キンモクセイの女 ( No.1 ) |
- 日時: 2012/11/04 13:36
- 名前: もげ ID:hDKiVATk
「まるでオモチャね」 その女性は軽い身のこなしでロゼに迫ると、その手にあったM16A1をひっつかんで銃口を逸らさせた。ふわり、とキンモクセイの花の香りが漂う。戦場にはそぐわない、存在感を放つ香りだ。敵に私はここだと教えているようなものだ。だが、その傲慢さも彼女の並外れた能力ゆえだということは痛いほどわかる。 「声も出ないようね子猫ちゃん」 女性の口許に浮かんだ妖艶な笑みに、かっとなって掴んだ手を振り払おうとするが、細身の体に反して力強いその手に軽々と押さえ込まれてしまう。 「まるでオモチャみたい。でもオモチャじゃないのよ」 ふっと口許の笑みは消えて、掴んだ手に尋常ではない力がこめられる。彼女の目的を感じてとっさに抗うが、圧倒的な力の差にじりじりと銃口が自らの頭の方に向かっていく。汗が伝い、喉がひりつく。脳の血管が切れるかというほど力を込めるが、視界が黒く染まっていくだけで相手の力に勝ることはできなかった。ついに、ぴたりと銃口が頭についた。恐怖で瞳孔が開くのを感じる。 「う……あ……」 思わず漏れた獣のような声に、彼女は満足そうに笑った。 「怖い、でしょ?そう、死ぬのは怖いのよ」 とっさに手を離しのけぞって逃げようとするが、その喉を力勝負に勝った手が一瞬で追いすがって掴んだ。ぎり、と音がするほど力を込められ、片手だというのに足が地を離れ始める。 がしゃん、という音がして女性がM16A1を下に落としたことを知る。自由になったもう一方の手で彼女はロゼの腰からナイフを抜き取り、優雅な仕草でその切っ先を少女の頬に沿って走らせた。かすみゆく視界の中で鋭利な輝きが横切り、続いて灼熱が肌を焼く感触がする。 「たす……け……」 声にならない声で懇願するが、女性はただ困ったように笑うだけだった。 「痛みを、恐怖を、もっと感じて、心に刻み付けなさい。人を殺すということはそういうことよ。決して人差し指を曲げるだけのことじゃないの」頬を伝った血液が口の中に入る。鉄の香りがする。「殺人を道具のせいにしては駄目よ。肌を切り裂いて内蔵を破壊するのはあなたの手よ」 だからこの女性はナイフを使うのだ。ロゼは白みゆく意識の中でようやく理解した。彼女の纏うキンモクセイの香りは傲慢などではなく一種の警告なのだ。『私は殺したくないの。死にたくないなら逃げて』と。そしてナイフを使うのは決して殺戮を楽しみたいからではなく、相手の死をきちんと自らの責任下に置くためなのだと。 そうしてついに意識はロゼの手から離れ、彼女は黄色い花の海に墜ちていった。
おわり ----------------------------------------------------- なんだか状況がさっぱりわかりませんが。 1037文字。 執筆時間は通勤時に携帯にちょこちょこ打っているのでわかりません。 もげ
|
思い出 ( No.2 ) |
- 日時: 2012/11/04 17:38
- 名前: マルメガネ ID:OM5pVV6E
キンモクセイの香りが漂っている。 「秋深し、ってところですね」 マスターが呟くように言った。 「ところで、マスター。その子猫ちゃんのキーホルダーはなんすか?」 野暮な質問と思いつつ、マスターが握る焙煎室のカギについた古ぼけたキーホルダーについてコウが聞いた。 「ああ、これかね。これは遠い昔に同僚だった猫好きの女の子の形見さ」 そう言ってマスターがため息をついた。 あらゆる格闘技、護身術を身に着け、M16A1ですら扱えるマスターの素性はうかがい知れない。 「亡くなったんすか?」 「ええ、亡くなりました。銃器の暴発事故で」 マスターが言う。 店内は相変わらず陽気なジャズが流れている。 コウはどんな女性だったのだろうかと、想像した。
|
Re: 即興三語小説 ―ハロウィンの仮装はもう決めたか― ( No.3 ) |
- 日時: 2012/11/10 12:45
- 名前: もげ ID:lHffGvvw
>マルメガネさま マスターが素敵です。 秋とおしゃれな喫茶店は合いますね~◎
|