必要となる。 だから私が語ることにしよう。そして、私が誰なのかもいずれ語ろう。 物語は、やはり意図していないところから始まったりする。 そう、例えば最近テレビでもとりあげられ、行列が途切れることのない人気鯛焼き専門店の前だったりする。 それは、それは本当に恐ろしく、不幸な話だ。
行列が途切れる事のない鯛焼き屋といったが、その日、鯛焼き屋の行列は意図せず途切れてしまっていた。鯛焼き屋の世界一かわいい鯛焼きのマスコット人形、タイアン君(縁起のよさそうな名前だ)もどことなく寂しそうだ。見た目は、鯛のくちから小さい舌を出し、「てへぺろっ」としているが、寂しいものは寂しい。もっとも、この話の時は、まだテレビに取り上げられる前、行列がない時間もあった。だが、それを狙った舌の肥えた客が見計らってくるので、客足が途絶える事はないはずだったが、今はその姿も見えない。店主もその異様な事態に気付いたが、原因がわかりきっているだけに手の打ち様がない。原因がわからないのなら、客の呼び込みをする程度の努力をするが、今、店主が待っていたのは客ではなく、ただ時が過ぎるのを待つことだけだ。そして、彼がかいている汗は決して鉄板からの熱によるものでないことは確かだ。 「…………」 男が睨んでいた。身の丈190センチ。筋肉質というよりも、筋肉そのものの身体。目から溢れているのは殺意か怒気か。かろうじて、彼の着ている制服のおかげで、この街の「白鞘高等学校」の生徒だということはわかるが、明らかに似合っていない。 男に睨みつけられた鯛焼きたちも、己の意思があれば海に逃げ出すに違いない。 「親父、聞きたい事があるんだが」 その声は、まさに悪魔の声だった。ライオンでも殺せるのではないかという声。 「…………」 返事をしたいが声がでない。もし無視していると思われたら殺される。 店主の心情が私には手にとるようにわかった。私も店が潰されるんじゃないかと不安で不安で仕方なかったから。 だが、男は無言の了解ととったらしく、悪魔のような笑顔で言った。 「この10個買ったらもう1個というのは、10個あんこを買って、1個を芋あんにすることも可能なのか?」 なんてことを言われ、あまりの突拍子の無い言葉に、店主はやはり声がでない。変わりに首に縦に振った。何度も、何度も。 すると男は満面の笑み(怖すぎる)で鯛焼き11個(1000円+税)を払い、帰っていった。
その後も男は鯛焼き屋をひいきにした。そして、不幸が目に見えるようになってきた。 すべて男のせいにするわけではないが、客足が減っていったのだ。 男が訪れる時間は客足が途絶える。一度行列がとぎれると、いらぬ噂が広がる。 味が落ちたんじゃないか? 餡の量が減ったんじゃないか? 問題があったんじゃないか? 人の噂は怖い。真実でないことを真実かのようにいい、それは時に真実をも塗り潰す。 ただ、それでもあの男は毎日店に訪れた。彼はライバル店の刺客ではないか、だとしたら効果は絶大だ。とも思ったが、それなら毎日11個も買って行く必要はない。皮肉な話だが、彼はいまでは数少ない上客だった。そして、私にとっての不幸は加速する。 男がバイトとして店で働きたいとやってきた。最低賃金でかまわないからと。その申し出を店主が断れなかったからといって、誰も責められるわけがない。それほどまでに男の目には殺気がはらんでいた。 意外だとおもうが、男の鯛焼きを作るテクニックはすさまじかった。ストーンヘンジの柱のような太腕にはにつかわしくないほど丁寧で繊細に、だがスピーディーに鯛焼きを作っていった。 そのおかげで店は一気に売り上げを……減らした。 客がこなくなった。男が怖すぎた。でも店主は男をくびにすることはできない。そろそろ私も店主を責めるべきではないかと思ったが、私が口を出す事はできない。 そこで店主は苦肉の策として着ぐるみを用意した。なぜかパンケーキのキャラクターの着ぐるみ。しかもパンケーキが立っているため、190センチの男でもなんとか入ることができた。鯛焼きの着ぐるみはサイズ的に用意できなかったと店主がぼやいていた。 すると、変化が起きた。 いままで来た事のない若い女性客(私は客の顔を全部覚えている)がこんなことを言ったのだ。
「パンケーキ、一つ下さい」
当たり前だ。パンケーキの着ぐるみを着ているのだから、パンケーキがあると思うだろう。だが、店主はそんなこと予想していなかった(というより、予想できる精神状態ではなかった)から、パンケーキを作れるはずがない……と思ったら、 「了解しました」 男がいった。着ぐるみの中にあるボイスチェンジャーのおかげで、虫も殺せないようなかわいらしい声になっていた。 男はこの着ぐるみが手配されたその日に、パンケーキの材料を買いに行っていたのだ。店主に許可をもらっていた(店主は力の限りくびを縦にふっていた)。しかも鯛焼き用の鉄板の半分を通常の鉄板に敷きなおしていた。 そして、男の作るパンケーキは……とてもおいしかったらしい。
かくして、パンケーキだけを売っている鯛焼き専門店(矛盾)としてグルメ雑誌をはじめ、テレビのグルメ番組、珍百系でも取り上げられ、売り上げは鯛焼き専門時の最盛期の倍。パンケーキのほうがコストパフォーマンスがいいとかで純利益にいたってはさらに凄いらしい。店主はそれで自信がつき、三年付き合っていた彼女にプロポーズし、無事結婚。いまでは子供も授かったらしい。 そして男の存在は唯一つ、「パンケーキを作ってる人の着ぐるみの中には悪魔が住んでいる」などという事実だけが都市伝説として残っており、いまでは正社員として働いている。
という不幸な不幸な物語。 何が不幸か? それは私が誰か、という点について話すことになる。それは今からいう都市伝説を聞いてもらえたらわかるかもしれない。
『鯛焼きがなくなって、パンケーキ屋のマスコットのタイアン君が泣いているらしい』
それが都市伝説か事実かは、私の頬の涙で判断してもらいたい。
ーーーー お久しぶりです。 たまーに覗いているんですが、長いスランプで小説を書いていませんでした。
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