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RSSフィード [127] 即興三語小説 ―今週から残業が多いという理由で業務量が減った―
   
日時: 2013/06/30 23:35
名前: RYO ID:FCI5HhLc

 「青梅」を「ショウバイ」と読む当たりに、自分の国語力の無さを感じるわけで、もしもあっているなら、それそれで誇れるわけでもないあたり、困りものだ。今見ている映画の字幕の「破顔一笑」は多分間違ってない。
 クラスメイトのほとんどは、きっと期末テストの真っ最中。オレ一人居なくなったところで、最下位がひとつ順位を上げるに過ぎない。オレはとくに困ることはない。どうせ続きそうもなかった高校生活。――もうラストのこの映画の主演女優と男優がキスをしたところで目を閉じる。ハッピーエンドは映画の中だけだ。こんな映画で泣くやつがいるのか? 隣の席の奴は泣いていた。ハンカチを噛みながら声を押し殺しながら――思わず声が出そうになった。よくよく見れば幼馴染の清美だった。声が出なかったのが奇跡的だった。清美の手がオレの手に触れる。
「まさか、あんたこんな映画見るなんて、思わなかったわよ」
 清美の声にはどこか悔しさがこもっていた。
「なんで、お前がこんなところにいるんだよ」
 小声で清美に耳打つ。清美も小声で返してくる。
「悔しいわ。こんな良い映画をあんたと見るなんて」
 どういう意味だ。たまたま入った映画にそんなに感動している清美のほうこそどうかしている。
「ちゃんと先生たちには謝って上げるから、ちゃんとテストは受けなさいよね」
 映画はエンドロールが流れ始める。
「いいんだよ。俺のことは」
「あんたはよかろうが、うちは良くないのよ。あんたの学費は誰が払っていると思っているの?」
 カチンときたが、まだ感情は抑えられた。別に払って欲しいわけでもない。さっさとオレのことなど――
「気持ちが分かるなんていわない。うちの家の経済を考えろともいわない。私もまだ高校生だし。でも恩を仇を返すようなことはことしないでよ」
 胸に突き刺さる一言だった。それは清美が言ったからではない。
「おじさんの言葉だけどね」
 親父が常々言ってきたことだった。
 親父とお袋が交通事故で逝ったのは、去年のことだった。今日でちょうど一周忌。親戚もなかったオレは昔から親しかった隣の清美の家にやっかいになった。オレの意思とは関係なく。そして、期末テストをサボって俺は映画館にいる。
 分かっている。清美の親父さんたちに気持ちなど。
「お前には分からねーよ」
 俺は席を立った。悔し紛れなのは分かっている。間違っているのはこの俺なのだ。分かっているけど、この気持ちだけはどうしようもない。
「じゃ、私は明日もテスト受けない」
「なっ」
 思わず足が止まる。
「あんたが受けるって言うまで受けない」
 清美がこうなったら、頑固なのはオレが一番知っている。誰よりも知ってる。オレ以外に誰もにもやらないことも知っている。振り返ると清美が立っていた。半泣きだった。
「分かったよ」
 負けると分かっている根競べはやらない。オレは出口に向かって歩き出す。その横に清美が並ぶ。
「よかった。じゃ、これから学校いこうね」
「わかったわかった」
「でも映画よかったよね。もうずっと泣いてた」
「お前は泣き虫だからな」
「もう」
 清美が膨れる。と、そこで気がつく。さっき泣いている思ったのは、この映画であって、別にオレのこととは関係なかったのではないか。
「えへへ」
 清美がうれしそうにオレと並んで歩く。
 清美がオレを追いかけてきていた時点でどうなるかは決まっていた。そう思うと、腑に落ちた。
 他の客と一緒に俺たちは映画館をあとにした。昼下がりの午後、空は晴れていた。

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●基本ルール
以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。

▲お題:「青梅」「破顔一笑」「映画」
▲縛り:なし
▲任意お題:なし
▲投稿締切:7/7(日)23:59まで 
▲文字数制限:6000字以内程度
▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません)

 しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。

●その他の注意事項
・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要)
・お題はそのままの形で本文中に使用してください。
・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。
・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。
・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。

●ミーティング
 毎週日曜日の21時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。
 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。

●旧・即興三語小説会場跡地
 http://novelspace.bbs.fc2.com/
 TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。

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○過去にあった縛り
・登場人物(三十代女性、子ども、消防士、一方の性別のみ、動物、同性愛者など)
・舞台(季節、月面都市など)
・ジャンル(SF、ファンタジー、ホラーなど)
・状況・場面(キスシーンを入れる、空中のシーンを入れる、バッドエンドにするなど)
・小道具(同じ小道具を三回使用、火の粉を演出に使う、料理のレシピを盛り込むなど)
・文章表現・技法(オノマトペを複数回使用、色彩表現を複数回描写、過去形禁止、セリフ禁止、冒頭や末尾の文を指定、ミスリードを誘う、句読点・括弧以外の記号使用禁止など)
・その他(文芸作品などの引用をする、自分が過去に書いた作品の続編など)

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Re: 即興三語小説 ―今週から残業が多いという理由で業務量が減った― ( No.2 )
   
日時: 2013/07/06 13:19
名前: zooey ID:9Q5u88xc

 映画が始まるのは五時。迎えはその二時間前ということになっている。
 額にかかる前髪から汗が滴り、だら、と頬まで垂れてくるのを感じ、里枝はそれを手の甲で拭う。そうしながら、やっと、ひっつめた頭から幾房もの髪が零れていることに気が付き――腹に虫が蠢くような、ざわ、とした感触が走る。とっさに時計に目をやると、もう二時五十分になろうかという頃だった。その数字がはっきり脳に刻まれると、腹の感触は、ざわわ、ざわわ、と上って来、どろりと溶けて絶望になり、内腑を侵食する。彼女が来るから、と必死で家中を掃除したのに、自分がこれじゃあ、どうしようもない。
「ママー」
 そうこうするうちに、二階から娘の美里の声が響いてくる。続けて、トントントン、という軽やかな足音が、階段を下りてくる。もう支度を整えてしまったのだろう。里枝は、はあ、と息を吐き出し、観念する。
「史也は?」
「知らない。部屋でケータイでも見てんじゃないの?」
「もう、そろそろ時間だっていうのに」
 もっと時間があれば、という自分の感情を棚に上げて彼女は言い、息子の史也の部屋へ向かう。ドアの前まで来ると、開けようとノブに手を掛ける。が、その瞬間、心に、キン、と嫌な音がし、思わず手を引っ込めてしまう。仕方なく、ドア越しに声を掛けた。
「史也、早くしなさい。パパと佐藤さん、もう来ちゃうよ」
 しばしの間。先程心を傷つけた音が、不安となって胸に広がる。時間がじっとりと流れる。しかし、しばらくするとその沈黙を破り、ドアが開く。
「分かってるよ、うっせーな」
 中学二年生の史也は、まさに反抗期の真っ只中にいた。母の里枝が何を言っても、返ってくる言葉は「うるさい」とか「ほっとけよ」とか、そんなものばかり。夫と別居し始めてからはさらにぶっきらぼうになり、ほとんど部屋から出てこなくなってしまった。そんな彼を、夫とその新恋人と共に出掛けさせるなど、里枝には思いもよらなかった。だが、夫は恋人と子供たちを親しくさせたい一心らしい。元モデルで青学出の彼女に、娘の美里はすぐに懐いた。学校の宿題をみてもらいながら、てらてらとした憧れの眼差しを、美しい父の恋人に向けていた。
 史也と共に階段を下りていくと、リビングから美里の大きく張った声がする。
「この間ね、国語の問題で分かんないのがあって、りかちゃんに聞いたの。四字熟語? だっけ、そんなのの問題で、『破顔一笑』っていうのの意味が分かんなかったのね、で聞いたらさ、すぐに、ホント、すぐに、分かったみたいで、教えてくれたんだ。しかもね、分かり易かったんだよ、説明。『破顔』は顔がほころぶことで、『一笑』はちょっと笑うことなんだって。でね、こんな風に似た意味の言葉を重ねたものっていうのが、四字熟語の一つの種類なんだって。すごいよね、先生みたいだったよ、りかちゃん」
 娘が夫の恋人を褒めるのを、そしてりかちゃんという愛称で呼ぶのを聞くと、別居やなにやらで負った傷に直接触れられるよう。胸が疼く。しかし、それに顔を顰めまいとしながら、鞄を肩に掛けようとする美里の姿を捕えて、ママだってそのくらい分かるよ、と口にする。すると、すぐ隣の史也が、
「てかさ、そのくらい誰だって分かるだろ?」
「そうかなあ」美里はやや不満気に眉を下げる。「でもさ、こないだ、お兄ちゃんだって、『青梅市』の読み方、教えてもらってたじゃん」
「そりゃ、そこに住んでりゃ読み方くらい知ってんだろ。自分ちの住所読めなくて、どーすんだよ」
 そんなやり取りをしている間に、インターホンの音が鳴った。
 ああ、来てしまった。
 里枝は息を吸い込むと、声を高くし、
「ほら、迎えに来た。いってらっしゃい」と言って、美里の背中を、ぽん、と叩く。史也にも視線を投げ、彼のそれと重なると、にこりと笑って見せる。そうするより、他にないから。
 美里は、ぱっと顔を輝かせ、玄関へ小走りする。史也は、すっと目を逸らすと、如何にも面倒臭そうに、だらだらと足をずって歩く。里枝も二人の後を追い、玄関へ向かう。
 美里が勢い込んでドアを開けると、ぶつかりそうになった夫が、おお、と零しながら後ろへ体を引いたのが分かる。いきなり一発食らいそうになったにもかかわらず、彼の顔の上では楽しさが踊っているよう。その後ろの恋人も、いましがた彼が食らいかけた攻撃に、飾り気のない声を上げて笑っている。
「ごめんな、もうちょっと早く来るつもりだったんだけど」
「大丈夫よ」
 と笑顔で返しながら、里枝は今の自分に違和感を覚える。
「帰りは十時頃になると思います。夕飯も二人と食べたくて。いいですか?」
 心がナイフで切り付けられた。
 だが、気が付いた時には、ええ、と口から出ていた。そう言うしかないと、意識よりも深いところが分かっているのだ。じゃあ、いってきます、と夫の恋人が、ありがとな、と夫が言い、ドアがぱたりと閉まる。空気の流れが、しん、と止まり、里枝の周囲を静寂が満たす。覚えず、口から溜息が漏れた。――と、
 突然ドアが開いた。入ってきたのは、史也だ。
「ケータイ忘れた」
 短くそう言うと、彼は靴を踏みつけて脱ぎ、どけよ、と里枝を片手で押しやって通ると、足音をさせて部屋に戻っていった。
 再び史也が出ていってから、里枝はぼんやりと空っぽの家を眺める。そういえば、史也にママって呼ばれなくなったな、となんとなく思う。すると――冷たい孤独が蛆虫のように背中を這い上ってきた。夫も娘も取られて、息子からは嫌われている。彼女は一人だった。
 里枝は一人で食事をし、後片付けをし、テレビを観、風呂に入り、そして四人掛けのソファに座った。子供たちがいない、それだけで不思議とこの家は冷たくなる。人肌の温かさが消え、家具は無機質な陶器やガラス、合皮の塊でしかなくなる。偶にいなくなると、人の温かさを思い出し、はっとする。
 二人は十時どころか、十一時近くなるまで戻らなかった。夫から、少し遅くなる、というメールはあったが。帰ってきてから、彼らは慌ただしく寝る支度をし、まともに母と話さないまま床についた。
 翌日、里枝は六時に起き、朝食の準備を始めた。出来上がると、子供たちを起こしに行く。彼らがのろのろと食事を食べ、身支度を整えるのを眺め、偶に、急ぎなさい、と声を掛ける。いつも通りの、朝。
 美里の方が支度が早く、先に出ていった。史也は母のせかす声など聞こえないかのように、だらだらと動く。本当に、もう、そんな風に思いながら、ふと、嫌な考えが脳裏をよぎる。この子はもう、私のものではないのかもしれない。
 史也がやっと出ようかという時、里枝は昨日のことを思い出した。
「忘れ物してない? ケータイとか」
「してねーよ」
 まともに顔も向けずに言いながら、史也は足を靴に掛けると、紐が緩んでいたらしく、床に腰を下ろす。なんだか、妙に手古摺っている。しかし、ある瞬間、彼はすっと手を止め、
「忘れてた」
 そして振り返り、にこりともせずに、こう言った。
「ママのがきれいだ」
 そして、そのまま出ていってしまった。
 ドアがぱたりと閉まる。空気の流れが、しん、と止まり、里枝の周囲を静寂が満たす。覚えず、溜息が漏れた。

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二時間くらいです。
よろしくお願いします。

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