Re: 即興三語小説 ―黴菌ってなんて読む?― ( No.2 ) |
- 日時: 2014/02/23 21:56
- 名前: マルメガネ ID:Z8cIWw5k
都市伝説
皇都は世界でも屈指の大都市に数えられる都市だ。 数々の災害あるいは戦災より復興し続けたその町は、規則正しく整備された区画にグリーンベルトが設置され、四神の名が冠せられた幅の広い道路が東西南北を貫いている。 何度目かの世界大戦後に復興し、国際都市として復帰し門戸が開かれると様々な国から人々が訪れる。 ときには、遠慮したい政府要人暗殺という任務を背負ってきた殺し屋までも。 雑多な国籍、人種がひしめき活気にあふれる町だが、裏の社会では日々暗闘が繰り広げられ、時には一般市民を巻き込む事件に発展することもあり、警察当局も頭を悩ませている。 そんなある日のことである。 警察当局が監視下に置き、常にマークしていたマフィアの首領とされていた人物が港の倉庫群の一画で惨殺体となって発見された。 警察当局はマフィア内部での抗争、あるいは関わりあっている他のマフィアグループの間でトラブルが発生し殺害されたものとみて捜査に乗り出したが、目撃した者もなく、ましてや手がかりとなる遺留品は発見されなかった。 その事件を契機に、数日後にスコープ付きの自動小銃を持った黒いカラスマスクをした男が殺害されているのが見つかった。付近には多数の薬莢が落ちており、その慌てぶりを示していた。 警察当局は男の身元を詳しく調べてみると、国際指名手配されていた殺し屋であることが判明した。 そして数日後にもまた一件。 繰り返される犯罪者の惨殺事件。 捜査は難航し、町にも不安感が漂い始めた。 「三猿様だ。三猿様に違いない」 殺し屋が殺害されたとき自動小銃の発射音を聞いたというある老人がつぶやいた。 「三猿とは?」 「見ざる、言わざる、聞かざる、じゃよ」 その老人が捜査員に答えた。 捜査員はピンときた。 皇都で昔からささやかれている伝説を思い出したのである。 治安が悪化すれば、三猿が動き誅殺する、という。 裏社会では、猿と喧嘩するな、とさえ囁かれ恐れられている存在の怪人。 その怪人の存在は明らかにされていないが、黴菌と総括して呼ばれる細菌の一部を培養して得られた薬剤の犠牲者であるとも、カラス部隊と称された特殊部隊の生き残りであるとか、容姿は黒づくめで黒いカラスマスクをしている、と様々に言われている。 しかし、あくまで噂であり都市伝説に過ぎず、信頼性には欠ける。 「見ざる、言わざる、聞かざる、か」 捜査員がつぶやく。 犯罪事件を扱った公的記録にも、老人が言った怪人の記録はない。 その後、惨殺されたマフィアの首領や殺し屋などの犯罪歴が山ほど明るみに出たところで惨殺事件はやみ、事件解決の手がかりもなく、犯行に及んだ人物の特定もかなわず、それ以上の進展はみられず捜査は打ち切られ、謎のまま終わった。 そしてまた、三猿、なる怪人についての伝説が深まっていくにはそう時間はかからなかった。
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