新開発商品 ( No.1 ) |
- 日時: 2012/10/26 21:41
- 名前: マルメガネ ID:y/NCE6/o
猫の肉球に近い柔らかさが付加価値となった癒し系の商品が出た。 「ぷにぷにしてる」 「それ、いくら?」 商品を扱う店先での会話がそれだ。 それでいったい何になるのだという声も聞こえるが、爆発的ヒットでもなく、むしろ静かに燃えるカイロ灰のような商品となった。 その商品名は『肉球マッサージ枕』とあり、うたい文句は『猫にフミフミされているような心地よさ。きっと安心して眠れます』であった。
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流石に頭が回りませんでした。いつもながら筋もオチもないよう(汗)
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鈴の音と夢 ( No.2 ) |
- 日時: 2012/10/26 23:22
- 名前: もげ ID:PuMYjKqU
「これ、おいくら?」 アルダリアは読んでいた本から顔を上げて、声の主の姿を探した。 照明を抑えた薄暗い店内には古い家具や雑貨、分厚い本などがあちこちに積み重なっているためとても視界がいいとは言えない。 しかし、声はアルダリアのいるレジカウンターのすぐ向こう側で聞こえたと思ったのだが。見渡してみても肝心な姿が見えない。 「はいはい?」 なるほど小さなお客さんがカウンターの向こうで背伸びしているのかと心得て、彼女は本を置いてぐっと首を伸ばすと、はたしてそこには白い毛むくじゃらがちょこなんとうずくまっていた。 「おやまぁ」 アルダリアは老眼鏡をずり上げて、その毛むくじゃらに並んだ黒く丸い目を見つめた。ふわふわもこもこの体躯に、頭の上にくっついた長い耳。 「珍しいお客さんだこと」 ずるりと眼鏡はずり落ちて、裸眼で見てもやっぱりそれはうさぎだった。 「これ、これが欲しいの」 ぴょこん、と耳が跳ねて、白うさぎは短い前足を上げた。そこに乗せられていたのは、赤いガラスのおもちゃのネックレスだった。不器用な手で大事そうにそれを掲げている。 「イルタンの眼、紅かったらよかったのにっていっつも言われるの」 鼻がひくひくと動いて、黒い大きな瞳が赤いガラスをうっとりと見つめる。 「眼は交換できないけど、これを首から下げたら『ふかかち』がつくと思うの」 「付加価値かい?」 イルタン――恐らくそれがこのうさぎの名前なのだろう――は、ぴょこん、と跳び上がった。 「そうなの。アイリーンには負けられないの。アイリーンはイルタンには手のひらにぷにぷにがないから負けだって言うの」 手の平にぷにぷに……。それではアイリーンとは猫ちゃんかしら?アルダリアはカウンターから身を乗り出した形で頬杖をついた。 「アイリーンっていうのはお友だち?」 イルタンはくりん、と首を傾げた。 「ん、とね、一緒に住んでるの。セリアちゃんとお父さんとお母さんとイルタンとアイリーンが住んでるの」 セリアちゃん?また新しい子が出てきたわね。アルダリアはふふふと笑った。 「セリアちゃんにはぷにぷにがついてるの?」 「ううん!セリアちゃんには無いの。セリアちゃんはえっと…おばちゃんと同じなの」 「あら」 アルダリアは頬杖をついていた手を前にかざしてみた。セリアちゃんは人間の子なのね。 若い夫婦と小さな女の子、そしてその子を慕う仔うさぎと仔猫。きっと幸せなおうちね、とアルダリアは微笑んだ。 「セリアちゃんが好き?」 「うん!!」 イルタンの耳がぴっと立って、ひげがさわさわとそよいだ。なんと可愛いこと。 「いいわ、そのネックレスはあげる。でもいいこと?それはセリアちゃんにおあげなさい。きっと喜ぶわ」 「んっ?」 「あなたには黒いおめめが似合ってるもの」アルダリアはカウンターの引き出しを開けて、ふたつの小さな鈴を取り出した。「代わりにこれをあげる。あなたと、あなたの小さなライバルさんへ」 イルタンはまた首を傾けた。 「アイリーンにも?」 「そう、アイリーンにも。セリアちゃんかお母さんにつけてもらうといいわ」 んっ?とイルタンは首を傾げながらも深々とお辞儀をした。 「ありがとうなの。このお礼はいつかきっとするの。忘れないよ」 「期待してるわ」
アルダリアはにっこり微笑んで、微笑んでいる自分の頬に気付いて目を開けた。 「あらやだ……」 誰に見られた訳でもないが、恥ずかしくなって思わず両手で頬を揉みほぐす。年甲斐もなくファンシーな夢を見てしまったわ。 しばらく頬を揉みながらぼうっとしていたが、やっぱりふふふと笑いがもれた。 いつか小さなうさぎがお礼に来たら素敵ね。 ちりん、と鈴の音がするたび、アルダリアの胸は少女のようにときめくのだった。
おわり ---------------------------------------------------------------
しまった!肉球から脱出できなかったです!
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Re: 即興三語小説 ―そういえば年末もすぐそこな気がしてきた― ( No.3 ) |
- 日時: 2012/10/27 05:30
- 名前: 新地 ID:iBqVatqg
高校三年の夏、駅前の焼き鳥屋で親父が酔っぱらっていると、クラスメイトの女の子からメールで知らされた。 母と一緒にすぐかけつけると、なるほど、見慣れた顔の中高年が一人カウンターに突っ伏してへたばっている。 座敷に、クラスメイトの女の子がこわごわこちらを見ていた。女の子の向かいにおじさんとおばさん、隣に中学生くらいの男の子が、制服をきたまま座敷にしゃんとして座っている。こういうとこでかしこまることはないんじゃないかと思うが、賢そうな子だ。クラスで三番目か四番目に成績がよくて、運動部でもそこそこ活躍していて、宿題を忘れたらごまかしたりせずに忘れたと言いそうな顔だ。その男の子が、ありえないくらいでかい田舎の虫を見るような目でうちの親父を見ている。ごめん。 俺は女の子にお礼の言葉もそこそこに、親父を引っ張って店を出る。 店の外からみると、母親はしきりに店員と女の子の家族に頭を下げていた。おいくら?とバッグから財布を取り出すが、店員から領収証を渡されて目を丸くしていた。 肩をかして、車までつれていってやる。脇腹がやけにぷにぷにと触れてきて胸糞が悪い。後部座席に放り込み、助手席に乗って母を待っていると、呂律のまわらない舌で、 「おおまえ、受験、すうのかあ」 「うん」 大学のことは、俺は前に親父と話をした。私立にいかせるお金はとてもないということだった。公立ならアルバイトで生活費を稼ぎながら続けることはできるが、勉強と両立できそうな気はしなかった。俺は二年で卒業できる専門学校を受験することに決めて、二年間だけ援助してほしいと親父に頼んだ。まだ返事はもらってなかった。 「がんばってうしな、勉強、うー、お前はあ。あのなぁ、獅子はなぁ、子供をなぁ、突き落すんだよ。うー」 母親が運転席に乗り込んだ。 「お前、獅子は子供を突き落すんだよ。谷だよ。なんの谷か知ってるかぁ?俺は知ってるけど知らねぇー」 「ムーミン谷?」 母はとぼけて言った。 「浩二、ムーミン谷だよ。子供は突き落されるんだよお」 と、親父は苦しそうに顔中しわくちゃにしながら言った。両手をなにかを引っ掻くような形にして上下に揺らし始めた 「親はなぁ、一歩ずつ一歩ずつ、崖をよじのぼってくるって信じてるんだよ。だから落とすんだよお」 今度は袖でごしごし目をこすっている。 「でも、ムーミン谷なら登るよりそのまま居ついちゃうかもね」 と母が余計なことを言って、車を発進させた。 親父はまだうにゃうにゃ呻いているが、もう話しかけてこようとはしなかった。 さっきまでの怒りはいつのまにか消えてて、不思議とすっきりした気分だった。 見慣れた景色が右から左に過ぎ去るなか、ムーミン谷に落ちた獅子のことを考えた。スナフキンが食われたりしないといいなとか、ムーミンは食べたらおいしいのかとか。千尋の谷でなくてムーミン谷から這い上がった獅子固有の付加価値は何だろうとか。
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ライトノベルふうに書こうと思ったのがうまくいったのか、不思議とするっと書けました。内容はともかく楽しかったです^^
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Re: 即興三語小説 ―そういえば年末もすぐそこな気がしてきた― ( No.4 ) |
- 日時: 2012/10/29 02:32
- 名前: 新地 ID:72HKRpN.
マルメガネさん<ふむむむ、私は枕は柔らかすぎると寝られないんですよね……。いまもパイプ?が入ってる枕に片肘ついて書いてます。 肉球枕かぁ……。後頭部が生あったかそうな感じがしますね。
もげさん<メルヘンで素敵でした。 自分でやって考えましたが、課題の三語をどう見せるかが大事なんですね、この企画は。課題のワードを形だけ入れても変調ですから。その点、「ぷにぷに」がうさぎの可愛らしい存在感と良親和してて良かったかなと。 難点としては、夢から還ったところの描写がすこし分かりづらかったです。 具体的にどう書けばいいのかわかりませんが、ここで読者を鮮やかに夢から現実に引き戻すことができたら素晴らしかったかなと。
自作< よくよく見たら、子供のいる人から見たら純粋に楽しんで読めませんね(私も子供がいておかしくない年齢なんですが)。 でかい田舎の虫を見るようなとか、脇腹がぷにぷに当たって胸糞が悪いとか、怒ってるとはいえ親を軽視しすぎてますねぇ……。 当初ぷにぷにしてるのはムーミンのお腹だったんですが、大抵の親父の脇腹はぷにぷにしてるからそれでいこうと思っちゃったんですよね。
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感想 ( No.5 ) |
- 日時: 2012/11/01 00:21
- 名前: もげ ID:4rNBxKlQ
>マルメガネさま でっかい肉球型のまくらを想像して萌えました。 ちなみに私もプラスチックのパイプ?が入った枕です。 猫にふみふみされたいよう。
>自作 なるほどですね! 鮮やかに読者を夢から現実に引き戻せるよう精進します! 分かりやすい表現を目指します!
>新地さま 「ありえないくらいでかい田舎の虫を見るような目」の表現がいいです。 その表情がありありと浮かんできますね◎ そして母がかっこいいです。
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