P計画 ( No.2 ) |
- 日時: 2011/03/26 14:34
- 名前: 片桐秀和 ID:myohGuA6
P計画への介入は、一条の星明りさえない、宵闇の最中に行われた。 ロディは大型ヘリコプターの運転席後部にあたる、広い空間の座席のひとつに腰掛けている。ローターの回転音を聞きながら、作戦が始まる瞬間をただひたすらに待っていた。ヘリ内部が禁煙であることが、ヘビースモーカーである彼にとっては辛く、途切れることのない緊張感の中で、ハッカ味の飴を口腔内で転がしていた。かといって、ゆっくりと味わう余裕はなく、しばらく舐めては粉々に噛み砕き、そしてまた新しい飴を口にする。 「落ち着けよ、ロディ。こっちまでハッカの匂いが漂ってるぜ。まるで芳香剤がきつい便所の中にいるみたいだ」 そういったのは、今回の作戦をともに遂行する相棒・ジットだ。軍学校からのなじみで、お互い軽口を叩ける仲間といえる。 「すまない、ジット。何か口にしていないと、どうも落ち着かないんだ」 「おいおい、そんなに緊張するなよ。こんな任務、俺たちにかかれば楽勝さ。俺としては作戦が終わったあとのこと、いかに余暇を過ごすかが問題だ。ティミーにするか、エランダにするか、悩みどころだぜ」 ジットは薄っすらと髭が伸びた口元に笑みをつくる。その笑みにつられて、ロディも思わず頬をゆるめた。そして、思うのだ、ジットもまた、少なからず緊張していると。沈黙の中、頭の中が不安一色に染まってしまうのを恐れている。それほどに、今回の任務は――。 ジットとのたわいない会話が一段落すると、ロディはヘリの窓から地上世界を見下ろした。沈んだ茶色の屋根が、地表に何百と見て取れる。昼間であれば、地中海に面したこのあたりは、まるで楽園といった様相をあらわす。降り注ぐ太陽光が白い壁に反射し、だいだい色の屋根が映える。海はどこまでも透明で、潮の香りを含んだ海風が、照りつける太陽にほてった身体の熱を洗う。セレブリティらに評判がよく、近年では、別荘地として多くの外国人観光客も押し寄せていた。しかし今、そこに人の気配はない。目立つのは常夜灯の控えめな明かりだけで、民家や種々雑多な施設のどれもが不気味に沈黙していた。 「ちくしょう」ロディは思わず罵りの言葉を吐いていた。「ちくしょう、Pの奴、どうしてこんなことを」 「考えるなロディ。俺たちはただ任務を遂行するだけ。Pのやつをぶっ殺すだけさ。周到に、迅速に、確実に。考えることがあるとするなら、そのみっつだ。それ以外のことを考えたら、お陀仏するのは俺たちのほうになるぜ」 ジットはそう語りつつも、どこか己に言い聞かせているようにもロディには思える。 ――いや、それもそうだな。Pは、俺たちのかつての仲間は、踏み越えてはならない一線を越え、今や歯止めが効かない怪物になりはてた。もうやつはあの時のやつじゃない。これから向かう先にいるのは、ただひたすらに打倒すべき相手だ。
ヘリが空中でその位置を固定した。即座に降下の合図が降りる。先行したジットに続いて、ロディもワイヤーを使って地上におりたった。人の気配をまったくというほど感じない静けさの中で、常夜灯に焼かれる羽虫の音が聞こえる。二人は対象を目掛けて、サブマシンガンを構え、ゆっくりと前進していった。 パリパリ。パリパリ。 足元から枯葉にヒビが入ったような感覚が伝わる。ロディはそれでも足元を確かめない。そこにあるものが、一体なんであるか、彼はとうに知っていたから。 対象Pが潜んでいると情報があった広場が近い。言葉数は減り、息遣いだけを聞く。 二人は広場に入る直前、最後の確認をした。 「いいか、俺がひきつける。ロディ、おまえがやつをしとめてくれ」 「わかった、死ぬなよ。ティミーだか、エランダかが待ってるんだろ」 「ああ、そのうちそんな名前の女を探してみるさ」 「なるほどな。そのときは俺も手伝おう」 「おう」 ロディとジットは最後に視線を交わし、そしてお互い深く頷いた。覚悟を決めた。 それと同時にジットが駆け出す。携えたサブマシンガンを打ち鳴らし、対象の前を全速で横切る。 ロディがそれに続く。注意を逸らされたはずの対象Pを確実にしとめるために。 「うーわー、やられたー」 ジットが絶叫した。 ロディの中で感情が爆発した。 ――く、ジットが、ポテトマンのポテト光線にやられてしまった! ポテト光線にやられたものは、身体をポテトチップスに変えられてしまうというのに。おのれー、人類を全てポテトチップスに変えてしまおうという恐ろしい計画を立てたポテトマンめ。この街の人々をポテトチップスにするだけでは飽きたらず、俺の戦友にまで手を掛けるとは。絶対に俺が敵を討ってやる。 ロディが対面したポテトマンは、ジャガイモ状の頭部をもち、黄色の全身タイツ、背には赤いマントをたなびかせる怪物だった。 「食らいやがれ!」 ロディは手にしたサブマシンガンをポテトマン目掛けて乱れうち、手榴弾を投げて、最後は肉弾戦までしたのだけど、ポテトマンには効かないようなので、最後は食べてしまった。 「ふう、ポテトマンを倒したぜ、しかし、犠牲はあまりに大きい。俺は決して忘れない。ジットのことを、この街の人のことを。あ、悪い、ジット。つい踏んづけてしまったぜ」
こうして、P計画は名もなき兵士たちの働きによって、壊滅したのだった。
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何も考えずに書いたらこうなってしまいました。ごめんなさい。
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