Re: 即興三語小説 ―不快指数が高い時期です 投稿がなかったのでいくつか変更して延期します ( No.2 ) |
- 日時: 2014/06/29 22:41
- 名前: しん ID:IlAq8wdA
題:森の魔女
湖を覗き込むと、そこに自分がうつしだされる。 メアリはこれがすきだった。美しく清らかな湖面にうつる自分は、湖のように清く美しいようにおもえるからだ。 その幻想にひとごこちつくと、バケツに水をくみ、家路へとついた。 湖は深い森にかこまれている。森は木々が陽をさえぎり、闇をつくりだす。この不気味な森は魔女の森といわれ、村人達はよってこない。 森をぬけ、家のそばまでいくと、バケツをひっくりかえし、水をぶちまけた。 水が地に大きなしみをつくる。 やった! ざまぁみろ! いくつかの子供の声とともに大声の笑いがひびきわたる。 バケツをおとしたのではなく、おとさせられたのだ。 子供たちに石をなげられ、あたって突然おそわれた痛みにおもわずひっくりかえしてしまったのだ。 同情のひとかけらもない子供達の邪気にみちた笑い声をききながら、メアリはのろのろバケツをとり、再び森へとあるいた。 村の井戸をつかえばいいのに。いやだめだめ、あいつきらわれてるもん、あいつが使うと井戸の水がつかえなくなるだろ。 悪意のこもった言葉には、悪意のこもった笑いが付随している。 森にはいるとおいかけてはこない。森はやはり恐いらしい。大人たちはこの森に魔女がいるとは信じていない。それは村の子供達を森へちかづけさせないためにつくられた話だから。 メアリはなぜ、自分が村の井戸をつかわせてもらえないのかをしらない。何度たのんでも使わせてくれないのだ。今は亡き両親に関係があるらしいのだけど、娘の自分まで何故そうされなければならないのかわからない。 湖までの道が涙によりつくられていた。 湖について湖をのぞきこむと、横に男の顔があった。 まぶしい黄金の髪に、湖のすんだ青よりも、澄んでいる蒼い瞳。 横をみると、たしかにそこにそのひとはいた。 どうしたんだい? 顔をあわせた瞬間きいてきた。 いじめられたの。 いきなりの、おもいもしない質問に、おもわず素直にこたえた。 どうしてだい? わからない。 なぜなのかはわからない。それは本当のこと。 そっか、そうだ! きばらし、島にわたろう! 湖の中心には小さな島があった。 小さな船をこいでくれて、わたったさきには美しい花畑があった。 闇に囲われた森のなかで湖だけは、光にみたされているのである。 男はそこを案内してくれて、花飾りの王冠と、首飾りをつくり、幸せにすごした。 男はいった。 いじめられたからといって、復讐(リベンジ)を考えてはいけない。それはきみを醜くしてしまう。 メアリはその言葉がうれしかった。かなしかったけど、うらんだことはない。そういうのではなくて、この美しい男に、醜くはない、といわれたようなことに。 この日男がつくってくれた椿の花飾りはメアリの宝物になった。
メアリは毎日日常の水をくむために、湖におとずれると、よくこの男とあった。 用事があるので、しばらくここに通わなくてはいけないと。 それからメアリは湖に水をくみにいくことが好きで好きでたまらなくなった。 一回行ってあえないと、一日に二度、三度とくみにいった。水は一度でたりるというのに。 男はときおり、美しい女性をつれていた。それはメアリにはとても悲しく辛いことだった。 そういうときは声をかけなかったけど、陰からみていた。 つれている女性は皆貴族のお姫さまのように美しく着飾っている。手に労働のあとはなく、爪は赤くぬられている。 よくみると、男もその女性たちの横にたってもおかしくない立派な格好をしていた。 そういうことに気付き、男の横にメアリがいるのはとてもおかしいことだとおもい、おちこんでしまう。 それでも湖で二人きりになると、嬉しくていっぱいはなしこんでしまう。
村にひとつの通達がきた。 魔女狩りと、その莫大な報酬。 村人たちは、この莫大な報酬がほしかった。でも魔女なんていない。いても、魔女を捕まえるなんて恐ろしくてできない。 だれかがいった、魔女の森に通う女は、魔女ではないか、と。
メアリは水をくみにいくとき、遠くから村のひとびとによびかけられた。 そちらをみると、大勢の村人達が必死にはしってくるのだけど、その形相が悪鬼をおもわせた。 まってくれ、が待てになり、動くな、逃げるな、とうつりかわっていく。 メアリは森をはしった。逃げ道などはない。ただ湖にむかってはしった。 子供とちがい、大人である村人達は森にはいって追いかけてきた。 くそ! 逃げるな魔女! むだな抵抗はやめろ! 村人たちは手には武器をもつものもいて、足取り、語気、表情、すべてにおいて悪意しかかんじない。 何が何だかわからないが、ここで立ち止まっても不吉な想像しかおもいうかばない。 けれども、湖にたどりつくと、そこは行き止まり。 そして男がいないことに胸をなでおろす。 助けてほしいとおもわないでもないけれど、男にそんな義務はない。 それよりも、巻き込まなくてよかった。ちがうところで幸せになってくれればそれでいい。 とうとう、村人達においつかれた。息を切らせて、目をいからせて集団で半円状にとりかこもうとする。 すると、遠くから声がきこえた。男の声だ。 声は湖からきこえてきていた、湖の中心の島からだ。 助けてほしかった、わけではない。 でも男のもとへといきたかった。 メアリは水しぶきをあげて、湖にとびこんだ。 そして湖を泳ぎ、島へ、男のもとへと。途中で溺れ死んでもそれはそれでかまわなかった。よくわからない理由で村人たちに虐げられるなら、男のもとへとむかいながら道半ばで死んでしまうほうが幸せだとおもった。 村人達が変なことをさけんだ。 なんだと!? この泥沼をおよげるのか!? 本当に魔女なのか!? いや普通の女のはずだ! そういうと村人達もおって湖にとびこんでいった。 すると、不思議なことに村人達は浮かばずに沈んでいきます。 なにかをつかもうとする手をあげながら、ずぶりずぶりと底なし沼にひきこまれていくかのように。 メアリが島に泳ぎつくと、男の胸にとびこみました。 泳ぎきれるとおもいもしませんでした。女であるメアリに体力はなく、衣服をつけたままなのです。 でも不思議と湖がメアリをしずめませんでした。 男は、メアリをみてききます。 きみは、ここの水がどうみえているのですか、と。 綺麗で美しく澄んだ水です。 と応えました。 男はいいました。 それは、ここの水ではなくて、あなたの心です。わたしはそういう女性を探すためにこの湖にきました。 なんと、男は国の王子で王になるにあたって、国をささえるお姫様をみつけるために、ここに女性をつれてきて、ここの水がどうみえるのかと聞いていたのです。 メアリの心は湖のように綺麗で美しく澄んでいる、清らかであることがわかり、王子はメアリに求婚しました。 二人は国をささえ、幸せに暮らしましたとさ。
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空の魔女 もかきたかったのですけど、ぱっとおもいつきだけで書いた二作。空の魔女はおもいつきませんでした。 適当にかきなぐりなので、あまり深くつっこまずによんでいただきたいです。
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